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#011 日本企業の組織について考える(その4) - アンゾフ「戦略は組織に従う」

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いよいよこの特集もそろそろ終わり。今回は、日本企業の組織戦略に関する特集のその4、アンゾフの戦略論についてです。

(その1) - ポーターのポジショニング理論
(その2) - バーニーの内部資源理論
(その3) - チャンドラー「組織は戦略に従う」
・(その4) - アンゾフ「戦略は組織に従う」
・(まとめ) - 日本企業の強みを活かせる組織戦略を考える

前回は、チャンドラーの「組織は戦略に従う」という考え方を紹介しましたが、今回はそれとは反対の「戦略は組織に従う」という考え方についてまとめてみたいと思います。

イゴール・アンゾフ

アンゾフさんは1918年にウラジオストクで生まれたロシア系アメリカ人。ちなみに、前回のチャンドラーさんも同じく1918年生まれだそうです。

イゴール・アンゾフ - Wikipedia

1936年(18歳)の時に家族でロシアを離れてニューヨークに渡り、物理学や数学を学んだ後、米国空軍に対する勧告を行うプロジェクトにマネージャとして参加したり、ロッキード社の企画経営部門にてお仕事をされていたとのことです。
こうした実務経験の中から、組織が環境の変化に対応することの難しさについて学ばれたようです。

アンゾフの業績で有名なのは、「アンゾフのマトリックス」と呼ばれる企業の多角化を2軸で表現した図です。
企業の成長戦略を「既存市場-新規市場」「既存顧客-新規顧客」の2軸で表すことで、どの領域に進出(事業拡大)していくべきか、また、その進出の際には、各領域においてどのような戦略をとるべきかについて整理することができます。
今でも新規事業を検討する際などによく使われるフレームワークですね。

アンゾフのマトリックス - イゴール・アンゾフ - Wikipedia 

こうしたアンゾフの経営戦略論は、1979年に出版された"Strategic Managenent(邦題: 経営戦略論)"に詳しいです。

戦略は組織に従う

チャンドラーは、1962年に出版した"Strategy and Structure(邦題「組織は戦略に従う」)"の中で「組織は戦略に従う」という考えを提唱しましたが、その17年後、アンゾフは "Strategic Managenent(邦題: 経営戦略論)" という本の中で「戦略は組織に従う」という考え方を発表しました。
戦略にあわせて組織を変えようとしても、これまでの「慣れ」や変化への「抵抗」が強ければ、組織を変えることは容易でないので、そうした変化の難しい組織においては、逆にその組織に合わせた戦略をたてる必要がある、という内容です。

これ、今でもよくある話なのではないでしょうか。会社の偉い人から「仕事のやり方を変えろーー!」というかけ声はかかるものの、実際にはこれまでの仕事のやり方を変えることができず、周りの変化に取り残されてしまっていることはよくあると思います。
アンゾフは、今から50年ほど前に、既にそのような問題点に気づいていた(そのような問題を経験していた)のだと思います。

チャンドラー vs アンゾフ ?

チャンドラーの「戦略ファースト」とアンゾフの「組織ファースト」の件を考えるときに私がいつも思い浮かべるのは、サッカーの監督の話です。
日本代表のような国の代表チームの監督と、Jリーグのようなクラブチームの監督とでは、チームを作る際のプロセスが違うのだそうです。

国の代表チームの監督の場合、そのチームを作るにあたっては、自分の好きな選手を多くの選手の中から自由に選ぶことができます。その際には、まず代表チームのコンセプト(どういうサッカーをしたいか)を決めた上で、そのコンセプトにあう選手を呼ぶ、という順番になるはずです。これはまさに「戦略ファースト」、チャンドラー式の考え方だと思います。
一方、クラブチームの監督の場合、監督就任時には既に選手は決まっており、そこにいる選手を組み合わせて戦わなければいけないことがほとんどです。その場合、まず個々の選手の力量を見極め、それら選手のストロングポイントを組み合わせることで、既存の選手の力を最大限に活かすようなチーム戦術を考えていくことになります。こちらはアンゾフ流、「組織ファースト」の考え方になるでしょう。

なお、実際には、そんなにきれいに分かれているわけではありません。

例えば、代表監督においても、日本代表なら日本人にあったチームコンセプトの立案が必要ですし、クラブチームにおいても、あるレベル以上になればチームコンセプトにあった選手を外部から連れてくることも求められるでしょう。
このように、「戦略ファースト」と「組織ファースト」は、互いに影響し合いながら進んでいくのだと思います。

企業経営もサッカーチームの育成に似ています。
環境の変化に合わせて戦略を作成し、その戦略に従って「戦略ファースト」で組織を変えていく。一方、組織の変化が戦略に追いつかなかったり、組織自体に他社にはない強みが見られる場合には「組織ファースト」でその組織にあった戦略をたてていく。
このように「戦略ファースト」と「組織ファースト」を状況を見ながらきちんと使い分けていくことが必要なのだと思います。

さて、今回の特集のテーマは「日本企業の強みを活かせる組織戦略を考える」でした。
これまで、
・「ポジショニングベース」か「内部リソースベース」か
・「戦略ファースト」か「組織ファースト」か

についてまとめてきましたが、これらについて、日本企業に関しては無視することのできない特殊な事情があったりします。
その辺りについて次回の最終回でまとめていきたいと思います。

まとめ。

(1) アンゾフは1918年ロシア生まれの応用数学・経営学者・事業経営者。ロッキード社の企画経営部門などでの経験を通じて、企業多角化に関する理論をまとめました。その結果は、「アンゾフのマトリックス」というフレームワークとして今でも経営戦略策定によく使用されています。
(2) アンゾフは、チャンドラーが1962年に書いた "Strategy and Structure(邦題: 組織は戦略に従う)”という論文に理解を示しつつ、自身の経験を踏まえ、1979年の""Strategic Management(邦題: 経営戦略論)"の中で「戦略は組織に従う」という考え方を発表しました。
(3) チャンドラーの「組織は戦略に従う」とアンゾフの「戦略は組織に従う」、どちらが正しいと言うわけでは無く、サッカーの監督のようにその時の環境や対象となる組織によって適切に使い分けるセンスが必要になってきます。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)


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