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第5章 ユニコーン企業は、社会の構造に挑戦している


1.ユニコーン企業とは
<GAFAのつぎに来る企業群>
 GAFA企業はすでに大企業になっている。したがって、今後も変革を主導しつけるかどうかは、はっきりしない。場合によっては、GAFAの支配が崩れるかもしれない。
しかし、技術の革新とビジネスモデルの改革は、GAFAで止まったわけではない。それらに続く新しいスタートアップ企業群が、すでに登場している。それが「ユニコーン(一角獣)企業」だ。
 これは、未公開で企業価値が10億ドルを超える企業のことである(未公開企業であるため、時価総額というのはないが、マーケットの評価がこのようになっている)。
 「ユニコーン」というのは、一角獣のことだ。一角獣は、夢の中にしか現れない幻想的な動物だ。「夢のような企業」という意味で、こう呼ばれる。

<近未来の動向を示すユニコーン企業>
 2013年頃には、ユニコーン企業は、シリコンバレーを拠点する企業を中心として39社しかなかった。しかし、その数は、その後急速に増加している。
 ユニコーン企業については、いくつかのリストがある。そのうちの一つである「ウオールストリートジャーナル」(WSJ)によるThe Billion Dollar Startup Clubを見ると、2018年1月時点で、世界に169社のユニコーン企業がある。
 第3章で見たアップルやグーグルの成長は、20年ぐらい前から起きていることだ。似たような大きな変化が、いまも起きていることになる。
 ユニコーン企業の数がこのように増えているのは、新しい技術やビジネスチャンスが払底しておらず、むしろ続々と登場していることを示している。
 ユニコーン企業の事業分野については後で述べるが、さまざまな意味において、ユニコーン企業はビジネスモデルと技術の最先端を切り開きつつある。
 これからの社会の技術やビジネスモデルは、第2章で述べた産業革命型の大企業によってではなく、第4章で述べたGAFA企業とこの章で述べるユニコーン企業とインターラクションによって開発されていくだろう。
 第6章で述べるように、AIやブロックチェーンの技術は未来社会に大きな影響を与えるが、それは少し先のことである。近い将来については、ユニコーン企業の動向によって影響されるところが大きいと思われる。
 だから、今後の経済社会の方向を知るには、ユニコーン企業の動向に注目することが必要だ。

<伝統的企業との逆転現象>
 いくつかのユニコーン企業は、同分野の伝統的な企業を追い抜かしている。
 まず、ライドシェアリング(自動車の配車サービス)の分野にUberというユニコーン企業がある。
 ニューヨークタイムズの報道https://www.nytimes.com/2017/10/12/nyregion/uber-taxis-new-york-city.html?_r=0によると、2017年7月、1日あたりの平均乗車回数は、従来からのタクシーであるイエローキャブが27万7000回だったのに対して、ウーバーが28万9000回となった。このように、ニューヨーク市では、タクシーよりもUberのの利用の方が多くなっているのである。
 民泊サービス(自宅などを宿泊施設として提供するサービス)のAirbnbは、2017年8月、同社が運営する情報サイト「airbnb citizen」でAirbnbの全世界での登録物件数が400万件を突破したと発表した。
 これは、巨大ホテルチェーンであるマリオットインターナショナル(115万室)やヒルトン(79万室)、インターコンチネンタル(72万室)の合計総客室数を大きく上回る数だ。
 なお、企業価値が巨大だといっても、必ずしも営業利益が大きいわけではない。実際、ウーバーは赤字を続けていると言われる。

<どうやって資金調達しているのか>
 ユニコーン企業の事業はさまざまな分野にわたるため、共通の特徴を見出すことは難しい。
 あえて言えば、「未公開」ということである。つまり、株式市場から資金を調達していないということだ。そうしなくても資金を調達できるということが重要である。
 ただし、ユニコーン企業は未公開なので、具体的にどのような資金調達をおこなっているのかは、はっきりしない。
 GAFA企業が、潤沢な資金を用いてスタートアップ企業に投資しているという事情があるのかもしれない。
 また、リーマンショック以降の金融緩和の中で、投資家やベンチャーキャピタルに投資資金が余っているという事情ががあるのかもしれない。長期にわたる金融緩和で投資資金がスタートアップ支援に流れているとの見方もある。
 なお、第6章で述べるように、ICOという株式市場にまった依存しない新しい資金調達手段が生まれていることにも注意が必要だ。

