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自分史は究極の楽しみ(その1)「時間旅行」はなぜ楽しいのか?

 平成という1つの時代が終わろうとしています。この機会に、是非、あなた自身の平成史をまとめてみましょう。

◇ ノスタルジアの世界は、美化された世界
 自分史を書くのは、大変楽しい作業です。なぜ楽ししく、面白い作業なのでしょうか?

 第一の理由は、記憶には浄化作用があるからです。人間の記憶はよくできていて、楽しいことをよく覚えています。その反対に、苦しいことや嫌なことは、忘れてしまっています。あるいは、修正されて、懐かしい思い出になっています。
 ノスタルジアの世界は、美化された世界なのです。ここに遊んでいると、現実の辛いことを忘れてしまいます(後で述べるように、これを積極的に利用してサイコセラピーを行なうこともできます)。

 追憶が面白いもう一つの理由は、バラバラな記憶が連想で関連付けられ、全体像が一挙に浮かび上がる瞬間の感動です。旧友達と昔話をしていると、一人一人が別々にもっていた断片がつなぎあわされて、突然、完全な情景が浮かび上がります。あるいは、ある思い出の意外な意味付けがわかったりします。これはジグソーパズルやクロスワードパズルと同じ面白さです。推理小説の面白さにも通じます。対象は自分自身なので、これらよりも面白いものです。

 「ノスタルジアの世界への時間旅行」を始めてみると、寝るのを忘れるほど面白いことがわかるでしょう。あまりに面白いので、はまり込み過ぎないよう、注意してください。平日にやると、夜更かしして、翌日の仕事に差し支えるかもしれないので、週末に始めることをお勧めします。

「過去への時間旅行」は、誰もができる、究極の楽しみです。金もかかりません。準備も訓練もいりません。特別の道具も必要ありません。身体が動かなくなってもできます。退職後の生きがいとしては、最高のものでしょう。

◇ 自分史作成は最高の健康増進剤
 昔のことを思い出して話すのは、健康のためによいことです。自分史作成は、楽しいだけでなく、健康増進効果をもっているのです。エンドルフィンが脳内で生成されるのでしょう。
 そして、歳をとるほど、健康維持が重要な課題になります。したがって、人々は、歳をとるほど、無意識のうちに、昔のことを思い出したくなります。これは、人間の本能的な自己保存行動でしょう。
 過去のことを思い出す自分史の作成は、認知症の予防にも大変効果的だと言うことが知られています。老人ホームでは、認知症防止のために自分史をつけたりするそうです。

家族の絆を強化する
 自分史を書くのにはまだ若すぎると考える方は、ご両親に自分史の作成を勧めてみてはどうでしょう。あるいは家族が協力して、「我が家の歴史」を作ってみたらどうでしょう。あなたがヒアリングして家族の自分史をまとめてみるのです。
 これは家族の絆を強化することにもなります。家族全員の共同作業だから、対語が活発になり、家族の絆が再確認できるでしょうか。また、いつもは無視されがちなおじいちゃんやおばあちゃんが、貴重な情報源になるでしょう。自分史の作成は、高齢化社会における最も意義ある作業になるはずです。

 (注) P・K ディック「模造記憶」(浅倉久志他訳、新潮文庫)に、記憶操作に関する面白 い短編SFがいくつかあります。その中の「追憶売ります」は、映画「トータルリコール」の原作となりました。記憶操作はSFの世界だけのものと思われていたのですが、一定の条件のもとでは、偽りの記憶をかなり容易に作ることができるそうです。

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