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#012 日本企業の組織について考える(まとめ) - 日本企業の強みを活かす

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こんにちは。中小企業診断士見習いの多田と申します。

今回は5回シリーズの最終回。
これまでに、「ポーター・バーニー」「チャンドラー・アンゾフ」という2つの対立軸についてまとめてきましたが、今回はそれらを日本企業の特殊性という観点から見てみたいと思います。

(その1) - ポーターのポジショニング理論
(その2) - バーニーの内部資源理論
(その3) - チャンドラー「組織は戦略に従う」
(その4) - アンゾフ「戦略は組織に従う」
・(まとめ) - 日本企業の強みを活かせる組織戦略を考える

ここまでの復習: ポーター vs バーニー、チャンドラー vs アンゾフ

第1回と第2回では、それぞれ、ポーターの「ポジショニング理論」バーニーの「内部資源理論」についてまとめました。
前者は、5フォース分析などを使って自社の置かれている事業環境を認識し、その分析に応じて自社の戦略を考えるべきであるという考え方です。
後者は、VRIO分析などを通じて自社のリソースを評価した上で、そのリソースを活かすような戦略を考えるべきである、という考え方でした。
それぞれ、外部環境・内部環境のどちらに着目するかという点が異なっていますが、どちらが正しいと言うことでは無く、両方とも重要な視点であると思います。

また、第3回と第4回では、チャンドラーの「組織は戦略に従う」という考え方と、アンゾフの「戦略は組織に従う」という考え方をご紹介しました。
前者は、組織は戦略にあうようにデザインされるべきという考え方です。たとえば新規事業とは既存事業とでは異なる仕組みの組織にしないとなかなかうまくいきません。
後者は、そうは言っても、慣れ親しんだ組織の仕組みを変えるのは容易ではなく、場合によっては組織が実行可能な戦略を立て直す必要がある、という内容でした。
こちらも、どちらが正しいと言うことでは無く、外部環境の変化の大きさや自社の状況によって、戦略と組織のどちらを重視すべきか見極めるセンスが重要になると思います。

「永続すること」に大きな価値を置く日本企業

さて、話を伝統的な日本企業に絞った場合、ちょっと気になる日本企業の特徴があります。
それは、「永続すること(サステナビリティ)」に強い価値を見出す傾向がある、ということです。

アメリカや中国の会社と仕事をしていると、日本人と比較して、その企業が長く続くことに対しては、あまり価値を置いていないように感じることがあります。
例えば、アメリカでは、会社が軌道に乗ったらその会社を大企業に売却してしまうことはよくありますし、中国の場合、数年続いた会社であっても、その事業よりももっと成長性の高そうな事業が見つかれば、会社をあっさりたたんで別の会社で別の事業を始める経営者の方が多いように思います。

少々話がそれますが、日本人が特に「永続」に価値を見出す理由としては、色々な人が色々なことを言っていて、例えば
(1) 日本人は遺伝子の影響でセロトニンの働きが弱く、もともと不安になりやすい傾向がある
cf) 「セロトニントランスポーター遺伝子」
(2) 災害が多いのでその影響
(3) 農耕民族だったときの影響
(4) 君が代(千代に八千代に)

といった説があるようなのですが、まあ、どれもエビデンスがはっきりしているわけではありません。

いずれにしても、現実問題として、長く続いている企業が日本に多いのは事実なようです。
創業100年以上の企業は山ほどありますし、中には1000年以上続いている企業が7社もあるそうです。

日本の老舗一覧 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E8%80%81%E8%88%97%E4%B8%80%E8%A6%A7

永続させるための日本企業の仕組み

日本企業には、このような永続性に寄与してきたと思われる独特の仕組みがあります。
代表的なのは、
・終身雇用(制度として明文化されているわけではありませんが)
・総合職としての新卒一括採用

でしょうか。

社員は、終身雇用がベースとなっているため、基本的にその会社で働きつづけることになります。職務記述書をベースとした契約ではないため、職に就く、というより、その会社に入るという意識が強くなります。
また、職種別採用ではないため、会社に入って配属されるまで自分がどういう仕事をするのかが分かりません。
会社は、こうした仕組みの中で、若いうちから社員の教育を行い、自社の事業に適した人材を育てていくことになります。

