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どうでもいい話(2022年 8月分)


母親は、アレ⑥

私は朝が弱い。

数ヶ月置きに朝型夜型ひっくり返る、妙な体質だ。
現在は昼過ぎには お眠になってしまう激朝(?)型ではあるんだが、基本的には夜型だ。

目覚めてから必ず二度寝する。とにかく、グズグズと活動し始めない。

早朝 呟いてるように見えるが、0時位には目覚めている。
学生時代、私は完全な夜型であった。
深夜まで絵を描いたりゲームしてたんだから、必然ではあるんだけども。

若いうちは毎日夢を見ていて、夢の続きを見たいがために まどろむ二度寝が多かった。
起こされたとて、布団から出ない。

時間の無い朝にグズつかれるのを、とにかく嫌がるのが、母親だ。
布団を ひっぺがされるのなんか日常茶飯事。

一番 不愉快な起こされ方は、耳元で歯磨きをされる事だ。
それは流石に「止めてくれ」と言った。

いつも以上にグズグズと ねばっていた日のこと。
多方、楽しい夢でも見たんだろ。
どんなに起こされようと、遅刻を叱られようと、私は布団から出なかった。
あんまり起きない私に、母親はヒスを起こした。
わめいて散らして泣き始めた。

あー…面倒臭いな…

バターンッとトイレに閉じこもった母親。あの人、泣くとすぐトイレに こもるんだ。

仕方ない、起きるか。トイレ行きたいし。

起き抜けで用を足したい。
もそもそと布団から出て どてらを羽織った。
コンコン、とトイレをノックすれども、扉は開かない。

「母ちゃーん、おしっこ。おしっこ漏れるよ」

申し出たとて、扉は開かない。返事もない。
聞こえるのは、母親の すすり泣く声のみ。

ああー、もう!面倒臭え!ていうか、おしっこしたい!

カッとなった私は、着の身着のまま家を飛び出した。

いやもう、本当馬鹿ですね。よくよく考えれば、小なら風呂場でも構わんのに。

車に飛び乗った私、とりあえずトイレを探しに走り出した。

アテもなく発進したところで、進むのは慣れ親しんだ登下校道。

当時、トイレが常設されているコンビニは○ーソンだけだ。
登下校間で立ち寄る○ーソンが一軒。
少し距離が在るが、我慢するしかない。

広い駐車場の奥に、店舗が見えてハッとした。

──あれ?看板が白い。

青い看板は下ろされ、下地が見えている状態。
なんと間の悪いことに、頼みの○ーソンは閉店していたのだ。

ええー、どうしよう(汗)

お店なんかが開くには早い時間、ガススタも当時は
24時間ではなく、営業時間はまちまちだ。
入ろうと思えば営業時間前、閉まってるかと思い通過したらば営業してたり。

漏れる…

小一時間程 走行していただろうか。ここまで来たら、学校まで行こう。

だが、そう上手くはいかない。

国道に入った途端、渋滞にハマってしまったのだ。

漏れる(泣)!
民家にトイレを借りに行くのも、パジャマに どてら の不審者だ。
茂みで立ちションなんか、虫が怖くて 到底出来ない。

うえーん、限界だ(号泣)!

申し訳ない話であるが、どっかのマンションに囲まれた砂利床の駐車場で、開けた車のドアに隠れて ジョジョッとさせてもらった。

物凄いスッキリした✨
用を足した事で思考が晴れて、ある一件を思い出した。

バイクに乗り始めた頃、ロードマップを背負ってはいたが、道に迷うことが多かった。

特に「どこへ行く」とも言わずに出かけた、ある日の事。

案の定、道に迷って散々走った挙句、なんとか友人らと合流して遅くまでカラオケで遊んでた。

帰宅した私を、蒼白した母親が迎えた。

「バイクで転んで動けなくなってるかと思って、警察にも通報した!」

oh…

「携帯ちゃんと出なさいよ!」

バイクで走行中は携帯見れないから。
カラオケの大音響で着信なんか気付かないから。

短時間で通報するなんて はた迷惑な母親だと思ってしまった。
なんか今回も「家出した!」とか通報されてそうで、怖いな。

とりあえず、携帯は置いてきてしまったので、残り僅かだし学校に行くことにした。

学校にも連絡いってそう…

皆知ってるだろうと思い、職員室に パジャマに どてら姿で堂々と入って行った私。

「○○!!?どうしたんだ!!!」

──あれ?
予想外に、学校には連絡は されていなかったんだ。
常軌を逸したパジャマ姿での登校を、物凄く先生方に心配されてしまった。

トイレ行きたかっただけとか、言い出しにくい空気…

誰だったかな忘れてしまったけど、先生用のツナギを貸してもらって、初めて無人の保健室のベッドで寝かせてもらった。
帰りの道すがら、母親と顔を合わせづらい なんとも言えないモヤッとした心持ちであった。

謝るのは、なんだか シャクだな…

こういう時、私がとるのは“何事も無かった平穏な日常”に戻す事。

スーパーに寄って食材を買い、いつも通り晩飯の支度をして、その日は 母親の帰りを待って一緒に食べた。
「母ちゃん、通報してないよね?」

一応、確認をした。

「してないよ?」

あ、なんだ。私って その程度なのか。と思った。

ついでに、今回の騒動の皮切りである「トイレに こもるのだけは止めて」と伝えた。

母親はみるみる顔色を変え、物凄い剣幕で「アンタが起きないのが悪い!」と言い放った。

いや まあ、そうなんだけど。そうなんだけども。

トイレに行きたいのに右往左往した私の心情とかさ、夜更かし癖は どうやったら抜けるか だとかさ、少しくらい考えようよ。考えてよ。
一方的なんだよ、いつもいつも~!
確かに私が悪いんだけどさ!悪うござんしたよ!

モヤモヤは募る一方だ。
最近、私に想い出スイッチが入っているせいか、学校の話になる。
母親は決まって必ず、入学式の話をする。

パイプ椅子に並んで座ってる金髪連中を見て、
「また、失敗した!」
と、思ったんだそう。

また、とは何だ。また、とは。
私は一つ目の高校も中退はせよ、別段「失敗した」とは思ってないぞ。
そこで出会えた、かけがいのない親友らとは、今だに連んでいる訳だし。
あの高校があったからこそ、セカンドハイスクールライフがある訳だし。

因みに、三ヶ月連続で同じ話を全く同じイントネーションで聞いている。

そろそろ「その話は聞き飽きたから止めて」て言わんとな…厄介だ。
⑦に続く──

セカンドハイスクールライフ⑬

なんやかんや自分の愛車の修理に明け暮れ、二年生 後半の実習内容を全く知らない私である。

みんな、何やってたんでしょうね…

三年生に進級する前に、学校ならではのイベント関連を まとめていこうと思う。

よぉし、想い出すぞ!
ていうか、想い出せ!私の頭!

─卒業制作展─

桜のつぼみが膨らみ始める、卒業式目前。

毎年この時期に行われるのが、三年生が一年かけて手がけた卒業制作の発表会。

来賓や見学在校生には、職員総出で炊き出した、焼きそば ・カレーなんかの軽食が振る舞われる。

要は、文化祭だ。
そして何故か、毎年私は職員のポジションだ。
卒業制作展の周知には、卒業生の父兄や学校関係の来賓に、招待状を送付する。

放課後の職員室。会議机に積まれたのは、黄色い学校のロゴが入った大きめの封筒、A4カラープリントされた卒業制作展の招待状。

まず 招待状を三つ折りにする。
ええ、この段階から私は職員サイドだったんですよ。ホホホ。

プリントされたコピー用紙、一枚一枚 摘むのは至難の技だ。

よく取りやすくするのに、用紙を少し束に持って波打たせたりするものだけど…

誰だったかな、先生が積まれた用紙の中央に、親指先を押し当てた。

小さく円を描くと…

あれよ あれよ と、用紙が螺旋に広がっていくではないか。

スゲェ!
螺旋に分かれた用紙は一枚一枚 取り易い。

サクサク三つ折りにして、封筒に納めていく。

招待状の入った封筒は、5mmずつ位 重ね広げて、ヤ○トのり を ビヤーッと塗る。

これで封を折り目で折れば、あっという間に 送付用招待状の完成だ。

皆でお喋りしながら内職。
こういう地味な作業、大好き。
因みに、これらの体得した小技、母親の経理の仕事を手伝う上で地味に役立った。
結構 母親の お手伝いもしてたんですよ。

卒業制作展、当日。

解放時間より数刻前に実習場に集まった、職員一同 プラス 一名。

炊き出しだ。

整備科の職員はツナギに、私は私服に、エプロンを着けた。確か皆お揃い。
頭には三角巾を巻き、強面の先生方も ちょっぴり可愛らしい装い。

この日のためにレンタルされた、大食缶程の大きな寸胴・大きな鉄板・わたあめ機などなど。
文化祭感がパない。

まずは、時間の掛かるカレー作りからだ。
野菜もお肉もゴロゴロに、食材は大きめにカット。

あ、豚汁もあったっけな。
S女史と手分けして、人参・大根をイチョウに こんにゃくを薄切りに、寸胴に投下していく。
なかなかな量であるが、主婦二人に かかれば問題無い。

「豚汁任せた!」

任されました!

豚肉入れて煮込まったら味噌を溶くだけなんだが。
結構 量が分からんもんで、味見味見で結局一パック全投したかな。

隠し味に生姜とニンニクを入れるのが私流。
ちまっと入れても隠れ過ぎちゃうだろうから、ぶちゅーっとチューブ一本入れたかな。

背後で温まった鉄板が、美味しい音を奏でた。

「水を入れるのは邪道だ」

誰だったかな、なんか通なこと言ってた。
キャベツの水分で中華麺を蒸すんだそう。

へええ、うちの実家では いりこの粉末を入れて香ばしさを出すんだが。
うんまいんスよ、いりこ の入ったソース焼きそば✨

現在は結構 常識だが、焼きそば にも地域の味が有るのを初めて知った。

麺類は奥が深い。

「おにぎりが終わらなーい!」

一升炊きの炊飯器と対面していたS女史からSOSが上がった。
おっと、遊んでる場合じゃない。

急ぎ 握り飯 に加勢する。
時計を見れば実習場解放まで残り わずか。

急げ急げー、と握った私の おにぎりは、なんだかS女史のよりデカい。

くう、この辺りが主婦歴の差か!

なんて、ちょっぴり悔しく思ったりして。

わたあめ機の試運転、丸い金属桶の 中央の筒に
ザラメを投入すると、ほわほわ~っと砂糖の糸が発生する。

おおお、面白ーい✨

あのマシンて、結局どういう仕組みなんだろう。熱で砂糖を溶かす、までは解るんだが…

割り箸をクルクル回しながら、砂糖を巻き付ければ ふわふわ雲みたいな わたあめが出来る。

出来たての わたあめ、なんか美味い♪
いつもの事だが、食レポが酷いw

開場すれば、お客様方に豚汁を よそうのが私の係。

「○ちゃん、○ちゃん!おかわり!」

結構、評判 良かったですよ?

