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2023松本山雅FC中間報告

「さて今年もこの季節がやってきた」

「中間報告にしては遅くなったことはご了承いただきたい」

「後半戦はすでに始まっているがシーズン途中でのサマリとして記事にしておこうということだな」

「リーグの全体感を振り返りつつ、ボール保持・ボール非保持で描く設計図、達成度と山積する課題、今後の展望あたりについて書いていく」

「ではいってみよう」


リーグの全体感を捉えてみる

「まずはざっくり現状を見てみよう。21節が終わった時点で勝点29の8位。得点35は富山と並んでリーグトップ、失点29はリーグワースト4位となっている」

「首位愛媛が勝点40だから、残り17試合で11ポイント離されていることになる。定説として残り試合数と同じだけの勝点差なら逆転の可能性があると言われているが、現状をどう見ている?」

「率直に言えば、昇格争いの当落線上に立たされていると思う。勝点差よりも愛媛との間に7チーム挟まっている状況のほうが重たいと見ていて、数チームが調子を落とすことはあるかもしれないが、7チームすべてを捲くる必要があると考えると希望の光は薄れてくる印象だ」

「たしかに夏の移籍期間で補強しているチームも多いし、簡単に抜き去ることは難しいかもしれない」

「松本にとって幸いなのは、昨季と比べると勝点ペースが遅いことだろう。昨季は1試合平均勝点2.0近いチームが複数存在して上位を走っていた異常なリーグで、今季はそこまでのハイペースではない。松本がギアを上げて連勝街道を歩みだせば可能性はあるだろう」

「状況が良いとも言えないが、絶望するにはまだ早いということだな」

「そういうことだ」


チームの描く設計図

「リーグの全体感を把握したところで、次は松本にフォーカスを当てていきたい。今季は霜田正浩監督を招聘し、新しいスタイルに挑戦しているシーズンとなる。具体的にはどんなサッカーを標榜しているんだ?」

「シーズン始まる前に掲げられていたのは『守備ラインを高く設定してプレッシングを行い、インターセプトをベースとしたクリーンな守備からショートカウンターを繰り出す』というもの。”ハイラインハイプレス”や”賢守即攻”というキーワードを口にしていた。詳しくはサポーターミーティングについて書いた以下の記事を参考にしてくれ」

「なるほどな。プレッシング主体のスタイルということで、現代のフットボールの潮流を組み込んでいるように感じる。その他に特筆すべきところはあるか?」

「もうひとつ語られていたのはボール保持について。昨季、横山歩夢やルカオといったタレントを活かすべくロングカウンターを主体としたスタイルを実践していた中で生まれた反省点として、縦に急ぎすぎるあまり攻撃が雑になりボールロストが多すぎたことが挙げられる。今季はプレッシングを主体としつつ、時には自分たちで能動的にボールを保持する時間帯を作り出したいと語っていた。ここでの注意点は、ボールを握り倒してパスをめちゃ繋いで崩すことは目的においていないということ。あくまで自分たちが試合をコントロールする手段としてポゼッション要素をより取り入れたいということだ」

「今語っていたのはキャンプ前に語られた理想論ということだよな。実際にシーズンが始まってみて見えてきた部分として付け加えておくことはあるか?」

「特徴的だったのはサイドバックの位置だろう。一部でサイドウィングと呼ばれているように、ボールを保持するとかなり高い位置を取る。その分、左右のサイドハーフはハーフスペースに立って、ビルドアップを担当するセンターバックとボランチの4枚から供給される縦パスの受け手になる。
最終的に狙うのはペナルティエリアの左右で”ポケット”と呼ばれるスペース。ハーフスペースに立つサイドハーフが縦に抜けることもあるし、サイドバックが内側のレーンを駆け上がって急襲することも厭わない。そして1トップ+トップ下+逆サイドのサイドハーフ+逆サイドのサイドバック、計4枚がフィニッシャーとしてゴール前に入ってくるという形を理想としている」

