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新たな世界を発見できる「全裸監督」

私は今、興奮している。

Netflixで話題の「全裸監督」を観たからだ。
AV監督村西とおるさんの半生を描いたこのドラマは、その破天荒な生き方は勿論、ポルノ産業の変遷も学べてとても面白い。
主役の山田孝之さんはじめ、キャストの体当たり演技も見応えがある。
内容上、長男がいない時間にしか観れなかったが、3日ほどで1シーズン全て鑑賞し終えてしまった。
女性もとても楽しめる内容だと思うので、是非観て頂きたい一作だ。


「全裸監督」の舞台であるAV業界は私には馴染みがない。直接的な消費者でもないし、業界の友人や知人も恐らくいない。仕事で関わったこともない。
だからこそ、こう言ったドラマを観るのがとても好きだ。勿論、脚色されている部分もあるのだろうが、私にとっては全てが新鮮で興味深い。

私は昔からこういうタチで、とにかく「知らない世界を知る」ことに強烈な興味をそそられる。
どんなジャンルでも業界でもよい。自分の世界と遠ければ遠いほど、そしてその異質度が高いほど興奮を覚える。

さらに言うなら、今回のポルノのように人間の欲望に繋がっているテーマは特に好きだ。
「マニア」と名のつくような偏愛タイプの人は、犯罪でない限り全て尊敬している。

積極的に色んな世界を知りにいくのは、単純な自分の好奇心を満たすための本能的な行動だったのだが、最近はあえてこれを皆もっと意図的にやるべきなのではと考えるようになった。
大袈裟かもしれないが、その行動こそが、人間力そして仕事力を高める一助になるような気がしている。

爆発した知的好奇心

先に私の10代〜20代の頃の思い出話をしようと思う。
私は厳格な両親の元、閉塞的な田舎町で育った。高校生の時の門限はなんと夕方18時。
下校後ちょっとした寄り道をする時間すらない。真っ直ぐ家に帰ってひたすら読書に耽る、陰気な学生生活を送っていた。
両親の教育方針は、その思考としてはかなりリベラル寄りなのだが、いかんせん女性ということもあり、彼らが思う「危ないこと」に繋がる可能性があるものは悉く許可してもらえなかった。夜の外出はもちろん、免許を取り立ての友人の車に同乗することもNGだったことを覚えている。
世界への好奇心を抑えられない私は、もちろんそんな家庭環境に大いに反発した。だけれども、結局外に出たところで自分の住んでいる街は周囲を山と畑に囲まれた「ど田舎」である。
得られる情報も少なく、暮らしている人間も保守的で刺激を感じられない。
都会派ぶるつもりはないが、自分の性格的にこの環境は合わないとずっと感じながら生きていた。

親に養ってもらっている以上は何もできない。そう考えた私は、高校を卒業後、運転免許取得と1人暮らしをするための資金をバイトで貯めて、逃げるようにして地元を出た。

そんな背景があったため、1人暮らしを始めてから数年はまさに自分のタカがパカン!と音を立てて外れたのを実感した。
抑圧からの解放のパワーは恐ろしい。仕事も相当にやっていたが、毎晩寝ずに遊び呆けていた。睡眠時間を削っても体力が余るという若さに依存したライフスタイルである。
(当たり前だが、絶対に今はもう無理だ。笑)

アンダーグラウンドに憧れる

抜けきれない中二病を引きずったままフィクションの世界に浸かっていき、中でも自分と対極にあるものに惹かれていった私は、この時期特にアンダーグラウンドの世界に陶酔した。

当時私は「BURST」というかなり過激な雑誌を毎号購読していた。今となってはありえないんじゃないか…と思うのだが、1特のタイトルが「死体」だったり、マリファナクッキーの作り方企画、スプリットタンの施術動画のDVDまで付録でついているようなパンチの効いた雑誌だった。

グロ系、ドラッグ系には一切興味がないが、「タトゥー」と「人体改造」の企画には心を奪われた。結果、毎日耳のピアスの穴を拡張し続けるのがいつしか私の趣味になっていた。
仕事の関係上アングラな世界に100%身を投入できなかったため、過激な改造(身体にシリコンを埋め込む、スプリットタンなど)やタトゥーは一切やらなかったが、小指が貫通するほど大きくなった00Gのピアスホールが私の閉鎖された世界の風穴のように思えて、密かに誇らしく感じていたのを覚えている。