ところで、終日ずっと配膳に従事していた、私。
地味に卒業生の作品を ちゃんと見れてない…

来賓の方々は、職員だと思ってたでしょうね。

─釣り─

これはスクーリングだったか、ツーリングだったか忘れてしまったんだが、山で釣りをした。

渓流と湖と釣り堀と、何度かあったから、両方かな。

初めて釣竿を持たされ、私は気が気でなかった。

…ヤツだよね。
“釣り”って言ったら、ヤツだよね!?

餌として皆に小さなプラ容器が配られる。
淡水釣り堀の一角で、私は隅っこの方で出来得る限り、ヤツとの邂逅を先延ばしにした。

「はい」

ひいっ…あれ?

掌に乗せられたプラ容器。
中に入っていたのは、赤くて真ん丸なイクラだった。

え?イクラで魚が釣れんの??

考えれば魚は肉食なんだから、卵も食料か。
食物連鎖、弱肉強食だな。
イクラならば怖くない。
一粒つまんで、釣り針の湾曲した中腹まで刺す。

イクラ、マジネ申✨

その釣り堀では人と人との密集度が高いので、上投げは禁止、下投げのみ。

理科教員から投げ入れ方をレクチャーしてもらい、いざ、初釣りチャレンジ。
竿を斜めに立てて、釣り針をポーンと振り子のように送り出す。

──ポチャンッ

掘りに落ちた釣り針。
と、瞬間的に引きが有った。

えッ!? えッ!? こんな早くかかるの!!?

釣りってもっと長い事 待つもんだと思った。
周りの学友もジャンジャン釣り上げている。

釣り堀、入れ食い。

「引いてるよ!」
「コレ、どうすんの!?」

釣り上げ方を知らない。
駆けつけたM先生が教えてくれる。

竿をピッと上げて、魚を水面から出し、自分に寄せる。

あ、まんまなんだ。

釣り上げたのは、ニジマス。
20cm位のテレビのリモコン位の、虹色の鱗がヌメっとした淡水魚だ。

長く泳ぎ、針を呑まれてしまっていた。

ああー、なんか可哀想なことしちゃった(汗)

ビチビチとヌメるニジマスを鷲掴み、糸を手繰りながら口に指を突っ込む。

フリーター時代、魚屋経験した、私。
料理でも使うし、生魚には慣れたもの。

胃袋に刺さった針をつまみ、釣り針を外すのにグッと押し込み、再び刺さらないよう注意して引き抜く。
ちゃぽん、と 水を張ったバケツに放れば、若干 血を吐きながら弱々しく泳ぐニジマス。

その様子を見ていたM先生の お言葉。

「魚 “は” 平気なんだ」

「魚 “は” 平気ですね」

うん、魚 “は” 平気。
厳密に言えば、魚 “以上” なら全部平気。

数匹釣った中から二匹選ぶ。弱った子にしましたよ。
釣り堀に併設された食堂で、自分達で釣り上げたニジマスを焼いてもらう。

串に刺さって塩を振られ、炭火で焼かれたニジマスは、焦げ目のある皮がパリッと、身は ふっくら とホロホロ。

その場で命を頂く贅沢に感謝。
「ごちそうさまでした?」

「○○、めっちゃ魚 綺麗に食うな」

ええ、特技です。

渓流ではルアー釣りを体験した。
実際は、二択だったんだけども。

「どっちにする?」

理科教員の片手には、何か蠢くタッパー、片手には小魚型のルアー。

私は無言でルアーを受け取った。

「だよね!」

ですよ。

上投げを教わり ヒュンッ、と岩場の上から川に投下。
釣竿を小刻みに振り上げる。
クイックイッと、リズミカルに上げているつもりだが、なかなか これが難しい。

清流に沈んだルアー、動いてるようには見えない…

リールを巻き上げ、再び投げる。
繰り返し、繰り返し。

やはり大自然、釣り堀のようにはいかんな…

周りではチラホラ当たりのある学友も居たけれど、私は坊主だ。
まあ でも、釣れんでも このルアーをクイクイするのが楽しいから、良いや。

木漏れ日の元、涼やかな清流に葉擦れの音。
なんか、贅沢だなー。

「ぎゃああ!」

突然の悲鳴に顔を上げた。

「釣られたー!!」

背中を釣り糸が引いている。
M先生がK先生に釣り上げられてた。

あ、人間も釣れるんだ。
大きな湖のほとりで、とうとうヤツと対峙した。

「はい」

要らん!!!

北海道かな、湖畔の石辺に静かな さざなみが立っている。
対岸には霧がかかり白ばんで、どこまで広いのか分からない。
そして、毎度ながら そこが何処だか覚えてない。

学年の人数分より、少なかった釣竿。
何で私が持ってんだ…
ジリジリと詰め寄る理科教員が、パカッとタッパーを開いた。

「はい」

蓋を開くな!!! そして、何か嬉しそうな顔をするな(泣)!!!

見るも むごたらしいタッパーの中身。ゴカイと言うヤツだろうか…

釣竿を持ってるから いけないんだ!誰かに──

既に学友は散り散りに連み、釣り糸を下ろしている。

……遅かった(号泣)!!!

仕方なく、私は釣り糸を垂らし 釣り針から50cm程 距離をとり、理科教員に無言で腕を伸ばして差し出した。

釣り針に取り付けられた蠢くヤツ。物凄く嫌々さっさと湖に放り込んだ。

──はあ。

序盤で どっと疲れ果てた。

「イトウ釣るぞー!」

どこかで息巻く木霊が響く。
イトウって何だったかな。釣るのがレアなやつだったかな。

静まり返った広い湖。
渓流以上に魚が いる気がしないんだが…

しばらくボケーッと、ぷかぷか浮かぶ浮きを見てた。

と、僅かに浮きが沈んだ。

──え!?まさか、当たりか!!?

竿を立て、リールを巻いてみる。

ううん?手応えが無いな…
そのまま巻き上げてみれば、何と、釣り針の先にヤツが居ない!

食い逃げるなー!

「あ、食われちゃった?」

そして私に虫を寄越すなー!

もう、おなかいっぱいです。
両腕で大きく?を出し、そっと釣竿をその場に置いて、学友の釣果を冷やかしに散歩に出かけた。

この湖、何が釣れるのかな。
何組か声を掛けつつ巡ってみるも、バケツの中は空っぽ。

「K君、何か釣れた?」

一人しゃがんで糸を垂らしていたK君のバケツを覗き込む。

「お!凄ーい!何か釣れてんじゃん!」

私もK君の隣りに しゃがみ込んだ。
はにかむK君の かたわらには、キラキラと輝く赤い宝石。

──イクラ有んじゃん!

─渓流下り─

スクーリングの語り忘れた思い出。
山間部の河川で渓流下り、ゴムボートでラフティングだ。

初夏の北海道なのに空は どんより、パーカー着てても肌寒い。

事前に伝えてあったサイズから、レンタルされたウェットスーツを試着する。

山間の掘っ建て小屋みたいなロッジ、屋内は薄暗い。

手首・足首・首周り はゴム地がピタッとするけれど、案外と身の部分には ゆとりが有る。

「今日は寒いので、服の上からウェットスーツを着ると防寒になります」

と 言われたけれど、流石にジーパンとパーカーは無理っぽい。
私はパンツとTシャツの上に、ウェットスーツを着ることにした。
ガイドの方に隙間が無いか最終チェックしてもらい、列になって救命胴衣にヘルメットを受け取る。
はい はい と渡され行く数色のヘルメット。

「はい」

私の手に渡されたヘルメットはピンク色。

解せぬ。

今でこそピンク色を多用する中年であるが、十代の頃は あまり好みでは無かった。服は水色派。
まあ、被ってしまえば自分には色なんか見えない。

パドルを持ったら、隊列を開いて準備運動。
各艇ガイド1名8人位のグループに分かれ、サインや掛け声なんかの練習をした。

イメージ的にはス○ッチのマ○オパーティーなんだが、伝わるかしら。
パドルの水をかく部分を掲げて合わせ「イーヤッフー☆」
いや、掛け声自体は忘れてしまったんだが。

ゴムボートを みこしを担ぐように持ち上げ、いざ入水。
膨らんだ浮き輪状の壁に沿って座ったら、ガイドの方が押し込み渓流へ。

「うおっ!」

離岸すると緩やかな川の流れに乗る。プカプカ浮いてるだけなのに 結構 揺れる。

「皆さん、ラッキーですね!」

何が?

「この先流れの速い所を下るんですが、昨夜の雨で増水してて結構な急流ですよ(笑)!」

マジか。

「もし落水しても、慌てず じっと浮かんで川の流れに身を任せて下さい。助けに行きますから(笑)!」

いや、笑い事じゃない。
そんな目に絶対 遭いたくないし。

何故って、私 泳げないんだ。

救命胴衣があるとは言え、内心 冷や冷やもんである。

漕ぎ方や、パドルの緩急つけた方向転換なんかをレクチャーされ、いざ進水。

グイッグイッと漕ぐ訳なんだが、幅広いパドルの先、水をかくのは思いのほか 重労働だ。

「よし、一丁 行きますか(笑)!」

指示に従いパドルを漕げば、ドーンッ!と
隣のゴムボートに体当たりした。

「うわーッ!!」

ボチャンッ

早速、K先生が落水した。
レクチャー通り仰向きじっと流れいくK先生の姿は、はたから見ると滑稽(こっけい)である。

爆笑してテンション上がり、緩流から急流へ。

突如として現れる川から生えた岩場を、ガイドの方がパドルで押し回避。
ぎゃああ!!?

激流に もまれ、時には はぜるゴムボート。
結構な重量のはずのゴムボートが弾むんだよ。

地味にジェットコースターが苦手な、私。
めちゃめちゃ怖い。

速いだけなら平気なん。落ちるのがマジでダメ。
カ○ブの海賊の僅かに落ちる、アレですらダメ。雰囲気は好きだから乗っちゃうけど。
あの、落ちる時のヒュッと胃の浮く感じ…アレがね…意外と分かってもらえんのだか。
人は落ちるもんじゃない。

岩に ぶつからないよう、ガイドの指示に従って必死で漕いで、周りの山景色を楽しむ余裕なんて無い。

素人ばかりのゴムボート、衝突したり座礁したりしないんだから、ガイドの方って凄い?
体力も精神もすり減らし、脂汗をかいた激流を下り終えれば、清水の穏やかな浅い川辺に たどり着く。

小石の三角州にゴムボートを のし上げ、休憩と遊びの時間。

みんな疲れてないのかな…
石部に しゃがんで、水遊びに大はしゃぎの学友を、先生方と共に見守る。

ええ、体力続かない大人組なんスよ…

でも折角だから、アレ体験しておきたい。
救命胴衣 着てるし、足は着くし、川に独り歩む私。

膝下で清流が別れ穏やかに流れ行く。
私は その仰向き、川の流れに身を任せた。

独り“川に流される人”ごっこだ。

時折 雲間からチラつく太陽、風に さわめく青い木の葉。
流されるだけって 何て楽だろう。
そして──

「河童の川流れ」という、言葉が脳裏を よぎった。
何故だ。

独り流れ行く私は、他の人達には どう見えていたんでしょうね(遠い目)

数m流れ、自分で立ち上がり、逆流を蹴りながら中洲に戻った。
再び、先生方の隣に そっと着席。

いや、何か言って下さいよ…
ちょっと恥ずかしい。
あれ?そう言えば下った後はどうやってロッジに戻ったんだろう?
肝心な所 忘れちゃってるな。

再び薄暗いロッジで私服に着替え、濡れたウエットスーツを脱いで異変に気付いた。

──あれ???

