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映画ほど素敵な世界はない

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映画がなかったら、生活はどんなに味気ないものになるだろう。家にいたまま夢の世界を見せてくれる情報技術に乾杯!
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2018年7月の記事一覧

『指輪物語』(その2)ローハンの姫君エオウィン

 『指輪物語』第2部は「二つの塔」。  第1部と第3部では、ドラマチックな物語が展開するのに対して、第2部ではあまり大きな動きがない。  しかし、ここでヒロインが登場する。ローハンの姫君エオウィン(ミランダ・オットー)だ。  原作でも映画でも、一番魅力的なのは、エオウィンだ。彼女が物語全体の主人公だといってもよいだろう。  大河アンドゥインのラウロスの滝の前で、旅の一行はオーク(魔法使いサウロンの手下である怪物)の襲撃にあう。その後、一行は2手に分かれ、フロドとサムワイズは

映画は終わりが肝心(3)             Nobody's perfect

 巨匠ビリー・ワイルダー監督のコメディ映画「お熱いのがお好き」(1959年)。  禁酒法時代のシカゴ。サックス奏者のジョー(トニー・カーティス)とベース奏者のジェリー(ジャック・レモン)はマフィアに追われ、女装して女性楽団にもぐこまざるをえなくなった  ジョーは、楽団の歌手のシュガー(マリリン・モンロー)に恋してしまう。  刮目すべきはモンローの演技力がこの頃に急上昇していたことだ。  例えば、列車の中で歌う場面。  あるいはシェルの御曹子に化けたジョーとのやりとり。

『指輪物語』(The Lord of the Rings)(その1)

 『指輪物語』』(The Lord of the Rings)は、J.R.R.トールキンによる長編ファンタジー。あまりに壮大な物語りなので、映画化は不可能だと考えられていた。  それに、原作には熱狂的なファンが山ほどいる。「10回読んだのまでは数えたが、あとは分からなくなった」などと言う人がいる(私もかなり読んだ)。失敗したら、監督は立ち直れない。  2001年に、ピーター・ジャクソンが映画化に挑戦した。全世界の指輪ファンがかたずをのんで見守ったのだが、この映画はかなり成功

ドクター・ストレンジラブ:深刻なテーマほど喜劇に向く

 天才スタンレー・キューブリック監督の最高傑作、映画『ストレンジラブ博士』(1963年)。何度繰り返し見ても、飽きない。  キューブリックの作品では、『2001年宇宙の旅』(1968年)がよく知られているが、『ストレンジラブ博士』のほうがずっと出来ばえがよい。 (なお、この映画は、日本では、『博士の異常な愛情』というタイトルになっている。もちろん、これは誤訳である。「ストレンジラブ」とは主人公の一人である博士の名前だ)。  これは、偶発核戦争をテーマとしたブラック・コメデ

映画は終わりが肝心(2)「惑星ソラリス」

「惑星ソラリス」は、私が最初に見たタルコフスキイの映画だ。  1970年代の末だったか、80年代の初めだったか、夏を過ごしていた札幌で、小さな映画館で見た(制作は72年。日本公開は77年)。  駅に映画のポスターが貼ってあったので、興味をひかれて、見に行った。タルコフスキイが誰なのかまったく知らず、SF映画らしいというだけの理由で見た。  途中から入ったので、最初から4分の1くらいは見ていない。タルコフスキイの映画は日本ではめったに上映されないので、全編を何度も見られるように

映画は終わりが肝心(1)

映画は終わりが肝心である。なぜか?  観客はすでに料金を払って映画館の中に入っている。だから、最初が面白くないといって、出て行ってしまうことはない。  それに対して、最後の場面はよく覚えている。その場面がいつまでも印象として残る。だから、映画の評価の大部分は(知らない間に)最後の場面の印象によって作られている。  最後のシーンの最高傑作は、何といってもタルコフスキイの「ストーカー」だと思う。それ以外にも、強烈な印象を与えるものがいくつかある。  以下ではそれらについて述

タルコフスキイの「鏡」の謎に挑戦する

 アンドレイ・タルコフスキーの作品はどれも難解で、そのため彼は「人を眠らせる天才」と言われる。とりわけ難解なのが、1975年の作品「鏡」だ。  私も、何度も見たが、意味がさっぱり分からない。いまに至るまで分からない。  しかし、何回か見るうちに、分からなくてもよいことに気がついた。彼が描く幻想的な世界に浸りきればよいのだ。  「鏡」には、ストーリーらしきものが、ないわけではない。主人公アレクセイは、生き甲斐のある生活を送っているようには見えない男だ。現実の出来事との関連で、少