リクナビ事件の深刻度

 就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、就活学生の「内定辞退率」を本人の十分な同意なしに予測し、38社に有償で提供していたと報道された(2019年8月1日付日本経済新聞)。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48076190R00C19A8MM8000/

 「リクナビ」の利用者がデータを閲覧した記録をAI(人工知能)で分析し、「辞退確率」を予測した。そして、このデータを、大手メーカーなど38社に販売したというのだ。
 これは、深刻な事件だ。

 個人情報保護法は、個人名ごとの予測データを「個人情報」とし、こうした情報を外部に提供する場合には、本人の同意取得を義務付けている。

 リクナビが利用者の学生から取得する個人情報について、利用の同意根拠となっているのは、「プライバシーポリシー」だ。
https://job.rikunabi.com/2020/open/navg/help/privacy_policy.html
 しかし、この条項によって今回のようなことに同意が得られているとは考えられない。そして、本件ではデータを氏名とセットにしているので、個人情報保護法違反のおそれがある。

 予測データの利用について、リクナビは、「採用の合否判定に使わないことを同意した企業にのみ提供していた」としている。
 しかし、実際に使われなかったことをチェックできるのだろうか?
 データは、内定者の決定前から提供されていた。 1企業あたり、年間400万円から500万という かなり高い金額で売られたという。こうした高価なデータを企業が買ったのは、合否判定に使うためではないのだろうか?

 リクルートは、説明方法を検討できるまで、このサービスの提供を一時休止すると、7月31日に表明した。その後、このサービスを8月4日付で廃止した。

 中国では、信用度スコアが問題とされている。
 こうした情報が他の企業に流れれば、採用で不利に働く。
 被害を受けた学生に対して、補償措置や救済措置が取れるだろうか?

 日本でも、データ活用の重要性が認識され、情報取引所や情報銀行などが設立されて、個人情報の取引が始まろうとしている。
 人事に関連する行動履歴データ分析サービスは「HRTech」(Human ResourcesとTechnologyを組み合わせた造語) と呼ばれ、注目を浴びている。休職・退職の可能性をAIで予測するサービスなどがすでに提供されている。

 こうしたサービスの利用を進める場合に絶対に必要なのは、個人データの適切な扱いだ。とりわけ、個人から適法な同意を取れているかどうかだ。
 

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