こうした会社では、経営者含め、その会社のこれまでの事業経験が思考のベースとなるため、なかなか既存の枠を超えた戦略を立案することは難しいです。結果、リソースベースの考え方の下、組織から戦略を考える、すなわち、その組織で実現可能な戦略の範囲で戦うことになります。
逆に言うと、ポジショニングベースで戦略をたて(ポーター)、その戦略にあう組織を作る(チャンドラー)ことは、どうしても苦手になってしまいます。

前回のサッカーの例で言うと、クラブチームの監督としては優秀だが、代表チームの監督は難しい、というのが日本企業の経営です。

社内における人材流動性という利点

加えて、終身雇用や一括採用の利点として、自社の社内における人材流動性を確保しやすいということがあげられます。
昨日まで開発の仕事をしていても、辞令が出れば企画に異動して今日から企画の仕事をするようなことは日常茶飯事ですし、会社の戦略として海外を攻めることになれば、それに適した人材を社内から選び、海外転勤という形で赴任させることは良く行われます。社員も終身雇用が前提の為、そうした会社の施策に対しては忠実に従います。

結果、そんなに大きくない外部環境の変化に対しては、効率的な対応が可能になります。日本企業が長くつづいてきた理由の一つに、こうした社員全体で外部環境の変化に対応してきた歴史があるように思います。

社内だけの人材流動性では対応できない時代?

さて、最近、こうした日本企業独特の仕組みに変化が起きようとしています。

・「終身雇用難しい」トヨタ社長発言でパンドラの箱開くか:日経ビジネス電子版 https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/051400346/
・新卒一括採用、転機に 経団連が就活ルール廃止発表  :日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36281670Z01C18A0MM8000/

これまでの日本企業は、終身雇用や新卒一括採用などの仕組みを通じて、社内の人材流動性を高め、比較的小さな外部環境変化に効率的に対応できるような、永続企業の仕組みを作り上げました。
しかし、特に自動車業界やIT業界などのグローバルに展開している大企業では、これまでの「社内だけでの人材流動性」では対応できないほどのドラスティックな外部変化が起きています。そうした企業は、今後、終身雇用や一括採用をやめ、社外との人材流動性を高めることで、大きな外部環境の変化にも対応できる仕組みを作っていく必要がある、ということだと思います。
実際、アメリカや中国では、特定の地域における人材流動性を高めることで、その地域全体としての発展を目指しているように思います。最近ではシリコンバレーや深圳が良い例です。

さて、こうした流れには乗るべきなのでしょうか?

「大手がやっているから我々も」という考えは危険

確かに、外部環境の変化が大きい場合には、大きな戦略変更を素早く行うために、組織をドラスティックに変えられるような仕組みが必要だと思われます。
しかし一方で、これまでの日本企業が得意としてきたような、社内の人材を有効に活用することで外部環境の変化に対応するやりかたも、まだまだ十分戦える力をもっているのではないかと思います。
特に、対象としている市場がそんなに大きくなく、業界の変化もそんなに大きくないような場合には、リソースベースで戦略をたてる方が間違いないように思います。

いずれにしても、大切なのは、まずは自社のリソースをきちんと把握し、社員の能力を十分引き出しているか、現在の組織でどういう戦い方ができるかを徹底的に考えることだと思います。
戦術に選手を合わせるのでは無く、選手1人1人の長所をきちんと見出し、その選手の良いところを引き出すような戦術を考える経営が、日本企業には合っている気がします。

まとめ。

(1) 「組織は戦略に従う」と「戦略は組織に従う」、それぞれ逆のことを言っているようですが、それぞれお互いを否定しているわけではなく、その会社のミッションやビジョン、経営方針によって取るべき立場は違ってきます。
(2) 日本には、諸外国と比較して長く続いている会社が多いようです。経営者や事業環境が変化する中でも安定した経営を長く続けてこられたのは、終身雇用などの仕組みを上手に活用し、社員の継続した努力で外部環境の変化への対応を行ってきたためだと思います。
(3) 欧米流の働き方を日本に持ち込むことも大切ですが、その会社の事業環境によっては、これまでどおりの日本企業独特の経営手法の方が良い場合もあるはずです。外部コンサルの言うことを鵜呑みにするのではなく、自分の頭で考えて、自社に適した組織戦略をとっていくことが重要だと思います。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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