図書館ー2

クラシックの押し売りに参上しました(その5):フィルターバブルとレコメンデーションから脱却しよう

◇フィルターバブルとは?
 いま、多くの人が、スマートフォンからプッシュされてくる情報をただ受動的に受け入れています。
 情報源がそれだけという人も、多くいます。
 新聞は読まず、スマートフォンのニュースサイトに流れてくる記事だけに頼っています。
 ましてや、書籍などには目もくれません。

 ところで、インターネットからプッシュされてくる情報にバイアスがあることは、以前から知られています。
 
 これは、イーライ・パリサーが指摘した「フィルター・バブル」という現象です。
 その人が興味がありそうな情報を選んでプッシュしてくるというものです。
 こうなると、「泡」(バブル)の中に包まれたようになってしまい、自分が見たい情報しか見えなくなり、知的孤立に陥るというのです(イーライ・パリサー、『閉じこもるインターネット』、早川書房、2012年。なお、野口悠紀雄、『知の進化論』、朝日新書、2016年、第5章も参照)。

 フィルター・バブルだけではありません。商業的な、あるいは政治的な意図を持って誘導される場合もあります。
 これが、レコメンデーションであり、ターゲティング広告です(野口悠紀雄、『データ資本主義』、日本経済新聞出版社、2019年)。

 このような情報がどのようなバイアスを持っているかは、受け手にはわかりません。知らないうちに誘導されることになるわけです。

 そして、自分自身の選別の基準を失い、知らぬうちにビジネスの論理に操られていくことになります。

◇自分自身の選別基準を確立する
 このような状況から逃れるには、長い選別過程をくぐり抜けてきた古典を読むことしかありません。

 手始めに、シェイクスピアでもゲーテでも読んでみてはどうでしょう? 全く新しい世界が広がることが分かるでしょう。

 私は、「新しいものを無視せよ」と言っているわけではありません。
 世界は変わっていくものであり、それを捉えるには、現在何が起きているかを敏感に捉えなければなりません。古いものに執着すれば、進歩を否定することになります。
 しかし、変化していくものの中に、変化しない核が存在することも事実なのです。それが古典に他なりません。
 それによって、自分自身の情報選別の基準を作り上げるのです。

◇「空想図書館プロジェクト」が追求したいこと
 人々が自分の選別基準を失ってしまった一つの原因が、出版業界にあることも否定できません。
 「クラシックの押し売りに参上しました(その3):生産者の論理は消費者の論理と違う」で述べた「ビジネスの論理」にしたがって、古典を強調するのではなく、新しいものを強調するからです。
 しかも、精選された少数を発行するのではなく、極めて多数の出版物を発行します。
 こうして、出版のサイクルが短くなってしまっています。
 出版は、本来はストックを生産するものであるにもかかわらず、フローを生産し続け、その結果、フローの生産については効率がはるかに高いインターネットに敗れてしまったのです。

 以上のような観点から言えば、新聞や雑誌の書評欄も考え直す必要があります。 
 これらは、現在では、主として新刊の書籍の紹介になっています。
 時々は、特集としてあるテーマについて古いものも取り上げることがありますが、それほど一般的ではありません。
 
 これも、「ビジネスの論理」の帰結です。利益を求めるプロセスでは、新しいものは紹介しますが、古いものは紹介しないというバイアスが働き、古典は排除されるのです。
 そして、新しい情報や新しく登場した著者・アーティストが優先的に紹介されることになります

 ところが、本来であれば古典をこそ紹介すべきものであるのです。
  それは商業的な利益には直接結びつかないかもしれませんが、重要なことです。
 「空想図書館プロジェクト」は、そうした役割を追求したいと思っています。


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