月

月の魔力~人はその時、狼になる。

これは99回目。月齢のお話です。満月・新月のときに、株式市場では暴落になりやすいと言われています。この説は、なにも市場に限ったことではなく、天変地異や事件、戦争などおよそ世の中が大騒ぎになることも、月の満ち欠けと関係がある、といいますが。・・・

:::

スティーブンスの小説『ジキル博士とハイド氏』のモデルとなった英国の職工チャールズ・ハイドは、満月の夜になると殺人を繰り返したという。狼男などというのも、この満月に人格が狂いやすいという経験則から生まれた逸話であるとも言われる。イラク戦争勃発、地下鉄サリン事件、阪神・淡路大震災、スマトラ沖大地震・大津波など、いずれも満月の日だった。

アメリカの精神科医アーノルド・リーバーの著書『月の魔力』という本は、世界でもベストセラーになった本だ。月の満ち欠けで、犯罪・交通事故・出産・心臓発作などが増加するという「バイオタイド理論」を提唱した。

それによると、過去70年間にわたるニューヨークとマイアミという、もっとも治安の悪かった都市の重犯罪のデータを集計すると、圧倒的に満月・新月の日に集中しているとなっている。

リーバーの実験に興味深いものがある。牡蠣(かき)というのは、満潮時に開き、プランクトンなどを食べ、干潮時には閉じる特性がある。カリフォルニアの牡蠣を採取し、ニューヨークの窓の無い実験室で飼育したところ、最初の一週間ほどは、その牡蠣がカリフォルニア時間で開いていた。やがて、ニューヨーク時間に開くようになった。水槽の中には満潮・干潮を感じ取る波はない。窓がないから、月の光も無い。牡蠣はどうやって違った土地の潮位を知り得たのだろうか。これも仮説だが、月と地球の間の微妙な引力のズレを感じ取っているのではないか、という。

とりわけ、月齢と相場の関係を研究したスティーブ・ピッツは、1637年のオランダのチューリップ暴落から1990年の日経平均の暴落まで、金融の歴史における8つの大きな暴落は、日食から6週間以内に起きた満月の6日前から3日後の間に発生したというのだ。それが偶然に起きる確率は、12万7千分の1未満だという。このいわゆる「ピッツ・ウィンドウ」が常に暴落につながるわけでは無いが、暴落が発生する時には、ピッツ・ウィンドウの時間枠の中でそれが起きる確率が高いとしている。 ちなみに、ピッツ・ウィンドウは毎年または2年に一度生じるらしい。しかし、株式市場にかかわっている人間としては、「ん? 8回の大きな暴落?」と気になってしまう。チューリップ暴落以来、人類は実に歴史上名を残す暴落だけでも40回は経験してきているからだ。なぜ、その中で8回だけを引っ張ったのだろう。仮説に都合がいいからか。それとも線引きがきちっとされでいるのだろうか。

ちなみに医者の間にもこの月の満ち欠けにからんで、経験則があるらしい。
聴いた話なので、どのくらいそういう医者がいるか知らないが、医者によっては満月の日はできるだけ執刀の機会を避けるというのである。手術中の出血量が、通常より多いためだ。この経験則(あるいはジンクス)は、とくに米国では多いようだ。

もっとも、新月と満月では、同じように引力が強いものの、その作用はまったく逆になっているという指摘もある。人の出産率は、新月の時が最低なのだそうだ。こうなると、まったく意味不明である。

こじつければ、満月の日に出生率が高くなり、出血量も増えるというのは、人間の体液・血液や胎児を引っ張り、神経もより敏感になってくるからではないか、ということも考えられる。

もっとも、先のリーバーの「バイオタイド理論」だが、その後科学者たちが統計データに基づく追試をしており、その結果因果関係は認められないという反論も多くでている。反論の鋭いところは、リーバーが理論を提唱するにあたっては、仮説と一致する結果の出た月のデータだけを採用しているのだ、という点だ。さきほどのピッツウィンドウに関する疑問と同じである。

ただ、科学的にはどうあれ、経験的には確かにそういう印象が強いというのも事実なのだ。
人間が、満月の夜に狼になるという伝説は、こういう異常な因果関係のことを経験的に仮託して語り継がれたものなのだろう。ということは、関係が「何もない」とも言い切れない。なにかが、そこにある、と考えたほうが現実的だ。1+1=2で説明できるほど、地球も人間も単純ではないと思うからだ。

思えば、月は不思議だらけだ。あれだけ巨大なクレーターがありながら、底辺は平板で非常に浅い。物理的にはあり得ない形状をしているそうだ。振動測定によると、月という球体の内部は空洞であるという驚くべき話もある。地球から分離したという仮説が、その起源を説明する一つにあるようだが、アポロが月から持ち帰った土質は、地球よりもはるかに年代測定では古いという。

日本の『かぐや姫』伝説も、つまるところ未確認飛行物体と異星人なのではないかとすら思いたくなる。そんな謎だらけの月だから、きっとただの惑星ということでは済まされない何かがあるのだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?