水元について

「水元」(みずもと)は染めた生地を水洗いすることを言います。

「引染」の場合は、生地が経方向にも緯方向にも一時的に伸びてしまうので、それを「水元」によって整える意味もあります。

「水元」によって、生地の風合、仕上がりが変わってきますので丁寧で確実な仕事が要求されます。

素早く、しかし丁寧に、染まりついていない余分な染料や糊、薬剤等を落とします。

「水元」が悪い場合、染料の再汚染、スレ、折れの発生、風合いや染色堅牢度の低下が起こります。

(再汚染=一度水に流れた染料がまた薄い色の部分に染まってしまうこと)

以前は友禅流し、と言って自然の川で水元を行っていました。

川の流水が夾雑物を洗い流し、染料や糊が生地に「再汚染」するのを防ぐのに丁度良い具合だったのです。

環境汚染等の問題で友禅流しが禁止になったので、現在は大手業者では「人口の川」を作って「水元」を行っているところもあります。

しかし、それも大変な設備が必要なため、着物や帯の生産量が少なくなった現在では水槽に水を溜め、水を替えながら「水元」をする所が多いようです。

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当工房での水元は一般家庭と同様の風呂桶と大きな水槽で行っています。

丁寧に行えば問題なく「水元」が可能で、また細やかな調整も出来ます。

*風呂桶などを使う水元の方法*

1)35~38度程度のぬるま湯を貯めた風呂桶に、巻いてある生地を手早く繰り出し素早く全体に水を浸透させます。

この際、水が浸透した部分と乾いた状態の部分があるまま長く放置するとその部分に「キワづき」といって線が出来てしまう事があるので素早く全体に水が行き渡るように注意します。

冷たい水だと汚れが落ちず、生地が固く締まってしまうので傷も付きやすく、かといって水の温度が高すぎると移染の事故が起こりやすくなりますので、染めた生地の状況を良く見極めて、水の温度を決めます。

ちなみに、冷たい水で洗うことで染めた色が冴える、などということはありません。

2)最初に生地を送ったのと逆方向に向かって表面の汚れを水に流れ落ちるように戻します。

3)次は軽い振り洗いによって汚れを浮き出させる様に繰って行きます。

4)2と同様に繰り戻します。

5)生地を斜めに(バイアスに)程よく引っ張り、生地をほぐし、汚れが落ち易くします。また、歪んだ生地を元に戻すためでもあります。

この作業を「四つを入れる」と言います。

6)2と同様に繰り戻します。

7)5と逆の方向に「四つを入れます」。

8)2と同様に繰り戻します。

9)3と同様に揺する様に振りながら繰ります。

10)2と同様に繰り戻します。

基本的な洗い方は、上記なようなものです。

染まり具合によって上記の行程を水を換えながら何度も繰り返す場合や、つけ置き洗いもします。仕上げの酸や薬品を通すこともあります。

素手で、生地の状態の変化を感じながら水元をします。

糊や染料で固くなった生地から「地入れ」の布海苔が溶けて行く様子や、染まりついていない染料を眼だけでなく、触感でも確認しながら作業を進めて行きます。

水に濡れた繊細な麻や芭蕉布などはとても弱いので特に注意します。

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脱水は、文様部分が地色部分に移染しないように紙を入れて屏風畳みにし、洗濯機の脱水を軽くかけてから、棒にかけてぶら下げて干します。

生地が繊細な場合や、文様部分の彩色の、移染の危険などがある場合は、上記のように文様部分に紙を入れて屏風畳みにした後、張り手で生地を張っり、生地の裏からタオルで水分を拭き取ります。

水分を拭き取ったら、生地をきつく張らず、ゆったりと張って乾燥させます。

ー「水元」の際に起こり易い事故ー

*幅上げ折れ*

これは「浸染」でもよく見られる故障です。

「水元」が終わり生地を水から引き上げる際に生地を20~30センチの幅に屏風畳に畳み上げます。これを「幅上げ」と言います。

この状態で長時間放置したり、乾燥が起こったり、また脱水機で強く脱水した場合、折りたたみの部分が折れとなって固定され、乾燥後に横筋状に濃く跡が残ります。

「幅上げ折れ」が発生した場合は、一度水に戻し「張り干し」したり「湯のし」をすることによって修正可能な場合もありますが、幅上げをしたらすぐに次の作業をする事で故障発生のリスクが低くなります。

*水元でのスレ*

水に濡れて膨張している絹は、僅かな摩擦によって繊維を構成している微細繊維が毛羽立ちます。

「スレ」とは、摩擦が原因で起こる生地の損傷で特に生地が濡れた状態で起き易い現象です。半乾きの状態や水中の生地を扱う際には特に注意が必要です。

水中での布と布との自然な接触は大きな問題ではないですが、からまった生地を無理に引き出したりしない様にします。丁寧に扱う事が大切です。爪や、何かの器具の角で生地がこすれることも危険です。絡んだ生地を無理に引き出すことも危険です。

*水洗時の「打ち合い汚染」*

染色濃度、色合いによっては水洗時に「打ち合い」を起こす場合があります。

「打ち合い」とは「水元」によって地色が水に流れた物が文様部分の薄い色に「再汚染」して染まったり、または逆に文様の濃い色が地色の薄い色に「再汚染」する事を言います。

また「幅上げ」して重なった地色部分と文様部分の色がお互いに写ってしまい影響が出る事を言います。

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「水元」は染仕事の最終的な仕事で、なかなかの肉体労働ですが「水元」は簡単ではなく、最終的な布の仕上げとしてとても大切な工程です。

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仁平 幸春

フォリア工房での染色の技法

工房で行っている、染、文様染の技法を解説しております
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