なんと!パンツが ぐっしょり濡れているではないか!

慌てウエットスーツの股間部を電灯に かざせば、
小さな穴から光が差す。

うわあ!穴空いてた!!!

気付いた所で後の祭り。
替えのパンツは荷物を置いた宿泊施設。

どどど…どうしよう!?

濡れたパンツの上からジーパンを履くか、ノーパンでジーパンを履くか、もの凄い葛藤をした。

結局、ノーパンは選択出来なかった、十代の私。意気地無し。
ジーパン分厚いし、そこまで染みないはず…

と 思ってたんだが、甘かった。

マイクロバスで移動 離席する度、見えるのは しっとり湿ると目立つ 困った色した座席シート。

漏らしたんじゃない!漏らしたんじゃないよ、断じて!…多分。

羞恥に さいなまれた。
絞ってから履けば良かったな、パンツ。

─体育祭─

思い出してはみたものの、特に語る事が無い。
こういうイベント事は欠かさず出席してたので、三年間3回有ったはずなんだが。

体育祭会場は、いつも体育の時間お世話になってる広い公園。
一角のサッカー場を終日お借りして、全校生徒一丸と競技に励む。

人数は少ないので球技がメイン。
サッカーボールを追いかける野郎ども。
フェイントしたりスライディングしたり、格好良いはずなのに、段々と猿山の猿に見えてくるのは何故だろう…(遠い目)

あんな野生の中に入って蹴れもしないボールを追いかけたら、死ぬ。

そう思って見てた、運痴な私。

障害物競走ではK先生すら体を張って、
顔面真っ白にして飴を食ってる勇姿を目の当たりにしたが…

あんな醜態さらしたら、死ぬ。

そう思ってた。

応援団するも無く、マネージャーするも無く、ベンチに根を張り微動だにしない私。

「○○、何かやんないの?」

声を掛けてくれる先生に学友も居たけれど、私のポジションは決まっている。
「やんない」

オーディエンスと言う名の、自主ベンチウォーマーだ。

こういうワガママ言っても「やれやれ」て無理矢理やらせないで生徒の自主性に任せるのが、この学校のいい所だな。うんうん。

なんて、全く一切 頑固なまでに参加してないんですよ、私…

何しに行ったんですかね、3回も。
他にも遠足で潮干狩り行ったり、原付ツーリングなんかも有ったりしたんだが…

どうにも記憶が朧気でエピソードが浮かばない。
卒業アルバム見たら記憶がよみがえるかもしらんが…

手前にダンボール積んじゃったので、まず片付けん事には(遠い目)

いえね、なんか私が居間から書斎に移動すると何故か

ニャンコらも全員ついてきちゃうもので。
むき身の家具類、寝心地良くないと思うんだがなあ。

書斎にもニャンコスペース作ろうと思って爪とぎボウル系を幾つか買ったんだが、やたら どデカい箱が幾つも届いてしまってね…

一旦 締めて、次に行こう。

思い出したらば、追想が有るかと思います。

セカンドハイスクールライフ⑭

三年生、最後の実習。
学んだ技術を最大限に活かす、卒業制作だ。

最初に卒業制作を何をするか決めねばならない。
整備・板金・塗装、とにかく何でも良い。
単独、グループも自由。

“自由”って響は良いが、あまりにも真っ白で かなり悩む。

私に何が出来るだろう?
一番得意はパテ盛り?
って、どう制作発表すれば良いんだ…
埋めてしまったら、どんな凄い傷なのか分からんし 浅いかもたし、工程を並べるのはベースが幾つも必要で 現実的では無いな。

他に何が出来るだろう…

考え始めてから、ずうっと脳裏の片隅で主張する輩が居るのを、私は無視し続けた。
ぴょんぴょん飛び跳ね大手を振り振り「俺が居るじゃないかー!」と、騒ぎ続ける存在。

そう、濃密な時を共に過ごした ポップなオレンジ色したボディ、芝刈り機のエンジンの シバ君である。

ええー…自動車整備の卒業制作で、芝刈り機のエンジンが題材なのはなぁ…

だが、他に出来る事が浮かばない。
整備場の壁には、過去 卒業生が塗装したボンネットが幾つか飾られている。

「学校の備品だから塗り直して良いよ」と先生には言われたけれど、格好良いヤン車ファイヤーが施されたボンネット達。

既に完成しているアートは、私には壊せない。

「乗ってないカブが有るから 使う?」

──兄貴(感涙)!!
悩んだ挙句、相談した兄貴が カブを一台まるっと貸してくれる事になった。

どこにも不具合の無い、普通に走行可能な濃紺のカブ。

整備で行くなら、分解して並べる?
返せばならんのに、組み付ける時間は無い。

板金で行くなら、どこか傷つける?
流石に人様の物品を、傷つけるのは気が引ける。

残りは塗装…トラウマ過多の塗装…海老茶(泣)!

いや、よくよく思えば愛車の塗装は上手くいったんだから、多少なり塗装技術は向上しているはず…

私は卒業制作に、カブの全体塗装をする事に決めた。

普通に塗るのは、つまんないよな…キャンディ塗装やってみたかったんだ?

ほら、こういうとこが。
地層の様に数層 重なる塗装の断面。

塗装をパール系、クリヤー剤に少し塗料を混ぜ、仕上げに透明なクリヤーを吹く、仕上がりは りんご飴の様なキャンディ塗装。

りんご飴、食いたいな…

祭りなんかで りんご飴の屋台が数件在ったらば、私は裏手に置かれている飴の掛かっていない りんごを確認する。
巡回して より新鮮で、より熟している、果汁溢れる りんごを使っている屋台で買う。

イカ焼き でも同様に、生いか の鮮度を重視する。
久々ビール缶 片手に、縁日ぶらぶらしたいな。

おっと、脱線してしまったな。

カバー類やフレームを全て外して、紙やすり で表面を擦って下処理をする。
下地剤を塗布したら水研ぎし、ホワイトパールで塗装した。

私はクリヤー剤に赤い塗料を混ぜた。
出来たのは、かき氷の いちごシロップの様な、赤いクリヤー。

おお、いい感じ♪

イメージするのは、郵便ポストの様な真っ赤なボディ。

塗るぞお!

白いパール塗装の上に、赤いクリヤーを吹き着ける。
お気付きだろうか、工程を一つ すっ飛ばしている事に…

シューッと赤いクリヤーが吹き着けば、みるみる色着く本体フレーム。

──あれーッ!!?

現れたのは、薄い桃色。
思ってた色 違う!

何を隠そう、私再び“試し塗り”をしなかったんだ。

白に赤を重ねればピンクに成る。幼稚園児でも知っている。
ええー!?どうしよう!!

キャンディ塗装は重ねすぎると フレームの溶接された節目やなんかに色が溜まり、部分的に重くなってしまう。

何層か重ねたら赤になるかも…

いや、馬鹿にも程がありますね、自分。

重ね重ねた赤いクリヤー。
薄い桃色は段々と深みを帯びて、ぽってりぽってりした飴色になる。

oh…

ショッキングピンク。
かなりどぎつい、ショッキングピンク。
なんとも ふしだらな感じを匂わす、ショッキングピンクになってしまったのだよ!

…セクシーだな。

私は、卒業制作の題名を「セクシーカブ」とした。

え?塗り直しなんかしませんよ。
私の体を絶妙にあらわしたな、と思いまして。
あ。
からだ、じゃないですよ(汗)
てい、です。体裁の、体。
脳内ショッキングピンク、と言う意味。何の弁解だ。

同時期、やたらとハマっていたのが 車やバイクに貼る、ロゴ文字のカッティング。

放課後や休憩時間、時には授業中、職員室の会議机を占領し、カッティングの端材を貰っては抜いていた。
漫画の書き文字、特に明朝体を得意としていた、当時の私。

コピー用紙に思いついた熟語なんかをレタリングしては、カッティングシートというカラーのシール用紙に スプレー糊付け、普通のカッターで台紙を残し ちまちま くり抜いていた。

ううん、家の精密カッターと違って、小回りが利かない…
なんて欲も有ったけれど、ギリギリ漢字の湾曲部分は普通のカッターでも表現出来ていたので、精密カッターを持ってこようとは思わなかった。

中でも秀逸な出来であったのが「○○県民」。
県民愛溢れる、赤いロゴシール。

これ、絶対喜ぶ!

そう思い、○○県民シールは親友の一人にあげた。
めっちゃ喜んで貰えたっけなあ。早速パソコンのハードにデカデカと貼ってくれてたっけ、懐かしい。

車体に貼る「セクシーカブ」のロゴも、自分でデザインした。
用意したのは、細文字の「SEXY CUB」と、カタカナのポップ文字。

「どっちが良いと思います?」

その場に居たM先生と国語教員に尋ねた。
M先生はアルファベット派、国語教員はカタカナ派。
私も内心、カタカナ派。

多数決でカタカナのカッティングシールを作り、カブのホワイトパールを残したカバーに貼り付け、仕上げに透明クリヤーを吹いた。

追加、カッティングの想い出。

何の熟語をレタリングしようか考えていた、ある日の放課後。
T先生から お題を渡された。

「これ、作って?」

渡されたのは車雑誌、ポ○シェのエンブレムを指さしていた。

何コレ…

今までの文字とは違い、圧倒的に描写が細かい。少なくとも、雑誌のサイズでは全く抜ける気がしない。

コピー機でハガキ位に拡大してみたものの、細部は潰れ接線が分からん。
中央に配された馬、背景の盾は4分割され模様が入っている。

ええー…無理。

思ったけど、T先生の つぶらな瞳に期待値が溢れていて、無下には出来ない。

やれるだけ、やってみよう。

用意したのは黒と黄色のカッティングシート。
拡大コピーしたエンブレムを黒いシートに貼り付け、くり抜き始める。

ぐぬぬ…

普通のカッターだと 細かいくり抜きがジャキジャキになる。

ぐぬぬう…

拡大コピーでは 模様の細部が分からない。

ぐぬぬぬう!

