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【短編小説】ハコダテのがごめ ~読む小説×聴く小説~

「読む小説×聴く小説」

おまゆさんと幸野つみとのコラボ企画のために短編小説を書きました!

幸野つみが書いた物語を、おまゆさんが朗読し音声配信します。
また、今回、おまゆさんがとってもかわいい挿し絵を描いてくださいました!
音声配信は、この小説の投稿と同時におまゆさんのアカウントで投稿されます。
音声配信から聴いても構いません。こちらの文章から読んでも構いません。パソコンでウィンドウやタブを複数開いて、聴きながら読むのもオススメです♪

おまゆさんによる朗読 前編↓

おまゆさんによる朗読 後編↓




文字数は2600字程度。

北海道函館が舞台の物語です。




◆    ◇    ◆    ◇    ◆    ◇    ◆

ハコダテのがごめ

ぶん:幸野つみ
え:おまゆさん

~1~

 子ねこの「がごめ」は、ハコダテという海に囲まれた町で、ニンゲンのママとパパと仲良く暮らしていました。

 でも、今夜はどうやらママとケンカしているみたい。

「がごめ! ちゃんとご飯を食べてよ!」

『だって、おいしくないんだもん』

 がごめはママから顔を背けて、三角の耳をぺたんと寝かせています。

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「ちゃんと食べないと、がごめのこと、嫌いになっちゃうよ!」

 がごめはそう言われて泣きたいような怒りたいような気持ちになりましたが、そういう時にどんな風に鳴けばいいのか知りませんでした。

 そしてがごめはママの横をするりと抜けて、家の外へと飛び出しました。

「がごめ! 待ってよ!」

 追いかけてくるママの声を無視して、がごめはいちもくさんに逃げました。





~2~

 ゴリョウカク公園のタワーの光を浴びて走り、

 ダイモン横丁の提灯の灯りを浴びて走り、

 路面電車のライトを浴びて走り、駅前通りを横切りました。




 がごめは市場までやってきました。

「ぬあー! ぐあー!」

 空から聞こえてきたその叫び声にびっくりして、がごめの全身の毛が逆立ちました。

 声がした方を見ると、カモメがお魚を口にくわえて空を飛んでいました。

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『カモメさん、こんばんは。ねえねえ、ぼく、お腹が空いたんだ。おいしいご飯をちょうだい?』

「やなこったい。これはおれが見つけたもんだ。野生の世界は厳しいんだ。あっちに行きな。ぬあー! ぐあー!」

 カモメはお魚をまるのみして、がごめに向かって大声で叫んで飛びかかってきました。

 がごめはいちもくさんに逃げ出しました。





~3~

 がごめは赤レンガ倉庫までやってきました。

「あーあ。情けない。ニンゲンに飼われているねこはフヌケだね」

 カモメから逃げた様子を見ていたノラネコが、がごめに話し掛けてきました。

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『こんばんは、ノラネコさん』

「いいかい? ああいう時は、こうやるのさ。シャーッ!」

 ノラネコの叫び声にびっくりして、がごめの全身の毛が逆立ちました。

『すごい声だね、ノラネコさん。これならカモメも恐がるね』

「そうだろ? ところでお前、どうしてこんなところへ?」

『ぼく、お腹が空いたんだ。おいしいご飯をちょうだい?』

「なんだと? ここはおいらのナワバリだ! ノラネコの世界は厳しいんだ! あっちに行け! シャーッ!」

 がごめはいちもくさんに逃げ出しました。





~4~

 がごめは教会群を通り抜けて、ハコダテ山の下までやってきました。

 ロープウェイ乗り場に、たくさんのニンゲンたちが並んでいました。

『こんばんは、ニンゲンさん。ねえねえ、おいしいご飯をちょうだい?』

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 するとニンゲンたちはがごめを捕まえようとしてきました。

