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Dutch Roots - Small Country Big Solutions

【背景】

・オランダ北部Flavolandは、北海が入り込んだ入り江の先を堤防で遮断し、内陸湖にして、周囲を干拓地した地域である。かつてマイナス5メートルの海底だったが、20世紀初頭からオランダ政府によって干拓事業がすすすめられ、1940年代から1960年末に干拓地となった。現在も貝殻が混じる粘土質の肥沃な土壌で、ジャガイモ・タマネギの栽培に適しており、これらの作物を生産する農家が集中するエリアとして知られている。

・北ホレント州のエンクハウゼン(Enkhuzen)周辺に、20社以上の種子メーカーが集まる「シード・バレー」と呼ばれる地域がある。

2018年7月13日(金)「Sustainable Crop Production」

【訪問場所1】Arable Farm De Jonge family(9:10〜11:00)

Leo De Jonge夫妻がゼーウォルデ(Zeewolde)で運営する農園。170ヘクタールの農地で、穀物・じゃがいも・タマネギ・牧草などを栽培する。

1980年代に先代にあたるLeoさんの父が政府から60ヘクタールの更地を買い受けて創業し、Leoさんが受け継いだ1997年以降、農地を拡大。現在、3カ所に合わせて170ヘクタールを保有する。とりわけ、収益率の高いじゃがいも・タマネギの生産に注力し、生産量は7000トン規模。

土壌の健全性を重視し、牧草・テンサイ・トウモロコシ・ジャガイモの輪作を実践している。

【訪問場所2】de Beloving(11:44〜14:30)

消費者ニーズを中心に据えた有機野菜を栽培する「Bio Brass」が運営するショールーム。有機農業の仕組みをデモンストレーションした1ヘクタールのサンプル農地とイベントスペース・飲食スペースが一体化した空間である。

合わせて250ヘクタールの農地を展開する「Bio Brass」では、カリフラワー・ブロッコリー・キャベツなどを有機栽培。農地シェアリングモデルをベースに、複数の農家が共同経営しているのが特徴で、栽培する作物を単一化することで生産活動に集中しやすくなるよう、共同経営者はそれぞれ作物ごとに担当が割り振られている。

農作物の背景にあるストーリーを消費者にわかりやすく伝えることで商品の差別化をはかる戦略をとっており、ビーツブランド「Beetz」は事業収益性の観点からも成功事例として評価されている。

「Bio Brass」の有機農業では7カ年を1サイクルと捉え、1年目:クローバーで土壌に根を張らせ、2年目:ビーツや大豆で土壌により頑丈な根を張らせた上で、3年目:土壌の窒素が豊富な時期を利用してブロッコリーを栽培し、4年目:タマネギやカボチャでその窒素の利用を徐々に緩やかにしたうえで、5年目:テンサイを栽培し、6年目:ジャガイモやキャベツを栽培して、7年目:土壌を休ませることにしている。

「de Beloving」のサンプル農地では、輪作のデモンストレーションとして、クローバー・穀物・ニンジン・かぼちゃ・花・ビーツ・タマネギ・じゃがいもが順に栽培されている。とりわけ、花は、農作物の受粉を支える様々な蜂を引きつける仕掛けとして有効だという。

【訪問場所3】Syngenta(15:30〜17:30)

「Syngenta」は、30種類の作物2500の品種について研究開発・生産を行う企業。2017年度の収益は126.5億ドルで、研究開発費として13億ドルが充てられている。

農作物の栽培における持続可能性が注目される中、「農業における持続可能性とは何か?」という問いかけに対し、独自のサステナビリティミッション「One Planet. Six Commitments. The Good Growth Plan.」を掲げ、自然環境を保護しながら農業生産性の向上に取り組んでいる。たとえば、「Syngenta」を含む官民8組織からなる「Farm to Market Alliance」では、農業生産性32%向上、農家の収入83%増、ポストハーベストの食料廃棄量96%減を実現した。