大元のコピーが細かく刻まれ、最早 原型すら分からない。

悪戦苦闘の末、くり抜いた黒い主線の土台に、黄色のカッティングシートを合わせ、誤魔化した。
全然 納得いかない。

物凄くブサイクな出来のシールを、T先生に渡した瞬間、思った。

別に一日で仕上げなくても良かったのでは…

特に期日は設けられていなかった。
工程を数日に分け、細部を明瞭に 主線を鉛筆描きし直し、家から精密カッター持って来るべきだった。

気付いたところで、後の祭り。
ブサイクなエンブレムはT先生が使っているノートの表紙に貼られてしまった。

そんな卒業してからも残りそうな所に貼んの止めて(泣)!!

あれ、マジで納得いってないんで。
もし、ご存知な方いらしたら、納得のいく出来では無い事、ご留意頂きたい。

てゆうか、記憶から抹消して(号泣)!!
⑮に続く──

母親は、アレ⑦

セカンドハイスクール 最後の冬休み直前の事。
二学期の終業まで残り一週間だったかな。

冷え込む朝、寝覚めに気だるさを覚えた。
なんだか顔が火照り、悪寒がする。

──ヤバ、熱出たかも。

どてら を羽織り居間から体温計を持ってきて、再び床に就いて脇に挟んだ。

…ピピピピ

────40度ッ!!?

雨に打たれようが雪に埋もれようが、滅多な事では熱を出さない 健康優良児であった、当時の私。
未だかつてない高温に度肝を抜かれた。

高熱が有ると分かった途端、起き上がれる気すらしない。
ドタバタ ギャーギャー騒ぐ母親の声が聞こえてくる。

どうも母親は寝坊したらしい。
小二の時、インフル掛かっても39度だった。40度なんて見た時 無いよ…

確か3日後には学校で卒業アルバムの写真撮影を控えていた。

ああー、流行りのインフルだったら どうしよう…

集合写真で ぽかん と浮かぶ、自分の顔写真が脳裏を過ぎった。

──そんな目立つ終わり方したくない(しくしく)

「○○!いつまで寝てんの!早く起きなさい!母ちゃん急いでるんだから!」

日々の億劫な やりとりであるが、私は寝転んだまま 震える手で体温計を差し出した。

「母ちゃん、熱出た」

なんだか意識も朦朧としてきた。
恐らく母親は目を しばたたかせ、体温計を覗き見た。

「あら、そおなの?」

なんとも間延びした言い方であった。

母親はさっと廊下を歩き、電話の受話器を持ち上げる。

「──おはようございます、○○です。子供が熱出しちゃったので、遅れます」

どうやら会社に遅刻の連絡を入れたようだ。

遅れるって、病院とか連れてってくれんのかな…

なんて、朧気に思ったもんだ。

「じゃ、母ちゃん仕事行くから。アンタ、病院行くんだよ」

バタンッ

玄関扉が閉まり、しいん と静まり耳が鳴る。

──あれッ???
私、遅刻の言い訳に使われた?…だけ!!?

母親は、高熱の我が子を置き去り、仕事に出かけてしまった。

ううう…

痛む節々、ヒリヒリと皮膚が衣擦れにすら過敏な状態。
病院、行かなきゃ…

悪寒が酷いが、沢山着込む余力は無い。
もそりもそり、とパジャマから洋服に着替えて上着を羽織った。

財布と保険証だけ握り、家から出る。

くらくら揺らめく霞んだ視界。
踏み締める道路は ふわふわと、まるで夢の中を歩いているようだ。

実家から最寄りの内科まで徒歩移動。
「熱が40度 有るんです」

受付で事情を話し、待合室室で問診票を記入しながら、再び体温計を挟んだ。

…ピピピピ

看護師さんが受け取りに来てくれたので、私は体温計を ぐったりしながら差し出した。

「42度!!?」

あ、なんか熱 上がっちゃってる。

「辛いでしょう!?ベッドに横になって待つ!?」
寝っ転がりたいけど、もう動きたくない。とにかく、じっとしていたい。

「ここで大丈夫です」

むしろ、この待合室のソファーに横になったらダメだろうか…

なんて事考えながら、座位のまま呼び出しを待った。

インフルに有効な治療薬が無い時代。解熱剤を処方され、明日再診に来るよう言われた。

買い出し行ってないから、家に食べ物 無いな…

まあでも、あまり食欲が無い。
コンビニに立ち寄り、1.5Lのスポーツドリンクだけ引っ提げて帰宅した。

パジャマに着替え、冷凍庫から保冷剤を出し、枕元にペットボトルとコップを置いて、やっとこ横になれた。

自分で自分の看病をする。と言っても

薬を飲み、ひたすら水分 摂るしか出来ない。

学校に休連絡を入れ、うとうと と時たまトイレに立つくらいで、その日は終わった。

翌朝。
土曜であるはずだか、既に家は もぬけの殻。

母親は年末稼働で休日出勤したのか、はたまた帰宅自体してないのか デートに行ったか。

まあ、どっちでも構わん。
解熱剤が効き、熱は39度まで下がり随分動けた。
インフルかも分からんし、念の為 バイト先には今日明日休む、と連絡した。

再び病院まで徒歩移動し、熱が下がったからインフルでは無い、と言われた。

良かったー…

後は熱を下げるだけだ。
私は何としてでも、集合写真 撮影日の月曜日は登校したい。
コンビニでスポーツドリンクとゼリーを買った。

家に帰った途端、猛烈に空腹である事に気付いた。

しまった、弁当も買っておくべきだった…

節々痛いし、体はだるいし。再び外出するのは億劫だ。

私は台所に立った。
小鍋に米と水、中華スープの素を入れ、火にかけた。

即席 中華粥を自分で炊く。
とにかく、食う。
食って、寝る。
それが、私に出来る最上の自分看病だ。

昔から胃は丈夫だったようで、食欲がすぐ戻ってくれたのは助かった。

地味に美味かったしな、中華粥。

粥を食べ、水分を摂り、ひたすら横になり、月曜日には38度台に落ち着いていた。

コレなら、何とか車も運転出来るな。
まだ若干 微熱に ぽやぽやする頭で登校中、思う。

意外と、独りでも生きていけるもんだなぁ。

大人になるって、こういう事なんだろうな。
先日、成人を迎えたばかりだ。自分の世話は自分でするのが筋と言うもの。

だがな。

健常な同居人が居たにも かかわらず、高熱を放置されたのは切ない限りだ。
こんな事が有ったのもあり、母親は放任主義なんだ、と勝手に解釈していた。
その解釈が、間違いだったと気付くのは、ここから十年後の話──

先日、いつもは母親が来る時に合わせて訪れる姉一号が、我が家に単身やって来た。

母親の居ない場での きょうだいの会話は、めちゃめちゃ盛り上がった。

姉も母親には苦労しているようだったな(しみじみ)

たまには こんな愚痴大会は、しないと溜まる。
半年に一回は。
いや、ココで随分発散してるんだが。

楽しかったよ♪
また、父の思い出、母親の愚痴、何でも お喋りしようね♪
姉二号も混じえて、きょうだい揃って語り尽くしませう!
⑧に続く──

セカンドハイスクールライフ⑮

毎朝、車のサンバイザー内側の ちっこい鏡で化粧する、OLさんみたいな生活を送っていた、学生時代の私。

いつもの様に運転席の鏡を覗き思った。

…うーわ、顔 脂ぎってるし。

卒業アルバムの写真撮影日。
38度強だが、動けているなら私にとっては微熱である。
シャワーくらい浴びてくるべきだったなあ…

思いはしたが、撮影時間も決まっているし、家に戻る時間は今更無い。

仕方なく、脂をペーパーオフして赤ら顔の上からファンデーションを塗る。
眉を書いたり まつ毛を上げたり。

…顔赤いし、チークは不要だな。

適当に化粧を締めて、車を発車させた。
渋滞にハマり学校には やや遅れでの到着であったが、集合写真には間に合った。

実習場に集まる三年生と教員達。

「○○!隣おいで!」

私を呼んだのは、学園の理事長。
最前に並んだパイプ椅子の中央に座し、隣の椅子を ぽんぽんと叩いている。

え…最前席、ヤダ。

少しは嫌々アピールをしたが、
押し切られ、学園長の隣に座った。

くうう…後ろの方で目立たないようひっそり立ってる予定だったのに…

最前中央と、空間に浮かぶ顔写真と、どっちが目立つであろう。

在学中は職員室に入り浸っていた私を、学園長は可愛がってくれていた。
フ○ラーリの真っ赤なツナギを外国土産にくれたりして。

何度か袖を通して、今でも保管してますよ✨

体調良い時なら、良き想い出だったんだがなあ…
嫌だよ。顔脂ぎってる上に赤ら顔なんだよ。嫌だよ。
座っちゃったら根が張り動かなかったけど。

ちゃんとしたのと、ふざけてるのと、数枚集合写真を撮った後は個人の写真撮影だ。
三脚カメラの後ろに立つのは、卒業写真担当の国語教員。
一眼レフを首に提げ、実習やイベント事で やたらめったら写真を撮っていたのを思い出す。

とりあえず、悪人面にならんよう微笑んで…

顔写真は無表情だと酷いもの。免許証の写真も、私は常に微笑みだ。

「うーん…笑顔が足りない!」

いや、コレで良い。今の表情が自分の中で最上に写りが良いんだ。

なんか よく分からんカメラマンスイッチが入った、国語教員。
とにかく手を尽くして笑かせそうとしてくるんだ。

──顔芸、止めれ!

最早にらめっこ である。

笑うものかー!!

「…あははッ」

根負けした。
つい、笑ってしまった。

カシャッ☆

そして、爆笑する様をバッチリ写真に押さえられた。

卒業アルバムの私の顔写真は、とにかく酷い。
上から何度、イケ顔のプリクラを貼ってしまおうかと思ったもんだ。

そんな黒歴史な卒業アルバム。
今日こそ、発掘するぞー☆

…正直言えば、その写真がある所為で見たくないんだけど。
──ええ、顔写真は私史上一二を争うブッサイクさでしたよ(遠い目)

集合写真の素敵な笑顔の学園長の隣で、死んだ顔してる私が地味に笑えた。

意外と写真少なかったなあ…
小見出し作るほど記憶も戻らなかった。

ツーリングでは「ああ、あっこ行ったな~。あの坂道 楽しかったな~」とか断片的。

ああ、そうだ。あの坂道。

しばらく親友らに坂道の話ばっかりしちゃうくらい楽しくて、個人的にも何度か行ったな。

軽トラ運転するM先生と一緒になって、めっちゃテンション上がった。

前方を大きなバスが走ってて、タイヤが崖ぶちギリギリでカーブしてるのとか、二人で「凄えな!」て話してた。
こうやって語り出すと、記憶も少し甦るのか。

酷かったのが、潮干狩り。

『潮干狩り』ってマジック書きされてるのに、貼られてる写真は一枚。
それも、周囲を切り抜かれた、私の単独ショットのみ。

いや、足元の砂地に熊手 刺さってるし ビーサン履いてるから、なんとな~く潮干狩りかと思うけど…
え、私しか参加してないって事は無いよね?
みんな居たよね?潮干狩り、行ったよね?

