デザインとクリエイティブの経済効果を示したケース&データ集

こんにちは、三宅佑樹(@yuki_miyake)です。

デザインやクリエイティブの経済効果について、デザイナーやクリエイターは非常にもどかしい思いを抱えていることが多いのではないでしょうか。

消費者がさまざまな商品やサービスに接する場面を考えると、デザインやクリエイティブは、間違いなく購買選択に大きな影響を与える要素の1つである、と言えるはずなのに(この後に出てくる事例で示すように)、「数値で示せ」とか「作る前に効果があることを証明しろ」と言われると、それは極めて困難なのです。

【6/26 10:55追記】前置きが長すぎたのでカットしました・・・カットした部分に書かれたことは以下の通り。
事後でないと計測できない&事後でもデザインと売上等の因果関係が分かりにくい→でも効果はあるはず→懐疑的な人にどう信じてもらえばよいか→まずはデザイン/クリエイティブが経済効果を発揮した過去の事例を知ってもらうことが大事なのでは?

本記事では、私がこれまでに目にしてきた様々な書籍、記事、資料などから、条件を満たすと思われる情報をピックアップし、まとめたものです。

以下に挙げる事例は、なるべく「デザイン/クリエイティブが功を奏した」と言いやすい事例だけに絞りましたが、それでもそうしたデザインやクリエイティブが実現できた背景には、マーケティングをはじめ、関係部署や全社の理解、協力、貢献、ビジョナリーな経営陣のリーダーシップがあったことと思います。決して、デザイナーやクリエイターだけが貢献した事例、と言うつもりはない、ということを先にお断りしておきます。

また、デザインは外観だけを作ることではないのですが、デザインと売上の因果関係が分かりやすいケースを選ぼうとすると、どうしても外観の話が多くなってしまいました。その点はご理解頂ければと思います。

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Airbnb

特にスタートアップの世界では非常に有名な事例なので、ご存知の方も多いかもしれません。

サービス立ち上げから1年ちょっとが経った頃、創業チームがユーザーの家を訪問している中で、ある大きな問題に気づきました。実際に見ると魅力的な空間でも、ユーザーの写真の撮り方が上手くないために、サイト画面上ではかなり魅力の低い部屋に見えていたのです。そこで彼らはプロの写真家を無料で派遣するサービスを開始。これがコンバージョン(成約)に大きな効果をもたらしました。

「プロが写真を撮った物件は普通の物件より2倍から3倍の予約が入ることがわかり、2011年の終わりにはプロの写真サービスを月1000件から5000件に増やしたところ、予約数は急上昇した」 ※1

※1:リー・ギャラガー『Airbnb Story』日経BP社, 初版 P.89


明治 「THE CHOCOLATE」

洗練されたパッケージデザインが若い女性を中心に人気となり、好調な売れ行きが続く明治「ザ・チョコレート」。「あなたの年代はターゲットではない」という上司を説得した言葉はSNS上で大きく話題となりました。

2014年9月にプレミアムチョコレート(スペシャリティーチョコ)のカテゴリーとして初代の「ザ・チョコレート」を発売したものの結果が振るわず、発売後4カ月後にはリニューアル計画を始動。

品質のアピールが空回りした反省を踏まえ、商品説明の文字を極力省いた余白の多いデザイン、縦型、手触り感、オレンジ・紫・ピンクといった明るい中間色(従来商品は赤や黒、白(クリーム)が多い。この色彩の点についてはあまり指摘されていないですが非常に重要だと感じます。)と、新鮮でありながら確実にシズル感(美味しそうな雰囲気)のあるパッケージが事前の消費者調査で実に「9割以上」※2の好感を獲得。その結果をもって社内を説得し、実現に至りました。

2016年9月に発売を開始。税別220〜240円と、コンビニやスーパーで売られる板チョコの一般的な価格帯の約2倍の価格ながら、2017年11月の時点で累計販売個数が4000万個を突破。目標の約3倍のペースで売れているそうです。

※2:リクナビNEXTジャーナル「『あなたの年代がターゲットではない』上司へ放った“あのひと言”の真相|明治のチョコレート革命」
https://next.rikunabi.com/journal/20180221_C/
参考:毎日新聞WEB「明治ザ・チョコレート 4000万ヒットの陰に“黒歴史”」
https://mainichi.jp/articles/20171216/mog/00m/020/011000c (有料)


