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【日記】歳を取る楽しみ

(1616文字)

「悪いけど、しばらく泊めてくれない?」
彼女はまるで、ライターでも借りるような気軽さで言った。
「え?うちに?」
「そう」
何か困っていることがありそうだけど、男の家に恋人でも家族でもない女性を泊めるというのは少し抵抗がある。
「なんで?」
「いや、ほら、だって男と女だしさ」
「何か間違いでも起こると思ってるわけ?」
その質問にうまく答えられずに口籠っていると、彼女は少し笑いながら言った。
「大丈夫、私、猫になれるから」
「え?」
「猫だったらそんな気は起こらないでしょ?」
そして彼女は一瞬で猫に姿を変えた。きれいな毛並みの白猫だ。
何か変身の呪文を唱えるでもなく、耳が出て尻尾が出てというように段階を追って変わるでもなく、ボンと煙が出ることもなく、一瞬で姿を変えた。大きさまで普通の猫と同じだ。
「え?え?いつから?」
その言葉を聞いて、白猫はコケるように倒れたと思ったら、再び人間の姿に戻った。
「いや、普通さ、そこはどうして?とか、どうやって?でしょ?いつからかはその後じゃない?」
言われてみればその通りだが、なんだか気が動転していた。


と、その辺りで目が覚めた。
そう、夢の話。
いや、本当はもう少し先があったけど、はっきり覚えていない。
何か、ボクが気になっているというか、心配している人がいて、その猫になる女に何かを言われたような。

昼食の後に、少しソファでゴロッとしていたら眠ってしまっていた。
そしてこの彼女、はっきりと池脇千鶴でした。
これには明らかな理由がある。
昼食を摂りながら、何か軽めのドラマでも観ようかとNETFLIXで見つけた「その女、ジルバ」を観ていたから。
久しぶりに池脇千鶴を見た。
小さくて可愛い女の子という印象だった彼女だけど、小さくて可愛いおばさんになってた。ちゃんと、なんというか、顔の肉も重力に逆らえず、豊麗線もくっきりと。
いや、悪口ではなく、こうやって年相応に変わっていく方がボクは好きだ。
そしてこの「その女、ジルバ」というドラマ。
三年くらい前に放送されてたんですね。
思った通り、軽く観られるドラマで、喜びも悲しみも胸の奥の方まで落ちていくような感じでもなく、適度なところで楽しませてくれるというか。

舞台が良いですね。高齢者ホステスばかりのバー。
草笛光子、草村礼子、中田喜子、久本雅美だからね。
そこで週2回のアルバイトをすることになる主人公の池脇千鶴。
昼間はリストラでまわされた倉庫勤務で、恋人なしの40歳。
でもこのバーに来ると、ホステスたちからもお客さんたちからも子供扱いというか、まだ若いと言われたりする。
そして澱んでいた気持ちが前向きになっていく。
こんなバーがあったら面白いかもね。
草笛光子に「あんた、しっかりしなさいよ」なんてハッパをかけられるのも良いかも。
そしてこのドラマ、なんかじんわりと良いですね。
歳をとっている先輩たちが人生を楽しんでいるように見えるのは良い。
もちろんそれぞれ苦しいことや辛いこともあるんだけど、先輩たちが楽しんでいるように見えると、これからの人生に希望が見えるというかね。
そういえば、もうずいぶん前に所ジョージがこんなことを言っていた。

歳を取ると、どんどん新しい楽しみが待っている。
40代には40代の、50代には50代の楽しみがある。
だから60代、70代、80代と、今度はどんな楽しみが現れるのか、歳を取るのが楽しみでしょうがない。

正確ではないけど、所ジョージがこんなことを言ってました

自分が50代になってみて、なるほどなぁと思うところがあるわけですよ。
歳を取るということは、できなくなることが増えるだけのような気もしていた。
確かに体力的には下り坂だ。
だけど、物事の見え方や考え方がまた違ってきて、視野は広がっていっているように思う。その広がった視野の片隅に、新しい楽しみが見えてくるという感じかな。
この感覚は、若い頃にはなかったもんなぁ。
やっぱり、歳を取ることを楽しんで生きていけたら良いよね。


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