「サイドバックも高い位置に上げてしまうということは、カウンターを受けた時にリスクが大きすぎないか?」

「その通り。ただ、霜田監督はそのリスクも承知の上で、カウンターはセンターバック2枚で対処すべしとキャンプ期間中から何度も口にしていた。今季の松本のセンターバックには、ビルドアップでの組み立てや持ち運びに加え、ハイプレスに追随してラインを上げるスピード、カウンターを受けた際に(たとえ数的不利だとしても)なんとかする能力が求められている」

「めちゃ理不尽やな。ただ、思えばレノファ山口でやっていたときの主力は菊池流帆か。他のポジションについても補足があれば教えてくれ」

「最もタスク過多なのはサイドバックだな。攻撃時はウィンガーとして大外レーンを攻略する攻撃性能に加えて、状況に応じてペナルティエリア内まで駆け上がり、ボールを奪われれば自陣に全力で帰陣するというスピードとスタミナを両立する必要がある。あとはボランチも負荷が高い。ボール非保持ではハイプレスに付いていって相手のアンカーやボランチを潰しつつ、中盤の広大なスペースをカバーするのだからな。機動力が求められる。サイドハーフには縦突破よりも狭いスペースで呼吸ができるテクニックとセカンドストライカーとしてのフィニッシュ能力。トップ下には攻撃のタクトを振るいつつプレッシングのスイッチ役としてのタスク。1トップには兎にも角にも得点能力。各ポジションの役割を列挙するとこんな感じだろうか」

「昨季は所属している選手の能力に応じて与える役割を柔軟に変えていたのと比べると、ほとんど真逆に見えるな。予めポジションごとに役割が決められていて、基準を満たした選手が起用されていくという」

「間違いない。だからこそ今季はチームとしてのスカッドは潤沢に抱えているものの、試合に絡めている選手と考えると限られてきてしまっている。あとはプロ1年目となる新卒組にとってはキツイ環境かもしれない。自分の強みをアピールすれば使ってもらえるわけではなく、あくまでチームとしての枠組みを頭に叩き込んで、プロ水準の強度を示さなければ、土俵にすら上がれない」

「なるほど。チームとして目指している理想形は大まかにわかった。次はシーズンを追いかけながらできたこと・できなかったことを教えてくれ」


チームのサイクルは3週目に入っている

「開幕当初はセンセーショナルだった。守備を第一に考えてきたクラブカラーとは打って変わって攻撃な姿勢を押し出したスタイルで開幕6戦無敗。ただ、船出が出来すぎだったのかもしれない。攻めてはいるものの点が取れない展開が続いたので、より攻撃に重心を傾けたところ第7節の沼津戦で試合のクローズに失敗して敗戦を喫し、翌第8節の富山戦では0-3の完敗。FC大阪戦はなんとか逃げ切ったものの、信州ダービーの敗戦あたりからチームの歯車が狂い始めたな。天皇杯でも敗れていたこともあり、霜田監督への風当たりが強くなってしまったのは否めない

「ここまでで10試合。まだ全然取り返しが効く序盤戦だったはずだが、それくらいダービーでの連敗は重かったということか」

「特にリーグ戦では内容面でも完敗だったこともあり、チームは成長過程にあるとは言え、このスピードで良いのか?と疑問を抱く人が増えてしまった印象だ」

「ただ、鹿児島戦は内容面では今季ベストに近い振る舞いを見せていたような」

「その通り。安東輝が負傷交代するまでの20分間はアグレッシブでゲームの主導権を完全に掌握していた。理想に最も近づいた試合と言ってもいいかもしれない。ただ、この試合を契機にチームは大きく方向転換をする」

「というと?」

「失点数がかさんでいたことを鑑みて、攻撃に大きく振っていた針を守備の方に少し戻した。ハイプレスからミドルプレスに切り替えてプレッシングラインを下げ、自陣で守備ブロックを組む時間帯も多くなったな。監督や選手のコメントから”守備”というワードが多く聞こえてくるようになったのもこの時期に重なる」

