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自分史を書きましょう(その3) 記憶再現のテクニック

 
 人間は、普通考えらているよりずっと多くのことを覚えています。記憶そのものが失われのではなく、記憶を引き出す手がかりが失われているのです。
 だから、適切な激を与えれば、記題を引き出すことができます。友人の話がきっかけになって自分自身の記憶が甦るのは、このためです。
 ここで問題は、「どのような刺激や手がかりが有効か」です。一般に、香りなどの原始的な感覚は、過去を思い出す強力な刺激になります。しかし、香りを自由に再現することは難しいでしょう。
 古い写真を見ると思い出が甦るかといえば、自分自身が過去に見た映像の場合に限られます。報道写真などの一般的なイメージを見ても、個別的な過去の世界と結びつけるのは難しいでしょう。
「多くの場合に有効な手がかりとなるのは、「言葉」です。適切なキーワードから、個人個人がそれそれの具体的な対象を思い出せます。

 人間の記憶には、つぎようなバイアスがあります。これを記憶再現のノウハウとして活用すすることができます。
 第一に、外出先、遠足、旅行など、日常的でない場面をよく覚えています。夏にあった事件は、旅行先で聞いていることが多いので、状況をよく覚えています。

 災害(地震、台風、火災)、大雪(入学試験に重なる時もある)なども、非日常事なので覚えています。
 平成時代でいえば、阪神淡路大地震東日本大震災、オウム真理教事件、同時多発テロなどは、だれでも覚えているでしょう。これらの事件を手がかりにすると、その周辺のことがよく思い出せます。
 病気になったときのことも、覚えています。寝ていた部屋の様子なとも思い出せるでしょうか。

 第二に、不連続になったところを覚えています。
 公共交通機関の不連続的な変化や公共の建築物の完成などがそれです。その周囲の状況も覚えています。
 個々の家庭でも、新しい電化製品や乗用車などは、不連続的な変化をもたらしたに違いありません。平成時代で言えば、パソコンやスマートフォンなども、生活に大きな変化をもたらしたことでしょう。
 平成時代には、転職をした人も多いでしょう。

 第三に、情景を再現すると、思い出せることが多いものです。歩いている途中で思い付いたことを忘れた場合、もう一度元の場所に戻って歩き直してみると思い出すことがありますが、これと同じです。。
 昔住んでいた街や歩いていた場所などがそのままの形で残っている場合には、そこを再訪してみると、忘れていたことを思い出すこともあります。文字どおり「センチメンタル・ジャーニー」です。

『平成はなぜ失敗したのか』(サポートページへのナビゲーション

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