『そ、そうだ。こんな時はさっきノラネコさんに教えてもらった声を……。しゃ、しゃー……!』

 がごめの声は小さく、ニンゲンたちは「かわいい」と言って喜びました。

 がごめはいちもくさんに逃げ出しました。





~5~

 がごめはタチマチ岬までやってきました。

 海に浮かんだ船の光が遠くの方でゆらゆら揺れています。がごめはそれに見とれて思わず手を伸ばし、バランスを崩して海に落っこちそうになりました。

「大丈夫かい」

 どこからか現れた男が、がごめを抱き上げました。

『こんばんは、おにいさん。ねえねえ、おいしいご飯をちょうだい?』

「ご飯? お前、どうしてこんなところへ?」

『ママが出すご飯は最近おいしくなくなっちゃったんだ。だから、おうちを逃げ出してきたんだよ。おにいさんはどうしてここにいるの?』

「夏にはこのお墓へやってくることにしているんだ」

 男はがごめをそっと地面へ下ろしました。

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「たわむれに、母を背負いて、そのあまり、かろきに泣きて、三歩あゆまず。お母さんを大切にしなさい」

 男はそう言うと、すうっと夜の暗闇に溶けていきました。

 男が幽霊だったことにびっくりして、がごめの全身の毛が逆立ちました。

『キャー!』

 がごめはいちもくさんに逃げ出しました。





~6~

 がごめはヤチガシラ温泉の前を通って、ハコダテ公園までやってきました。

「そこの君」

 声がした方を見ると、一匹のシカががごめを見下ろしていました。

『シャー!』

 がごめは負けるもんかと叫び声を上げました。しかし、シカはびくともしませんでした。

『シカさん、こんばんは。ぼくの声が恐くないの? いちもくさんに逃げ出さないの?』

「逃げ出そうにも、わたしは檻の中にいるからね」

 そのシカはハコダテ公園の動物園で飼われているシカでした。

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『ねえねえ、おいしいご飯をちょうだい?』

「おや。おうちのご飯はどうしたんだい?」

『ママが出すご飯は、最近急に苦いものが混ざるようになって、おいしくなくなっちゃったんだ』

「急に? 苦いものが? 君、それはおそらく薬だよ。お母さんが君の体を心配して、君が元気になるように、ご飯に混ぜているんだよ。早くおうちに帰って、お母さんが出すご飯をちゃんと食べなさい」

 それを聞くとがごめは、なんだかとてもママに会いたくなりました。




~7~

 がごめは再び路面電車のライトを浴びて走り、駅前通りを横切りました。

 その時、ダイモン横丁の方からママの声が聞こえてきました。

「がごめー! がごめー! 出ておいでー!」

 ところがそこにお酒で酔っ払ったおじさんがやってきて、嫌がるママの腕をつかんでどこかへ連れていこうとしました。

 がごめはそれを見て、いちもくさんに駆け出しました。

 そして、おじさんに向かって力の限りに叫びました。

『シャーッ!』

「うわあ! おれはねこが苦手なんだ! やめてくれよう」

 おじさんはいちもくさんに逃げ出しました。

 がごめはママの腕の中にぴょんと飛び込みました。

「がごめ。恐いおじさんを追い払ってくれたんだね、ありがとう」

『ママ。ぼくを探しにきてくれたんだね、ぼくの方こそありがとう』

 がごめは喉をごろごろ鳴らしました。

「がごめ。ママね、実はパパとケンカして機嫌が悪かったの。それでついがごめにも怒ってしまったの。ごめんなさい」

『ママ。ママはぼくの体を心配してご飯に薬を混ぜていたんだね。それに気付かないで家から逃げ出しちゃって、ぼくの方こそごめんなさい』

 がごめは頭をママにこすりつけました。

『ママ。ぼく、ママが出すご飯をちゃんと食べるよ。だからおうちに帰ったらまた、ご飯をちょうだい?』




 ゴリョウカク公園のタワーの光を浴びて、がごめはママの腕に抱かれたまま家へと向かいました。

 ママががごめに小さな声で話し掛けます。

「がごめと仲直りできてよかったよ。あーあ、パパとも仲直りしなきゃ。パパには何て言ったらいいのかな……」

 がごめは家に帰ったら、ママに教えてあげようと思いました。

『ママ。そういう時は、こうやるんだよ。シャーッ!』

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※石川啄木の歌を引用し、表記を一部変更しています。

◆    ◇    ◆    ◇    ◆    ◇    ◆

まだおまゆさんの音声配信を聴いていない方は、ぜひぜひぜひぜひそちらも併せてお楽しみください♪

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