見出し画像

現実を見据えているところが残っている感じ

先日、たまに外注する職人さんの奥さまとお話していて面白かったのです。

そちらは跡継ぎがいて、その息子さんにほぼ任せられるぐらいになっていて、息子さんはご家庭もあり三世代で生活していて、現代の職人技術の伝承としては理想的な形と思われる感じなのです。(最近、仕事の世代交代中のようです)

で、その工房の先生(代表)の奥さまとお話していたら、あれですね、奥さまというのは、旦那のこと、仕事のことを良く観ているし、生活が運命共同体なので、視点に容赦ないのが面白くて話が非常に良く合いました(笑)実際、私が普段書いていることと同じようなことおっしゃってましたね。

+++++++++++++
(要約)

*そもそも職人なんてね、一般の人が勘違いしているような、老人になっても出来る簡単で楽な仕事じゃないのよ。→(本当にその通りです。高齢で仕事が出来ると思われているということは、実際にはたいした仕事ではないと思われているようなものです)

*もう、あれね、トシを取ると、とにかく眼が悪くなるから色が分からなくなるしね。とにかく体が劣化していろいろ出来なくなるじゃない?→(一般生活者としては問題無くても精緻な職人仕事レベルでは問題になる)

*トシを取ると、若い時みたいにいろいろな種類の仕事を並行して進めることが出来なくなるのよ。一つ一つ片付けて行くようにしないと出来ないわねー。同じことをやるのに時間がかかるようになるのよ。→(仕事のキャリアがあっても、加齢により注意力が単発にしか働かなくなる)

*トシを取ると新しいことに鈍感になるし、人脈だって古い人ばかりになってしまって新しい流れに乗りにくくなるじゃない?なかなか若い人と交流は出来ないものよ。→(どうしても同世代との付き合いになってしまい過去の美しい時代を懐かしむばかりになる。もちろん、若者も自分の世代と近い人とばかり付き合うし)

*結局、トシをとると、体力気力が無くなるのよ。だから粘りが無くなるしね。それが仕事に出てしまう。自分ではまだまだ出来るつもりでも、実際にはもう出来ないことが多くなって来る。だからその事実とどう向き合って仕事を分担して行くシステムを作るかなのよね。→(そのシステムづくりが本当に手間で面倒なものなので、それをやらないで跡継ぎがいない、と嘆く人が殆どです)

*だけど、新しい人を育てておいて、そこに先輩独自の経験から来るアドバイスは出来るし、それは若い人も欲しがるしね。老人の職人はうまくそういう役割に収まらないとダメよねー。→(その通りであります)

その他、その他。。。

+++++++++++++

結局そういう「劣化と進化、深化」「深化や進化と劣化」の問題と現実を、当事者意識で見据えている人は、ちゃんと次世代をつくっているわけです。

最近の和装系で、世襲で継ぐ場合は、だいたい親が不動産を持っていて、その家賃収入があるから跡継ぎになる気になるようです。

上記の職人さんのところは、敷地にマンションを建ててその経営もして経済的地盤を整え(和装製造系はウルトラ斜陽産業だから多角的に収入があるに越したことはないですからね)全体としての経営の安定にちゃんと手を打ってあります。

私は、若い頃はそのようなパターンは「本業で食えてないじゃん」などと思っていたのですが、しかし現実問題としてそのような環境が無ければやっていけないし、伝統系職人では経営的には不採算なのに、消えゆく技術を残そうとしてらっしゃるのは、ありがたいことだと思うようになりました。(ウチにはそんな経済的背景が無いので常に瀕死なのですが)

劣化をちゃんと捉えている人が、総体として現実的進化をするんでしょうね。「オレはまだまだ出来る!60歳なんてヒヨッコ、ハナタレ小僧だ!60歳過ぎなきゃ良い仕事なんて出来ねえ!」なんて言ってられたのは、昔のお話です。現代では全く無理です。

本当に仕事の質を考えた上でそう言えるのは「自分は船頭で、自分の思うように扱える船員を育ててある人のみ」です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?