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#024 「因果関係」と「相関関係」と「偽相関」

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(※ この記事は、2019年の8月に書いています。)

先週末(8月3日(土)・4日(日))は、令和になって初めての中小企業診断士1次試験だったようですね。
合格された方はおめでとうございます。私も去年とても暑い中受験したことをよく覚えています。

さて、1次に合格された方は、約2ヶ月後の10月20日(日) に行われる2次試験に向けた準備を開始されることと思います。
2次試験に臨むにあたって、よく言われるのが「因」と「果」を意識した回答作成を心掛ける、という点です。
(施策と効果、と言い替えても良いかもしれません。)

経営者の目指す姿と現状をしっかりと把握し、目指す姿に近づくための課題を設定し、その課題を実行するための施策を提言する、という流れの中で、施策と効果の因果関係をきちんと説明できるようにすることが極めて重要です。
(これは、試験だけではなく、実際の診断業務においても同じだと思います。)

ところが、世の中を見回してみると、この「因果関係」という言葉が適切に使われていない場面によく遭遇します。

ダイバーシティと企業の業績との関係

ちょっと古い資料になりますが、経済産業省から、「ダイバーシティ」に関する調査資料が出されていました。
「ダイバーシティ」とは、日本語にすると「多様性」のことで、企業経営の観点からは、社員の性別・人種・国籍・職歴・ワークスタイルなどの多様性を指すことが多いようです。

平成28年11月14日(月) 経済産業省経済産業政策局「ダイバーシティに関する各種調査」
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/diversity/pdf/004_05_03.pdf

この資料の冒頭に、「ダイバーシティが業績に与える期待効果」という内容のスライドがあります。
(以下に引用します。)

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この資料によると、「女性比率の高い企業は、そうでない企業に比べて優れた業績を達成する確率が高い傾向が見られる」「文化的多様性が高い起業は、そうで無い企業に比べて優れた業績を達成する確率が高い傾向が見られる」という調査結果が示されています。

これらの調査結果から、「高い業績を目指すための施策として、女性比率を高めていこう」という提言ができそうに思いますが、はたしてそれは正しいでしょうか?

この問いに答えるため、まず、「因果関係」「相関関係」という2つの言葉について整理したいと思います。

「因果関係」とは

「因果関係」とは、「ある出来事が別の出来事を引き起こす関係」の事を言います。
AとB、2つの事象があった場合に、これらの事象が因果関係(A→B)となるための条件は次の2つです。

(条件1) A(原因)の方が、B(結果)よりも先に発生している。
(条件2) A(原因)が、B(結果)に直接影響している。

条件1、2のいずれも、こうして整理すると極めて当たり前のことのように思われます。
原因よりも結果の方が先に起こることはタイムマシンでもない限り起こりようがありませんし、仮に順番がA→Bの順番だったとしても、それぞれが無関係であれば因果関係とは呼べません。

中小企業診断士の2次試験では、この「因果関係」を問う問題が本当にたくさん出題されます。
出題の仕方としては、
(1) 結果が提示されてその原因を問う問題(A社の業績が○○であった理由は何か、という出題)
(2) 原因が提示されて予測される結果を問う問題(A社が行った○○という施策の狙いは何か、という出題)
(3) 原因と結果の両方を問う問題(診断士として施策を提言せよ、という出題)
といったパターンがあります。

「相関関係」とは

「相関関係」とは、「ある出来事と別の出来事が同じタイミングで起こる」ことをいいます。
因果関係と比較した場合、2つの事象の起こる順番はどちらが先であっても良いこと、お互いに影響がない可能性があること、が異なります。

例えば、「夏になるとアイスクリームとビールの売上げが同じように上がる」という事象が合った場合、アイスクリームの売上とビールの売上げには相関関係はありますが、因果関係があるとは言えません
一般的に、人間には「気温が高くなると冷たいものが欲しくなる」という特性があるため、「気温が高くなる→アイスクリームが売れる」「気温が高くなる→ビールが売れる」という関係については因果関係がありそうですが、アイスクリームとビールの売上げに関してはどちらが先と言うことは無く、因果関係はないと考えるのが自然です。

ダイバーシティと企業の業績はどちらが先か

さて、冒頭のダイバーシティと企業の業績について考えてみたいと思います。
「女性比率の高い企業は、そうでない企業に比べて優れた業績を達成する確率が高い傾向が見られる」
という記述がありますが、果たして、「女性比率を高める」ことと「業績が上がる」ことの間には因果関係があるのでしょうか?

もしかしたら何かしらの因果関係がある可能性も否定はできませんが、この資料だけからは、その事実は読み取れない(相関関係はあるが因果関係はあるとは言えない)、というのが正しい理解だと思います。

例えば、こうした相関関係が生まれた原因として他に考え得る状況としては、
(1) 業績が上がった結果、女性が働きやすいような人事制度や職場環境の整備が進み、結果として女性比率が高まっている。この場合は因果関係が逆ですので、女性比率を増やしたとしても必ずしも業績が上がるとは言えません。
(2) 女性をターゲットにした事業の方が事業環境として利益率が高くなりやすい。そのため、女性向けのビジネスを行っている会社(必然的に女性比率が高くなる)の方が業績が上がっている。この場合、女性を増やす事が目的ではなく、より利益率の高い事業に参入することが施策となります。

といった状況が考えられると思います。

このように、きちんと因果関係を分析していくことが、正しい施策を導き出すためには重要です。

(念のためですが、上記の分析はダイバーシティ経営を否定するものではありません。もしかしたら、女性比率と企業業績の間には何かしらの因果関係が存在している可能性もあるかと思います。)

「偽相関」について

さらには、市場のデータの中には、「偽相関」という関係性をもったものも存在します。
「偽相関」とは、「2つの出来事の間に一見関係がありそうだけど実は関係ないこと」を言います。

偽相関は、以下のような場合に発生することが多いです。

(1) 恣意的にデータが集められている場合。例えば、静岡県出身でO型の血液型の人をたくさん集めて統計を取れば、「静岡県にはO型の人が多い」という間違った相関関係を作ることができます。
(2) データの数が極端に少ない場合。例えば、3人のサンプルで出身県と血液型の相関を調べた場合、東京都出身の人は全員A型、という誤った相関関係が出てきてしまうことがありそうです。

こうした極端な例でなくても、例えばアンケートのとりかたによって結果が左右される事はよくあります。
例えば、インターネットで取ったアンケート結果は、街頭で取ったアンケート結果よりも「普段インターネットを使う」という人の割合が多くなることは容易に想像がつきます。
データの集計結果を見るときには、本当にその内容に信憑性があるのかどうか、きちんと検証していく必要があると思います。

さて、次回は、「因」と「果」の関係を意識することで、最近話題の「働き方改革」について掘り下げてみたいと思います。

まとめ。

(1) 「因果関係」とは「ある出来事が別の出来事を引き起こす関係」のこと、「相関関係」とは「ある出来事と別の出来事が同じタイミングで起こる」こと、をいいます。
(2) 「因果関係」と「相関関係」は似ているようですが大きく異なります。世の中の論調を見ていると、単なる相関関係を因果関係のように説明している事があるので、騙されないように注意が必要です。
(3) さらに、「偽相関」という「2つの出来事の間に一見関係がありそうだけど実は関係ないこと」も混じっていたりしますので、こちらにも注意しましょう。特に恣意的なデータの集め方をしていたり、データ数が少ない場合などに起こりがちです。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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