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仮想通貨の現状

『マネーの魔術史』では、仮想通貨については触れていません。そこで、仮想通貨の現状がどうなっているかを、以下に説明することとします。

1.スケーラビリティ問題
スケーラビリティとは何か>
 「スケーラビリティ」とは、利用者の増大に適応してシステムを拡張できる能力のことである。ビットコインの取引は、10分間ごとに「ブロック」に記録される。1ブロックのサイズは、もともとは1メガバイトが上限。1秒間に7取引、10分につき1メガバイトまで、1日で最大60万4800取引までしか処理できなかった。これは、他の決済システムに比べると非常に遅い。
 そこで、ここ数年、ブロックサイズの引き上げの議論が行なわれてきた。

「フォーク」(分岐)>
 この問題において重要な役割を果たすのが、「フォーク」(分岐)という概念だ。チェーンの「フォーク」(分岐)とは、あるブロックの後に複数のブロックが加えられることによって、複数の系列ができてしまうことだ。
 なぜフォークするのか? 1BTC(ビットコインの単位)を持っている人Aが、Bに1BTCを支払うと同時に、Cにも1BTCを支払ったとする(つまり、2重払いをしたとする)。Bはその1BTCをDに支払い、DはFに支払うとする。他方、Cは、Gに1BTC支払うとする。
 こうなると、2系統のチェーンができてしまう(なお、フォークは、悪意のあるノード(参加者)がネットワークを混乱させようとすることによっても発生する。さらに、ビットコインの仕様を改善することによっても生じる)。
 こうした事態への対処は、当初から決められている。「分岐したら、長いほうのチェーンを採用する」というルールである。いまの例では、B→D→Fの系統のチェーンが長いので採用され、C→Gの系統のチェーンは切り捨てられる。つまり、CやGは、ビットコインを保有できないことになる。また、C→Gの系統のチェーンを採掘したマイナーは報酬を得ることができない。このようにして切り捨てられたチェーンは、「オーファン」(孤児)と呼ばれる。
 このルールの下では、事態はつぎのように進行する。捨てられた枝を構成するマイナーは、報酬を受け取ることができないので、マイナーたちは、分岐したチェーンの中から一番長い枝を選び、そこに自分のブロックを加えるインセンティブを持つ。こうして、一番長い枝にマイナーが集中し、チェーンはいずれ1つの枝に収束していくことになる。
 分岐が発生するのは、取引が確認されるのを待たずに実際のビットコインの取引が進むことから、やむを得ないものだ。

<ブロックサイズの拡大はハードフォークとなる>
 「ハードフォーク」とは、旧バージョンで無効だったブロックを、新バージョンでは有効とすることだ。つまり、有効と認められるブロックの範囲を拡大することである。したがって、「旧バージョンで認められるブロック」は、「新バージョンで認められるブロック」の部分集合になっている。
 例えば、ブロックのサイズを現在の1メガから2メガに拡張するのは、ハードフォークになる。旧バージョンでは2メガのブロックは認められなかったが、新バージョンでは認めるからだ。
 ハードフォークが行なわれると、アップグレードしていないノードは、新バージョンのブロックを認めない。したがって、新バージョンのブロックのマイニングをするには、新バージョンにアップグレードしなければならない。つまり、アップグレードを強制される。
 ところが、何らかの理由により、旧バージョンを守りたいとするマイナーや開発者がいるかもしれない。この場合、彼らは旧バージョンのビットコインを採掘し続けることになる。つまり、ブロックチェーンが永久的に分岐してしまって、合流することはない。
 ハードフォークが行なわれると、バージョンアップ前の残高は消失しないが、バージョンアップ以降に分岐したビットコイン間で残高が共有されないので、利用者はどちらのビットコインを使うのかについて、選択を迫られる。

