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北嶋愛季に〇〇について聞いてみた(3)

ちょっときいてみたい音楽の話。第二弾はチェリスト、北嶋愛季さん。
インタビュー連載(2)はこちらから。

——現代ものの楽譜って所謂クラシックと違う部分が沢山あると思うんですけれど、例えば弦楽器だったら鳴る音が単純に書いてあるんじゃなくて、どう弾くかが書いてあるものとか。右手はここの位置、左手はこう動く、そして最終的に鳴る音は書かれていなかったり。
よく現代チェロソロ作品の引き合いに出されるヘルムート・ラッヘンマン(Helmut Lachenmann)のプレッション(Pression)という作品でも、動きに焦点を当てて、細かくその所作が書かれていますよね。

――そういう楽譜に対して難しさを感じることはありますか?

それこそ最初プレッションの楽譜を初めて見た時は、戸惑いましたね。
「なんだこれは!」って、もちろん思ったけれど(笑)すぐ慣れました。
今はクラシックと現代ものと同じ姿勢で向き合っています。なので、特殊な楽譜に対して違和感はないけれど・・・。

——そうなんですね。わたし個人的には、楽譜のビジュアル面が変わることで演奏にどう影響があるのかなって、そこに興味があったんです。

あぁ、それで言うとわたしは元々手書きの楽譜が好きなんですよね。その人となりが良く出ていて。同じことが書いてあっても、何か違う。手書きの楽譜って、その作曲家そのものを感じられるんです、楽譜から。それがとても弾きやすくて。

出来るだけ「正確な」情報を得るためというのが、第一かも知れませんが、バロック時代の曲を演奏する時は、出来るだけ作曲家本人の、もしくはそれに準ずる手書きの楽譜を使用することが殆どです。初めは読みにくいと感じて、慣れないのですが、慣れてくるとその手書きの楽譜ががとても美しく、そして楽譜から、より音楽を感じられるようになります。

現代の作曲家の作品は、楽譜作成ソフトで書かれているものが多いじゃないですか、シベリウスとかフィナーレとか。それはちょっと残念だなって思います。

——均一化されることで個体差がなくなってしまう?

人が書く字もそうだと思うんです。

——その人の特徴が出ますよね。

もちろん読みやすいし、便利なんですけどね、機械で書かれたものは。メールで簡単に受け取ることができるし、そういう面では流通速度も上がったと思います。それでも、人格が見える手書きが好きなんですよね。

——演奏家と作曲家って、わたしは一つの出会いだと思ってるんです。だけど、最近は楽譜を送ったら、それっきり連絡もなく、どこかで演奏されて終わっていくことだったり、リハ時間もタイトで、プライベートなことを話す暇もなく、一回初演して、ぱーっと帰っちゃうみたいな。それって出会ってるのかなって思ってしまって。可能であれば会って話をして、どんな人なのか、どんな音楽感を持ってるのか、もっと向き合っていけたらいいのになって思うんです。

以前、スウェーデンを拠点に活動している宗像礼さんにチェロ独奏曲を委嘱したんですね。彼とは、対話することから始まりました。何ができる、こういう特殊奏法が、ということだけではなくて、極めてプライベートな話とかもして。例えば、私がチェロを始めた時の話とか。作品作りのきっかけとして、私の個人的な印象や話をアイディアとして使っていただきました。あとは、途中経過も見せてもらって「この奏法はどうですか?」とか、「こんな感じです」って私も弾いてみたものを送り返したりとか。

フランクフルトのIEMA(アンサンブル・モデルン・アカデミー)のときも、若手作曲家とのコンサート企画で、作曲のスケッチ段階で音出しさせて頂ける機会があって。創作のプロセスの中に入らせて頂くのは、とても有り難い機会ですね。

——特に宗像さんの作品ってとてもパーソナルですもんね。演奏家がモノみたいに機械的に扱われるんじゃなくて、人対人として、その演奏家の内面もその音楽上に出てくるところが、とても素敵だと感じました。「チェロ」という楽器に書く、というより、「北嶋愛季」に書く音楽という姿勢が。

