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坂田直樹に〇〇について聞いてみた(2)

——事前に出したアンケートで「作曲家は職業として成立すると思うか?」という問いに対して「すると思う」とお答え頂いたんですが、私自身は難しさを感じています。坂田さんの考えを聞かせてもらえますか?

アンケートには「職業として成り立つ」と書いたんですが・・・正直言うと狙ってできることじゃないよなって思ってます。我々の世代もみんな大変そうだけど、どうしてるの?と聞きたいですよ(笑)。周りを見た時に、藤倉大さんとか、そのご活躍を見ると出来ないことはないよなって思うんですけれど。

——出来なくはない、ですよね。

それって狙って出来ることなのかな、って思うんです。自分のやりたいことや価値のあることでも、それがそのまま評価されるとは限らないですし。例えばアジアで教職に就かずに作曲だけで食べていくって、凄く難しいとは思います。

——欧州だとその辺りはどうなんでしょうか。

例えばフランスで自分の周りの作曲家を見渡したときに、教職と作曲の仕事量のバランスをうまく取っている人達は沢山いるように思います。純粋に音楽家としての活動がリスペクトされる土壌があるんでしょうね。

ちなみに、師匠のステファノ・ジェルヴァゾーニもコンセルヴァトワールで教えながらコンスタントに作品を作り続けていて、兼業が成立しているタイプですね。

——それなら生徒は第一線で活躍する作曲家に学べるというメリットもありますね。私も欧州で幾つかの大学に通っていましたが、教授はその時間だけ来てレッスンして帰る、みたいな感じで、後は実際リハーサルを見せてもらったり、カフェでみんなで話をしたり、そういう中で多くのことを学ばせてもらいました。

——ただ現実問題として、そういった教授としてのポジションって凄く少ないですよね。欧州の音大も縮小傾向にある中で、私たち外国人がそういった職につけるのかっていうと、また別の問題のような気もするんです。

確かに、それはとても難しいとは思います。例えば、海外で日本人として教授のポジションにある作曲家っていうと・・・先ほど名前の出た藤倉さんもそうですけれど、フランスで言うと平義久先生くらいですか。本当に狭き門だと思います。ただ、もう少し対象を広げて、音楽学校や対象年齢も下げれば、ないことはないんですよね、実際そういったお仕事に声をかけてもらったこともあります。

——作曲家としてやっていくには、その方法論自体もクリエイトしていかなければならないのかもしれませんね。

そういうことですよね。音楽の価値って、そもそもお金に直結しないじゃないですか。自分がやりたいことと世間の評価が一致すれば、それはとても幸福なことだけど、そんなにうまくいきませんよね。なので自分の活動に合った方法を考える必要があるとは思うんです。

僕にとっては好きな音楽にエネルギーを注げる今のライフスタイルが、時折人生のゴールのように感じることもあって、お金の不安があるにせよ、精神的には結構満ち足りてはいるんですよ。

——確かに人によって幸せを感じる物差しって異なりますよね。私は音楽を書くことが三度の飯より好きで、とにかく作曲させてもらえるなら、他のことは極論どうでも良い(笑)

あとは、ライフスタイルじゃないでしょうか。僕は今独り身だから気楽っていうだけかもしれません。「家庭を持ちたい」っていう願望もないんですよね。やせ我慢しているという訳でもなく(笑)、そういう意味では経済的なプレッシャーも、あんまり感じてないんです。

——日本で三つの大きな作曲賞を取られたことで話題になったんですが、例えばその後変わったことなどありますか? お仕事の依頼が増えたり?

有難いことに受賞後、委嘱のお話を頂くことは増えました。ただ単価のことを考えると難しい条件のものもあります。実際お金と時間を天秤にかけてしまったり「書いてみたい編成(演奏家)なんだけど、お金的には正直ヒリヒリするなぁ」っていう迷いの中で取り組む仕事もあります。もちろん最終的には良いものを作りたいし、計画通り行かないことも多々あるので、赤字状態になってしまうこともありますね(笑)

——例えば一曲書くのに2、3か月かかるとして、それに見合った委嘱料が出ることは欧州でも稀なので、かなり厳しい状況ではあると思います。

確かに、それだけでは難しい印象ですね。そういう観点でも、先ほどお話が出ていた教職に就くことも将来的には視野に入れています。それに教えることって自分のためになるので、どこかの段階で、やってみたいことの一つでもあります。

——世界で名前が知られている作曲家のプロフィールなんか読んでいると、それこそ年に一回のペースで何かしらの賞を受賞していたり、素晴らしいクオリティでかつ、ハイペースに曲を書き続けていたりして、このトライアスロンみたいな生活をずっと続けているんだな、と思って、先を見て愕然としてしまいます。

作曲のペースに関して、これ、誰かも言っていたんだけど「筆の速さはもう生まれ持ったもの」だと思うんです。そういうのってあると思うんです。僕も自分の限界のスピードがあるって自覚はしていて、、、でももし〆切があればそれでも何とかやるんですけど(笑)

——あぁ、そうですよね。かと言って「早書きだから良い」ってことはないっていうことだと思うんです。

でもね、今まで自分が培ったものを広めることも有意義だと思うんです。編成やアイデアを少しずつ変えながら、作品を量産したり、その為にスピーディーに仕事を熟すことも、寧ろ良いとは思うんですよ。ただ編曲みたいな創作だったら、その内に自分自身がその繰り返しに飽きてしまうんじゃないかなって思うんです。

「自分を切り売りせず、楽しめているか」「数年後、自分が更に遠いところに行けるようなリサーチを含んだ創作が出来ているか」そういったことを基準にしつつ、自分の作曲ペースを見つけていきたいと思っています。

坂田直樹に〇〇について聞いてみた(3)につづきます。
(次の更新は4月10日です)

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