捕ったアサリは一つ網袋 買って、砂抜きして酒蒸しにしたのは思い出したんだが…

怖いくらい周りに学友が居た記憶が無いな。

学校行事では無いが毎年、任意参加でモーターショーにも見学に行った。要は、遠足だ。
「○○!あのブース行ったか!?学校名 書くとコレ貰えるぞ!」

M先生の手に持たれていたのは、500ml位のコンパウンド(研磨剤)のボトル。
買えば そこそこな値段の量である。

わ、めっちゃ欲しい!
けど、私が学校名使っちゃっても良いんだろうか…

「貰っとけ、貰っとけ。ここはな、貰う所なんだよ」
若干の遠慮は有りつつも学校名を書き、目当てのコンパウンドから金製の巻尺やら、試供品やアメニティをゲットした。

解散時間には結構な量の荷物になったな。
特にM先生・K先生・T先生の荷物量が半端なかった。

解散後は近場の砂浜で学友らと遊んだり、ご飯食べて花火したり、遅くまで遊んだもんだ。
卒業アルバムを見ていて気づいたのが、写真の9割が曇天。
晴れ間の写真は2~3枚。

それを見ていて、いつだったかK先生がボヤいたのを思い出した。

「あー…今日 雨降らなくて良かったー」

空は黒い雲が厚く重なっていたが、ギリギリ雨は降っていない。

「俺さー、なんか いつも雨降るんだよね」

──お前か、雨男!

いや、本当。入学式からイベント関連 全てが曇り。
なかなか、こんなに曇り空な卒業アルバムも無いんじゃないかな。と思うと、貴重な体験であった。

楽しかった想い出の一部は小説に落としたので、このくらいかな。

また 何か思い出したらば、語るかと思います。
⑯に続く──

就活①

現在迄に幾度か経験した人生の岐路、私の就職活動歴を失敗・成功 絡めて記しておこうと思う。

学生時代のバイトは特に苦労も無く、白紙の履歴書でも一発採用、期間も短期で複数ある為はぶく。

─17歳─

最初の高校を休み続けた引きこもりの年頭。
中退する、と決めたので 働こうと思った。
実家で母親に口を酸っぱくして叩き込まれた“家訓”が幾つか有る。

その一つが、
『働かざるもの食うべからず』。

全くもって その通りだと常々 思っていた、当時の私。
地域新聞の求人欄を眺めていた。

目を引かれたのが、動物園の飼育係。

うわ、コレめっちゃやりたい✨必要だと思っていた物理を捨て、生物を選択した程だ。

早速 履歴書に、生き物好きで高校の生物テストでは先生の配点ミスで101点を取ったエピソードを記し、学歴欄に“中退予定”と書き郵送した。

一週間後、届いた通知は“不採用”。
通知にはメッセージが追記されていた。

『高校は、行きなさい』

デスヨネー。

なるほど、中退“予定”としてしまうと大人は心配するんだな。

中退は自分の中で確定していたから、履歴書に“中退”とズバッと書き、近所の数階建てスーパーの大規模募集に応募した。

面接では配慮から高校の話も無く、採用。
特に希望の部署は無い、と告げると、生鮮部門に配属された。

─21歳─

セカンドハイスクール三学期。
三年に進級してから 特に就活という就活はしていなかった、私。

いい加減 就職先 決まってないと…

3月には卒業だ。
学校居るうちに決まらないと、免許証以外の資格を持たない私は、不利になる。

いや、在学中に危険物とボイラー取る予定だったんですがね…
公務員試験も全力で落ちたし、どうするかなあ。

とりあえず、当時のバイト先は契約期間満了で辞め、本腰据えて就活することにした。

学友達は チラホラと就職先や進学先が決まっている。
だが、なんでだか私に焦りは無かった。

まあ、なんとかなるだろ。

能天気が快晴である。

就職担当の職員と、初めてハローワークを訪れた。
書面に登録情報を記入し、検索端末の使い方を教わる。

「じゃ、気になる所有ったらピックアップして」

就職担当が離席し、私は端末をポチポチめくる。

──ううん、資格無し未経験では、整備関係は難しいか。

まず自動車関係の職に就いて、整備士の資格を取らねば。
検索範囲を広げ、ひとつ私でも出来そうな職がヒットした。

パーツショップ裏方の倉庫番である。

あわわ?あの、楽しいパーツショップか✨品の荷捌きに従事していたのも有り、かなり乗り気だ。

連絡してみると、まだ募集中だったので、早速 面接予約をした。

面接当日。裏方だけど、一応リクルートでは無いが上下スーツで赴いた。
何故か、就職担当の職員もスーツ姿で同席した。

いや、そんなに心配?? 私…

今後の生徒の為に面接事情のリサーチも兼ねていたのかな。

D社 倉庫の来客室。

「どうぞ、お座り下さい」

作業着姿の面接官の対面に 就職担当と並んで座り、渡した履歴書を見ながら型式的な受け答え。
一連の流れが終われば、質疑応答のフリータイムだ。

始終浮かない顔をしていた面接官。

しまったな、倉庫にスーツ二人は浮いてる感がする。制服のツナギで来るべきだったかな。

「ウチはね、新卒の若い子が来る所じゃないんだよ」

やはり。

「もっとこう、定年近い おじちゃん や おばちゃん が働いてる所でね。話も合わないかと思うんだよね」

その点は私、同年代より年長者との話の方が弾むから心配無いんだが…証明出来んな。

「まあ、力仕事なんかは若手も欲しいから…」

倉庫で働く意思が有ったら 一週間以内に連絡をするように、と言われ その日は解散した。

あ、そういうパターンも有るんだ。

パーツショップの夢の国的ベルトコンベアーに 大好きなダンボール箱・車の部品と共に働くかは、完全に私 次第。

いや、めっちゃ悩みましたよ。
歓迎されてないんだもの。
ううん、良く思われてないのに お給金貰うのもなあ…

なんて思ったりもしたが 一番の決まり手は、D社の車に乗り換えねばならん事だった。

愛車がT社のうちは良いんだが、新車を買うつもりでいる私にとっては大問題である。

何故なら当時 私、顔が可愛いH社のコンパクトカーが欲しかったのだよ。

言うの忘れてた(汗)
この話、数十年前の出来事なので、現行どんな状況かは分かりかねます。ご留意下さい(礼)

一週間後、私は お断りの一報を入れた。

再び求人案内と にらめっこだ。
自動車関係は無理だな、コレ。

福利厚生や正社員登用に範囲を広げまくり、時給が破格であった遊技場に目を付けた。

学校を介すまでもない。
個人的に連絡して、平服で面接を受けた。
まず、バイトで仕事を覚えてから社員を目指す流れだ。

「新卒とるなんて初めてだよー」

副店長の方が緊張なさっていた。

いえ、私自身 新卒とは思ってませんが。

こうして、私はフリーターしながら資格取得をする道を選択した。
後日、学校の職員室にて。

「もう この学校に務めちゃえば良いのに」

て、言われた。

そういうの、もっと早く言って。

大好きな学校で働くなんて夢の様じゃないか。

遊技場のバイトは決まっちゃってるし、しばらく社会勉強してから戻って来ようかな。
なんて、当時は考えたものだ。
②に続く──

セカンドハイスクールライフ⑯

楽しかった第二の高校生活。
締めは“卒業”である。

入学式には金髪が大半を占めていた3期生も、卒業式には学年全員 黒髪になっていた。

年度初めに先陣を斬って金髪を黒染めした私に続き、学友の頭も黒く落ち着いて行ったのは面白かった。

私は卒業や就活を意識して髪を黒くした訳では、無い。

暗に、その時期始めたバイト先が茶髪禁止だったから。
と いうのは、内緒だ。

結構 重役登校が多く出席時間足りてない気がして、いつも
「私、本当に卒業出来たっけな?」
と不安になるんだが、卒業証書が残っているから、最終学歴 高卒だ。多分。

卒業証書が二枚、履修賞・特別賞が写真館の様な立派な装丁に納まっている。

履修賞は覚えがなかったんだが「バイクの塗装技術を習得した」と、ある。

え…あの、海老茶の事ですか??
それとも、ショッキングピンクの事ですか???

どちらにせよ、生涯トラウマは失せない仕組み…
全く、良い証書を作ってくれたもんだ。

そういえば、かなり終盤になってから職員室で支払いをしに来た学友を見た。

何の支払いかとK先生に尋ねれば、「車を塗り替えた塗料代」だと言う。

「これ、全員払うんですか?」

「うん、全員払ってるよ」

え…私、愛車のバイクも車も、修理した時使ったパテに塗料他、材料代 払ってないんだけど…

学校の実習以外のプライベートな塗装なんかは、材料費を払わねば いかんらしかった、んだが。

結構前の事で何をどの位使ったか覚えてないし、請求されてないしなあ…

結局 私、未払いのまま終わってしまったんだが、良かったんだろうか?
S女史に「アイツ、払わねえな。」て、思われてたんだろうか?
卒業式後、実習場で最後の業務手伝いをした。

学年全員のツールボックス、中身の整頓である。

あ、この工具一式、学校の備品だったんだ。

てっきり貰えるもんだと思っていた、私。
内心めちゃめちゃガッカリしてた。

だってさ、これだけの工具 自力で揃えようとしたら、なかなかですよ。なかなか。
最初に先生が言ってた通り、工具が失せたり 複数混ざってたり。皆、適当。
揃えられる箱は一式入れ直し、揃えられない箱は何が足りないか書き記していく。

最後の最後、工具箱に書かれた各人のマジック書き氏名やら 落書きやらを、上からガンメタで塗装するM先生の横顔は、なんだか寂しそうに見えた。
因みに卒業してからも半年位 、用も無く仕事の休日に手土産持って職員室に遊びに行ってた私。

突然行かなくなったのは、家出したからであります!てへ☆

人生に迷う子供達に、この言葉を送る。

You can do it!

これ、合言葉のように皆で使ってたらしいんだが…

一文字も記憶に無いのは、内緒だ。

就活②

参考資料『(4)どうでもいい話』の、過去エピソード開始点のリンク一覧
https://note.com/yukipochi_2022/n/nb97adb28e44f

─22歳─

ワンダーワールド、汚部屋先輩宅居候時代。

若さゆえ上司と喧嘩して勢いあまり辞めてしまった、あの時だ。

それまで月給はバイトだが 新卒初任給を遥かに凌ぎ、僅かに備蓄が有った。
それでも 学費・自動車ローン・保険料等+生活費を差っ引くと、二ヶ月後には預金が尽きる。

新しい職の給料日が ひと月後として、猶予は一ヶ月。

これまで苦労という苦労も無く職に恵まれていた私は、持ち前の「なんとかなるだろ」精神だった。

初めて人生における壁にぶち当たったのが、この時だ。
“苦学生”というブランドが剥がれたのは、大きい。

社会に出てしまえば、私はこれといった資格も学歴も無い、ただのフリーター。
余程の強運が無ければ、直接、正社員の中途採用を狙うのは無謀過ぎる。

そんな事も知らん、世間知らずな私。

求人募集の「未経験」コーナーを重点的に眺めていた。

あ、これ良いかも✨

見つけたのは、タクシードライバーの募集広告。
未経験者でも二種免が取れるまで指導してくれる、願ってもない業態だ。
車の運転が好きだった私、早速 連絡して面接予約をした。

面接官の おじさま と話が咲き、軽い運転試験を受けた。

コラムシフトでは無いがク○ウンのMT車。
車幅は私の愛車より一回り大きい。

おおお、タクシーっぽい✨

いつもの癖でドアを開けて枠線を確認してしまったので再試験、再度 ドアを閉じたまま ミラー確認で駐車し直した。

結果は問題無く、採用。

わりとすんなり職に就けたな。

と、思ったら大間違いだ。

一週間後、初勤務の日。
私を待ち受けていたのは、おじさま二人。
面接をして下さった おじさまは浮かない顔をしていた。

来客室で、対面で席に着いた。

重々しく口を開く、おじさま。

「申し訳無いんだけどね、今回は見送ろうと思って」

──はい!?

