【海外大政治学】Apple社とアイルランドは、いかにして脱税を図ったか? 多国籍企業による政治的影響

IPE (International Political Economy) では欠かせない多国籍企業の存在

International Political Economy、日本語では国際政治経済。現代のこの学問において、欠かせない知識とされるのが多国籍企業についてである。

このnoteでは、多国籍企業のメリットどデメリットを説明した上で、Apple社とアイルランドの脱税問題について解説する。

そもそもInternational Political Economyという学問は、こういった分野である。

The academic discipline which 'examines how economic and political forces influence each other, focusing on relationships among states, international organizations, TNCs, and global markets.'

Richard W. Mansbach, and Kirsten L. Taylor, Introduction to Global Politics, 3rf ed. (Abingdon, Oxon: Routledge, 2018), Chapter 3, p.575

つまり、「国家、国際組織、多国籍企業、世界経済のマーケットにおいて、経済と政治の相互関係を研究する分野」。

これらのアクターの中で、ここ数十年で最も急激に存在感を増したのが、多国籍企業ということとなる。では多国籍企業とは一体何だろう?

多国籍企業とは?

多国籍企業、TNCs (Transnational Corporations) とは、こう定義されている。

Economic enterprises conducting business in two or more countries and operating under a system of decision-making that permits coherent policies, a common strategy, and sharing knowledge and resources.
Ibid.

つまり、「一貫した意思決定システムの下、共通のオペレーションにおいて2カ国以上でビジネスを行なう」企業のこと。

多国籍企業は株主への配当を最優先に考え、貿易や投資における国家の干渉や、またビジネスのスムーズに遂行するため政治的介入をなるべく避けようとする傾向がある。

この性質によって多国籍企業は、世界経済、また国際政治において良い影響と悪い影響のどちらをももたらしている。

多国籍企業のメリット

最も大きなメリットは、直接投資を通じて国の経済成長に寄与し、巨大なマーケットを生むことである。直接投資とは、海外企業の工場などの物理的なリソースに対して、投資し、事業を行うというものである。

この直接投資の影響は大きく、外国為替取引市場は1970年代においては1日に180億だったのに対し、2014年には1日に5.3兆まで成長した。

加えて、多国籍企業は巨大な雇用をうんでおり、現在トヨタは28の国と地域で51の工場を運営し、現地の人を雇用しているという状況である。

多国籍企業のデメリット

多国籍企業は、工場を置く現地の労働力や資源を搾取し、十分に還元せず企業の利益としてのみ奪ってしまう可能性がある。これによって貧しい国は"over control"な状態、すなわち自国の資源をコントロールすることができない状態に陥ることとなる。

実際に、中国の多国籍企業が太平洋地域の島々に工場を導入し、問題を生んでいる。現地社員の採用を積極的にすることなく、大量の中国人労働者を持ち込んでいることが、現地の人にとって“手に負えない”状態として問題となっているのである。

さらに、巨大化した力は国家の力をも超えることがある。Amazonファウンダーのジェフベゾスは、現在1500億ドルの純資産を持つが、これはハンガリーのGDPとほぼ同等である。すなわち、ほとんどの発展途上国はこれを下回っており、多国籍企業が国家全体の経済力を上回るということはもはや珍しいことではない。

ちなみにForbesの発表する多国籍企業トップ50のうち、アメリカが22、中国が11を占める。しかしこれが必ずしも中国とアメリカの国家的な経済力が強いという意味を示すわけではない。言うまでもなくそれは、これら多国籍企業は国境を超えて活動しているものであり、国家の経済力へ直接的に寄与しているわけではないからである。

この巨大化した力は、世界経済に不均衡をもたらし、それによって経済力の弱い国はますます多国籍企業の経済力に頼る、というジレンマが生まれる。

世界経済の不均衡は、政治的問題を引き起こす

経済力の弱い国がますます多国籍企業の経済力に頼ることとなると、多国籍企業が違法に政治に介入する、という状態を引き起こすこととなる。

2018年9月に、EUの指示により、アイルランド政府がApple社への追加課税を行なったが、これはApple社が、アイルランド政府から1%課税という税優遇を受けていたということが発端であった。他の国への法人税は12.5%であるのと比較すると、いかにアイルランド政府がApple社を優遇していたかがわかる。

この汚職が生じた理由としては、Apple社が低い税率を望んだというだけでなく、アイルランド政府側も、追加投資や雇用を望んでおり、多国籍企業と受入国との間でウィンウィンな関係が生まれていたからである。

その依存関係により、アイルランド政府は違法にEUのルールを破るという行動を起こすに至ったことは、多国籍企業の政治的影響力の恐ろしさを物語っていると言えよう。

まとめ

多国籍企業はその巨大な経済力ゆえに、良い意味でも悪い意味でも大きな影響を及ぼす。今後の国際経済また国際政治においても、主要アクターとして存在感は増していくことが考えられる。

2004年以降、国連機関によって、法的規制は進められているものの、監視体制と自由貿易のバランスの下、良い影響を与えるようシステムを構築し続けていく必要があるだろう。

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