「事実として失点数は減っているようだ」

「そう。失点は減った。しかし今度は攻撃で課題が露見するようになった。プレッシングラインを下げて自陣まで押し込まれる時間帯が増えた分、ボールを奪ったあとの攻撃は必然的にロングカウンターが主体になる。ところが、ロングカウンターを繰り出す際の精度が低く、すぐにボールロストしてしまい再び押し込まれるという無限ループにハマってしまった。自陣から抜け出せず、シュート数が如実に減ってしまった時期だ」

「ロングカウンターの精度が伴わなくて押し込まれるって昨季と同じ展開だな」

「言ってしまえばそうだ。琉球戦の内容が散々だったことも相まってか、7月の中断期間に修正を施した。守備に傾きすぎていた重心を再び調整し、実際に八戸戦・愛媛戦では敵陣に押し込んで試合を進めることに成功している」

「ようやくチームが完成形に近づいたということか」

「いや、まだだ。押し込めるようになったものの、ボールを保持した展開から相手の守備ブロックを崩すアイデア不足に悩まされている。実際のところ、点が取れていた時期も小松蓮の好調に引っ張られていた感は否めず、チームとして再現性のある崩しができていたわけではない。なんとなく隠れていた課題が顕在化してきたということだな」

「うーん、なんか同じところをぐるぐる回っているような気もするが」

「同じところを回っているというのは言い過ぎだが、ハイプレスを軸とした攻撃的なスタイル→失点がかさみ守備に比重を置く→点が取れなくなり攻撃的なスタイルに回帰→相手の対策が進んでいて序盤のようにはいかない→ハマれば強いがハマらないと詰むので波が大きい。攻撃的なスタイルから逸れ始めて、もとに戻って、また遠ざかるというサイクルを繰り返してしまっている。ざっくりまとめるとこんな感じだ。」

「霜田監督は迷走しているのか?」

「あくまで軸はブレていないと思う。根底にある思想は攻撃的で、試合後のコメント等で称賛/ダメ出しするポイントも一貫している。ただし、スタイルの構築と昇格&優勝という二兎を追っているジレンマに悩まされているというのが実情だ。目先の結果も出さなければいけないので、守備にも手を入れたり全体のバランスを考えているが、かえってスタイルの浸透を遅らせることになっていて中途半端になっていると思う」

「うーんなるほど」

「他で例えるならば、醤油ラーメンを徹底的に極めようとしていたお店が、いつの間にかサイドメニューを充実させ始め、最近ではイタリアンや和食までメニューに入れ始めたみたいな感じだろうか。手広くやりすぎたが故、本来磨くはずだった醤油ラーメンがおざなりになってしまって、完成度がイマイチになっている。日によって麺が良かったり、スープが美味しかったりするのだけど、ラーメンとして総合的に評価するとぼちぼちの出来みたいなね」

「本来目指していたスタイルを徹底的に磨くべきだったと?」

「あくまで個人的な意見になるが、そのとおりだ。シーズン前に『どんな相手に対しても優れるような再現性のある攻撃』と語っていたくらいなのだから、脇目を振らずに徹底的に尖らせるべきかなと。今は全方位にパラメータを振っているので、そこそこ万能型だけど、なにかに特化した相手には競り負ける中途半端なキャラになっている。なんのために霜田監督を招聘したのかを思い出したほうが良い気がしている」


今後の展望

「苦しい状況にあることは理解できたが、今後どうなっていくと予想する?」

「今チームは大きな分岐点に立たされていると思う。この分岐点はシーズンの最終結果を占う非常に重要な決断だ」

「どんな分岐点なんだ?」

「シーズン当初に掲げていたスタイルに回帰し、スタイルの先に結果がついてくると信じて貫くか。それとも、目先の結果を重視して、守備にも重きをおいたミドルプレス+ロングカウンタースタイルでシーズンを過ごしていくか。おおよそこの二択を迫られていると思う」