言葉は悪いが、まさか勤務初日にクビを斬られるだなんて思いもしなかった、私。

言葉を失った。

当時タクシー業界はおじさま中心。
歳若いドライバーは ほとんどおらず、加えて犯罪が凶悪化しつつ有った業界。

防犯の観点から、若過ぎて心配だから、歳をとったら また おいで。との事。

そういうの、もっと早く言って。
電話でも良かったのでは。

と 思ったのは、内緒だ。

対面で言葉を伝えようとしてくれた お心意気には頭が上がらない。
ひょっとしたら、私の所為で今日の今日まで悩ませてしまったのかもしれない。

歳を重ね今現在は丁度いい頃合だが、運転出来なくなってしまった。
私なんかを「また歓迎して下さる」と仰って下さったのは、本当に有難い話だ。

この場を お借りして、御礼申し上げます(礼)✨

猶予のうち一週間を丸々、消費してしまった時間は戻らない。
流石に ちょっと焦りが出始める。

帰り道すがらコンビニで求人雑誌を買った。
なんとしてでも正社員雇用されたかった、当時の私。

自分がやりたい事よりも、地に足着けたい思いが強かった。

近所の菓子店で 正社員募集されていた。
勤務地が徒歩圏だなんて、素晴らしい。
直ぐに面接予約をした。

バックヤードが無いので、喫茶店で面接。
若い社長が直々に面接を行ってくれた。

何を隠そう、この社長。
全く見ず知らずの初見の私にダメ出しをしてくれた、有難い程に奇特な方だったんだ。
星の巡り合わせに感謝。

まず、履歴書から見てくれた。

私が用意した履歴書は、左側の経歴欄は埋まっていても、右側の資格から特技・長所短所欄なんかは、書いても一言 ほぼ白紙。
経歴には学生時代の短期バイトから直近まで全ての職歴を記載していた。
私は全てが経験と思っているからだ。

「あのね、三年未満は経験とは言わない」

衝撃的な言葉だった。

「こんなに細々書くと『直ぐに辞めちゃう子なんだな』て思われれるよ。現に僕もそう思ってる」

そうか!ごもっともです!

「正社員になりたいなら、志望動機は三行以上 埋めなさい」

正社員なら何でもいいと思っていたから、その菓子店で働きたい志望動機なんて無かった。

あ、書かないとダメなんだ、この欄。(常識です)

社長が差し出したボールペンで、私はその場で どうにかこうにか履歴書に志望動機を三行書き込んだ。
最後に言われたのは、まあ時代錯誤のハラスであったが、店舗には置けないけど 商品を作る製菓工場なら雇っても良い。
働きたければ一週間以内に連絡しなさい、との事。

oh…

再び、私発進のパターンである。

やっぱり、もの凄く悩みましたよ。
だって、めちゃめちゃ叱られた後なんだもの。
工場は車で通える範囲だったけど、直前の勤務地の近くであった為 バツが悪かった。

「ちょっとなあ…」と思い、有難い訓示だけ頂戴して、その菓子会社は お断りする事にした。

その後私は 履歴書の書き方を改めて、学歴中の空白の期間だけバイト先を記入するようになる。
右側欄も出来る限り埋めた。

とりあえず、バイトから始めて正社員登用の有る募集を重点的にさらっていった。

方方 面接を受け、その中に写真館のアシスタント募集があった。

カメラマンの お手伝いなんて、面白そう✨

中学時代 少し写真に凝っていたのも有り、乗り気であった。
やる気があれば、カメラも持たせてくれるらしい。
面接の感触も良く、採用の場合は一週間以内に連絡する、との事。

猶予までちょうど残り一週間。

その写真館で働きたい。
決まりそうなのも有り、どう動いたものか悩んだ。

今、他を受けて もし両方決まってしまったら、どう お断りをすべきなんだろうか…

なんて、変わらず能天気が晴天である。
私は数日、連絡を来るのを待つ事にした。

だが、なかなか連絡は来ない。

ズルズルと時間だけが流れ、とうとう面接してから一週間目の日が訪れた。

ああ…ダメだったかあ…

明日にも働き出したい私は、小売業のバイト募集に連絡した。
急募だったらしく、連絡当日 面接を受ける事になった。
至急、埋めた履歴書の要望欄に「即日勤務可能」「社会保険希望」、ついでなんで時給から逆算した最低労働時間以上と勤務希望時間帯 なんやかんや を書いたら、枠がいっぱいになってしまった。

うわ、書き過ぎたな…

思いはしたが、書き直す時間は無い。

私は我欲溢れる履歴書を引っ提げ、家を出た。
店舗の有るショッピングモールの喫茶店で面接。
小さいコーヒーを おごってもらい、対面で席に着き 履歴書を渡した。

面接してくれたのは店舗回りの営業の方。
封筒から履歴書を出して開いた瞬間

「うん、採用」

と、言われた。

え!? 早くない!!?

特に問答も無く会話も挨拶くらいしかしていない。

「私はね、第一印象でとるかとらないか決めるの」

あ、履歴書関係ないんだ?

「何人も面接してきたけど、この要望欄がこんなに埋まってる子は初めて」

おっとぉ、思わぬ所が評価された。

「面接で『何でもできます』みたいに言ってても、絶対後々『その日は…』とか『その時間は…』になるのよね。
それで『やっぱ希望に合わない』て辞めるくらいだったら、最初からガッツリ要望言ってくれてた方が助かる」

あ、そういう場合も有るのか。

この方は、稀なとても正直な方であった。
要は最近の雇用状態に辟易となさっていたんだ。

これも、星の巡り合わせだろうな。
私の要望と合致したんだ。
一応、他にバイトした事有るか聞かれたので、全部口頭でお伝えした。
その方は履歴書に直接全部メモ書いていた。

他店へ ヘルプに出れるか聞かれ「出れます」と答えた。

「じゃあ、明日は店長休みだから、明後日から出勤出来るかしら」
「出来ます!」

即答した。

残りの時間は世間話が弾んだ。
採用されたその足で、営業さんと共に店舗へ挨拶にうかがった。

「私この店長が可愛くて可愛くて、店長を守ってくれる存在が欲しかったのよねえ」

「やめてよ、も~。そういう紹介するの~(照)」

なんだか、女学校の様に きゃぴきゃぴした所へ来てしまったな…

と 思ってたのは、内緒だ。

営業さんより一回り歳上っぽいが、実際、乙女力溢れる店長は可愛らしかった。

何か知らんが頼りにされたのは嬉しい限りで、私も店長の為に頑張るぞ!と意気込んだものだ。

結局、その店長に逆に可愛がってもらえて お世話になりっぱなしであったんだが…これは別の話か。

職が決まり安堵して帰宅。

数分もしないうちに、携帯が鳴った。
パカッと開けば、先日面接した写真館の表示。

おお、不採用通知をわざわざ入れてくれるだなんて、律儀だな。

思いながら電話に出た。

「連絡遅くなり、申し訳ごさいません。今回は…」

うん、うん。

「採用という事で」

──えッ!!?

聞き間違いかと思った。

えええ!!? どうしよう!!!

考えていた事態が発生した。しかも、間の悪い事に別口が決まったのが ついさっきの話である。

瞬時に解答を決めればならなかった。

小売側は人手に困っていて、直ぐにでも働いて欲しくって、何より あんな裏事情な会話した後で断るなんて人でなしな事、私には到底出来ない。

「──ごめんなさい、ついさっき他の所が決まっちゃったばかりで…」

くううぅ…カメアシ…!!

こうして、私はフリーターとして、興味のあったカメラマンでは無く、苦手な接客、売り子の道を歩む事になったのである。
③に続く──

接客苦手

こおんな誰とでも お喋りしちゃう人間が“接客苦手”だなんて、信じられない方も いらっしゃるかもしれない。

いいえ、めっぽう不得手でありますよ“接客”に関しては…

接客ってね、思ってもない言葉を言わねば いかんのですよ。

例えばアパレルなら、試着室から出られた お客様に対して
「わぁ✨お似合いですね✨」
みたいな事 言うんですよ…
要は、嘘です。嘘つかねばいかんとですよ…

私に言えると思いますか!?思わんでしょ!!

そりゃあ確かに本当に合ってらしたら「可愛いですね♪」「お似合いですね♪」出ますけど、大概そんな事無い。

心にも無い言葉は頭に浮かびもしません。

商品の良さは全力でアピール出来ても、その商品が本当に お客様に必要かどうか考えちゃうんですよ。
その度、言葉に詰まります。

無理に売りつけるような接客は、私にとって もの凄いストレスなんですよ。

“会話”と“接客”は、別物なんです。

お分かり頂けますかしら。

目撃・通報談③

寒風吹きすさぶ真冬の話。

当時の職場は24時間の郊外型ショッピングモールのテナント。
専門店側の閉店は23時。
平日は帰宅時間の夕方~閉店に掛けて売上が立つ お店。

その日は遅番で一人お店番をしていた、私。
極めて珍しく、書き入れ時なのに来客も無く館内も閑散としていた。
天気予報 雪だるま だったし、降り始めたかな。

なんて思いながら、とにかく じっと出来ない当時の私は、あくせく商品棚の清掃を行っていた。

──ドオンッ!

何事!?

空気が揺れる程の轟音に顔を上げた。
まるで重たい什器が ぶっ倒れでもしたかの様な音だった。

店内を見渡し、安全確認をする。

──お店の中の音じゃないな。

別のところで大荷物を積んだ台車でも倒れたか。
とりあえず、自店内では無いので 私は再び什器の合間にしゃがみ込み、清掃作業に戻った。

「あのぅ、すみません…」

しまった、お客様の入店に気付いてなかった。

「あ、いらっしゃいませ!」

慌てて立ち上がる、私。
駆け寄ると、マダム風の ご婦人は片手を振り振り。

「あ、客ではないんです。あのぅ…」

何だろう、道でも尋ねたいのかな。

「今、不審者が壁を殴って壊して行きましたよ」

──はい!!?

