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【旅日記】うどんも人もあったかい香川

岡山で仕事を終えたぼくは、瀬戸大橋を渡って四国に上陸した。
予定までは時間があったから、どこかいいとこないかってグーグルマップを漁ってたら窯元を発見。
れっつらごーだ。

坂出から車を南へ走らせること30分。
山間ののどかな田舎町に窯元はあった。

ぼくが車を停めるとおばあさんが出てきて申し訳なさそうに言った。
「ごめんね、今窯焚きしてて、煤がかぶるからギャラリーの作品を工房に避難させてあるの」
とんでもないです!
窯焚きがみれるなんて最高やん!!

おばあさんはぼくを工房の中に案内して、たくさん作品を見せてくれた。
焼締めの器たちがずらり。

焼締めなんだけど、うっすら透明釉をかけたような質感のものや、ところどころに青い色が浮き出たものがある。
こういった色や味を出すために7日間以上も赤松で焚き続けるんだって。

この地域では昔はやきものが盛んで窯元もたくさんあったけど、今はこの一軒だけらしい。
やはり伝統工芸を生業にしていくのはなかなか大変みたい。
もうこれはどこのやきもの屋でも共通の課題である。

資本主義社会の経済成長につられて、どんどん安い製品を大量生産する技術が発展していった。
安いものが身の回りにあふれたら、それと比べて高い作家物のやきものはなかなか売れなくなってしまう。

「やきものが好きな人が少なくなっとるけな。最近は使い捨ての紙のお皿を使ったり、食器すらつかわんくなってしまって。」
とおばあさんは残念そうに話す。

日々の暮らしの中にある民藝品をつくるやきもの屋にとって、生活様式の変化というのは見ないふりができない大きな課題なのだ。

「時代が変わってきてるから若い人の意見がもっとほしい」と言われて、ぼくにもなにかできることがあるかもしれないと思った。

おばあさんは2つのコップを用意すると、それぞれに少しずつコーヒーを注いだ。
どこにでもあるようなコップと、この窯で焼いたコップ。
中身は同じ市販のコーヒー。
味を比べてみてごらんって。

飲んだらたしかになんかちがかった。
普通のコップでは渋いようなつんつんくるような苦みを感じたけど、それに比べて窯のコップはまろやかな苦みに感じた。

コーヒーを味わっていると、窯のおじいさんが軽トラに薪をいっぱいつんで帰ってきた。
ぼくはまだまだ時間があったから、薪を下ろすのを手伝った。
お安い御用ですよー!

ひと仕事終えたらおばあさんが「うどんでも食べていきな」と言ってくれた。
う、うどん?!と一瞬戸惑ったけど「遠慮なくもらっとき。そういう接待の文化やから。」と窯の番をするおじさんが言うので、遠慮なくいただいた。

窯の隣には小さなうどん屋が併設してある。
自分たちの器でうどんを提供することで、使い心地を感じてもらおうという戦略らしい

それにしても接待でうどんを出すなんて、さすが香川!
思いがけなく、こんなにも早速、本場の讃岐うどんにありつけることになった。

 「今日は市販の出汁で悪いねぇ。いつもは私の御出汁で食べてもらうんだけど。」といいながらうどんを茹でるおばあさん。
丁寧にお盆に乗せて、しかもちらし寿司付だった。
めちゃうまかった。

おばあさんの出汁というのがどんなものか気になったから、作り方を教えてもらった↓
1.昆布を一晩水につける
2.弱火で3時間半くらい煮込む(昆布にぶつぶつがでてきたらOK)
3.昆布を取り出していりこを入れて弱火で30分
4.最後に鰹節を入れて10分煮たら完成
へー、そんなに昆布を煮込むんだ!
やってみよ。

うどんを食べていると、どこからか近所のおじいさんらしき人がきて、うどん語りを始めた。
「たくさんの湯で短い時間で茹でるんだよ。そうしないと麺に湯が浸透してしまうから。」
そのおじいさん曰く、香川の人はみんな自分でうどんがうてるらしい。

うどんを食べ終わっておしゃべりをしていると外から声が聞こえてきた。
「ちょっと兄さん、手伝ってくれる?」
おじいさんがお呼びだ。
作業第二部の幕開けである。

薪が足りないから倉庫の家具の脚みたいなやつを分解するという作業だった。
ひたすら手回しのドライバーでネジを外した。

手を動かしながらおばあさんの昔話を聞いた。
おばあさんは一度見たものを鮮明に覚えられる能力をもっているらしい。
カメラで写真を取ったみたいに記憶できる。
学生の頃はそれで答えを暗記できたから、テストはうまくいったんだって。
でも勉強はあまり好きじゃなくて、授業中はノートをとるふりをしてよく詩を書いていたんだとか。

しばらくしておじいさんが来た。
ぼくがやきものに興味があるというとおじいさんは言い放った。
「芸術の世界には入るなよ」
びっくりして笑った。

「あんたは優しすぎる」
それが理由らしい。
あんまり優しいと飯を食っていけない残酷な世界なんだと言う。
利用されるだけだって。
なんか、わからんでもなかったし、おじいさんがいうことだからそうなんだろうと思った。
きっとおじいさんにはそんな過去があったんだろう。

おじいさんは声のトーンをひとつ落として、いかにも今から大事な事言いますという雰囲気を演出してから、こう言った。
「そこで大事なのはな、いい友だちをつくることや。呑んで騒ぐだけの友だちはいざというときに助けてくれんから」
とにかくいい人に会うということ。
それを見極めて、悪い人にはつられないこと。
そんな教えをいただいた。

そして最後に付け加えた。
「べっぴんさんに惚れたらあかん。50過ぎてみてみい。な?」
とっても大事なことだ。

それからおじいさんが突然こんなことをいった。
「あんたはね、たべもの屋をしなさい」
びっくりした。
ぼく料理好きとか言ってないのに。
最近はとくに、今後は料理する仕事したいなって思ってたところだったから。
「人相学してるから見たらだいたいわかる」らしい。

かれこれ2時間くらいネジをネジネジして、二仕事が終った。
そしたら今度は窯の人が御駄賃をくれた。
うどんのお礼にと思ってよろこんで仕事したらまたお礼をもらってしまった。
ガソリン代の足しにします!
ありがとうございます!!

窯の焚口の前の椅子に座ってひと休憩。
2メートルくらい離れていてもぽかぽか。
焚べられていく薪を眺めながら、コーヒーとおやつとみかんをいただいた。
みかんがめっちゃ甘かった!

またおじいさんが来た。
「ほまもんのことは教えてくれないからじっと見て学ぶしかない。見てわからんことは言ってもわからん」
おじさんの言葉はひとつひとつ、経験に基づいてる感がはんぱなくて、小柄ながら大きな背中だった。

そして最後におじいさんはこう言った。
「若いときの苦労はこうてでもせい。若いときに苦労してないと人のあたたかさに気づけん。」

香川のあったかい出会いだった。

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