「今季での昇格という結果を重視するなら後者の選択になりそうだが」

「そう見えるが、後者の選択にも懸念点がある。まずは、昨季同じような戦い方をしてギリギリ昇格に届かなかったという事実。昨季チームを牽引していた横山歩夢もルカオもいない。
そして、シーズンはじめに掲げていたスタイルを事実上諦めることになるということ。スタイルの中心にいた菊井悠介をはじめ、そのビジョンに共感して加入してくれた選手たちの心境はどうだろうか。仮に現実を見て守備的な戦い方をして昇格を逃した場合、本当に松本山雅というクラブには何も残らなくなってしまう。今後のクラブ運営、選手獲得などへネガティブな影響が大きいように思う」

「たしかに『名刺代わりになるスタイルを構築する』と大々的に掲げてスタートしたにも関わらず、半年で頓挫してしまうというのは大概的に見てもあまり印象はよろしくはないな。とはいえ攻撃的なスタイルに回帰したとて結果が出るとは限らないだろう?」

「それは間違いない。プロスポーツにおいて結果が出るかどうかを保証してくれるものなど存在しない。だからこそ何度も言っているが”負け方”が大事なのだ。負けた時に次へ向けた糧が残るようなプロセスを踏むことが大事だと考えている。1年戦ってきて何も残りませんでしたという振り返りはもう勘弁なのだ…」

「気持は良くわかった。ここでもスタイル構築と結果を両方追い求めているがゆえのジレンマが大きいな」

「少し熱くなってしまったようだ、すまない。いずれにせよ最も悪手なのは中途半端な状態でシーズンを走り続けること。出来るだけ早い段階で、残り試合の過ごし方を決めるべきだ。スタイル構築にしても結果を追い求めるにしても、どっちつかずな試合をしているような余裕はない」

「仮に攻撃的なスタイルに回帰する場合、ポイントはどこにあると思う?」

『失点を減らさなければいけない』という思い込みから脱却することだろう。シーズン当初から比べて、選手コメントから明らかに”失点に対して反省する”発言が増えている。逆に”次はこうしてみたい”といった前向きな発言が減っている。”こうしなければいけない”という追い込んでいくような表現が増えていることも気がかりだ。
チーム全体に余裕がなくなってきて、まずは失点しないことから思考がスタートしているように見受けられるので、失点への恐怖を取り除いて前向きにトライできるメンタリティを取り戻すことが第一優先なのではないかと考えている」

「前向きなメンタリティでないと、ついついリスクを避けようとしてしまって、出来ていたこともできなくなっていくもんな。他の観点からポイントはあるか?」

「2列目にフレッシュな風を入れたいな。夏の補強機関で独力で局面を打開できる選手やゴール前でテクニカルに判断ができる選手を狙っているということだったし。既存戦力の中では濱名真央やルーカスヒアンといった個で打開できる選手をチームにうまく組み込めれば、ボール保持時の停滞感や70分以降にトーンダウンしてしまう悪癖も解消に近づくはず。小松蓮・菊井悠介あたりがフル稼働になっていて勤続疲労や負傷が怖いので、彼らのバックアップという意味合いもある」


まとめ

「だいぶ長くなってしまったな。そろそろまとめてくれ」

チームとして本来やるべきことはシンプルだったはずで、色々と要素を加えすぎてピッチ内がカオスになっているので、一度仕切り直してシンプル化したほうが良い気がする。仕切り直した先で、従来のハイプレス主体のスタイルに戻すか、ミドルプレス+ロングカウンターという守備も比重を置いたスタイルに調整するかは分からない。ここは決めの問題だ」

「最後に今後のチームに期待することは?」

「せっかくやるなら徹底的に貫いて実践してほしいし、尖らせてほしい。どの道が正解かなんて誰にもわからないのだから、決断したならば進んだ道を正解にするために全力を尽くすだけ。徹底的に全力でやったからこそ大きなフィードバックをもらえるはずなので、もう一度開幕当初のように(もしくはそれ以上に)良い意味で狂った試合を見せてほしい」

「うむ。ありがとう。まだまだ厳しい試合は続くが、挑戦する者を全力で応援するサポーターでありたいな。ではまたの機会に!」


俺たちは常に挑戦者

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