RPGの地図を開拓していくように、知らなかった世界が少しずつ目の前に広がっていくのはとても楽しかった。ピアス拡張のやりかたは?タトゥーはどうやって掘るのか?どんな風に痛いのか?私の今までの世界では知らない知識ばかりだった。別に何の役に立つわけでもないのだが、ただただそれを知りたいという衝動を抑えられなかった。

この時期、興味があった夜の仕事もいくつか体験した。
いわゆるキャバクラ的なラウンジや、クラブ、スナックでの勤務。それぞれその世界での常識やルールのようなものがあり、とても興味深かった。アフターでショーパブの類に連れて行ってもらうことが多かったのも、いい経験になった。普通に女友達と遊んでいても中々行く機会はなかっただろう。

当時見た目が派手だったので、風俗店のスカウトに合うことも多く、暇な時はスカウトマンとお茶もするようにしていた(経費で美味しいケーキを奢ってくれるし)「入店しないけどいいかな?」と断りつつ、風俗店の見学に行かせてもらったこともある。これも女性が客としては入れない世界なので非常に興味深かった。

ちなみに夜の仕事は、私自身は特に外見がいいわけでもない上に、絶妙な色恋は苦手で、やってみて自分には適正がないなと思った仕事でもあった。何事も経験してみないとわからない。

余談だが、ラウンジはフルタイムでスナックやクラブは派遣でやっていたのだが、派遣先によっては漫画で見るようなイジメに遭遇することがあるのも、ある意味醍醐味だった。
派遣先に行った瞬間に「あなたそこのコンビニでアンパンでも買ってきて?」と化粧の濃いママに言われ戸惑っていると「それ買ってきて胸に詰めなさいアハハハハ!」とものすごい角度で貧乳をディスられたりしたときは、怒りを通り越して笑ってしまった想い出がある。

いわゆるフリーターとして生活していたので、他にもキャッチセールスや、ダイニングバーのバーテンから、怪しい絵の販売、メイドカフェのメイドまで色んなことをやった。

働くことは当時から好きだったので、朝は駅前でティッシュを配り、昼はカラオケ屋で働き、夜はお水をするなんて時代もあったほどだ。

とにかく興味のあるものは片っ端から手を出した。
若さゆえの行動力だった。

相手の気持ちを理解すること

大企業や上場企業で働くと、中々こんな経歴のメンバーはいない。殆どが大卒だし、フリーターとして社会人デビューを果たしたという人は稀だ。
日々の生活でこの経歴であるから得をすることは、別にない。たまに話のネタになるくらいだ。
だけど、この経験は私の糧になっている。
貧乏で苦労したからというのもあるが、最もいい財産になったのはやはり「体験してみないとわからない世界を知れたこと」である。
そしてそれは副次的に「様々なタイプの人の気持ちを理解できる」というスキルに繋がった。

前回のエントリで書いたように、私は自分に営業の才能があるとは一度も思ったことはない。うまくいかなくて落ち込んだことの方が多い。
だが、実は得意としていることもあった。それはどんなタイプの人でも割とすぐに順応できるということである。

無論性格的に苦手なタイプはいる。
だけれども、感覚的に相手が望むものを掴む力を持っていた。この人は恐らくこういうタイプが嫌いだな。こういう顔つきの人って、こういう思考しそうだな…と本当に感覚的で何の根拠もないのだが、有り難いことにあまり外れることはなく、営業という職種では実に役に立った。
これはひとえに過去の経験の産物である。お金持ちにも、オタクにも、マニアにもたくさん会ってきた。それぞれと相性がいいかは別として、その思考の傾向がわかるだけで対処法を変えられる。

イノベーションは異質のものから生まれる

以前エアバッグを開発したホンダの小林さんの講演会に行ったことがあるのだが、そこで「イノベーションは同質のものからは生まれない」と仰っていたのが心に残っている。
小林さんは続けて「この中で巣鴨に行く人はいますか?原宿に行く人はいますか?」と聴衆に尋ねた。

