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夏が終わる、空が高くなる

冬生まれの私は夏が苦手だ。

蒸し暑い空気にベトベトする肌はなんといっても不快だし、夕立に浮き立つアスファルトの匂いを嗅ぐとこの上なくげんなりする。

夏祭りのとにかくざわざわとした音や光。

道行く酔っぱらった誰かが誰かを罵る声には、おののくことしかできない。

かき氷を求めて並ぶ長い行列では、蜜の色を注文する言葉を頭の中で繰り返しながらぎゅっとお金を握りしめていて滑稽だ。

はしゃいで飛び込む人が上げる大きな水しぶきを頭からぞんぶんに浴びるプールサイドでは、どんな表情でそこにいればいいのか分からない。

海に辿り着くまでの砂浜の暑さは尋常じゃない。

かと思いきや海の冷たさだって尋常じゃなく、その極端さのはざま(波打ち際)で黙々と砂遊びをするくらいしか能がない。

そうめんをすする時は、つゆと麺の配分を間違うと味気なかったり濃すぎたり、そのバランスに一箸ごと気を使う。

代謝が落ちている体では、どんなに暑くても汗がかけなくて、内にこもる熱が顔面に集中して恥ずかしい。

台風が来るたびに、怖くてドキドキするが、強い風にたなびく窓の外の木々を見るのは嫌いではない。

そして「山の葉っぱが裏返って白くなるとそのうち雨が降るよ」と、小さい頃、祖母が教えてくれた言葉を思い出す。

ほどなくして降り出す雨に打たれ濡れたベランダのサンダルを見ると物悲しい気持ちになる。

夕方になると現れる蚊に知らぬ間に血液を提供することも、慣れたとはいえ不愉快である。

提供した血液の対価が「かゆみ」であるということがどこか釈然としない。

ぷっくりと赤く膨らんだ子どもの虫刺されの跡に爪で「バッテン印」をつけてやるのは楽しい。

自分の腕や足に虫刺されの跡がいつまでも残っているのを目にすると、ターンオーバーの力が衰えていることを実感して面白くない。

お盆を過ぎると日焼けのことなどもうどうでも良くなり、初夏に誓った「今年こそ美白で」という意気込みが「諦めモード」になる自分がズボラで愛おしい。

薄くたなびく雲が浮かぶ空を見ると、嬉しい。

苦手な夏はもうすぐ去り、大好きな秋がやってくる。

今年も、夏が終わる。もうすぐ、空が高くなる。

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