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インターネットと現実世界のつながり(シュガースティックの話)

『「超」AI整理法』で、スペースの制約で削除した原稿を紹介します。
以下は、「第7章 インターネットと現実世界のつながり」から削除した原稿です。

◇ウエブ世界にはURLが溢れすぎている
 ウエブにURLが書いてある場合には、クリックするだけで簡単にサイトに飛ぶことができます。しかし、ウェブの世界には、あまりに大量の情報があるため、ひとつひとつに注意が向きません。ですから、ウェブサイトを作っても、人々がそこを訪れてくれないのです。
 これまで、ウエブに誘導するための手段は、検索でした。検索エンジンに何とか拾って貰おうと、「検索エンジン最適化」というような不自然なことが行われていたのです。こうしたことは今後も行なわれるでしょう。
 しかし、 スマートフォンで直接にURLを読めるようになると、わざわざURLを手動で入力しなくとも、簡単に目的のサイトに飛ぶことができます。これまでは、URLを入力するのが面倒であったために、入り口の機能を果たせなかったのですが、スマートフォンがURLを読み取ってくれれば、それが入り口になります。例えば、前述の掲示板が、ウエブ世界への入り口として機能します。こうして、サイトへの入り口を現実世界の中に沢山作れることになります。

◇スマートフォンが文字を読めれば、サイトへの入り口ができる
 では、URLを書いた紙をどこに掲示すればよいでしょうか?
 公園の掲示板に貼り付けてもよいですし、パンフレットに印刷して配ってもよいでしょう。公園の掲示板や家の壁にURLを書いた紙を貼り付ける人が沢山出てくるのではないかと、心配されるほどです。
 現実世界における「入り口」の価値が高まるのです。 駅の構内のように多数の人が通る空間の価値が、これまでより高まることになるでしょう。そして紙のポスターや新聞などの従来型のメディアの価値が上がることになるでしょう。

◇シュガースティックが入り口になった
 私自身の経験を述べましょう。あるホテルのレストランで一人で昼食をしていたのですが、テーブルにスティックシュガーが置いてあるのが眼につきました。そこに、ホテル名が印刷されてあります。
 これまでは、それに気に止めたことはありませんでしたが、1人で食事をしていて手持ち無沙汰だったので、印刷されたホテル名をGoogleレンズで撮影してみました。すると、ホテルのサイトが開かれ、さまざまな情報に目が行きます。このホテルが様々なサービスを提供していることなどが分かりました。
 つまり、このスティックシュガーは、強力な広告媒体として機能したことになります。
 もちろん、これまでも、そのスティックシュガーを見て検索エンジンのウインドウにホテル名を入力すれば、同じことができました。しかし、そのようなことをしようとは思いませんでした。誰でも同じでしょう。
 そのホテル名はどこにでも見られるもので、格別珍しくはありません。ですから、人々は気に止めないのです。そして、そのホテル名を見ても、検索しようとするインセンティブは働きません。
 しかし、スマートフォンの画像認識機能が使え、目の前に文字があって他にすることがなければ、その文字を検索をするインセンティブが働きます。しかも、文字を検索ウインドウに入力する手間がかからず、カメラを向けるだけで自動的にサイトに飛べます。この差はごくわずかなものですが、重要な違いです。
 つまり、スマートフォンが、リアルな世界とウェブの世界をシームレスで繋いだわけです。ウェブの世界に入る入り口が、現実の世界にできました。そして、リアルな世界からウェブの世界に簡単に、移動できる道ができたことになります。

◇リアルな空間に、魅力的で効果的な入り口を作る
 ここで重要なのは、スティックシュガーは、テーブルという目につく場所に置いてあり、しかも、その袋にはホテル名しか書いてなかったことです。つまり、その空間を独占していたのです。ですから、目立ったのです。「リアルな空間の独占」という点が重要です。
 なお、この場合には、スティックシュガーの文字は、「一人で食事をしている手持ち無沙汰の間」という「時間」をも独占していたことになります。
 この大きな変化の潜在的な効果は、まだ意識されていません。実際、スティックシュガーを置いたホテルとしても、それが広告媒体になりうるとは意識していなかったでしょう。そして、レストランのテーブルという空間が、ホテルの情報を提供するのに大きな潜在力をもっていることを意識していなかったでしょう。
 これが意識されるようになれば、「入りやすく、しかも確実に機能する入り口」を作る工夫がなされるようになるでしょう。
 入り口には、確実にサイトに誘導できるものと、そうでないものがあります。また、入りやすいものと、入りにくいものとがあります。ですから、「いかにして魅力的で効果的な入り口を作るか」の工夫が重要です。周囲の景観と調和し、しかも注意を引き、そこを調べようとするインセンティブをうまく与えること。そして、目的のサイトに確実に誘導できること、などです。
 検索エンジンで上位に表示されるのを競うのではなく、リアルな世界に魅力的で効果的な入り口を作るのを競うようになるでしょう。これは、広告モデルに大きな影響を与える可能性があります。

◇リアルな空間の価値があがる
 リアルな空間にあるポスターにURLを示して置けば、サイトに誘導できます。もちろん、これまでも、ポスターを見た人がURLを入力すればサイトは開けました。ところが、URLは長いものが多いので、印刷してある文字を入力するのはかなり手間がかかることでした。このため、紙にURLを印刷しても、それが実際に利用される度合いはきわめて低かったと考えられます。それがスマートフォンの文字認識によって、自動的に開けるようになったのです。
 大企業が多大のコストをかけて作るポスターだけではありません。例えば、貸し室等の不動産広告にも利用できるでしょう。このような広告を乗せる無料の出版物が駅などに置かれていますが、その形態が変化するかもしれません。
 さらに、個人が自分のプリンターを用いてチラシを作ることも考えられます。現在街角で配っているティッシュペーパーにURLがあれば、そこから詳しい商品紹介サイトに誘導できます。こうして、配布ティッシュペーパーの価値が上がることになります。ティッシュペーパーだけでなく、様々な小物を街角で配るといったことも行なわれるでしょう。
 看板も、サイトへの強力な誘導手段です。現在は単に企業名や店名が書いてあるだけですが、写真を撮りたくなるような工夫がなされるようになるでしょう。
 駅など、多くの人々が集まる空間は、いまでも価値が高いですが、その価値がさらに高まります。ただし、こうしたところにむやみにポスターが貼られれば、環境問題になります。ですから、新たな看板規制が必要になるかもしれません。
 なお、リアルな空間の価値が上がる反面で、ウエブにおける広告サイトの価値が低下するでしょう。これは多くのウエブサイトの運営に影響を与えるでしょう。

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