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カール・ベームの「フィガロの結婚」

 「魔笛」を取り上げたからには、「フィガロの結婚」を取り上げないわけにはいかない。
 「フィガロの結婚」は、LDの頃から沢山あったし、DVD、BLDは数え切れぬほどある。私も随分集めた。

 そのうちの最高は、最初に買ったもの。カール・ベーム指揮ウイーン・フィル、1966年ザルツブルク音楽祭での収録。

 モノクロの映像でモノラルの録音だが、完璧だ。

 出演者の誰もが素晴らしい。とくに、スザンナ役のレリ・グリストケルビーノ役のエディト・マティスが素晴らしい。
 アメリカで買ったディスクなので、日本語の字幕がなく、長い間、ストーリーをよく理解できないで見ていた。これは、騙し合いの喜劇なので、筋はだいぶ込み入っている。いまでも、よく分かっていないかもしれない。

 レリ・グリスト(Reri Grist)は、1932年ニューヨーク生まれ。幼少時からブロードウェイで子役を演じていた。
 57年にミュージカル「ウエスト・サイド物語」に出演の後、オペラにデビュー。渡欧して、ウィーン国立歌劇場などで活躍した。カール・ベームが重用した。
 第4幕庭園の場。伯爵夫人の服を着て、伯爵夫人になりすまし、庭園を歩き回るところ、最高。

 エディト・マティス(Edith Mathis)は、ケルビーノ役にぴったり。
 第2幕、女の子の服装をさせられるところ、本当は女性であるマティスが男性であるケルビーノになり、それが少女にさせられる・・・頭がこんがらがりそうになるが、ハラハラもする

 マティスの「恋とはどんなものかしら」は感動的。
 「もう飛ぶまいぞ」で、フィガロにさんざんいじめられるところもよい。

 伯爵夫人役のクレア・ワトスンも、上品でとてもよい。第4幕の最後のアリアは最高。
 フィガロ役のヴァルター・ベリーも。伯爵役のイングヴァール・ヴィクセルも。
 とにかく、これは、完璧なフィガロだ。

 映画「アマデウス」(1984年)には、第3幕第14場( フィナーレ)「ああ、花嫁の行列だ」の場面で皇帝ヨーゼフ2世がバレエを禁止したが、リハーサルに現れ、「音楽がついていないのはおかしい」と言ったので、音楽が復活した、というところがある。
 オーケストラが音楽を鳴り響かせると、モーツァルトの音楽が何という迫力をもっているかを、改めて感じさせられる。
 ただし、バレエになっている演出を私は見たことがない。

 この映画の第4幕のフィナーレでサリエリが言う言葉。「これこそ神の音楽だ。・・・神は不公平で、残酷だ…なぜ神は私にこの音楽を創る力を与えず、この音楽を理解する力だけを与えたのだ…」
 映画のこの場面は、ひょっとすると、カール・ベーム、ザルツブルク音楽祭を凌ぐかもしれない。

 以上の他では、まず、ズビン・メータ指揮、フィレンツェ5月音楽祭管弦楽団、 フィレンツェ歌劇場(2003年)。メータの名前で買ってしまったのだが、なかなかよい。

 もう一つは、メトロポリタン・オペラ 「フィガロの結婚」新演出(2014年)。
 舞台装置がすごい。大きな円盤の上に、フィガロの部屋、伯爵夫人の寝室大広間、庭などがあり、回転すると場面が変わる。

 スザンナ役マルリース・ペーターセンのドタバタがうまい。第1幕、ケルビーノが隠れおおせるまで伯爵を部屋にいれないために、足を真横に突き出してドアをロックするところ。誰が考えた演出だろう?
 ケルビーノ役イザベル・レナードは、エディト・マティスに匹敵する。

 この指揮は、ジェイムズ・レヴァインだが、彼の突然の追放劇には驚かされた。


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