東ハト 「キャラメルコーン」

1971年の発売開始から実に47年もの歴史を持つ東ハトの看板商品「キャラメルコーン」。2003年3月に民事再生法の適用を申請、事実上倒産した後、新会社としてスタートするにあたって同商品のパッケージをリニューアル。現在も売られている上の画像のパッケージに生まれ変わりました。

リニューアル時点で30年以上続いている商品だったことから、味は基本的に変えず、パッケージのみ、新しい顧客層の取り込みを狙って一新することに。菓子商品は「どれも文字がたくさんあって情報量が多いものが多い」※3ことから、明治「ザ・チョコレート」の例と同じくなるべく文字情報を排除し、はっきりと目立つデザインにして差別化を図りました。

このリニューアルにより、「売上げが1.2倍」※4に伸びました。

※3:おぴねっと「オピ研 vol.09:東ハト」
http://www.opi-net.com/opiken/20031201_01.asp
※4:お菓子マーケットプレイスHP「お菓子大学」VOL.1
http://www.okashi-omp.jp/news2007/0126unv1.html


ネピア 「鼻セレブ」

ウサギやアザラシなどの動物の愛らしい顔を大きくあしらったパッケージで知られる、ネピアの「鼻セレブ」。パッケージデザイン、ネーミングともに、従来のティッシュのイメージとは一線を画すものでありながら、商品のコンセプトや世界観が伝わりやすいものになっていて、クリエイティブとして質の高さを感じます。

この商品、実は当初の商品名は「鼻セレブ」ではなく、「モイスチャーティッシュ」という名前でした。パッケージも、しっとり感や高級感が伝わるようにと、無地の薄い水色を全面に敷いたパッケージで売り出しました。しかし思うように売上が伸びず、すぐに他社にシェアを奪われる状況に。そこで名前を「鼻セレブ」へと改称し、パッケージも一新することになりました。

「柄なしの青色のパッケージに『モイスチャーティシュ』という商品名で発売した当初は、売り上げが伸び悩んだ。しかし、中身はそのままで、かわいらしい動物を使った大胆な図柄のパッケージに変えた途端、爆発的に売れ始めた。」※5

保湿ティッシュ市場における同社のシェアは、「鼻セレブ」発売後、約9%から20%へと上昇したそうです。

※5:日経BP社HP「大ヒットを生んだ“見せる改革”」
http://www.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20071001/136471/


トロピカーナ・プロダクツ 「トロピカーナ・ピュア・プレミアム

デザインが売上に影響を与えるということは、売上を下げる可能性もある、ということになります。

2009年、トロピカーナはオレンジにストローが刺さったビジュアルで展開していた「トロピカーナ・ピュア・プレミアム」のパッケージデザインを、グラスにオレンジジュースが注がれたビジュアルに変更しました。

その結果、どうなったか。コカ・コーラのアトランタ本社でグローバルのマーケティングのトップを務めた人物、ハビエル・サンチェス・ラメラス氏の著書にその事例が紹介されています。

「最初の二カ月間、トロピカーナ・ピュア・プレミアムの売上は20パーセント下落した。金額にして3000万ドル以上の減少だ。競合商品であるミニッツ・メイドやフロリダズ・ナチュラル、各種プライベート・ブランドは、トロピカーナの減少によって軒並み二桁の伸びを示した」※6

新しいパッケージが消費者にあまり受け入れられなかった理由は2つ考えられます。1つは、人は見慣れたものに安心を感じる性質があるということ※7。もう1つは、オレンジのみずみずしさが伝わりにくくなったことです。その後、トロピカーナはデザインを元に戻しました。

※6:ハビエル・サンチェス・ラメラス『もうモノは売らない-「恋をさせる」マーケティングが人を動かす』東洋館出版社, 初版 P.198
※7:ただし、大事な本質を押さえつつ、以前のものにあった問題点を解決するものであれば、その「安心の壁」を乗り越えて新しいものが受け入れられる場合もあります。


クリナップ 「クリンレディ」

このケースは機能のデザインと言えるケースです。1983年から30年以上にわたって販売され続けているクリナップのロングセラー商品、「クリンレディ」。

キッチンシンクを使っていてよく感じる問題点は、水が飛び散ることや、排水口に流れてほしい生ごみなどが水の流れに阻まれてなかなか流れてくれないところではないでしょうか。この問題を解決すべく、同社は水を流すと自然とレールに沿って生ごみが排水口に流れてくれる「流レールシンク」を開発。2015年7月からこの機能を搭載した結果、売上増につながりました。