大慌てで ご婦人が指さす店舗横の通路に出ると、塗り壁に60cm程の大穴が。

何だと!!?

閑散とした広い通路に飛び出し、左右を見て不審者を探す。

今の今だ。まだ逃げ切って無いかもしれない…!!

左手に頭を振り、目を瞬かせた。

私から30m程だろうか。
白いランニングのヘビー級なマッチョの背筋。

──いや、犯人お前だろ!!!

この寒空の中、手ぶらで悠々と館内通路を行くランニング姿は異常である。
だが、私は犯行現場を目撃した訳では無い。

あのランニングが犯人か ご婦人に確認せねば…

と 振り返ったが、ご婦人の姿は自店内にも通路にも無かった。

──失敗した!留まってもらうよう頼んでおくべきだった!!

思ったところで後の祭り。

くぅぅ、走ればランニングに追いつけそうな距離だけど…

私は再び50m程先のランニングを見据え葛藤した。

追いついて肩を叩いて「今、壁壊しましたよね?」と尋ねて、正直に自白するものだろうか…

それより、駆ける足音に気付かれて 逃げ始めたら追いつけないかもしれない。

ていうか、あのヘビー級マッチョが逆ギレて抵抗したら、ワンパンで死ぬな、私。

私はレジカウンター内に走り、電話の子機を持った。

間に合わないかもしれないけど…!!

モールの警備に電話しながら、再び通路でランニングの背中を目で追った。
警備員に進む方向、向かう出口を伝え、ランニングの姿は見えなくなった。

ううう…

何も出来ない自分が悔しくて歯噛みする。
ボコンと凹み壊された壁を観察した。

隣の壁から1m幅、表面は塗料が吹き付けられ厚みのあるコンクリート壁のように装ってあるが、中身はセメント板のハリボテだ。

とりあえず、警察に通報しなきゃ…

厄介な事に、そのモールはテナントから直接の通報は禁止。
デベロッパーを回せねばならなかった。

まあ でも よく考えたら、店舗からは外壁の、バックヤードに続く通路の壁なんだから、モール側が通報するのが筋ってものか。

なんて思いながら、壁の穴を見ながらデベロッパーの事務所に電話した。

電話の子機を握り締め、レジカウンター内で じっと待機。

しばらくして、事務所から着信が来た。

「店舗の間取り図を見てるんだけど、どうも その壁、そちらさんが付け足した部分なんだよね」

なんと。

「保険入ってるだろうから、壁を直すのに証書が要る。至急、取り寄せて」

おっと。

「警察にも連絡したから、閉店後に聴取有ると思う。残って協力お願いね」

マジか。

間もなく閉店の22時。
当時一介のバイトである私。
店舗の保険なぞ知らん。

開店時間に合わせ、早番の店長は既に就寝しているであろう時間。
引き継ぎするにも厄介過ぎて、書き置きやメールも はばかられる。

ここは私が動くしか…

時間的には常識外だが緊急であるし、私は当時店舗回りの初老の営業さんに電話を掛けた。

「夜分遅くに申し訳ございません。実は…」

子機で通話しつつ通路に出て、穴の空いた壁を見つめつつ、事の顛末を話した。

ほんのわずかに1m幅。
隣の色の違う壁を小突いてみれば、コツコツと中身の詰まったコンクリート。

何故に こんな不要な壁を付け足した…???

なんて、不思議に思ったものだ。
めちゃめちゃ驚いた営業さんは、保険証書を探して再び連絡をくれるという。

大事だな。

その後、警備を強化した見回りの警備員さんやら 事務所の方やらと会話をして、気付けば中閉店の音楽が館内放送で流れていた。

──ああ、今日お客様 居なくて良かった。

平常時はレジから出られない程忙しい。

いや、閑散としていたから事件が起きたのでは。と、今思った。

店内照明を落とし レジ上だけ点け閉店作業。
レジ締め、提出物作成、入金に店長への書き置きなんかして、荷物をまとめ 帰り支度をしてレジカウンターに両肘着いて警察の方を待つ。

通路では幾人か事務所の方と警察の方で聴取している。
その間、私も保険証書を探し出した営業さんやら 事務所への連絡やらで電話が途切れない。

──私、今日 帰れるかな…

時間は24時過ぎ。そろそろ終電が心配な時間。
駅前のビジホに行くか ネカフェに行くか、迷い出した頃。

警察の方がバインダー片手に来店なされた。

「いらっしゃいませー!」

あ、つい癖が。

警察の方に再三他方に話した顛末を話す。

「そこに防犯カメラ在るでしょう。その画像もチェックしてきたんだけど…」

安心材料に捜査の一部を教えてくれた。

コマ送りの防犯カメラには確かに、壁の前に立つ白いランニングのマッチョが立っていて、次の瞬間 穴が空いていたそう。
その後、通路に飛び出してきた私の姿も映っていた、という。

私の姿な情報は要らんのでは。

と思ったのは、内緒だ。

ようやく解放された頃には、どっと疲れが押し寄せる。

終電無いかもだけど 一応 駅まで見に行ったら、電車が遅れていてくれたもんで、その日は帰宅する事が出来た。
④に続く──

誤記
セメント板 ✕ → 石こう板 ○

就活④

これは就活とは若干ニュアンスの違う、バイトから正社員への道。

バイトとして入社して蓋を開けてみれば、なんて事はない。
初年度、正社員登用制度は有るには有ったが、推薦式。

売上上位の店舗で、かつ営業さんから社長にまで名が轟かない限り、正社員にはなれない針の穴程の狭き登竜門。

勤務する店舗は中の上、ましてやペーペーの新人が狙えるものではなかった。

新卒は毎年採ってんのになあ。

なんて思いつつ、接客が大の苦手な私の正社員への意欲は薄れて行った。

それよりもモール側の設備部署、建物内の高い場での電球取替えから清掃にまで、強い憧れを抱いていた。

これぞ職人。
自店内で脚立に乗り降り高所作業に勤しむ私に、設備の方々は結構 声を掛けて下すった。

だが、いかんせん おじさまが主体の部署。
トラウマである年齢の壁が高い。

経験も無い私、電気工事士なんかの関連深い資格を取らねば、多分また二の舞になる。

なんて、就活にも臆病にもなっていた。

─25歳─

前年度より、既存スタッフの正社員登用が立ち上がった。

当時、本社の方々とも ちょいちょいで顔見知りであった私。
初老の営業さんにも気に入ってもらえていて「正社員なりなよ!」と強くプッシュされた。

接客を長く続ける気は、無い。

経験と呼べる三年経過したら辞める予定であった。
断り続け、バイトのまま副店長の役職だけ頂戴した。

噂によると、予定されていた面接や試験は行われず、推薦状のみで登用されたらしい。

受けなくて良かったあ…

なんて、胸を撫で下ろしたものだ。

翌年。

直近、ヘッドハンティングで中途採用された課長が営業になった。

声を交わす事も無い。
店長ばかりとミーティングに行かれ、私はお店でお留守番。

店長は正社員をプッシュされ、とうとう試験を受ける話になっていた。

私は全く箸の先にもかかってない。

ここまでスルーされると、逆に持ち前の負けん気に火が点いた。

歳は25歳、中学時代に作った人生計画では終わっている。

三年以上勤めるのなら、正社員になっとこう。

私は社内メールで来た正社員登用試験案内に、個人で応募した。
前年度の反省からか、今年度は ちゃんと試験が行われるようだった。
応募には、レポートを一部添付する。

お題は「10年間の自分像」

oh…

10年置きに人生計画立てねばいかんのかな、と思った。
私に接客は向かない。続ける気も無い。
備品倉庫に異動したかった。

だが、正社員を狙うには店舗を担える事が最重要課題だ。

悩んだ末、商品に目を付けた。オートクチュールや商品開発、加えて店舗開発。

私は“職人”になりたい。

とにかく接客から遠ざかるシナリオを書いたが、半分も埋まらない。
流石に短すぎるよなあ…

そう思い、最後は我欲で埋めた。

「とりあえず、家は買っていたいです」

うん、酷いな。

思ったけど、私らしさは溢れんばかりなので、その10行程のレポートを添付して送信した。

結果、一次通過。

──何故に…???

よく分からんが、何かが評価されたらしい。何がだろ…

二次は本社でお偉方方と一次通過者と集団面接。

「社長は数字が好きだから、売上を頭に叩き込んだ方が良い、ですって」

店長から裏事情をリークして貰えた。
こういう人脈を得ている方が直属で、本当に恵まれていたと思う。

私は過去一年間の月間売上表を印刷し、勤務の空き時間にひたすら眺めた。
面接当日。
役職の違う店長とは別日であった。
初めて訪れた小さな数回建ての本社ビル。

近隣店舗の副店長が同日であった。
ヘルプの往来で顔見知り、社員になることを熱望している子だ。

「おー、○○!来たかー!」

なんて、私は本社に入るなり昔の営業さんやら本社の方やらが声を掛けてくれた。

いや、後ろの あの子にも声掛けてあげて…?

後ろ目に緊張からか覇気無く黙りな副店長を見た。

面接順に用意されたパイプ椅子に座れば、副店長とは隣の座席。

嫌な予感がする…

5対5の集団面接。
呼ばれ会議室に入れば、社長を始め お偉方の会議机を挟み、5脚の椅子。

副店長とは真隣であった。

嫌ー!知り合いと面接同じなんて嫌ー!

心の中では悲鳴が上がる。

ああ もう…知り合いが試験を受けた事を知ってるだけでもハラハラするのに、受け答えた内容まで知りたくないし、知られたくない…

気が気でない。

お偉方一人一人が指名制で問うてくる内容に、隣の副店長はハキハキ応答している。

凄いな。

お茶を濁した回答しか出来ない私には羨ましい。

こういう子が社員になるべきだよな。

なんて、自分の意欲は どんどん しぼんで行く。

社長の手番。
やはり数字系で攻めてきた。
これまで自信の無かった私にも、真面な回答が出来る…はず。

先に副店長が指名され「客単価」を聞かれた。

「分かりません!」

──ええ!!?
そこ、力いっぱい言っちゃダメー!!!

売上表には客単価も表示されている。覚えるだけの簡単なものだ。
期間は指示されていない。推測でも何かしら当たりそうなのに。

それを…それをー!

面接の練習はすれども 帳票の勉強しろ、とは言われなかったのかも知れない。

他人事で卒倒しそうな私に、社長は質問を投げてくる。

私、今それどころじゃない。

思いはしたが、息を整え清聴する。

「直近3ヶ月の平均売上高と平均予算達成率」

──え。

なんか突然ハードルが跳ね上がった。

期間指定で売上表を出せば軽い計算で数字は出せるが…

私が見ていたのは各月のみ。
いかん、考え込んで黙ったら終わりだ。

私は咄嗟に「この月の売上と予算が…」と各月の数字を口に出しつつ、その間に暗算した。
暗算力の低い私。
「おそらく、この位」と付けて回答した。

やっちまった感がデカい。

最後に質疑応答。
順繰りに質問の中、三番目の私は 同じ質問が出ない事を願った。
内容は忘れてしまったけど、私は「これは言いっこなしよ」的な質問をした。

評価としては裏目に出る可能性が激高だが、マイナスでもインパクトは残せる、と踏んでの事だった。

私の質問に お偉方が目を見開いて顔を見合わせ、うち耳を立てた。

──してやったり。

「あー、その件はね考えさせて」

部長からは そう言われた。

結果 落ちようが、会社に一石投じられたなら本望だ。

完全に社員になる気は失せていたから、こその、言動に他ならない。

とりあえず冷冷な面接は終わり、前の営業のおじさまと本社の方 数人で お昼を食べてから帰った。

──うああああああ!!!

