見出し画像

中央区の施設「銀座ブロッサム」の運営に2億円?今後の施設運営はどうあるべきか

 皆さんは銀座ブロッサムという施設をご存知でしょうか。区役所の近くにある、区役所と同じ雰囲気っぽい建物です。

銀座ブロッサム(奥の茶色い建物)

 位置づけとしては「地域文化の向上と区民の便宜」だそうで、昭和49年(1974年)に開館。結婚式場や集会室として利用されている区の施設。

 施設としては区が持ってますが、その管理運営は民間企業が行ってます(指定管理者制度というやつ)。事業者は、「松屋グループ・オーエンス共同体」。

 今回は、この銀座ブロッサムにまつわる課題と今後のあり方について掘り下げます。


どういう問題?

1. 慢性的な赤字体質(1.5〜2億円/年)

 銀座ブロッサムの課題とは何かというと、がっつり赤字体質であるということ。管理運営の委託費として計上している金額は約1.5〜2億円/年度。毎年、この規模の税金がこの施設の維持管理のために注ぎ込まれているわけです。

銀座ブロッサムにかかる予算の推移(単位:億円)

 ただし、これは支出のところだけ。実際には会議室や結婚式場として使われているので、その収入の部分を考慮しなければフェアじゃないだろうという意見もありそうです。

 しかし、実際には基本的にそれも考慮されてのこの金額だったりします。というのも、区の補助金の考え方は指定管理事業者が事業運営を行うにあたって足りなかった部分を補填するという考え方であるため。図示すると、こんな感じ。

指定管理における補助金の考え方

 事業の運営にあたっての「支出」と「収入」があって、その差し引きで足りない部分を区で補助するという仕組みになっています。そして、この部分が1.5億とか2億の数字の部分。

※ 厳密に言うと、ここで言う「収入」に含まれるのは会議室利用の分で、結婚式やレストラン(今は営業してない)による収益は「目的外利用」という位置づけで、これは区に対しての歳入としてあがってくるのですが数百万円程度と大きくないので今回は無視します。

2. インセンティブのない契約体系

 毎年赤字を垂れ流していること自体は区の施設運営として儲けを出すことが必ずしも目的でない以上、ある意味仕方ないことではあります。ただし、さらに問題であると考えるのは、このような赤字体質である状況をそのままに放置しておいても何の問題もない!という契約体系。

 上記のとおり、指定管理事業者はこの施設を運営するにあたってはどんなに収支で赤字を出そうとも中央区が補填してくれる仕組みとなっています。一方で、収入が上振れして支出+補助金の額より上回った場合、最終的にその分は返金することとなっているそうです。

指定管理における補助金の考え方(返金発生の場合)

 こんな条件の中で、マトモに黒字化を目指そうという経営努力が行われるでしょうか。頑張って収入をあげたところで、その努力した分は返金せざるを得ないのです。このような状況の中での合理的な選択は「あまり極端な赤字にならない程度に、ゆるーく運営する」ということになろうかと思います(実際の運営に問題があるということではなく、そういう構造にあることを指摘している点に留意)。

余談:指定管理と生活保護の類似性

 この仕組みで思い起こされるのは、生活保護。生活保護は憲法に定められた「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するためのもので、認定された方は世帯の構成に応じて最低限度の生活費を算定され、収入などの合計がその額に満たない部分を「生活扶助費」として支給されます。

生活保護費のイメージ

 この仕組みは当然に社会にとって不可欠なものですが、 一方で特に経済学の観点から批判されているのは就労インセンティブがないということ。本来的には一旦は給付を受けるにしてもいずれ就労を開始して、所得を増やすことで生活保護から外れることを制度として期待しているのですが、所得を増やせば生活扶助額は減らされるので当人としては頑張って生活保護から抜け出すインセンティブがないのです(厳密に言うと「就労自立給付金」が一応あるのですが、金額として微々たるもので効果は薄いとされてます)。

 銀座ブロッサムなどで導入されている、現状の中央区の指定管理の仕組みはまさにこれと同じ構造になってしまっています。

今回取り上げたこと

 これらの問題に対して、今回の予算特別委員会で質問したのは事業者に対する現行契約でのインセンティブ設計の有無とその設定に向けての考え方。

 1つめは契約書そのものを確認しているわけではないので念のための確認。そして2つめは現状認識と今後の契約についての見通しについての見解を探ることが目的です。

中央区の考えは?

