20. なぜ日本人は”勝てない”のか?(後編)

昨日の投稿では、対人スポーツにおいて、「日本人はうまいけど、なぜか試合で活躍できない」という事象について、システムや環境といったところに目を向けて簡単にお話をしました。内容を要約すると、

海外では、
・身体能力や体格も評価の一つとなる
・幼いころから「競争」と常に隣り合わせ
・「競争」を実現するために、プレイする環境がある程度自分と同じレベルの選手たちで統一されている
・その上で、勝敗に自分が関わる(試合に出れる)ことと、その経験回数(試合数)が圧倒的に多い

といったことを書かせていただきました。

前編はこちらから。

それでは続きを始めましょう。

今からは、選手目線での話になります。ここからがとっても大事な話です。
過酷な競争を勝ち上がってきた海外選手と、日本で特に大きな競争を経験しないまま育ってきた僕との違いをお話していきます。

そもそも、なぜ僕が少し前に試合に出れなくなったのかというと、その理由は圧倒的に「プレイが軽いから」でした。自分の中では全力でプレイしてるつもりでも、コーチ陣の目には「それ全力でホッケーやってるの?本気で勝とうとしてるようには全く見えない」という風に映っていました。

そう告げられてからコーチと一緒にビデオを見返すと、確かに僕のプレイには「執念」というものが全然感じられませんでした。
例えば、パックを奪いにいく時。本来ならば両手でしっかりとスティックを握って力強く相手と戦うべきところを、いつの間にか片手のみで相手にリーチしていたこと。それではパックは取れるわけはありません。他にも、チャンスが一番多いはずのゴール前でストップせずに、そのまま横まで流れてしまうことや、パックの競り合いに簡単に負けたり、シュートが打てる状況なのにパスを出したりするなどです。一番わかりやすいのは、パックを簡単に敵に奪われていたことですね。「パックを守る気あるの?」というような印象を抱かれていました。

自分としては、ベストを尽くしてるつもりでした。でも、言われるまで本当に気づかなかったんです。自分がどれだけ甘いプレイをしていたのかということに。自分の中では、これくらいやっておけばオーケーと思っていたものは、コーチ陣からしたら圧倒的に足りてなかったんです。自分とコーチの「当たり前」が違ったんです。

そしてそのことを指摘されたときに、そんなレベルまで追求して戦ったことが、自分の人生において全くなかったということに気付きました。小さい頃から、そういった”激しい”プレイが必要とされない環境でしか、自分はホッケーをやっていませんでした。人一倍練習もしてきたし努力をずっと続けてきたうえで、今までいた環境では活躍できていたから、これからも自分のスタイルはどこでも通用するもんだと思い込んでいました。でも僕は、ホッケー選手として、とっても大切なものをずっと見落としていたんですね。

それが、”Tenacity"です。

僕が今になってようやく気付くことができたこと。それは、”Tenacity"や”Toughness"(タフネス)というのは、一つのれっきとした「スキル」であるということです。

どんな選手でも、誰に言われなくともシュート練習などは多くやりますよね。なぜなら、楽しいし、みんなゴールを決めたいからです。僕もそうでした。

でも、試合の中でそのシュートを打てる場面というのはどれくらいあるでしょうか?自分が余裕を感じる環境でプレイしているのであれば、たくさんあるでしょう。でも、上を目指してステップアップし、レベルが上がれば上がるほど、当たり前ですがそんなチャンスはどんどん少なくなっていきます。

現状、日本代表としてプレイしている僕が、NCAA Div.1のレベルにおいては、シュートを打てるチャンスというのは1試合多くて2回です。1本も打てずに試合を終えることもよくあります。もちろん自分の実力不足であることは言うまでもないのですが、環境のレベルが高くなるにつれて、自分の見せ場というものは圧倒的に減っていきます。

今まで、アメリカでは2チームでプレイしましたが、どのコーチも共通して言っていた印象的なセリフがあります。

「試合中自分の得意なスキルを披露できるチャンスは多くて2.3回。それ以外は、フェンス際やゴール前のバトルだったり、得点に直接絡まなかったり、数字に残らない場面の方が長く続く。そこを勝ち抜ける奴がチームには必要になるし、そういう選手が結果的に最後は活躍するんだ。」

つまり、逆に言えばそのような激しいプレイをできない選手には、そもそもチャンスが回ってこなくなるということです。そういうプレイができない選手はチームからは求められません。

