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図案について

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布に文様を描くにあたって、いきなり布に糊やロウを置いたり、染料や顔料で描く事は出来ない事が殆どなので、布に下絵を描きます。

その際に「図案」が必要になります。

「図案」は、文様の下描きという意味だけではなく「設計図」としての役割も持ちます。

図案を描き上げた際には、どの技法で、どのように仕事を進行させるかも、8割決まっています。

図案の線に、その必然が全て収まっているのです。

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似たニュアンスの言葉が複数ありますので

*文様を起こす=例えば牡丹の文様をつくる事
*図案を起こす=その牡丹を用途に合うように配置・調整する事
(和装なら、着物・帯・その他用途に向くように)

と解釈するとわかりやすいと思います。

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図案は、古典文様から起こしたり、自分でしたスケッチ等から起こしたり、写真からであったり素材の質感からであったり、それらが組合わさったりと、色々な方向からつくります。

感覚を自由にして、図案に取り組むことが大切です。

まず、文様染は「絵画ではない」という事 を理解していなければなりません。
(リンク先に関連の解説があります)

これは、個人的に非常に大切にしている所です。

工芸において求められるのは「明快さ」です。

工芸品は、どの分野でも「素材と制作意図と技法と実用性が強く結びついている」のが特徴です。実際に殆どが実用品なので「製品として仕上がっている」ことが前提です。

ですから例えば絵画のように、時に未完成の微妙さが狙い・・・完成させてしまうと、この良さを失うから完成させないでおいた・・・そしてそれを壁に飾って鑑賞し・・・ということは基本的には許されないのです。

なので、図案はあくまでも下図であり、それは最終的な文様染の仕上がりが良くなるような描き方である必要があります。

さらに、文様染であるなら、文様染が出来上がり、それが実際に使われた時が完成なのです。その時に、その文様染が最大強度で良さを発揮するものでなければなりません。

そのずっと手前の図案の段階で、創作的に完成しているものは失敗なのです。

かといって、設計図に縛られてしまう感覚も面白く無いので個人的には【いかに手のなかに偶然をつくって「危うい美しさ」を工芸の範疇でつくれるか】を常に追っています。

それはしっかりした図案(設計図)があっての飛翔ですから、何にしても図案はしっかりしたものを起こす必要があります。

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例えば、着物や帯、インテリア、その他実用品のように、用途が決まっているものは、その寸法に合わせた図案紙を作り、全体のバランスを見ながら図案を描きます。

図案紙や、図案の描き方は人によって違います。それぞれが用いる技法や考え方によって使いやすいように各自工夫をこらしている様です。

図案は線描きされます。染色技法では技法的に必ず「輪郭線」が必要になるからです。(糸目友禅の線、あるいは面を区切るための線)

スケッチや写真から図案を起こす際には、例えば「実物の花の形から、文様になる線を抽出する」事が必要になります。そこで「自分なりの線」を探すのです。それはその人が産み出す文様の個性に直結します。

古典文様の花なら、既に輪郭線が抽出されていますから、後世の人はそれを使ってそれほどの苦労無くそれなりのことが出来ます。古典は、文化の底を上げてくれるのです。

ろうけつ染めの抽象的なものや、染料や顔料で直書きするような場合でも当たりとして線を描きますが、それでもやはり「自分の線」を見つけなければなりません。

自分が使う染色技法に必要な線と(例えば糸目友禅や、ろうけつ染め)自分が描きたい形態とが一致する、自分らしい線になるように何度も描き尽くす必要があります。

そういう姿勢で描くと「なぜこの線の太さなのか、文様の密度なのか、この文様の形状なのか」ということが明快になり「技法と表現したいことが一致する」ことになります。

そうなると、図案の線そのものが、技法を説明するものになるのです。(他人には分からなくても、自分と自分の工房の人たちには分かる)

師匠に習った古典文様はそこそこ描けるけども、自分のオリジナルの文様を描くとイラストのようになってしまう人は多いですが、それは、そのあたりの探求が足りないからです。

図案を描く際には、もちろん、部分と全体と両方見なければなりません。

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作った「文様」を(例えば牡丹の花を輪郭線に起こしたもの)用途に合わせて「図案」に(それを配置する)するのはよく考えてやらなければいけません。

例えば、着物や帯は衣類なので、着用時には立体になります。そして、シワも出来るし、帯揚げや帯締め、その他の要素も沢山入り、それが着姿に強く影響します。 

また、着物や帯は購入してから、その人の好みの寸法に仕立てをすることが多いので「本仕立をした際に一番良くなるように図案を描く必要がある」わけです。

名古屋帯や着物の小紋、付下げなどは、だいたい反物のままで販売されますし、訪問着などの絵羽ものは仮仕立で本仕立よりも140%ぐらい大きく、内揚げもありません。

それを良く理解していないと、例えば着物なら、衣桁にかけて広げた時には美しい着物でも、本仕立をして着てみたらちょっと違和感があるものになったりします。そのようなものは特に展示会用に作られたものに多いように思われます。

名古屋帯などは、反物で観た時には良いように思っても、本仕立をしたら欲しいところが縫った内側に入ってしまい、残念なことになったりします。

付下げや小紋などは、和裁士さんがどう工夫しても良いところに文様が来ない柄付けだったり・・・

そのように「本仕立して、実際に着た際に最も良くなるような図案」はむづかしいのです。

当工房では、着物は図案紙をトルソーにあてて、立体にして図案の当たりをつけます。

それから、文様を具体的に配置していきます。

さらに、図案を描いた図案紙を人に実際に巻いたり当てたりして、バランスを見ます。

着物や帯の構図は、長い歴史の中で洗練されつくされています。洋服と違い、形、パターンも一つですので、新しい構図を探すのは大変な事です。

それゆえ、何か新しい文様の配置を考えるには平面では無く、立体で考える必要があります。

着用時に良いように文様を配置すると、広げて飾った場合、柄と柄の間が広過ぎたり狭過ぎたりに見える事があります。そのような場合は当然、着用時の美しさを優先します。

着物や帯は、あくまでも衣類であり、飾り物ではないからです。

(だからといって、着物や帯は衣装を超えた布そのもの美しさも見所なので、平面で見た時の美しさを全く無視してもいけません)

染帯の場合は、仕立上がりの実寸で美しく見える様に、そして着物や和装小物との関係を考えて図案を描きます。

このように、図案を描くには、いろいろな配慮が必要です。

繰り返しになりますが、図案は、最終的な染め上がりを想定し、実際に使われる時に最大強度を発揮するような結果になるように描くべきであり、図案のみで絵として完結してしまうようなものは好ましくありません。


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