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『冬のライオン』のキャサリン・ヘップバーン

 キャサリン・ヘップバーンは、映画『冬のライオン』The Rion in Winter(1968年、イギリス)で、イングランド王妃エレアノール(アリエノール・ダキテーヌ、エリナー・オブ・アクイテイン: 1122年 - 1204年)を演じて、オスカーを取った。
 登場したとたんに、何の説明がなくても、王妃と分かる。しかも、並みの王妃ではない。
 幽閉されている城の一室で、絵を描いていたところ、使者から「クリスマスに家族が集まる」という知らせを受け、絵筆を止めて、where?と一言だけ発する。



 この場面だけで、オスカー確実だ。
 ヘップバーンのエレアノールは、まさにエレアノールその人。彼女のエレアノールを見てしまったら、他の女優のエレアノールは見られなくなる。

 ここに描かれているのは、非常に複雑な人間関係なので、予備知識がないと、何を争っているのやら、皆目分からない。
 参考書として、石井美樹子、『王妃エレアノール』(平凡社、1988年)を読むとよい。

 『冬のライオン』は、イングランドのプランタジネット王朝を開いた人々の物語だ。
 私は高校の時に世界史を選択しなかったので、歴史の基礎知識を持っておらず、最初にこの映画を見たとき、ストーリーがまるで分らなかった。
 映画の舞台がフランスのようなのが不思議だったが、『王妃エレアノール』を読んで理由が分かった。「プランタジネット」が英語的でないことも長年不思議に思っていたのだが、その理由も分かった。

 イングランド王ヘンリー2世(この映画の時点で50歳という設定:ピーター・オトゥール)は、もともとは、アンジュー伯・ノルマンディー公というフランスの地方領主アンリ。

 エレアノール(この映画の時点で61歳という設定。演じるヘプバーンは65歳だった)は、フランス全土の3分の1にも及ぶ広大なアキテーヌ、ガスコーニュ、ポワチエの女公。
 フランス王ルイ7世の妃でありながら、不貞を理由に結婚を無効とされてしまった。ところが、これ幸いとばかりにアンリと結婚。フランスの大半が、アンリとエレアノールに帰してしまった。
 1154年にアンリがヘンリー2世としてイングランド王に即位し、プランタジネット朝が成立した。
 要するに、プランタジネット王朝というイングランドの王朝を始めたのは、フランス人なのである。日本人には、こうしたところが、まるで分からない。

 第二次十字軍(1147年 - 1148年)では、当時フランス王妃だったエレアノールが参加している。このとき、25歳だ。
 パレスチナまで行っている。夫ルイ7世に同行したというより、自分で軍隊を編成して、嫌がる夫をけしかけたのが真相 だったようだ。しかも捕虜にまでなった。
 「冬のライオン」の中で、このときのことについて、「裸同然の姿で乗り込んだので、兵士たちは喜んだ」と自ら語っている。彼女はトロイのヘレン並みの美人だったのだろう。
 もっと若いときのキャサリン・ヘプバーンに、第二次十字軍のエレアノールを演じてほしかった

 ヘンリーに愛人ができると愛想を尽かし、アキテーヌに帰ってしまう。エレアノールの城では、吟遊詩人や騎士らが集い、君主や貴族たちも訪問して、華やかな宮廷文化が開花した。「アーサー王伝説」は、この時に作られたという説もある。
 息子たちを煽ってヘンリーに対する反乱を起こさせる。自らもこれに加わた。しかし、捕らえられ、10年近く軟禁状態に置かれた。

 1183年のクリスマスに、ヘンリーは、自分への反乱が絶えない家族や、領土を巡るフランス王との長年の争いを解決するため、エレアノール、3人の息子、そして、フランス王のフィリップをシノン城に呼び集めた。下の画面は、船に乗ったエレアノールがシノン城に現れたところ。


 3人の息子とは、次男のリチャード(右から2人目)、3男のジェフリー(一番右)、そして、4男のジョン(左)。
 なお、長男の若ヘンリー、イングランド王は、 1183年、28歳で病死。だから、映画には登場していない。若ヘンリーが亡くなったために、ヘンリーは息子たちを集めて、将来の相談をしようとしたのだ。


 エレアノールは広大なアキテーヌ領と引き換えに、自身の解放を求める。
 しかし、誰の企ても、すべて失敗してしまった。そして、家族は崩壊したまま。

 ところで、プランタジネット王朝は、エレアノールの子供たちに引き継がれた。
 リチャード1世(在位:1189年 - 1199年)、そして、ジョン(在位:1199年 - 1216年)。
 エレアノールはリチャード1世の即位と同時に解放される。そして、リチャードの摂政としてアンジュー帝国を統治する。領地を巡幸し、国を空けて外国遠征が多かったリチャードの代わりに、支持者の増大に努めた。
 82歳という、当時としては稀な長寿を全うした。ヘップバーンは90歳まで生きたのだから、この点でもエレアノールに似ている。

 リチャード(この映画の時点で26歳という設定)を演じるのは、アンソニー・ホプキンス。彼の映画デビュー作だが、強烈な印象だ。「羊たちの沈黙」のハンニバル・レクター博士を彷彿とさせる。
 「冬のライオン」で最初に登場するのは、決闘の場面。相手を槍の一突きで落馬させ、殺そうとするところを、シノン城へ集合の知らせを受けて思いとどまる。
 獅子心王と呼ばれた。英語を話せなかった。


 1189年に編成された第 3次十字軍の中心がリチャード1世。「血のあるところリチャードあり」と言われた勇猛果敢な騎士だった。「獅子心王」という名は、最初はイスラム側がつけたものだったらしい。勇猛 な彼が進撃してくる姿を見るだけで、イスラム軍勢は圧倒されて道を開いたという。
 捕虜になったリチャードをエレアノールが多額の身代金で救い出したこともあった。


 ヘンリーが愛したのは、ジョン(後のイングランド王ジョン、この映画の時点で16歳という設定)、甘えん坊で愚鈍。リチャード1世がフランス王フィリップ2世との戦いで戦死したため、王位を継承した。「欠地王」と呼ばれた。貴族の権利を保証する大憲章(マグナ=カルタ)を承認させられた。イギリス歴代国王のなかで、「最悪」と言われる。ただし、プランタジネット王朝は、彼の系統が続いた。


映画ほど素敵な世界はない

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