<株式市場の存在意義に疑問?>
 ユニコーン企業は、 従来の感覚では、上場予備軍ということになる。
 しかし、UberやAirbnbのような企業が登場して巨額の資金を調達し、急速に事業を拡張している様子を見ると、事業拡張のために上場する必要は必ずしもないのではないか、との考えが頭をもたげる。
 ユニコーン企業は、単なる上場予備軍ではなく、企業の新しい形を示しているのではないかということも考えられる。
 もしそうであれば、株式市場の存在意義に対して、根本的な疑問が突き付けられていることになるわけだ。
 言うまでもないことだが、株式企業は、公開されている方がよい。広く投資を集めるために、詳しい企業情報が提供されることは不可欠だからだ。
 しかし、ユニコーン企業の成長によって、上場されていなくとも資金調達できるということがわかった。
 上場すれば社会的信用が高まり、優秀な人材を集めるのが容易になるということも指摘される。しかし、UberやAirbnbのような巨大なユニコーンが登場して広く知られるようになると、これについての考えも、変わってきた。実際、Airbnbは、アメリカの大学生の就職希望先としてトップの企業に上げられることが多い。
 日本では、東芝が上場を維持するために半導体事業を売却しようとしている。このように無理をして上場にこだわる必要があるのかどうか、疑問に思えてくる。上場するために収益性の高い事業を売却してしまうのでは、本末転倒ではないだろうか?

<ユニコーンはGAFAとほぼ同じ分野に多い>
 先に述べたThe Billion Dollar Startup Clubのリストの上位10社を、図表5-1に示す。
 全体で169社あるユニコーン企業を分野別に示すと、つぎのとおりだ。これを見ると、今後の技術革新がどのような分野で起こるかを探ることができる。

・ソフトウエア       36社(Dropboxなど)
・消費者向けインターネット 35社(Uber,Airbnb,Snapchatなど、スマートフォンなどを用い、消費者向けに新しいサービスを提供する)
・eコマース         26社
・金融           16社( オンライン決済サービスを提供するStripeなど)
・ヘルスケア        10社
 以上の分野だけで、全体の約83%を占める。これに対して、ハードウエアは8社、エネルギー関係は1社しかない。
 したがって、ユニコーンによる技術革新は、GAFAの場合とほぼ同じように、情報を中心としたものであることが分かる。

図表5-1 ユニコーン企業  

<日本にユニコーンがない>
 ユニコーン企業の国別分布はどうなっているだろうか?
 Fortuneが作成するリストによって国別に見ると、アメリカ101社、中国40社、インド7社、イギリス7社、ドイツ5社、シンガポール3社、イスラエル2社、フランス1社、などとなっている(2017年12月)。
 ここで注目すべきは、中国のユニコーン企業が増大していることだ。これについては第7章で再び述べる。
 日本は、この調査ではゼロとされている(次項で述べるメルカリをユニコーン企業とする調査もある)。主要国でゼロは、イタリアと日本だけだ。アメリカや中国とは、比べものにならない。
 第8章で述べるように、日本における起業率は国際的に見て著しく低い。ここにもその問題が現れている。
 GAFA企業の段階では、もはや勝負がついてしまった。これからの社会を決めていくのは、ユニコーン企業だ。現在のところ、すでに述べたように、ユニコーン企業の数において日本がアメリカや中国に著しく遅れているということは認めざるを得ない。その原因を探り、新しい企業の誕生を促進していくことが、将来の日本の経済にとって大変重要な意味を持っている。

<NEXTユニコーンが日本に誕生している>
 日本にもユニコーン企業が出てくるだろうか?
 日本経済新聞社は、「NEXTユニコーン調査」を実施した(日本経済新聞、2017年11月20日、朝刊)。これは、ユニコーンの予備軍の有力スタートアップ企業だ。国内22社が推計企業価値で100億円を超えている。
 企業価値首位のプリファード・ネットワークスは、深層学習で制御技術を開発する。2014年10月設立。推計企業価値は2326億円。8月にはトヨタ自動車が約105億円を出資した。
 第2位のメルカリは、スマートフォンで操作しやすいフリマアプリの開発で急成長した(フリマアプリとは、インターネット上で個人の出品者が設定した値段で売ることができるアプリ)。2013年2月設立。推計企業価値は1479億円。同社は、海外のユニコーン調査で、すでにユニコーン企業とされている場合がある。
 第3位のSansanは、クラウド型名刺管理を行なう。2007年6月設立。推計企業価値は505億円。2017年11月に、ゴールドマン・サックスが出資を決めた。「当面の利益よりも長期の成長を重視する米ネットビジネス流の事業モデルが評価され、投資資金を引き寄せている」と日本経済新聞は評価している。
 なお、調査対象企業の3割超に当たる37社が、創業5年以内。83%が上場を考えていると答えた。