 この問いに対する中央区の回答としてはざっと下記のとおり。

(現行の契約について)
・基本的に契約内容は、ほづみの認識のとおり
・現状の契約ではインセンティブが発生しにくい部分はある
・区の施設の指定管理を担っているということは事業者の実績になるので、それが一定のインセンティブにはなっている
(今後に向けての考え方について)
・単に収支改善ということを求めた場合、利用料金を引き上げるということにもなりかねないがそれは区民の負担となるので望ましくない
・区の指定管理全体としての考え方に基づくものなので今後関連部署とともに検討していく

答弁への考察

中央区の考え方への見解

 まず、現行の契約内容について認識のズレはないこと、そして今の内容では経営を改善しようというインセンティブが生まれにくいことについては認識があるようです。

 事業者として「区の施設を管理することが実績となる」という気持ちはイマイチ分かりませんが、そういったインセンティブがあるのであれば次の指定管理(5年単位で更新)の要件なりに経営改善の実績などを盛り込むなどは将来的な話として可能性がありそうです。つまり、経営改善を一定以上行えないのであれば次の指定管理の選定で不利になるぞと揺さぶっていくことです。


 今後の契約として、収支改善を求めることで利用料金を単純に上げるというのは本末転倒なので、契約の中では中央区と合意の上で変更するという契約にすべきですし、現状でもそうなってるでしょう(なってるよね…?)。ただし、区民の多額の税金を費やして運営している以上は区民と区民以外の価格という体系を設けることは検討に値すること思います。

 また、本施設の契約は「区の指定管理全体としての考え方に基づくもの」ということで、中央区としての指定管理に関する契約をどのように扱うかという、もっと大きな枠組みで検討する必要があるとのことは収穫でした。この点については引き続き、別の場で議論していきます。

今後の対応

 今回の質疑では扱いませんでしたが、現状の契約の枠組みの中で施設をどうように運営するかという狭い議論だけでなく、そもそもこの施設・場所を今後どのように活用していくかという議論も必要です。

 実は、この施設は場所として中央区の本庁舎とも近いことから今後の建替の議論の中に含まれています(以下の「中央会館」というのが銀座ブロッサム)。

建設候補地の検討資料(中央区本庁舎整備検討委員会 (第5回)より

 建替検討の議論については「いったん終了」という扱いで、現行の庁舎を継続利用するという流れになっています。

中央区本庁舎整備について

 したがって、この議論が進まないと今の施設を継続的に利用するのか、建て替えるのか、更地にして民間事業者に貸し出すのかなどといった抜本的な議論は難しいようです。


 この検討は今後行われていくべきものですが、その際の視点として重要と考えるのはこの施設を区として保有する必要があるのかという点。

 繰り返しになりますが、この施設の運営にあたっては毎年度1.5億円から2億円もの税金を投入しているわけです。そして一方での利用実績は下記のとおり。ホールは700件、集会室は960件。

 そうすると、主として区民に対して会議室やホールを提供するという目的を果たすとすれば、ものすごく雑な計算ではありますが1件の開催に対して10万円の補助を行う(そして民間の会議室などを利用してもらう)という選択肢だってありうるわけです。

[補助金] ÷ [利用件数] = [1件あたりの補助額]
1.75億円 ÷ 1660件 ≒ 10.5万円
※ 補助金は1.5億円から2億円なのでざっくりその中間値の1.75億円とした。
※ 利用件数は数字として出ているホールと集会室の合計。その他の利用もあると思われるがそこは省略。

銀座ブロッサム運営の代替案

 この場合、既存の銀座ブロッサムの維持運営は不要となりますので、この場所は別用途に使えるようになります。そうすると様々な区の施設のニーズに応えられるか、もしくは日本橋プラザ方式で更地にして民間事業者に貸し出すなどすれば土地貸付料収入を得るという選択肢もあります。住所は銀座2丁目で、この「銀座」という立地の良さを活かせば大きな収益源になるでしょう(日本橋プラザは6.5億円/年度)。

 これらは一案でしかないですが、重要なことは今の目の前の選択肢だけでなく幅広い視野で施設の活用について考えていくということ。今後のあり方についてはわたし自身としても引き続き考えていますが、ご意見などあればぜひお聞かせください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?