見出し画像

聴きに来て聴かない人たち

どこかの模様師さんの工房で丸々満期まで修行した、あるいは満期近くまで修行したという人がたまに私に相談に来ることがあります。だいたい7〜10年ぐらい修行した人が多いようです。染だけでなく、全く違う分野の方もいらっしゃいますが・・・

そういう方々についてビックリするのは「染めに関することはもちろん、例えば文様のことや、日本の伝統的なことはほぼ知らない、修行した工房での作業しか出来ない、そして経理も、伝票の書き方も、流通も、流通価格も、その他商取引の常識的な基本も全然知らない」ということです。師匠が何にも教えてないことです。

「その工房における作業しか知らない、出来ないまま10年経っちゃった人たち」なんですね。

そういう彼らの知り合いたちも同じ状況なので、それに特に疑問もないような感じ。。。

まあ、でも私が営業で所属した工房も、染のお弟子さんたちはそんなものでしたね、そういえば・・・(私は営業兼、染の手伝いだった)

師匠たちも、ただ仕事待ちで加工職人的に仕事をやっている人だと弟子に自営業として必要なアレコレを教えられないというのもありますが・・・

それと、独立した弟子が商売の競争相手にならないように、商売の重要なところは教えないようにする師匠が多いというのもありますね。

だから仕事の手伝いをさせて、適当に放り出して後は自分でやれ、という人は多い。

とはいっても、そういう工房で修行した人たちも例えば、美大受験をして美大を出て、さらに工房で長年修行したという自負があり、さらにどこかの会に出品して入選して、そこの準会員だという自負があったりするから、相談しに来たクセして、私の言うことなんて、聴かない。

ならばナゼ私に尋ねるのだと思うのですが(笑)

美大の先生や、修行先の先生や、自分が所属している美術団体の先生たちの言う通りにしても全然作品が売れるようにならないから食えないし、先生たちも仕事を紹介してくれないし、むしろ講評会とか勉強会とかに参加しなければならず、制作費の他にもお金がかかるから、バイトをして、どうにかしのいでいます・・・美大を卒業してからずっとそんな状態です・・・と彼らは言う。

それで、ナゼか新規参入で食えているらしいというウワサを聞いてウチに来るんですよね。私の作品やら、考え方などを調べることもなく。私の創作や姿勢には興味が無いけども、食えているらしい、というその一点のために。

全くバカにしやがって!とも思いますが、私は良いヤツぶって、一応そういう人たちとも会います。私自身が、マイナススタートで非常に苦労したので、少しでも後進の役に立てば、という気持ちからです。

スゴイ人は、メールでイキナリ、自分の連絡先も何もなく、名前だけしか書いて来ないで

「売れる取引先を教えて欲しい」

と問い合わせフォームから送って来たことがありました。

流石にそれは「おいおい、いくら何でもそれは無いだろ?あなたはどこのどなたで何をやっている人ですか?それも分かりませんからアドバイスしようがありません」という内容を丁寧に書いたものを返信しましたが、流石にそこで自分があまりに失礼なことをしてしまった、とは気づいたようで、少し冷静になったようです。

それぐらい切羽詰まっていた、ということでしょう。

何にせよ

それって、業界のノラ犬のウチがどうにか食えているのは、誰も知らない、秘密の売ってくれるお店を知っているからに違いない、それか、何かずるいことをしているから、仕事があるに違いない、そうでなければ、有名美大を出て、有名な先生について、有名な美術団体に所属している私に仕事がないのに、ヤツに仕事があるのはおかしい!ということなんでしょうけど。

なので、私の話を本気で聴く気なんて無いんですよね。

で、ウチはキレイ事なんて言わないで作品のクオリティの話・・・褒めてもらうのは簡単だけど、買ってもらうのは別次元の話だということ、制作にまつわるお金の話、営業の話、集金のむづかしさ、特に布では買取が少ないのでどうやって買取してもらうか、そして自分に向いた広報・・・という話しか殆どしないです。

ビジネスやるなら「ごくごく当たり前の、やるべきこと」を教えるだけです。

でも。

「あ。オレは別にそういうことじゃなくて、好きな作品をつくってどうにか食べて行ければ良いんで。にへーさんみたいに、お金とかそういうんじゃなくて、ホントの創作をやるつもりなんで。オレはフツーの職人になりたいんじゃなくてアート志向なんすよ」なんて言う人もいるのですよ。

いや、その、どうにか食うのがむづかしいからアンタはここに話を聴きに来てるんだろ、って話なのですが、それ自体に気づいていないのですから、どうしようもないわけで。

なので、それを単純な経費や支出、販売、集金その他の「超当たり前のビジネスの話」で粉砕するのですが、そうすると「自分は金のためにやってるんじゃないんで!純粋な芸術をやりたいんです!」と怒り出したり。

芸術って人をアホにしてしまう呪いの言葉なんですかねー。┐(´ー`)┌

最近は、流石にそういう不躾な人とは会いませんが、メールぐらいだと結構丁寧に答えちゃう、無料なのに(笑)

流石に、あまりに不躾過ぎる問い合わせには、答えませんけど。あー、でも返信はしちゃうな。

まあ、変にスルーしたり中途半端に答えるとそういう人は常識が無いので「アイツは生意気だ」ぐらいのこと思われちゃいますからね。逆恨みされないようにしなければなりません。

逆に「物凄くキチンと丁寧に、かつ分かりやすく返答することによって撃退する」って方法を取っています。

やる気のある人なら、そのアドバイスを聴くでしょうし、聴く気の無い人はうっとうしく思って離れて行くというわけです。

これ、本当に面白いもので、「話聴きたいんですけど」とか「弟子になりたいんですけど」ぐらいのメールでも、業界の現状、これからやるべきこと、その他の具体的なことを丁寧に長文で返すと

「げ、なんかこのオッサン何か情熱溢れてそうで、うぜえwwちょっと聴いてみただけなのにww」

「オレ様はそんな面倒なことをしないでも出来るしw」

という感じで「あ、ありがとうございます。自分なりに考えてみます」(想定外にちゃんとしたメールが返って来て戸惑いました)ぐらいの返事が来て、そのままということはとても多いです。

弟子になりたい、作家でやっていくための話を聴きたい、という人でちゃんと自分の住所、電話番号、年齢、学歴、その他を送って来る人は殆どおらず、だいたい名前だけで送って来ます。それも本名か分かりません。

こちらとしては、相手の現状が分からなければアドバイスしようが無いので「アドバイスはしますが、あなたの現状をなるべく細かくこちらへ伝えて下さい。そうでなければ具体的で適切なアドバイスは出来ません」と返事をします。その返事が無い場合も多いです。

当たり前ですよね。お客さまからのお問い合わせではないわけですし、まずは自分は怪しいものではありません、お時間のある時にお答えくだされば幸いです、という態度が基本です。それは個人情報云々の話ではありません。自己紹介せず、自分のことは一切知らせず、オマエの話を聴かせろ、は通用しません。

手作りの世界をちょっとやってみようか、という人には、そういう雑な人が大変多いのです。

で、工芸系の工房で、特に弟子を募集している工房のサイトなどを観ると、他所でもこのような内容のグチが書いてあったりして、どこでも同じなんだな、とニヤリとします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?