そこで必要になるのが”Tenacity”です。「絶対にパックを奪う」「なんとか相手をゴール前で倒してでもシュートを打つ」などという「決意」と「スキル」の両方が必要になります。(これは、反則をしたり、ラフプレーをするという意味ではありません。)

そして大切なことは、「決意」だけでは、意味がないということです。「スキル」も同じくらい必要なんです。

例えば、いきなり僕が「何が何でも~してやる!」と決めたとしても、その”やり方”がわからないんです。なぜなら、今までその経験がないから。練習してきてないから。「"Tenacity"を意識しよう」と、自分の中で考えていても、それはメンタル面で思い込んでいるだけであって、体はその通りに動いてはくれません。

つまり、僕を含め多くの日本人選手がよく使う「何が何でも~」や「絶対に~」「どうにかして~」「なんとか~」などという、多くの人が「メンタル面」だと思い込んでいる表現は、「フィジカルスキル」として解決されてしまうということです。もちろん心の決意というのは大切ですが、そう簡単に「心」に逃げてはいけないんです。

そしてこれが、日本人選手と海外選手の一番大きな違いだと僕は思っています。

海外の選手たちは、常日頃からその部分をたくさん経験しています。「やり方」を知っています。それは、最初に述べた「勝負にこだわる環境」というものもありますし、指導者が普段の練習から”Tenacity"を身に着けられるメニューを組んでいたりと、要素は多くあります。キャリアを積むうちに、自然と「ヘビーにプレイする」ということが当然のことになっています。

もしこの先、海外や国内の高いレベルで活躍したいと思ったり、今自分がいるところから少しでもステップアップしたいと考えているのなら、シュートやスケート、ドリブルを鍛えるのと同じように、”Tenacity”や”toughness”も「練習」しないといけないんです。ここを避けていては、いつまでたっても日本が世界で勝てる日が来るとは思えません。

本気でその競技に打ち込んでいるなら、日頃の練習から目の前の敵と「本気でバトル」しないといけないんです。それは、小学生でも、学生でも、社会人でも、プロでも関係ありません。練習だとしても、勝ったら本気で喜ぶべきだし負けたら本気で悔しがるべきなんです。負けてへらへらしているようじゃだめなんです。

僕は今までそれをしてこなかった。それをしなくてもいい環境でしかホッケーをしてこなかった。だから今、とっても苦労をしているし、必死にその遅れを取り戻そうと毎日挑戦し続けています。

もし自分の周りに指摘してくれるコーチがいないのであれば、環境を変えるか、自分でやるしかありません。日本の育成システムが変わるのを待っていては、現役生活はあっという間に終わってしまいます。

僕は、海外に出たことで、幸運なことにこれを知ることができた。ホッケーを初めて20年近く経った今、”ようやく”気づいたんです。

これを読んでくださっている方の中には、中学生や高校生など僕よりも若い選手たちもたくさんいると思います。これからの日本のアイスホッケーを支えていくのはあなたたちです。みんな、本当に上手です。ただ、上手であると同時に、「強く」なきゃいけません。

僕と同じ経験を、みんなにはしてほしくない。

これから海外でホッケーがしたいと考えている人や、代表に入りたいと考えている選手、そして現状の自分よりも高みを目指すすべての人は、必ず”Tenacity"を必要とされる瞬間を迎えます。その時に、それがすぐに体現できてほしいから。言われなくても他の誰よりもできていてほしいから、準備を続けてほしいです。

これが、僕が今まで経験してきたことで一番伝えたい内容です。
僕も本気で頑張ります。今までずっとベンチ外でしたが、少しずつの積み重ねが実り、今は1セット目のフォワードに入ることができています。もしまた外されたとしても、必ず自分の力でポジションを勝ち取ります。僕にできるのだから、誰にだって必ずできます。

たった一人の、あなたのちょっとした行動が、そのたった一回の練習が、少しずつ日本を強くするんです。こんな素敵なことがほかにあるでしょうか。

全員で、あなたの力で、一歩ずつ日本のスポーツを変えていきませんか?

前編後編と長くなってしまいましたが、最後まで読んでくださり本当にありがとうございました。


三浦優希


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コメント2件

すごいです。
「フィジカルは歴としたスキルの1つという言葉」は説得力が段違いです。
この言葉を自分がしっかり体現していけるように頑張ります!
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