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「恋とゲバルト」1巻感想

 こんにちは、雪乃です。細野不二彦先生の漫画「恋とゲバルト」1巻を読んだので、感想を書いていきます。

 本屋に何気なく立ち寄った際に見つけた「恋とゲバルト」。タイトルに惹かれて手を取ったところ、どうやら学生運動が題材らしい。かつて三島由紀夫と東大全共闘の映画を観たことがあったので興味を持ち、ネットで2話まで読んだら面白かったので1巻を購入しました。

 物語は1968年の東京にある「天啓大学」という大学で始まります。主人公・東儀ひろしは、天啓大学に入学したばかりの1年生。桜の花びらを集め、家族に手紙を書き、そして虫が苦手な純朴な青年。学生運動真っ只中の、カオスで殺伐としたキャンパス内にいる、まっさらな新入生。しかし彼は右翼学生の切り札として東京に呼び寄せられた凄腕の剣士。民兵組織「大日本 武流会」の奨学生として大学に入学していました。

 そんな彼が出会ったのは、殺伐としたキャンパスの中で園芸部に所属する可憐で優しい先輩・北条美智子。ひろしは美智子に惹かれ、美智子もまたひろしに好印象を抱きます。しかし美智子の正体は左翼学生たちの秘密兵器として暗躍する、通称「赤い北斗」。仲間が大学で流す音楽を合図に、ボタンが北斗七星の形につけられた特徴的な学ランを纏ってヘルメットをかぶり、「赤い北斗」になる。類まれな棒術で無双する、もう一つの顔を持っていました。

 対立する2つの組織と、そこに所属し、互いに正体を知らないまま恋に落ちる2人。王道ロミジュリな様式美は抑えつつ、ちゃんと美智子が「ヤバくて」好きなんです。戦闘面での強さもそうですが、2話でナチュラルに蝶を捕まえて食べるシーンがあって衝撃を受けました。別のシーンでは蟻食べてましたからね。ワイルドな昆虫食?
 友人たちと普通の会話をしたり、ひろしに先輩と呼ばれたことに密かにときめいたりと、等身大な1人の大学生の面が強調されるほどに「ヤバさ」が際立っています。

 「何かに夢中になる・熱くなる若者」という点では青春ものとしてのフォーマットが的確に押さえられており、主人公・ひろしをちゃんと応援したくなっちゃうのでサクサク読めます。でもちゃんと、この後激動と狂乱の時代を迎えることが確かに示唆されていてしっかり重くも読める。このバランスがたまらなく好きです。

 ストーリー自体も面白いのですが、私が知らない時代の雰囲気も感じられてすごく好き。学生運動もそうですが、ひろしの故郷の炭鉱が閉山されたことに言及があったり、美智子の台詞に「不遜ながら今の皇太子妃と同じ字なの」というものがあったり、芸能人の名前が出てきたり。現実世界と地続きの、どこかに仄暗く血の匂いがする独特のノスタルジーを感じさせる「1968年」が描かれているところにハマりました。

 ちなみに「恋とゲバルト」の1話、1969年の東京大学・安田講堂にいるひろしと美智子のシーンから始まっています。おそらく、安田講堂事件でしょう。そしてひろしが天啓大学に入学し、美智子と出会うのが1968年。作中時間にして1年でやってくる運命に、2人はどう向き合うのか。今から戦々恐々としています。

 2巻は来年の2月に発売されるようです。楽しみ!

 本日もお付き合いいただきありがとうございました。

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