<Segwitはソフトフォークで導入可能>
 これに対して、「ソフトフォーク」とは、以前は有効だったブロックのみを無効とすることだ。したがって、「新バージョンで認められるブロック」は、「旧バージョンで認められるブロック」の部分集合になっている。これは、ルールを厳格化して、有効と認めるブロックを制限する場合に生じる。
 例えば、ブロックのサイズを現在の1メガから、500キロバイトに縮小する場合である。新しいルールは、旧来のルールより厳しくなっている。したがって、新ルールに則って作成されるブロックは、旧ルールでも有効と認められる。
 つまり、アップグレードしていないノードも、新しいバージョンのブロックを有効と認める。すなわち、新しいブロック(取引)は、古いルールを利用するノードも含めて、すべてのノードにおいて有効とみなされる。
 Segwitも、ソフトフォークによって導入される。アップグレードしていないマイナーは、旧バージョンのブロックと新バージョンのブロックの両方を有効とするので、より長いブロックチェーンを優先することになる(「最も長いものを有効なチェーンとする」という上述のルールによって、短いチェーンは切り捨てられるため)。
 アップグレードしたマイナーのほうが多ければ、新バージョンのブロックがより長くなるため、アップグレードしていないマイナーも新バージョンのブロックチェーンに移ることになる。
 このようにして過半数のマイナーが新しいルールを採用するなら、分岐は一時的にしかならず、いずれ1つに収束する。このため、大きな混乱が起こりにくい(ただし、過半数のマイナーが新しいルールを採用しない場合には、ハードフォークと同じように、2つの系統のブロックチェーンが残存し得る)。

3.実際の経緯
<Segwitの提案と2017年夏までの状況
 2015年12月、香港でビットコインの会議が開催された。ここで、「Segwit」が提案された。この提案には、参加者のほぼ全員が賛成した。
 Segwitは技術的に重要な意味を持っているのだが、アクティベート(実行)されなかった。この背景には、マイナーたちの反対があった。

<5月に「Segwit2x」の提案。7月内に新ソフト配布宣言>
 2017年5月23日に行なわれた「コンセンサス2017」という会合で、デジタル・カレンシー・グループ(DCG)という団体が、「Segwit2x」と呼ばれる提案をした。
 これは、80%の合意があれば、「Segwit2x」を実装し、さらに6ヵ月後にブロックサイズを2メガバイトに引き上げようという提案だ(これが、BIP91だ)。この提案は「ニューヨーク協定」と呼ばれ、56社のビットコイン大手企業が賛意を表明した。
 「BIP91」に賛成するマイナーのシグナルの発信が、7月19日未明から始まり、21日9時にその導入が決まった(「BIP91」がロックインされた)。そして、23日に、正式にアクティベートされた。

ビットメインのジハン・ウーが「ビットコインキャッシュ」を作る>
 「BIP91」への支持が多数になったことで、ひとまず分裂は回避されたが、8月1日に、中国の大手マイニング会社らが主導して「ビットコインキャッシュ」(BCC、またはBCH)という新しい仮想通貨が生み出された。
 この構想を推進したのは、ビットコインABC(Adjustable Blocksize Cap:調整可能なブロックサイズ上限)というチーム。
 ビットコイン(以下BTC)には、取引が急増する中で、取引スピード低下などの「拡張可能性問題」があったが、これを解決するための1つの方策として、取引を記録するブロックのサイズの上限を8メガバイトまで拡大しようとしたのがBTCだ。

<その後の状況>
「Segwit」の導入によって、ライトニングと呼ばれるサービスが可能になる。これは、一部の取引をブロックチェーンの外で行なうことによって、手数料が非常に低い高速少額取引を可能にする仕組みだ。
 ビットコイン価格は、分岐前にやや下落したが、分岐後には値上がりし、9月2日に5013ドルまで上昇した。
 しかし、4日に中国当局がICO(仮想通貨発行による資金調達)の全面禁止を発表したことなどを受けて、一転。9月半ばには3000ドルを割り込んだ。その後、再び上昇に転じた。
 ビットコイン取引所は、新しく誕生した通貨を「ビットコインキャッシュ」(BCCまたはBCH)として、ビットコイン(BTC)とは異なる通貨として扱うことにした。
 さらに、2017年10月24日 には、「ビットコインゴールド」が誕生した。


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