2.シェアリングエコノミーでのユニコーン
<拡大するシェアリングエコノミー>

 Uber,Airbnbなどのユニコーン企業は、シェアリングエコノミーという新しい分野で、新しいタイプの経済活動を切り開きつつある。
 「シェアリング」とは、耐久消費財や資本ストックを「所有するのでなく、複数の人々が利用する」という仕組みだ。
 こうしたものは、昔からあった。その典型例として、ホテルやタクシーがある。これらはシェアリングサービスの一種と考えられる。
 このようにシェアリングということ自体は、別に新しいものではない。最近では、例えば、時間パーキングのタイムズが提供する車のシェアリング・サービスもある。
 ただし、こうした古典的シェアリングの場合、サービスの供給者は、それを専門的に行う業者であった。
 現在起こりつつある変化は、供給者の範囲が個人へと広がりつつあることだ。
 この変化は、スマートフォンという新しい情報技術の進歩によって可能になったものだ。さまざまの新しいシェアリングエコノミーは、スマートフォンのアプリを中心にして展開している。それが、人々の日常の行動パターンを大きく変えようとしているのだ。

<ライドシェアリングのUber>
 Uberは、ハイヤー・タクシーの即時手配サービスだ。スマートフォンに行き先を入力すれば、近くにいる車の到着時間や、料金の目安が示される。支払いもクレジットカードで自動決済される。言葉が通じない国でも、タクシーを簡単に利用できる。
 タクシー側にもメリットがある。空車で無駄な流しをする必要がなく、稼働率を引き上げられるからだ。
 このサービスは、ライドシェアリングと呼ばれることもある。
 このサービスは、トラヴィス・カラニックが2009年にサンフランシスコで始めた。すでに世界54カ国、250以上の都市でサービスを実施している。
 未上場だが、2016年6月の企業価値の評価額は、680億ドル(約7.7兆円)に達している。
 7.7兆円の時価総額の企業というと、日本のタクシー会社どころの話ではない。ANAやJALをはるかに抜いている。それどころか、ついこの間まではJR東日本と同じぐらいだと言われていたが、いまでは、JR東日本をはるかに抜いている。
 日本で時価総額がUberを超える企業は、トヨタ自動車など十数社しかない。

<民泊のAirbnb>
 Airbnbは、空き部屋などを持つ宿泊場所の提供者(ホスト)と、宿泊場所を探している旅行者(ゲスト)をつなぐインターネット上のプラットフォームだ。
 目的地の都市名を入力すると、ゲストを迎え入れたいホストの物件写真と顔写真が示される。物件は、一軒家やアパートの空き部屋が多いが、エアベッド、共用スペース、城、クルーザー、荘園、ツリーハウス、テント、イグルー、個人所有の島などもある。
 2008年8月。ジョー・ゲビア、ネイサン・ブレーカージク、ブライアン・チェスキーがサンフランシスコで創業した。
 2017年3月での評価額は、310億ドル(約3.5兆円)。
 Airbnbが発表した2017年6月1日から8月31日までの宿泊予約集計データによると、Airbnbを利用した旅行者は世界全体で延べ約4500万人。8月12日には同社史上過去最高の260万人が宿泊利用した。
アメリカの学生の就職希望企業は、伝統的大企業ではなく、すでにこうした新興企業になっている。

3.フィンテックでのユニコーン
<フィンテックとは何か>

 フィンテックとは、IT(情報通信技術)の金融への応用である。送金・決済、貸付業務、投資アドバイスなどの分野に、様々な新しいサービスが登場している。
 フィンテックの第1のカテゴリーは、送金・決済だ。
 スマートフォンの利用拡大に伴って、様々な新しいサービスがスマートフォン上に提供されるようになった。
 まず、送金サービスがある。これは、個人や企業がインターネットを通じて料金を受納する方式だ。次項で述べるPayPalがその先駆だが、その後、Stripe などいくつかのサービスが登場した。Stripeの企業価値は、2016年11月で、92億ドル(約1兆円)である。
 また、現実の店舗におけるクレジットカード決済を簡単化するサービスもある。従来の方式では店にカードの読み取り機を備える必要があるが、これをスマートフォンを用いて行なうものだ。例えばSquare などがある。
 フィンテックの第2のカテゴリーは、貸付業務だ。これまでは、銀行が預金を集めて企業に貸し出しをしていた。それと同じような事業を、インターネットを通じて行なう。こうした事業は、ソーシャルレンディングと呼ばれる。
 この分野にレンディングクラブというユニコーン企業があった。**に上場して、時価総額が日本円で約1兆円になった。1兆円というのは、日本の金融機関では横浜銀行と同じぐらいだ。横浜銀行と同じようなものがウエブの上に突如現れたということだ。
 第3のカテゴリーは、保険だ。例えば、個人の運転状況のデータを車につけたセンサーから収集し、それにあわせて保険料率を個人ごとに決める保険などが考えられている。この他にも、ビッグデータの活用による新しい保険が考えられている。
 第4のカテゴリーは、人工知能(AI)とビッグデータを用いることにより、投資アドバイスを行なうものだ。

