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小出稚子×牛島安希子×樅山智子が語る~その④

※本記事は、2018年8月28日都内で行われた「海外留学フェア (PPP Project)」の一貫として開催された「女性中堅作曲家サミット・グループB」の書き起こしです。パネリストとの合議による加筆修正が含まれます。(編集・わたなべゆきこ&森下周子)

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小出稚子×牛島安希子×樅山智子が語る~その③

ー(わたなべゆきこ)女性作曲家のコレクティブというアイディアに関して、牛島さんはいかがですか?

(牛島)オランダが自由というのは私も感じていたことで。しかもそれをちゃんと受け止めてくれる土壌や場所があるんですよね。そこはすごく恵まれていたなと。日本・・・に限らないかもしれないんですが、エクリチュールの習得が認められないと、新しいことがやり辛い構造になっている気がします。もちろん技術的な裏打ちはとても大切なことなんですが、技術力を証明するための作品を作る傾向にあるような・・。他にも面白いこと、新しい価値観が沢山あって、そういうものも初めから認められて、現代音楽シーンが活性化、シーンに関わる人が広がって行くといいなと思います。

例えば、クラシック音楽のルールや慣習の元では演奏されにくい、既存のジャンルに属さない作品って発表しても認められる場や批評される機会自体が少ないと思うんですが、ネットワークを作ることで、そういう作品についてのお互いの考えを共有したり、作品や思想を発信したり、社会に対して主張がしやすくなるんじゃないかって、コレクティブの話を聞いたとき、希望を感じたんです。

ー(森下)樅山さんの、このアイディアのベースはどこにあったんでしょうか。

(樅山)私、高校からアメリカに行ったじゃないですか。

ー(森下)それまでは日本ですよね。

(樅山)中3までは日本で。アメリカに引っ越してからも、高校、大学、と音楽を続けるわけですけど、日本の外に出てみると自分が日本のことを何も知らないってよくわかるんですよ。考えてみたら生まれてから私が受けてきた音楽教育って、全部西洋音楽で。

ー(森下)高校入学までは日本で音楽に関わっていた?

(樅山)そうですね。まぁ、作曲の勉強してたっていうより、中3までだったから、ピアノ習ってて、音楽クラブやってて、中学校の時は吹奏楽部でサックス吹いてて・・・。

ー(森下)所謂、日本の一般の人が受けているような一般教育を受けていたと。

(樅山)それで、ドレミファソラシドしか知らずにアメリカに引っ越したんだけど、大学に行ったら、例えば日本の雅楽は世界に現存する一番古いオーケストラだと教わる訳です。雅楽なんて、子供の頃に神社のスピーカーから流れている程度だったと思うんですけど、独自の音楽システムとしてリスペクトされていると知って・・・。リンカーンセンターとかで聴くと、確かに雅楽マジやばいわけですよ。巷の「現代音楽」よりも断然強度があって、超コンテンポラリーじゃん!って。

で、「音楽を作る」ということを「わたし」が「今」やるというのは、どういう意味があるんだろうってすごく真剣に考えたわけです。自分がやってる西洋的な音楽の書き方や、細分化された専門業によって成り立つクリスタルのような美しさも、その価値はすごくわかっているつもりだし、最初はそれこそ、その美しさに憧れて音楽の世界に入ったけど。もっとそうじゃない、ものすごくダイナミックな関係性の中から生まれる流動的なものを目指したいって思ったんですね、音楽って元々そういうものだったわけで。
今の時代に集合的な音楽が有機的に生まれる場を作るにはどうすればいいんだろうって、「そういう音楽が生まれる場を作ること」自体が作曲家の仕事なんじゃないかって思ったんです。

その後一年間のフェローシップで滞在したタイとインドネシアで、実際に様々な形で音楽が生まれる瞬間に立ち会うことができて、それ以来そういった「場」を作ること、そして日本人でありアジア人であり、女性である自分が「作る」とはどういうことか、を考えながら活動するようになりました。

ただ、アジアで「わたし作曲家です」っていう自ら言う女性はとても少数で。でも、そういう人たちは制度と戦いつつ、面白いことをやってたりしていて。だから、自分も含め、彼女たちが繋がったら絶対力になるなって思ったんです。

複雑な植民地化の歴史を経験しているアジアにおいて、西洋中心的な価値観っていうのは嫌が応もなく内面化されているわけだけど、脈々と続く家父長的な制度の中で(伝統的な母系社会が残っている場所もあるにはあるけど)女性という立場でありながら、創造的なことをどうやるのかって真剣に考えている人たちもいたりするわけです。そういう状況で「作曲家」という肩書きを背負うということは、「作曲」とは何かということを根本から問う行為でもあると思うんです。

(➄につづきます。)
小出稚子×牛島安希子×樅山智子が語る~その➄


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