一般に、品種改良は、農家のニーズ、環境負荷、種子生産の効率性、ポストハーベストの品質、法令など、様々な要素を考慮する必要がある。「Syngenta」は世界28カ所に研究開発(R&D)拠点を設け、農家のニーズを優先し、データ駆動型の品種改良の研究開発を行っている。品種改良に要する期間は10〜15年。たとえば、害虫抵抗性にまつわる新品種の開発では、衛生環境を厳重に自動制御した温室で、加熱殺菌した土壌を使い、栽培テストを実施している。

マーケティング部門では、農家だけでなく、消費者や小売業者のニーズなども分析し、消費者ニーズに対応した品種の開発にも取り組んでいる。英国では、小売業者との協業により、ピンク色のキャベツを開発した実績あり。

なお、種子は、洗浄から乾燥・梱包・出荷まで、生産プロセスごとに品質管理している。

2018年7月14日(土)「Seeds for Success」

【訪問場所1】Appelman(9:45〜11:00)

「Appelman」は、北ホラント州ストンペトーレン(Stompetoren)でブロッコリーとキャベツを栽培する家族経営型農家。年間1800トンのブロッコリーと5000トンのキャベツを、アイルランド、ベルギー、ギリシアなどの欧州諸国と中東に輸出している。

毎年3月に栽培を開始し、11月までに収穫を完了する。収穫後の作物の洗浄や梱包も農場で行い、空間を自動制御した貯蔵庫で保管することで、1年中出荷できる体制を整えている。

近年は、土壌の健全性を考慮し、農薬の消費量を軽減する一方、コンポストを採用。コンポストとキノコ、家畜の糞を混ぜて利用している。

【訪問場所2】Bejo(11:40〜13:00)

「Bejo」は、種子の研究開発・生産を行う企業。2017年度の収益は32億ユーロで、うち15%を研究開発費に充てている。ブロッコリーやキャベツなどのアブラナ科、ニンジンをはじめとする根菜、タマネギ、果物、レタスやほうれん草などの葉物を扱い、年間27億ユーロ相当の種子を輸出。有機食材のニーズの高まりを受け、オーガニック種子が総売上の10%程度を占めるようになった。

それぞれの作物に適した気候や日照時間で生産すべきとの考えから、米国、中国、インド、アルゼンチン、オーストラリア、エジプトなどに生産拠点を有する。「シード・バレー」を構成するワルメンハイゼン(Warmenhuizen)のオランダオフィスでは、研究開発と品質管理、種子の加工と保管を担当している。

品種改良に要する期間は18〜23年。市場リサーチや開発、圃場での試用、テスト検証などに10年から15年かかり、種子の生産や加工を経て、市場に導入するまでにさらに3年ほど要する。研究開発費の7割がアブラナ科とニンジン、タマネギに割り当てられており、近年は、トマト、すいか、レタスの品種改良にもより多くの費用が充てられつつある。たとえば、世界で初めて開発に成功した“ジャガイモの種”は、従来の種芋に比べて運搬コストが大幅に削減でき、DNAの伝承もしやすいことから、大いに注目されている。

2014年には、「Bejo」を含む13社が提携し、研究成果をオープンソース化するイニシアチブ「IOP」が創設された。

【訪問場所3】Museum Broekerveiling(14:00〜15:20)

19世紀の花卉市場跡地に設置された博物館。浮き島型の建物で、ボートに商品を乗せたままオークション会場に運び入れる仕組みとなっている。

【訪問場所4】Barendregt Agro(16:00〜17:30)

「Barendregt Agro」は、ユネスコの世界遺産に登録されている17世紀に干拓された「ベームスター干拓地」に位置し、ブロッコリーとキャベツを栽培する家族経営型農家。種芋のほか、ジャガイモ、テンサイ、穀物などを栽培している。

種芋は、空間を自動制御した貯蔵庫で保管され、冬シーズンに欧州や中東、北米に輸出されている。


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