<PayPalの時価総額は日本のメガバンクを超える>
 フィンテックの先駆け的な存在は、1998年に設立されたPayPalである。すでに上場されているので、ユニコーンの範疇には含まれないが、注目すべき企業だ。
 これは、送金のサービスだ。インターネットで買い物をして送金する場合、通常使われる手段はクレジットカードだ。しかしこれにはいくつかの問題がある。PayPalはこうした問題を解決するためのサービスとして生まれた。
 このシステムによれば、従来の方法より送金コストを安くすることができる。またPayPalが送金を仲介するためため、ショップにクレジットカードの番号を知られることがないなどの利点がある。
 同社は、その後ネット・オークションサイトであるeBayに買収されて、その子会社となった。2015年7月に独立してIPOを行った。その時の時価総額が、約500億ドル、つまり約6兆円となったのである。これは親会社のeBayの時価総額を超えるものであった。時価総額が6兆円と言えば、日本ではみずほフィナンシャル・グループと同程度の額だ。

<情報技術の活用で金融業が大きく変わる>
 金融は情報産業だが、これまで規制が強かった。
 とりわけ、参入規制だ。送金業務や貸出業務は、従来は銀行しか行なうことができなかった。しかし、銀行の免許を得るのは、極めて大変なことである。新しい技術が開発されたとしても、それを業務として行うことができない状態であったわけだ。同じことが、貸付業務についても言える。
 このため、技術革新に後れた。それがいま大きく変わろうとしているのである。そして、非常に大きな可能性が拓けている。
 なお、以上で述べたフィンテックは、従来型の情報技術を用いるものだ。
 これに対して、ビットコインは、従来の情報技術とは全く異なる技術に立脚している。これは、「ブロックチェーン」という技術だ。ブロックチェーンは、ビットコインに限らず、多くの分野において、従来型の技術を代替すると考えられる。これについては、第6章で述べることとする。

4.ユニコーンは社会構造を変える
<新しい就業機会を創出>

 ユニコーン企業が用いる技術は、多くの場合、従来型の技術だ。
 しかし、社会の構造を変えようとしていることが重要だ。
 その第1は、新しい雇用機会を創出することだ。
 シェアリングによって資本ストックの有効活用が進むのは事実だが、それと同時に、人的資源についての有効活用が進むことにも注意が必要だ。それは、所得稼得の新しい機会を生み出す。
 新しいサービスは、一見したところ、就業機会に破壊的な影響を及ぼすと考えられるかもしれない。例えば、Uberは、タクシーの運転手にとって敵と考えられるかもしれない。
 しかし、実際には、運転手に新しい可能性を与えつつあるのだ。実際、アメリカでは、それまでタクシー会社に雇われていた人が、独立してUber に登録するというケースが増えているという。それによって所得が増加することになる。

<フリーランサーの時代が来る>
 アメリカでは、組織を離れて働く「フリーランサー」が増えている。情報技術が進歩した結果、仕事の進め方に関する自由度が高まり、一カ所に 集まって仕事をする必要性が薄れたからだ。高度の専門家について、とくにこのことが言える。こうした仕事を斡旋するためのスマートフォンのアプリもある。
 これまでフリーランスといえば、農業や小売業などが主だった。最近の特徴は、それが高度な専門家に及んでいることだ。
 「FREELANCING IN AMERICA: 2017」というレポートによれば、アメリカにおけるフリーランサーの数は、5730万人だ。これは、アメリカの労働人口の35.8%になる。
 このレポートは、2027年には、フリーランサーが8650万人で、50.9%と過半を占めるだろうと予測している。
 ダニエル・ピンクは『フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか』(ダイヤモンド社)において、人々は、組織から離れ、独立自営業になる。肉屋と燭台職人の時代になるだろうとした。
 これは、まさに、工場制工業出現以前の社会だ。それが現実のものになろうとしているのである。