「生ごみや汚れを効率的に処理できるとユーザーから好評を博し、標準価格(税・施工費別)が63万8000円と流レールシンク搭載前より4万円ほど価格が上がったものの、2015年下期の販売数量は前年比10〜20%増で推移している」※8

※8:日経デザイン編集部『デザイン思考のつくりかた』日経BP社, 初版 P.17
→「この機能がどれだけ売上につながるのか?」といった社内の声が上がったことや、モニターの意見で反対の声が収まったこと、デザインだけでなく工場など全社が一丸となったことなど、「デザインとビジネス」を考える上で重要なエピソードが書かれています。


OKpanda 「OKpanda英会話」

ニューヨーク発の英会話アプリ「OKpanda英会話」は、AppStoreに掲載するUI画面(のスクリーンショット)の色づかいを変更するA/Bテストを実施しました。

青いアプリのアイコン(上の画像のパンダの絵のところ)に対して、UI画面のキーカラー(上の画像の「マンツーマンレッスンは英語習得への近道!」の背景の帯など)をピンクにした時と比べて、アイコンと同じブルーに揃えた時は「ダウンロード率が2.1倍」※9になったそうです。

「"何でもある"は"何にもない"のと同じ」という言葉がありますが、色についても同じで、目立つ部分の色に何色も異なる色を使ってしまうと印象が分散し、逆に「色がない」=個性がないものになってしまいます。

色の選択が印象を左右し、コンバージョンに影響する、つまりは経済的な利益にも影響してくるということが分かるケースです。

※9:アプリマーケティング研究所「アプリストア画像を『青色』に変えたらダウンロード率2.1倍。ニューヨーク発の英会話アプリ『OKpanda』が語る、アプリデザインの改善事例。」
http://appmarketinglabo.net/okpanda/


マツダ

「マツダといえばデザイン、デザインといえばマツダ」というイメージは、徐々に世の中に浸透してきているのではないでしょうか。

常務執行役員デザイン・ブランドスタイル担当の前田育男氏を中心に、2012年から「魂動(こどう)デザイン」をテーマにしたカーデザインを展開。第33回(12-13年)、第35回(14-15年)、第36回(15-16年)と、立て続けに「日本カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞しました。

2008年秋のリーマンショック後に落ち込んだ販売台数と売上高は、魂動デザインを導入した2012年以降、回復してきているように見受けられます。(もちろん、デザインが全ての要因ではないと思いますが。)

【グローバル販売台数】
約136万台(2008.3)→約125万台(2012.3)→約163万台(2018.3) 
【売上高】
3.48兆円(2008.3)→2.03兆円(2012.3)→3.47兆円(2018.3) 
【営業利益】
1,621億円(2008.3)→マイナス387億円(2012.3)→1,464億円(2018.3) 
※2013.3からV字回復が始まり2016.3には2,268億円を記録するも、2017.3は為替相場の変動を主因として1,257億円に落ち込む(トヨタも2017.3決算では営業利益が前年比マイナス30%に落ち込んでいる)。

参考:マツダ(株)決算資料、山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』光文社新書, 初版 P.195-209


スターバックス

具体的な数値の話は出てこないのですが、1987年にシアトルに1店舗あるのみだったスターバックスを買収し、世界約90カ国2万2000店以上のコーヒーチェーンへと発展させたハワード・シュルツ氏の著書『スターバックス成功物語』には、一章分を割いてデザインを重視する氏の考え方が記されています。

スターバックスは、デザインについてもコーヒー同様高い水準を求めている。超一流の最高級デザインで、上品でありながらも近づきやすい性格が表現されていなければならない。(中略) 私は、さまざまなグラフィックスや店舗のデザインは差別化の要因であり、スターバックスが他に一歩先んじていることを顧客に示す手段だと考えている。」「他のコーヒー店は、店舗のデザインが顧客を惹きつける重要な要素であることを知ると、スターバックスと同じような店作りを始めた。」※10

※10:ハワード・シュルツ, ドリー・ジョーンズ・ヤング 『スターバックス成功物語』日経BP社, 初版 P.420-P.435


デンマーク

アルネ・ヤコブセンやビャルケ・インゲルスなどの著名な建築家を輩出し、政府がクリエイティブ領域に積極的に投資するといわれる国、デンマーク。

以下の発言はデンマークの国立デザイン機関、デンマーク・デザイン・センター(Dansk Design Center)のCEO、Christian Bason氏によるものです。

