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雑記集

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既存の雑記 主に過去や生活について 事柄は体験ですが時間が経っているものは殆どがフィクションです。
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かわいい女の子

かわいい女の子

 ここ数年、容姿をよく褒められる。この「よく」がどの程度かというと「めちゃくちゃ」である。わたしのかわいさでめちゃくちゃにされた人々から、めちゃくちゃに褒められるのである。めちゃくちゃ。

 いかように可愛かったかというと、雨が降ってもかわいい、台風が来てもかわいい、よい晴れの日などは魔法のような光を吸収し、さらにかわいいので手のつけようがない。ほこりで汚れたハイウエストのジーンズをはいていよ

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祈りなんていらない

祈りなんていらない

何から話せばいいかわからない。

わたしはもっとどうしようもないことを、めいっぱいの力をつかって解決し続けなければいけないはずなのだけれど、全部蹴りとばして、今、あてもなくここにいる。どうしてこんなことが起きているのか、判別もつかない。意識が遠のきそうだ。

過去にできない人がいた。どんな遠い場所にあっても、その人のことだけが、過去というただの記憶にできなかった。まるで生々しい、それでいて触る

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亀を飼わなかった話

亀を飼わなかった話

動物を飼うのがこわい。

ある時、一緒に暮らしていた人が「亀を飼わないか」といってきた。理由をきくと「知り合いに亀を飼ってくれる人を探してる人がいるので」ということだった。「亀ならば四六時中、面倒を見ていなければいけないこともないし」と言われて、「そうか?」と思いつつ「まあそうかも」と思う。

そしてわたしはむかし実家で飼っていた亀のことを思い出す。子供の手のひらくらいだったイチローと名付けられた

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88のアンティカノアンティタノ

88のアンティカノアンティタノ

 
暗闇の中で見つめ合っていた。窓から入り込んだ点描の光が暗い部屋と体に這う。泣きはらした喉の下が苦しくて、目の前に寝そべるその名前を呼ぶことさえできなかった。車の走る音がする。窓から差し込んだ一瞬の光がその人の顔を掠めた。黒い眼は微動だにせず私を射抜く。私がその人に手を伸ばすと、握るようにされる。その人の指先は驚くほど冷たく、手のひらは汗ばんでいた。その人はいつものように、私を許すために微

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うろんな旅、恋の耳

うろんな旅、恋の耳

 

なんにしたって都合が良くないから、今すぐ外で会ってくれないと困る。そんな風にニゴウから電話が来た。
 ちょうどそのとき、私は壁にたてかけてある姿見の前で自分の耳の中、暗くて細い穴の中を見ようと必死になっていたので、どうにも都合が悪いのはこっちだった。なにも都合が悪いのは耳のことだけではなかったのだけど、ここ数日のあいだ耳鳴りがやまない上に耳のつけねがカコカコと音を立てたりしびれたりするので気

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someday

someday

 
二年ぶりにちまきと会い、わたしはしあわせな夢を見るようになった。わたしがベランダで煙草を吸うあいだ、ちまきは台所で「塩ゆでたまご」の殻をむいている。

 「塩ゆでたまご」をつくるには殻をむいたゆでたまごを、数日塩水にさらす必要があるのだけれど、ちまきは塩水でたまごをゆでる。もちろん、「ちまきの塩ゆでたまご」には塩味がない。それでも、わたしたちふたりの間では、「塩ゆでたまご」とは「ちまきの

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12月30日の渋谷によせて

12月30日の渋谷によせて

2017年が終わる数日前、電車に乗っているときだった。

私は黒いキャップをかぶり、射光用の伊達眼鏡をかけて白いスヌードをかぶり、スキニージーンズとリーボックのハイカットを履いて座っていた。ワイヤレスのイヤホンでBRAHMANを聴いている。A WHITE DEEP MORNING。正午過ぎ、中学時代の友人と渋谷で待ち合わせるため、JRの急行電車に乗っていた。

電車の中は混雑とも閑散ともい

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雑記③

雑記③

「一番最初に恋愛感情を向けられ付き合うに至った女の話」を書き記したら思いのほか過去が過去になってくれたので、二番目くらいにちゃんとした形で付き合った女の話を書いてこの人もしっかりと過去にしようと思う。未来の話をするために、過去をさかのぼるのは、坂道を後ろ向きでのぼっていくような感覚がある。

・・・・・・

翔子の次くらいに印象深い女の話である。

(もっとも印象深い女の人の話もあるが、まだ過去に

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雑記②

雑記②

全部はここから始まったことなので、あまりものに記したくなかった。

けれどそこからもう十余年ほど経つのでそろそろ本当に忘れそうである。

最近、大事なことを穴があいたように忘れるのである。それがあんまりに恐ろしくて、ふっとその穴に気付いたときわたしは身動きができなくなり、ほとんどの事が手付かずになる。

大切なことを考えようとするとき、今はもう大切でもなんでもない、翔子という女性をどうしても思い出

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雑記①

雑記①

随分前に大学の授業で「永久喪中」という脚本を書いた。内容は大晦日、坊さんのもとにいろいろな人が年越しの挨拶に来るという、支離滅裂なものだった。

わたしは、失ったものは永遠に失い続けるのだと思っていた。仄暗い意味でもなく、体感としてそう思っていた。ないものが、ずっとあるというとても大切な感覚。

失われたことを忘れられず、

失われたこととしてずっと存在する。

出逢った人と永遠に出逢い続けるよう

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