<情報の不完全性を克服>
 ユニコーン企業と社会の構造に関する第2の側面は、規制の必要性に関連する。
 市場の役割は需要者と供給者を結びつけることであるが、それがうまく機能するためには、提供される財やサービスについての情報が得られる必要がある。アダムスミスが市場の効率性を論じたときの大前提は、それらの情報が得られるということだ。
 しかし、現実には、サービスの供給者はサービスの質についての情報を持っているのに対して、需要者は持っていない。
 例えば、タクシー乗り場で乗ろうとするとき、これから来る車の運転手が優良運転手か悪質運転手なのかは、客には分からない。あるいは、始めて行く土地で泊まるホテルが快適かどうかは、予約する時点では分からないことが多い。
 利用者はサービス内容について十分な事前情報を持たないから、規制当局が介入して、一定の資格を持つ者だけがサービスの提供者となることを認める。これによってサービスの質を一定に保とうとしたのである。
 しかし、それによって本当にサービス水準が維持されていたかといえば、疑問がある。実際には、免許を得た人たちの既得権益を守る手段になってしまっている場合が多い。
 ところが、Uberでは、利用者がタクシーの運転手に関する情報を得ることができる。利用者が直ちに運転手のサービスを評価し、それをフィードバックする。そうした情報はスマートフォン上に表示されるので、次の利用者はそれを参照しながら、タクシー選ぶことができる。Airbnbの場合も同じである。
 このようにして情報の非対称性が克服されるわけだ。そして、消費者保護のための規制が無用になっている。

<規制との戦い>
 日本でシェアリング・エコノミーが発展しない理由としては、様々なことが考えられるが、大きな原因は規制である。
 ライドシェアリングに関しては、道路運送法によって、許可のない人が自家用車を使って、有償で人を送迎することは禁止されている。許可なく行うと「白タク行為」とみなされる。旅館ついては旅館業法がある。
 これまでこうした分野に対して規制が行われていたのは、右に述べたように、市場の情報が不完全であることから、消費者保護のためにサービスの水準を維持するためには規制が必要と考えられたことによる。しかし、その状況がスマートフォンの利用によって大きく変わろうとしているのである。
 その結果、参入規制は、消費者保護を名目としてうたいながら、実態的には既得権益を保護するためのものになっている。そしてこうした規制が、新しい技術の導入を阻んでいるのだ。
 これらは、「岩盤規制」といわれるものに相当する。参入規制の緩和は、既得権集団との直接の利害衝突を引き起こすので、きわめて難しい課題なのだ。
 政府は、徐々に規制緩和の方向を探り始めている。しかし、様々な制約が加えられており、完全な規制側には程遠い。

<ライドシェアが日本では進まず>
 ライドシェアに対する反対は強い。日本では、「全国ハイヤー・タクシー連合会(全タク連)」が16年6月の通常総会で、ライドシェアを断固阻止する決議を採択した。バス業界でも、日本バス協会がライドシェア問題でタクシー業界と連携を強化することを申し合わせている。
 Uberは2012年日本に進出し、「ウーバー・ジャパン」としてスマホアプリでタクシーやハイヤーを配車するサービスを展開したが、ライドシェアについては進まない。
 15年2月、福岡でUberがサービスの運用試験を行った。しかし、国土交通省から、道路運送法違反とされ、サービスが中止された。
 16年2月に、富山県で無償ボランティアの自家用車で運ぶとの実験が発表されたが、地元事業者の反発のため、撤回に追い込まれた。
 ウーバー・ジャパンは、16年5月から、京都府京丹後市で有料配車サービス「ささえ合い交通」を開始した。これは、過疎の「公共交通空白地域」に適用される道路運送法上の特例として認可されたもので、一般のドライバーが料金を取って、乗車を希望する人を自家用車で利用者を送迎するものだ。
 同市では8年前、町のタクシー会社が廃業したことから、地域住民や観光客の足を確保するため、地元のNPO法人とウーバーが連携してライドシェアを開始したのだ。料金もタクシーの半額程度で、利用者には好評だと言われる。

<民泊規制の緩和>
 民泊については、東京と大阪で「民泊条例」が施行され、国家戦略特区に指定されている市区町村において、旅館業法の例外として一般住宅に旅行客を泊めることができるようになった。しかし、「最低宿泊日数6泊7日」という制約が課されたので、参入申請数は限定的だった。
 2017年に民泊新法(住宅宿泊事業法)が成立して、ある一定の制約のもとに実行してよいことになった。新法が施行されれば、どこでも営業が可能となる。住宅専用地域でも営業ができる。また、宿泊日数制限もない。
 ただし、本当の規制緩和なのかには、疑問が残る。とくに問題は、営業日に対する規制だ。「営業日は上限180日」と制限する予定とされる。自治体によっては、これより短い日数を限度にするかもしれない。

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