ただ音楽面で言うと、出来るだけ自分の個性を消したい、とも思ってるんです。とても逆説的ですけれども。

——渡邉理恵さんも全く同じことを言っていましたね。

私のチェロの先生からではないのですが、昔「もっと演奏に個性を出さないと」と言われたことがあって、その時は何故だかわからないけど凄く違和感があったんです。音楽という神聖なものの前では、私というちっぽけな個性なんて、要らないと思うんです。自分は「クリアなフィルター」であり、音楽をなるべくそのままの形で伝えたいと思うんですよね。そのためには「技術」も「曲を解釈できる力」ももちろん必要だし、もっと言えば音楽家としてだけではなく、人間性も問われると思います。そう思うと、まだまだですね。

——前面に演奏家のキャラクターが出てくる、っていう演奏もありますよね。

例えば強烈な個性やカリスマ性がある演奏家とか。それを、作曲家が歓迎するならば全く問題ないと思います。ただ私はそういう方向ではないんです。

——なるほど。先日インタビューをした渡邉理恵さんも然り、もしかすると作品をリスペクトする姿勢が、現代音楽に携わる二人の共通点なのかもしれません。

先ほど「曲を解釈する力」っていうワードが出てきたけれども、楽譜を読む力っていうのはどういうところで訓練されましたか?

大学のアナリーゼとかソルフェージュの授業が最初だったと思います。

——それはクラシックの作品?

はい。ただ「その音」が何のために、何を想像して書かれているか、という着眼点では、古典もクラシックも同じだと思うんです。あとはとにかく数をこなすことで、経験しながら学んでいった感じです。

——触れていく中で、訓練されたんですね。北嶋さんはアマチュアチェリストのための講座でも現代音楽を取り上げていたことがありましたね。この前見学をさせて頂いたときはラッヘンマンのプレッションをみんなで弾いたりしていて、面白かったです。

「空音舎」という、京急線雑色駅近くの、アマチュアチェリストでもある一級建築士のオーナーさんが、工場を改築して造ったスタジオがあるのですが、そこで定期的にアマチュアチェリストさんのためのレッスンやチェロアンサンブルの企画をしています。

その時は、聴くだけだとわからない現代音楽を実際弾いてみよう、という回でした。思ったほど難解じゃないよ、とりあえずやってみよう!という気持ちで。食わず嫌いをなくしたかったんです。

――現代音楽をわかりやすく、明るく届けよう、という北嶋さんの人柄が空間ににじみ出ていたように思います。皆さん楽しそうに取り組んでらっしゃったのも印象的でした。

今日は多岐
に渡るインタビューありがとうございました。今後の活動も応援しています。

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4月の「ちょっときいてみたい 音楽の話」第三弾は、作曲家の坂田直樹さんをお迎えします。お楽しみに。

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北嶋愛季さんコンサート情報

Phidiasトリオ & 北嶋愛季
3月30日(土)15時開演 KMアートホール
出演:Phidias Trio(ヴァイオリン 松岡麻衣子、クラリネット 岩瀬龍太、ピアノ 川村恵里佳)、チェロ 北嶋愛季(ゲスト)
チケット:一般3000円/学生2000円(当日券+500円)

北嶋愛季チェロアンサンブル#4
4月7日(日)&  4月13日(土)空音舎
アマチュアチェリストさんの為の個人レッスン/アンサンブルレッスン/コンサートの参加イベントです。2日間のレッスンのあと、ミニコンサートを行います。 北嶋愛季によるソロコンサート「バロックチェロ×モダンチェロ」もあります。

◇ヴァイオリン&チェロ デュオコンサート ◇
4月28日(日)14時開演 KMアートホール
出演:ヴァイオリン 安藤瑛華、チェロ 北嶋愛季
曲目:
ラヴェル:ヴァイオリンとチェロのためのソナタ
ブレヴァール:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 第3番
リヴィエ:ヴァイオリンとチェロのためのソナチネ
ヴィオッティ:ヴァイオリン独奏のためのデュオ
ソッリマ:チェロ独奏のためのラメンタチオ(哀歌)

詳細は北嶋愛季ホームページまでお問い合わせください。




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