基礎知識なしで読める世界経済の入門解説書

◇はじめに

◆国内だけを見ていては、日本経済を理解できない

 世界経済は複雑であり、各国によって経済の状況も非常に大きく異なります。しかも、それらについてのデータが入手しにくいという事情もあります。本書では、そうした状況を踏まえつつ、世界経済の諸問題を、できる限り詳しく、専門用語をできるだけ使わずに平易に解説します。経済学の基礎知識がなくとも、読み進むことができます。

 本書が想定している読者は、日常的な仕事で経済問題に関わっているビジネスパーソンの方々、大学教養課程の学生諸君、そして、あらゆる問題について、基礎にまで遡って理解しようとする意欲を持っている方々です。本書は、拙著『日本経済入門』(講談社現代新書、 2017 年)の姉妹篇になっています。

 日本は外国との間を海で隔てられているので、外国の存在をそれほど強く感じません。しかし、日本経済は、さまざまな面で世界経済とつながっています。昔から、貿易を通じて世界経済の変化の影響を受けてきました。いまでは、その影響はもっと強くなっています。
 とりわけ、外国(とりわけアメリカ)の金融政策によって為替レートが変化すると、日本経済は重大な影響を受けます。ここ数年の日本経済の動向は、ほとんど為替レートだけで決まっていると言うことすらできます。

 このように、日本国内だけを見ていては、日本経済の動きを正しく判断することができません
 経済分析では、短期的な貿易量の変動や為替レートの変動が注目されますが、なぜそうした変動が起こるかを知るには、世界経済の動向を正しく理解する必要があります。
 また、世界経済の動向に合わせて、企業活動を変えていかなければなりません。たとえば、これまで日本で生産していた製品が海外の安い賃金によってより安く生産されるようになれば、国際市場での競争力が落ちます。そうした場合、生産物を変えるのか、それとも安い労働力を用いるために海外に進出するか、などの対応が必要になります。

 こうした問題を考える際にとくに重要なのは、中国の重要度が日に日に増大しつつあることです。
 中国の経済発展は極めて急速であるため、われわれはまだその意味と、それがもたらす影響の大きさを、十分に把握し切れていません。中国が工業化した後も、「中国製品は安い粗悪品だ」というイメージに囚われています。
 そうした側面がいまでもあることは否定できません。しかし一方において、中国ではさまざまな新しい経済活動が飛躍的に拡大しています。とくに、 IT やフィンテックの分野における中国の発展は著しく世界の最先端に立ちつつあります。この影響を的確に見極める必要があります。
 1990年代以降の日本の長期的停滞は、中国の工業化に適切に対応できなかったことによる面が大きいのですが、いま中国に生じつつある大きな変化を見逃せば、これからさらに大きな問題に直面することになるでしょう。

◆貿易戦争は自国経済のためにならない

 世界経済との関係において最も重要なのは、他の国との貿易や交流を促進して開かれた経済を作るのか、それとも、そうしたものを否定して国の中に閉じこもるのか、ということです。
 これに関して、「自由貿易が必要」と指摘されます。実際、国全体の立場、とくに消費者の立場から見て望ましいのは、その方向です。しかし、生産者の立場から見ると、貿易を自由化すれば、他国から安い製品が流入して事業が圧迫されるなどの問題があります。このため、自由な貿易に対して反対することになります。

 アメリカのトランプ大統領は、大統領選の時から保護貿易的な政策を標榜していましたが、 2018 年の3月に、知的財産権侵害を理由に一部の中国製品に25%の関税を課す貿易制裁措置を表明しました。また、鉄鋼とアルミ製品への追加関税適用を開始しました。7月には、中国からの輸入品340 億ドルに対する追加関税を発動しました。中国政府もただちに報復措置に踏み切りました。
 こうして、米中貿易戦争が現実のものになってしまったのです。これからさらにエスカレートするかもしれません。事実、トランプ大統領は、強硬策を拡大すると表明しています。
 しかし、仮にそうしたことが行なわれても、トランプ大統領が意図するように製造業がアメリカに回帰するとは考えられません。企業のコストや消費者物価が上昇して、企業や消費者の負担を増す可能性があります。それは、アメリカ経済を弱めることになるでしょう。それだけでなく、世界経済が大きく攪乱されることにもなるでしょう。
 現実の政策においては、消費者の立場よりは生産者の立場が重視されるため、輸入制限的な政策が取られることが多いのです。そして、 TPP やFTA などの措置が貿易を阻害するものであるにもかかわらず、自由貿易のための措置であると喧伝されます。
 ここで大きな問題は、TPP やFTAを推進する人たちが、自らを自由貿易派と誤解して、それが自分の利益にならないことを理解していないことです。本書の大きな目的は、こうした誤解を解くことにあります。



