見出し画像

小出稚子×牛島安希子×樅山智子が語る~その➄

※本記事は、2018年8月28日都内で行われた「海外留学フェア (PPP Project)」の一貫として開催された「女性中堅作曲家サミット・グループB」の書き起こしです。パネリストとの合議による加筆修正が含まれます。(編集・わたなべゆきこ&森下周子)

パネリストのプロフィールはこちら
小出稚子×牛島安希子×樅山智子が語る~その④

ー(森下周子)今の樅山さんの話を一回整理すると、2つの対立軸があったと思うんですよ。西洋vsアジア文化という地理的・文化的要因、その中での音楽の意味やアーティストの定義。そして男性vs女性という対比。

「アジア」では特別に家父長制、つまり「男性」が強くて優位な社会があるという前提ですか?

(樅山智子) 今、殆どのアジアの社会は家父長制だと思います。最終的な判断をするのが男性、長老の役割。

ー(森下) それはアジアに限ったことではなくグローバルにそうですよね?

(樅山)人類の歴史を見ると、母系の社会というのももちろんあって、例えばインドネシアの一部は今も母系社会なんですが、インドネシア全体を見渡すと圧倒的に家父長制だし、タイもそう、女は基本的にすごく抑圧に耐えている印象があります。

ー(森下)そこには西洋とアジア、そして男性優位社会という二重の重なりがあるんですね。

(樅山)その上で、西洋的な制度、概念である「作曲家」を名乗るって、例えばそうやってアジアでわざわざ語って戦っている女性って、稀有じゃないですか。

ー(森下)男性は言うんですか、アーティストとかコンポーザーとか?

(樅山)男性は言いますね。

ー(森下)男性に比べて女性が少ないわけですか?

(樅山)女性はいるんだけど、数が少ないし、私が知っている人たちは、自分が作曲家であると言うために戦っている気がします。それは日本でもある程度そうだと思います。もちろん男性も戦っていると思いますけどね。

(小出稚子)私がやってる伝統的なガムランの世界では、女性はプロにはなれないんですよね。大学によっては入れるんだけど、ダンサーかシンガーだけ、演奏家じゃない。性別によって役割が分担されている、相撲みたいな感じで女性は入る余地がないっていう。そういうことが、もしかしたらコンテンポラリーの世界でも価値観としてあるんじゃないのかなって思うんです。

ー(森下)ジャワはムスリム?

(小出)ムスリムが9割くらい、でもクリスチャンも仏教徒もちょっといる。

ー(森下)ってことは女性である=髪隠せ!っていうのが社会の前提としてあるんですね。

(小出)ゆるいけどやっぱりありますね、都市にも因りますけど。

ー(森下)樅山さんは、そんな中でアジアで戦ってる作曲家を見られて・・・。

(樅山)アジア人+女性+作曲家って言っている人たちが集まって何か一緒に考えたら、西洋中心的な価値観とか家父長的な制度とは全くオルタナティブなものを、もしかしたら生み出せるかもしれないじゃないですか。なんらかのパワーになるというか。
それは2004年くらいからずっとやりたいなって思ってたんだけど、実現できてないんですよね。繋がることでパラダイムシフトを生み出すようなネットワークをつくりたいって。

ー(森下)そういったアスペクトは自身の作品作りでモチベーションになってたりっていうのもありますか?

(樅山)直接的な形でっていうことはないと思うけど、ただそれこそ楽譜を書かないといけないとか、こういう風に聴くべきだとか、そういうものに対してはすごく懐疑的。自分としては、ものすごく先鋭の音楽をやってるつもりなんです。自分の作品を「音楽」と呼んだり、活動を「作曲」と呼ぶことによって、音楽自体をどう捉えるのかということについても、社会に問うてるつもりではあるんですよね。

ー(森下)社会に問うといったとき、日本、インドネシア、ドイツ、アメリカ、イギリス、それぞれにある現実って全部一緒じゃないと思うんですけど、この社会に問うといったとき、どこをターゲットにしてるってあるんですか?

(樅山)恐らく二つあって。私がやってるのって基本コミュニティ・ベースというか、コンテクスト・スペシフィックなんですよ。作品を創るプロセスと、その作品との関係がとても親密なことに興味があって。言い換えると、コンテクストとの関係に自覚的な作品を生み出したい、ということなのかもしれません。それはつまり、その音楽がそこに起こる必然性を、音楽を起こす主体が納得している場を作るということです。そういう意味では、まずひとつめに、一緒に音楽を生み出すコミュニティ、共同体がターゲットというか、対象だと思います。

でも同時に、その特定コミュニティだけでなくて、より広い社会も意識しています。それは、音楽業界とかアート業界とかといわれるところも含むだろうし、あるいはそういった業界がこれまで全くアクセスできていなかった観客層も含む社会ですよね。例えば特定のコミュニティを対象にして行う活動を、自分が「作曲家」としてそのコミュニティの外に発表することによって、「音楽」とは何か、あるいはわたしたちはどう世界を聴くことができるのか、ということについて、世界に対して投げかけているつもりでもあるんです。

ー(森下)コミュニティ・ベースということを考えると、じゃあコンサートホールでの音楽を前提にしたコミュニティとガムランだと全然手法が違うじゃないですか。その状況が違うだけっていうだけで、その中で何をやるかっていう信念には、自分の中で一貫性があるということですか?

(樅山)そうですね。

(⑥につづきます。)
小出稚子×牛島安希子×樅山智子が語る~その⑥

若手作曲家のプラットフォームになるような場の提供を目指しています。一緒にシーンを盛り上げていきましょう。活動を応援したい方、ぜひサポートお願いします!