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#100 「ルール」に関する3つの法則と、古いルールが組織を脅かす理由

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(本記事は2021年1月に書いています)

昨年末のプロボクシングWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチにおける、チャンピオンの井岡選手のタトゥーが問題になっているそうです。

井岡一翔がタトゥー禁止のルール改正を希望「JBCが禁じるなら海外で闘う」
https://www.sanspo.com/sports/news/20210109/box21010905020001-n1.html
日本ボクシングコミッション(JBC)のルールでは「入れ墨など観客に不快の念を与える風体の者」は試合に出場できないと定められている。米専門メディア「ボクシングシーン」によると、井岡は「タトゥーを隠すのは本当に意味がなく、このルールを廃止したい」と強調した。

このニュースに対して、

・このような時代遅れなルールはやめるべき
・ルールとして決まっているのだから、今回は処分すべき

など、SNSでもいろいろな反応が起きているようです。

こうした、「ちょっと時代に合わないルール」って、我々の身近なところにもあるように思います。

今回は、こうしたルールを放置しているといずれ組織に危険をもたらすという問題について考えてみたいと思います。

ルールに関する3つの法則

世の中に存在するルールには、以下のような普遍的なルールが存在するように思います。
(特に誰か偉い人が言っているわけでは無くて、私が勝手に言っているだけですが(笑))

[法則1] ルールは作るよりやめる方が難しい

何か新しいルールが作られる場合には、「きっかけ」があることが多いです。
例えば、
・組織で何か問題が起きたので、その問題が再発しないようなルールを作る。品質不良が発生したので、その不良が発生しないように出荷前にチェックするというルールを作るなど。
・誰かが悪いことをしたので、その悪いことを禁止するようなルールを作る。社内で横領事件が発生したので、そのような場合には懲戒できるルールを作るなど。

こうしたルールは、作ることに対するきちんとした理由(正当性)があるため、ルール化することに対する批判がその組織から起きることはほとんどありません。
ルールを作ることは簡単なのです。

一方、一度できてしまったルールをやめることは非常に難しいです。
まず、そのルールをやめるという「きっかけ」がありません。
(あるとすれば、今回のように、誰かがそのルールを破ったことが発覚したときくらいでしょうか)

また、ルールをやめるためには、そのルールをやめることで何か問題が起きた場合、ルールをやめると意思決定した人が責任を負うことになります。
後になって、あいつがあのルールをやめたから問題が起きた、といわれるのは避けなければなりません。
結果、ルールをやめることに対する逆インセンティブが働きます。

中には、そもそもなんで存在するのかわからないルールもあるでしょう。そのような場合には、そのルールができたときまでさかのぼって、ルールができたきっかけや、そのルールによって解決したい課題を調べないといけないこともあります。

このように、ルールは、作るのは簡単でやめるのは難しいという性質を持ちます。
そのため、ほっておくと、どんどんルールの数は増えていってしまいます。

[法則2] ルールは必ず古くなる

そのルールを取り巻く環境は常に変わり続けています。
昔はそのルールが正しかったり、組織のアウトプットの品質を保つために重要であったとしても、時代とともにそのルールが役に立たなくなる、さらには、ルールが逆効果になることもよくあります。

[法則3] 古いルールが積み上がった組織はいずれ別の組織に淘汰される

こうしてどんどん古いルールが積み上がっていくと、やらなくて良いルールを実行することで、業務の余計なオーバーヘッド(無駄)を生み出します。
こうした無駄は、企業の生産性を下げ、競争力を削いでいきます。

ルールを今の時代に合わせてゼロの状態から作れるスタートアップと、過去のしがらみで積み上がった古いルールに従って仕事をする古い企業とでは、業務のスピードや効率が段違いです。
古いルールが積み上がった組織は、新しい組織にいずれ淘汰されます。

今回の井岡選手の件でも、タトゥーを入れた選手がその大会に出れないということになると、そういう選手はタトゥーOKな海外の大会や、別の格闘技に流れることになるでしょう。
新しく別のボクシング団体を立ち上げようとするかもしれません。

古いルールに縛られ続ける組織は、そうしたしがらみを持たない別の組織に淘汰されます。
こうした事態を避けるためには、経営者や管理者は意識して古いルールを減らしていかなければいけません。