◆低下する日本の国際的地位、中国経済の比重増大、なぜ自由貿易が望ましいか?国際経済の仕組み

 各章の概要は、次の通りです。
 第1章と第2 章では、世界経済の構造がどのように変化しているかを概観します。
 第1 章においては、様々な指標を用いて世界経済の変化を見ます。このうち最も重要な指標は、 GDP(国内総生産)です。世界経済が順調に成長していること、日本は世界の経済の中で重要な地位を占めていることなどを指摘します。
 しかし、成長率で見ると、中国の成長率が極めて高く、これによって世界の主要国の構成が大きく変わっています。そして、日本の国際的な地位が低下しています。
 また世界貿易におけるウエイトの変化についても見ます。技術開発力のランキングでは、日本の順位の低下が目立ちます。

 第2 章のテーマは、貿易などを通じた国と国とのつながりです。現在の世界貿易は、中国の輸出とアメリカの輸入が中心になっています。中国は他の国や地域に対しても、貿易黒字を計上しています。その経済的な意味についても考えてみることにします。
 日本は、貿易の面では他国とのつながりが強いのですが、外国資本の支配や移民の受け入れについては極めて消極的であり、鎖国的な態度をとり続けています。

 第3 章と第4 章では、世界経済の構造を理解するために必要な理論的枠組みと、基礎的な諸概念について説明します。
 第3 章において、なぜ自由な貿易が望ましいかについての説明を行ないます。リカードの比較生産費の理論が、これを考えるための基本的なフレームワークとなります。ここでの基本的な結論は、「どの国も相対的な優位性を持つ産業に特化して、その生産物を輸出するのがよい。そして、相対的な優位性を持たない生産物は他国から輸入すべきだ」ということです。このような貿易を行なうことによって、国は豊かになることができます。

 第4 章は、国際経済のさまざまな仕組みについての説明です。ここでは、国際金融の仕組みと歴史、そして国際課税の仕組みを取り上げます。これらはいずれも複雑で分かりにくいものですが、企業が国際的な活動を行なうためには、避けて通れない事項です。企業活動がグローバル化すれば、海外活動に直接関係しない仕事の人々も、これらについての最低限の知識を持っている必要があります。

◆高度サービスが牽引するアメリカ、中国経済の躍進

 第5 章以降は、各国(あるいは地域)についての概観です。
 第5 章では、アメリカ経済について述べます。現代のアメリカ経済をリードしているのは、製造業ではなく、高度サービス産業です。これを反映して、アメリカの産業構造や主要企業の構成が大きく変わっています。
 ラストベルトというかつての重工業地帯も、医療産業などの新しい産業によって復活しています。また、先端的IT 産業などの新しい産業が、シリコンバレーで発展しています。
 トランプ大統領の経済政策は、多様性や異質性を排除しようとするもので、アメリカの長期的な発展にとってマイナスになるでしょう。この章では、トランプ大統領の制裁関税や報復関税がどのような経済的効果を持つかについての定量的な評価も試みます。

 第6章では、中国の経済について見ます。中国工業化の過程、現代の中国を牽引する主要な企業などについて述べます。注目すべきは、製造業だけでなく、高度なサービス産業が発展していることです。とくに先端的な情報分野における躍進には、大学での研究教育を含めて、目をみはるものがあります。この章では、中国の発展が今後も続くかどうかについても検討します。賃金上昇や政治体制などが問題となりえます。

 第7 章ではアジア経済について見ます。
 1970年代からアジアNIESと呼ばれる諸国が急速に工業化したことを述べます。
 NIES諸国はさまざまな国から成り立っていますが、今後の発展が期待されます。

 第8章ではヨーロッパを取り上げます。EUとユーロについてその構造を説明し、さまざまな問題点があることを指摘します。EU については、巨大な官僚組織がもたらす弊害などを指摘し、イギリスの 離脱が合理的なものであるのか否かを論じます。ユーロについては、国際収支の不均衡を調整する仕組みに原理的な問題があることを指摘します。また、イギリスとドイツが対照的な発展をしていることなどを述べます。

(この後、第1章と第5章を全文掲載します

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野口悠紀雄

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