高齢者の街、若者の街と呼ばれているそれぞれに興味も用事もなかったとしてもあえて行ってみる。するとそこではきっと新たな発見がある、ということだ。

結果何のイノベーションも生み出せていない私が偉そうに言えることではないが、この考え方にはすごく共感した。やはり視野を広げることは仕事に繋がるのだ。

果てのない欲望

20代のハチャメチャな経験は、間接的に役には立ったが、今さすがにあの状態に戻るわけにはいかない。
ワーママとしての生活にいっぱいいっぱいで、ピアスの穴なんて拡張している場合ではない(笑)
だけれども、世界をもっと広げていきたいという欲望は消えていない。

「初めてのこと」は余程生理的に嫌か、犯罪ではなければできる限りトライしてきた。
スカイダイビングや射撃体験もしたし、競馬にもパチンコにも行ったし、能や歌舞伎やミュージカルや宝塚やクラシックコンサートにも行った。
コミケにもアニソンカラオケの会にも、バンギャの集まりにも参加したし、SMイベントにもおっパブにも2丁目にもホストクラブにも行ってみた。セレブのパーティーにも行けば、センベロの店をはしごもした。1人カラオケも、1人居酒屋もやってみた。
お金持ちとも貧乏とも、人格者ともダメ男とも付き合ってみた。

それでも、まだまだ世の中には私の知らない世界が、経験していないものが無限にある。
そしてその事実こそが私をどこまでも昂らせてくれる。

最近は物理的に夜の外出が難しかったりするため、ホームパーティーをたくさん開き、色んな人に遊びに来てもらっている。
先日はそこで「調香師」のお仕事の方とお会いできて、とても楽しかった。人生で初めて会う職種の方だったので、仕事の話を聞いているだけで非常にワクワクした。

また「全裸監督」のように、情報は創作物からも仕入れられる。映画、ドラマ、本、漫画、舞台…。
私はここに書いてきたような理由で、昔から任侠映画やVシネが大好きなのだが、これもやはり現実世界では決して触れ合うことがない世界だから知りたいのである。

外国人の夫と結婚したのも、こういう性格が関係しているのかもしれない(勿論彼の人格が好きなのがベースだが)。
彼と一緒にいることで、私の世界は格段に拡がった。英語の使い方、カナダの文化、常識、法律、今まで知らなかったことばかりだった。
彼と出会って2回目のデートで、マルクス主義の話を2時間くらいしたこともよく覚えている。犯罪学を専攻していた彼の話はとても興味深く、今まで出会った男性との違いを感じるきっかけになった出来事だった。

「明日」という日は発見のチャンスに満ちている

願わくば健康に歳をとり、何歳になっても世界を広げる生き方をしていきたいと心から思っている。
80歳でクラブに行ったり、90歳でダイビングをしたりしてみたい。何歳まで生きたとしても、変わり続ける世界の全てを知ることはできない。
これは生きていく喜びの本質のような気がしていて、だからこそ明日を迎えるのは楽しいのではないだろうか。
今日知りえなかったことを知るチャンスが明日にはあるのだ。

子供達が大きくなった時に、一緒に体験を重ねるのも楽しそうだ。まずは5.6歳になったら工場見学にたくさん行こうと思っている。
仕事柄、様々な工場を見学させてもらうことが多かったのだが、ここはまさに貴重な発見の宝庫である。(最近は人気で中々予約が取りづらいらしいが)

子供達の人生は彼らのものなので、基本的には好きに生きて欲しいと思っている。
その中で親ができることとして、やはり私はこの「世界を広げる手伝いをする」ことに真剣に取り組みたい。財力の問題があるので不可能なことも多いだろうが、そこは工夫でカバーしよう。

好奇心は生きる力だ。世界の広さを知って、その中で自分の生きる道を見つけて行ってもらいたいなと強く願う。

ちなみに「全裸監督」では、AV女優として活躍するヒロインの黒木香さんについての描写も多い。厳格な家庭で育った彼女の性が爆発するシーンは、ドラマの中でもかなりの見せ場である。
私もそうだが抑圧された環境で育つと、その反動はやはり凄い。
私のようにアホな毎日を送るような大人に育ってほしくないと願う親御さんは、十分に気をつけて子育てをして頂きたいと思う。

#全裸監督 #村西とおる #黒木香 #山田孝之


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