「デンマークでは、13%の企業がビジネスにデザインを戦略的に取り入れ、好業績を挙げているというデータもあります」※11

※11:『WORL MILL』ISSUE02, P.20


オーストリア / リンツ

リンツはウィーン、グラーツに次ぐオーストリア第三の都市。鉄鋼業を中心に栄えましたが、オイルショック、新興工業国との競争、情報化社会への移行などによって産業が衰え、失業率が12-15%まで上昇。大気汚染などの環境問題も深刻化したため、鉄鋼都市からの転換を余儀なくされました。

そこでリンツは、産業育成を促進するのと同時に、それを支える基盤として福祉政策・文化政策を重要視し、80年代以降、文化施設や文化イベントを積極的に増やしました。その中心的役割を担ったのが、メディアアートの世界的祭典「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」や文化教育施設「アルスエレクトロニカ・センター」などで構成される「アルスエレクトロニカ」です。

「リンツ市の文化・社会政策を中心になって担い、地域社会を牽引してきた存在が、『アルスエレクトロニカ』だった。(中略)取り組みの結果、リンツ市は経済成長率が低下しているヨーロッパ先進国のなかで、この20年程で20%近くの雇用の伸びを実現してきた。」※12

文化創造と都市の経済成長という観点でリンツのケースは注目に値するケースだと思います。

※12:鷲尾和彦『アルスエレクトロニカの挑戦』学芸出版社, 初版 P26-28
→リンツが再生した経緯を短く紹介するのは非常に難しいため、興味を持たれた方はこちらの本を読んで頂ければと思います。


その他全体的なデータ

「政府(注:イギリス政府)は予算を組んで産業におけるデザインの経済的可能性を探る研究を行ない、デザイン重視の企業は『売り上げが14パーセント高く、利益も9パーセント多い』ことを発見した。」※13

※13:リーアンダー・ケイニ—『ジョナサン・アイブ』 日経BP社, 初版 P.275


「British Design Councilは、デザインに投資すると、その4倍の利益を得られると発表した。」※14

※14:経済産業省・特許庁 産業競争力とデザインを考える研究会「「デザイン経営」宣⾔」P.5


「ロンドン・ビジネススクールの調査によると、製品デザインへの投資が1%増えるごとに、売り上げと利益は平均して3〜4%増加するという。」※15

※15:ダニエル・ピンク『ハイ・コンセプト』三笠書房, P.142


「アドビシステムズとフォレスター・コンサルティングは共同で、企業の創造性と業績の関係について2014年5月に調査した。(中略) 日米欧アジアの大手企業300社を面接調査し、創造性と企業の業績の関係を分析したところ(中略)創造性が高い企業の82%が、売上高は対前年度比で10%以上も向上した。」※16

※16:日経デザイン編集部『デザイン思考のつくりかた』日経BP社, 初版 P.283

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大事な補足1

「デザイン、デザイン、って、デザインだけが重要なわけじゃないだろう」という感想を持たれた方もいるかもしれません。それは本当にその通りだと思います。デザインに限らず「人の感情に作用するものはすべて経済効果を持つ」のではないでしょうか。

本記事は、その中でも、数値で評価/測定しにくい性質や、学科の成績が重視される教育などの社会的背景が原因(←私の推測です)となって軽視される傾向があるデザイン/クリエイティブの経済効果について、こんなケースやデータがあるということを示しておきたい、という趣旨で書きました。

大事な補足2

デザインが大事といっても、「見た目を綺麗にすればいい」「デザイナーを起用すればいい」という話ではなく、大切なのは「正しいインサイトに基づく正しい戦略に沿った正しいデザイン」。人々が何を求めているのか、自社がどのポジションを狙い、どこに向かっていきたいのか。これらと合致したデザインが正しく実現できたときにプラスの経済効果が発生するのだと思います。

大事な補足3

今回は外観のデザインに関する事例が多かったですが、これからのデザイナーは、意味の設計や心理的つながり(結びつき)を作る仕組み・体験の設計も重要な仕事になっていく気がします。独自性の高い意味やコンセプト、つながりの仕組みを設計したことで経済的な成果が上がった、そういう事例がこれから増えてくるでしょう。

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今後もケース/データを見つけ次第、随時更新していきたいと思います。最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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【Photo】Starbucks:by tc_manasan (CC BY 2.0)/ Denmark:by Florian Plag (CC BY 2.0)

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