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小出稚子×牛島安希子×樅山智子が語る~その⑦最終回

※本記事は、2018年8月28日都内で行われた「海外留学フェア (PPP Project)」の一貫として開催された「女性中堅作曲家サミット・グループB」の書き起こしです。パネリストとの合議による加筆修正が含まれます。(編集・わたなべゆきこ&森下周子)

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小出稚子×牛島安希子×樅山智子が語る~その⑥

ー(森下周子)桑原ゆうさんはどうですか?楽譜に関して。

(桑原ゆう)私はもう楽譜を書くこと自体が大好きで。

ー(森下)声明の人に楽譜を書くとか、西洋のトレーニングを積んできていない人にも楽譜を書いてるじゃないですか。気をつけている事等などありますか?

(桑原)声明や謡の楽譜を書く時、西洋音楽的に捉えて書くとそれは絶対機能しないんです。声明は相対音感が核にあって、それで歌っていくので、それで歌える楽譜を、ゼロから、そのフォーマットから定義していきます。

ー(森下)それは相手側のプラクティスをこちらが勉強した上で、桑原さんがが向こうに合わせて書くと。

(桑原)やっぱりそれもコラボレーションだから、それを一緒に練習して作り上げていくプロセスは大切にしてます。私は楽譜のフォーマットを考える行為自体が大好きで、線を描くこと自体が大好き。音をこういう風に並べるとか、レイアウトとか。

ー(森下)ちなみに樅山さんは、色んな方と様々な方法で創作されてきたと思うんですけど、そういった場合作曲家という立ち位置なのか、ご自身の役割はどういうものですか。

(樅山智子)プロの音楽家だったり考古学者だったり、背景が違う人たちを集めて一緒に何かを体験する旅をまずデザインをするんですけど、その時点で既に作曲が始まっています。そしてその旅を通してどういう発見があったのかを観客と共有するために、旅の共同体験をみんなで音楽に翻訳していきます。その翻訳プロセスは自分が作曲家としてファシリテートするんですけど、ある意味そこに関わっている人たちもみんな作曲家になります。

ー(森下) 翻訳?メディアとして、音とか音楽は必ず作るんですよね?

(樅山)音は絶対あります。時間と空間を構成(=compose)する人という意味で、自分の立ち位置はやっぱり作曲家。色々な要素があって、パフォーマーだけじゃなくて、やまびこであるとか、虫がこうやって鳴くとか、そういうことも含めて構成します。時間と空間をデザインをする仕事。
楽譜も絶対作ります、マップですね。共同体験を音楽に翻訳していくための道しるべになる地図っていう考え方。そのフォーマットは、どうやって描くとマップとしてわかりやすいかを考えて作ります。そのマップがあって、そのプロセスを体験した人たちさえいれば何度でも演奏できるっていう。すごいコンテクスト・スペシフィックで、逆にそのプロセスを共有していないと読めない。

ー(森下)超西洋のコンサートホール型の私からしての質問ですけど、そうなってくると、コンテクスト・スペシフィックだから他のコミュニティに持って行ってもそれは機能しないわけじゃないですか。それはもう明確に、特定のコミュニティ内でやるってことですよね。

(樅山)あるコンテクスト内のプロセスを経て作られたものに対して、そのコンテクストの外で共有されることにそもそもどういう意義があるのかということを考えて、その上で、じゃあどういう形でやるべきというのが出てくると思うから。

(小出稚子)聴衆もスペシフィックということですよね。

(樅山)そうね、ヒマラヤの上で創って発表したら、そこにいる人しか体験できないものね。例えばそのパフォーマンスはそこでしか体験できないものだけど、その作品に関わった人たちの叫びっていうのは、ヒマラヤの住民だけではなくて、世界に向けた叫びだったから。ヒマラヤの外の人たちにもなんとかその声が届くように、創作プロセスの色々な要素をリミックスしてCDを作ってネットで発売してます。環境や観客とインタラクトするパフォーマンスを映像や録音でそのまま完全に記録するのは不可能だったので。アウトプットは違うけど同じプロセスっていうものを、異なる聴衆のために創りました。

ー(わたなべ)なるほど、お話ありがとうございました。まだまだ話足りない、私としても聞き足りないのですが、残念ながらお時間になりましたのでお開きにしたいと思います。グループAパネリストの渡辺愛さん、山根明季子さん、桑原ゆうさん、グループBパネリストの小出稚子さん、牛島安希子さん、樅山智子さん、そして聞き手の森下周子さん、ありがとうございました。

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前編に続き、後編ご覧いただきました。ご好評につき、2019年9月2日から三日間に渡って行われる「三日間のコンポジションアカデミー」関連企画として、第二回サミット開催を予定しています。留学の話から更に踏み込んで、これからの「未来の音楽」について皆さんと共にディスカッションしていきたいと思います。是非会場に足をお運びください。詳細はこちらからご確認ください。(内容随時更新)


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