ルールを作る前に考えたいこと

このように、どんな組織であっても、油断していると自然にルールが増え続け、いずれはそうしたルールのせいで他社に淘汰される、ということになります。

そうした状況を避けるために、何かルールが必要になった場合、以下のような点に注意するのが良いと思います。

(1) 主語を大きくしない

「主語を大きくする」というのは、数件の事例から、より大きな集団でその事例が起きていると誤って判断することです。
例えば、一部のマナーの悪い若者を見た際に「最近の若者はみんなのマナーが悪い」と感じてしまったり、1つの凶悪事件の報道を見ただけで「日本の治安はどんどん悪くなっている」と感じてしまうことを言います。

何かルールを作る際にも、解決したい課題の範囲を、不要な大きさまで広げないことが重要です。
問題を起こした個人を注意すればいいだけの話なのに、大きなルールを作って全社員にそれを守らせる、などという状況は避けなければいけません。
ある部署で何かの改善策を策定した場合に、その改善策を別の部署にも広げることを「横展開する」と呼んで推奨されることもありますが、はたして本当にそのルールを横展開すべきなのかは、事前にきちんと検討しておくべきです。横展開される側の部署にとっては、ただの迷惑であることもよくあります。

(2) ツールで解決できないか考える

ルールを作って、そのルールをメンバーに意識させることで行動を変えるのではなく、普段使うツールを工夫することで、ルールを意識しなくても行動を変えられると良いです。
例えば、設計図を更新する際に、間違った修正をした上に古い設計図を捨ててしまった、というミスが発生したとします。
この場合、「設計図を更新する際にはダブルチェックしましょう」というルールを作るよりは、過去の設計図含め自動的に全てのバージョンと変更履歴を管理してくれる文書管理ツールを導入する方が良いと思います。
このように、「ルールを作らなくてもツールで解決できる」方法を考えてみましょう。

(3) 期間限定のルールにできないか考える

ルールを作る際に、「このルールは半年間(○○年○○月まで)有効とする」のように決めてしまう方法です。
工場の生産現場などでは、「新製品の場合は、最初の生産後3ロットに限りこの検査を行う」のような出荷検査を行うことがありますが、これも「期間限定のルール」の例です。

ルールからはみ出した人を大切にする

ルールからはみ出す人、というのは、古いルールを変えるためのきっかけになります。
ルールからはみ出すには、裏に何かしらの理由があるはずです。そのような理由に気がつけるかどうかで、その後のルールの捉え方が大きく変わってくると思います。
同じ組織にずっといると、ルールを守ることだけが重視されてしまい、なぜそのルールがあるのかまで頭が回らなくなってしまうことがあります。
「ルールを守らないやつは駄目だ」という雰囲気が組織を支配すると、いずれ「法則3」が発動することになるでしょう。

おまけ: 100回を迎えて

2020年の4月に始めたこの note ですが、毎週更新し、ついに100回を迎えることができました。
おかげさまで、この note をご覧頂いた方から直接コンサル依頼を頂くことも増えてきており、続けて良かったと感じています。
一方、そうしたご依頼に対応させて頂くための時間が増えてきており、これまでと同じペースで note を更新することが難しくなってきております。
次回以降、更新頻度を落とすことになるかもしれませんが、それでもできるだけ長く続けていきたいと考えています。

まとめ。

(1) 一般的に、ルールには、「ルールは作るより止める方が難しい」「ルールは時間とともに古くなる」「古いルールが積み上がった組織は、別の組織に淘汰される」という特性があります。

(2) こうした古いルールの積み上げを避けるためには、ルールの適用範囲を考える、ツールによる業務改善を考える、ルールの適用期間を検討する、などに気を配ることが必要です。

(3) ルールを守らない人、ルールをはみ出す人、が現れた場合には、高圧的にルールを守らせるのではなく、なぜそのルールが守られないのか、表には出てこない裏の理由まで気を配ることが重要です。同じ組織にずっといると、ルールを守ることだけが重視されてしまい、なぜそのルールがあるのかまで頭が回らなくなってしまうことがありますので、注意しましょう。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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