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酒豪と下戸

これは270回目。酒がいける口と、まったくダメな人がいます。酒豪と下戸です。もっとも、いけるのですが、自戒して敢えて酒を飲まないという人もいます。これは下戸ではないのですが、一応ここでは比較分類上、下戸のほうに含めて考えてみます。

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日本では、縄文人は酒豪が多く、大陸から後からやってきた弥生人は下戸が多い。これは遺伝子ではっきり証明されている。

その後日本人として混淆したが、全国的にはどういうわけか明確に分布が分かれている。日経新聞電子版に以前でていた「全国酒豪マップの謎」によると、見事なくらいに分布が分かれているのだ。

圧倒的に酒豪が多いのは、北から羅列すると、北海道、岩手、秋田、山形、福島、埼玉、高知、熊本、鹿児島、沖縄である。10強といっていい。

これに次ぐ酒豪の多さは、青森、宮城、新潟、千葉、東京、神奈川、香川、大分、宮崎である。

普通、というのは、長野、福井、鳥取、島根、愛媛である。

さて、酒豪が比較的少ないのは、茨城、栃木、山梨、滋賀、京都、兵庫、徳島、山口、福岡、佐賀、長崎である。

酒豪が圧倒的に少ないのは、群馬、富山、石川、岐阜、愛知、三重、奈良、和歌山、大阪、岡山、広島の11県である。

ざっと見て、おわかりだろうか。南にいけばいくほど、あるいは北にいけばいくほど、酒豪は多いのである。日本の歴史的にはほとんど中心を占めてきた京都を中心に近畿中部に至る一帯というのは、不思議なくらい下戸圏であるということだ。

確かに、これを弥生系(後からきた支配民族→大和朝廷を中心とした流れ)に下戸が多く、もともとの原住民であった縄文系が南北に追いやられた結果、こういう分布になっているとも考えられる。

戦国時代に戻ってみると、有名な戦国大名というのは、だいたい酒豪だったか下戸だったか判明している。

酒豪というと、伊達政宗が有名である。あるいは福島正則もそうだが、これは酒豪というより、そうとう酒乱に近かった。ずいぶん酒を呑んで失敗をしている。あとは、上杉謙信も酒豪であったことが伝えられている。

一方、下戸というのは、これも意外だろうが、信長はまったくの下戸であったそうだ。秀吉は、もしかすると下戸ではなかったかもしれないのだが、どうも下戸であった話のほうが多いのだ。察するに、下戸なのだが、酒を交えた宴会は大好き人間だったという、そういうことなのだろう。

下戸ではないが、飲まなかったという代表格は、なんといても名将毛利元就である。75歳という高齢まで生きたこの男は、血統的には「いける口」であったはずだ。が、ところが、彼は一切飲まなかったし、家臣団にも控えろと言っていたそうだ。

酒豪の上杉謙信と血みどろの15年戦争を川中島で繰り広げた甲斐・武田信玄は、これまた下戸であったそうだ。全然イメージが違う。まさに、酒豪と下戸の戦国決戦はこのあたりがクライマックスだったかもしれない。

戦国最後の覇者、徳川家康だが、これは秀吉と同じく、もしかすると下戸ではなかったのかもしれないが、酒をたしなむということは、まずほとんど無かったらしい。なにしろ毛利元就や武田信玄と同じく、今で言うところの健康オタクである。

信玄は、漢方原料を自分ですりつぶし、それを調合したりして服用するのが大好きな趣味だったようだが、信玄のマネをなんでもした家康も、まったく同じ趣味に興じていた。酒など、もってのほか、ということであろう。

民族移動とこの酒豪・下戸の分布状況からすると、平安期以降、弥生系の下戸集団が日本を支配していた構図から、明治以降は縄文系の酒豪集団が逆襲に転じて今に至っているという流れが見てとれそうだ。

維新には、薩摩・長州・土佐・肥後といった酒豪ないしは準酒豪地域が中央に反旗を翻して政権奪取。昭和に入ると、がぜん軍部主導の政策が拡大したが、陸海軍には東北人脈の大攻勢が確認されている。まさに酒豪地帯である。明治百五十年、酒豪集団優勢の展開できたわが日本である。

さて、今後はどうだろうか。最近聞く話だが、若者たちはあまり酒を飲まないという。飲んでも飲まれない、というか、たしなむ程度で、「おいしくいただく」スマートな飲みかたになっているともいう。


これと、車を運転しなくなった(そもそも若者で免許を取る意向が俄然減ったという)、麻雀をしなくなった、パチンコをしなくなった、海外へあまり行きたいという欲求が無くなってきた、等々。下戸集団と、こうした現代的な遊びの傾向と遺伝子的に重複するのかわからないが、もしそうだとしたら、明治維新以来の縄文系の酒豪集団全盛の時代に対して、弥生系の下戸集団が台頭してきているということになるのだろうか。


世の中、振り子のようなもので、右に行けば左、左に行けば右へ、必ず揺り戻しがある。時代はけっして、一定点で静謐を保つということが無い。

下戸集団優勢の時代というのは、どういう時代なのだろうか。わたしのような連中が大手を振ってあるくような時代だとしたら、いささか恐ろしいものを感じるが。・・・

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