思い出しては発狂したい。

数日して届いた通知には、桜が咲いていた。

──何故に???

私は正社員へと駒を進め、隣店の副店長は一回やすみ になった。

私 辞退するから、あの子 社員にしてあげてくんないかな…

なんて、もの凄くバツが悪かった。

──後日談

「いやあ、凄いよ!」

課長が掌を返したように話し掛けてきた。

「応募したって聞いてハラハラしてたんだけど、まさか受かるとは。鼻が高い!」

満面笑顔で褒め称える、課長。
目尻にはシワが寄り、さも心底笑っているような顔をしているが、目の奥の奥が笑っていない。

──うさんくさい。

この人は、たぬき だ。

「話を聞いて、慌てて調査書作ったんだよー!」

調査書…??
何それ、そんなの聞いてない。

お受験の願書に添付する先生が書く生徒の評価書のようなもの、アレを社員試験に応募したスタッフの営業さんらは作成に勤しんだのだという。

この人にとっては、私は新店のガラスを割った人間としか認識無いはずだ。
そんな人間の調査書、書ける訳 無い。

あ。
お礼参り的なアレではないですよ!アクシデントです!
新店の設営ヘルプに行って、最後の最後に什器のレイアウト調整で、ガラス棚板をぶっけてパーンッ、て二枚…
しこたま謝りましたし、給与からガラス代差っ引いてくれ、て願い出ましたよ。
…請求されなかったけど。

良くは思われてないんだ。
話を聞けば、やはり情報不足で ちっとも書けなかったから、以前の営業さん達等に私の話を尋ね回ってくれたそうだ。

それで作った調査書が、A4用紙3枚だそう。

…私が書いたレポートより、全然多いんだけど。

つまり 私が社員試験に合格したは、課長の尽力であった可能性が極めて高い。
知らんけど。
この課長とは直属の部下として きつね…もとい ハブ と たぬき として数年、腹の探り合いをしながら職務に当たる事になる。

通常有り得ないほどの目まぐるしい程の駆け足な経験を積ませてもらった訳なんだか…

その話は、まあ、気が向いたら、ね。

翌年度からは推薦式に戻ってた。
⑤に続く──

もの凄い うっかりしていて、ナンバリングの③すっ飛ばしたまま続けていました(汗)
時系列が狂うので、就活③は作らない事にしました。

『就活③』は存在しないです。

ごめんなさい。
以後、重々気をつけます(礼)!

中学ひとコマ

ガラスで思い出した。

中学時代って、まあ みんなそうだと思うけど、遊び出すと とにかく回りが見えないじゃない。

私、中学生の時もガラスを割ったんだ。

あ、もちろん お礼参り的なアレでは無いですよ!事故です。

掃除の時間、小さい方の校舎、使用頻度の低い専門教室が並ぶ1階。

3~40の廊下掃除が、クラスの担当だった。

人の往来は少なく 踏まれていないタイルの床は、大掃除後のワックスが残ったままでピッカピカ。

掃き掃除して 学友の男子らと始めたのが、乾拭きの雑巾がけ競走…

お分かりですね。

正門前に出る光差し込む 掃き出し窓に向かい、反対側の端からスタート。
ワックスに乾拭き、滑る滑る、ダーッと スピードに乗って爽快である。

面白~い!

勝ち負けよりも、スピード感が堪らない。

一回往復して、不要だが
「もっかい、やろう!」
と 持ちかけたのがアドレナリン出まくっている、私。

再びスタート地点に立ち、雑巾に手を乗せ足を踏み出し、よーいドン。

もっと速く。
四つ這いの足を駆け、とにかく速く…

迫る掃き出し窓にハッとした。

あ、止まれないかもしれん。

瞬間的に頭からガラスに突撃し、流血する自分の姿が、脳裏をよぎった。

──痛いのは、ヤダ!

若かったから出来たんだろう。
私は咄嗟に身を捻り、掃き出し窓に背中を向けた。

──ガシャーンッ!!!

背中からガラスに突撃した。

「○○ーッ!?大丈夫かーッ!?」

慌て駆け寄る学友達。
私は、むくりと起き上がった。

──痛くも痒くもない。

後ろを振り返り、現状を見た。

鉄線入のガラスには、全面に大きく蜘蛛の巣状にヒビが入り、時たま破片がパラり落ちている。

何て事!

「○○!無事か!?」

呆然とする私に掛かった声に振り返れば、当時 担任であった体育教師。

ええ、私は無傷です。
代わりにガラスが お亡くなりに…

「あーあー、よりによって高い方のガラスを…やってくれたな」

担任のボヤキに、この時 私は初めて、鉄線入ガラスが高い事を知った。

放課後。
母親が呼び出しを喰らった。

私は同席していなかったが、かなり謝り尽くしたらしい。

あ、痛ッ!!!

並んで歩き、帰宅する私の頭に、中指を折り出した裏ゲンコが振りおりた。

激おこな母親は般若の顔。

そういえば、ガラス代 弁償したりしたのかな。知らないな。

次、確認するか。
──怖いけど。

目撃・通報談④

そろそろ貯金も出来てきたし、先輩の汚部屋卒業を視野に入れていた、ある暑い初夏の夜。

大きなレジ袋を両手に引っ提げ、帰宅途中であった。

駅から徒歩8分。二車線の綺麗に舗装された道から、住宅地方面へ。

一方通行の車幅ギリな枝道。曲がる直前、自転車が追い越して行った。
直後、ブウンッと原付一台が私の真横スレスレをすり抜けた。

危なッ!

思い道を曲がれば、私から5m、先程の自転車に追いつく原付の赤く光るテールランプ。
次の瞬間、目を見開いた。

「きゃあああッ」

ガシャーンッ!

絹をさく女の子の悲鳴と共に、自転車が原付になぎ倒された。

引ったくりだ。

「だッ…」

いじょうぶですかー!? と倒れた女の子に駆け寄りかけ、私は その場に立ち尽くした。

「きゃああああああッ!!!」

なんと、起き上がった女の子は、悲鳴を上げながら走って原付を追い始めたのだ。

ええええええッ!!?

私は急ぎ携帯を開き110番にコールした。

『事件ですか?救急ですか?』

「事件です!目の前で引ったくりが起きました!」

事情を説明しながら、私は小道に残された自転車の前で立ち止まる。

「引ったくられた子、自転車放って犯人追ってっちゃったんです!」

原付と女の子が向かう先を伝え、警官を手配してくれるとの事で通話を切った。

──あ、自転車どうしよう!

道のど真ん中に垂直に倒れた自転車。
街灯の合間の暗がり。車が通りでもしたら、二次事故になるかもしれない。

…これ、動かしても良いのかな?

路肩に寄せるか、現場保持を優先するか、物凄い悩んだ。

ううん、車通りは少ない道だし…

丁度 白いワイシャツを来ているし、照らされれば目立つかな。
私は警官が来るまで、一通の侵入側に立ち、自転車を護る事にした。

その間に 事件発生直前 を思い返し、スムーズに聴取に答えられるようにしとかねば。

一度曲がり角で私に接触しかけた50ccの原付。
確か2人乗り。
運転手はフルフェイス、後ろの半帽とは目が合った。

色や特徴を隅々まで思い出す。

──ていうか、どこまで追いかけてっちゃったんだろう。

なかなか警官も来ないし、女の子も戻って来ない。

パッと、私の周囲が白く照らされた。

ヤバッ!車来ちゃった!

慌てて倒れた自転車を引き起こそうとするが、私は自分の両手が食品の詰まったレジ袋で埋まっている事を、すっかり忘れていた。

レジ袋が引っかかり思うように自転車が持ち上げられない。
レジ袋を地面に擦りつつ、自転車をズリズリ引き摺る私の姿は異様であったのだろう。

背後で待つ大きなジープ。路肩では自転車が巻き込まれる。
懸命に縁石を乗り越え、幅の狭いレンガの歩道に自転車を立てホッとした。

「大丈夫ですかー!?」

私が自転車で すっ転んだと思ったんだろう。
ジープの運転手が降りて、声を掛けてくれた。

「あ、ごめんなさい!私は大丈夫なんですけど…」

私は運転手に事情を説明した。

「…で、女の子が悲鳴を上げながら、走って犯人追いかけちゃったんですよ!」

「それは大変だ!この先 探してきます!」

見た目はヤンチャだが、とても気さくな良い人であった。
途中 回遊する脇道が一箇所あるが、それ以外はキロは続く一本道。
発車したジープの後ろ姿を見送り、再び取り残された。

ううん、食品 冷蔵庫に入れたい…

汗がポタリ垂れ落ちて、私は一度 家に帰るか葛藤した。

往復10分は掛からんけど…

一応 第一目撃者であるし、警察に通報したり、見ず知らずの方に女の子の捜索を お願いした手前、勝手するのは ちょっとなあ。

思い、私はレジ袋をかたわらに置き縁石に座り、ぼんやりと自転車番をする事にした。

数分して戻ってきたジープには女の子が乗せられていた。

良かった!合流 出来たんだ!

誤記
救急 ✕ → 事故 ○

スンマセン、応答がごっちゃになってました(礼)

ジープの運転手さんの話では、随分と道の先で とぼとぼ歩いて戻る途中の女の子を拾ったらしい。

車から降りてきた女の子は、暗がりでも分かるほど蒼白している。

「その子も警察と職場の上司に連絡したって。今こっちに向かってるから」

「ありがとうございます!」

ジープの運転手から女の子を引き継ぎ、二人して縁石に並んで座る。

…かける言葉も見つからない。

大丈夫じゃないのが分かってて「大丈夫?」も おかしいし、何て声掛けたら良いんだろう?

結局、今日スーパーで安かった食材の話をした。

こういう時、どうでもいい話で間を繋ごうとしちゃうんだが、普通はどうなんだろう…

女の子の職場の上司のお姉さん(?)が到着して、女の子もホッとしたろうが、私もホッとした。

お姉さん(?)の話では、女の子は苦労して育ち、ようやく始めた一人暮らしで、先月も給料日に引ったくりに合ったのだと言う。

友人知人にお金を借り、何とか ひと月終わって給料全額、再び引ったくりに。

何て運の無い…

立て続けに全く同じ事件に遭遇しちゃう人も居るんだな、と心底同情したもんだが、この時は まだ他人事だ。私は別件であるけれど。

それよりも、そんな目に遭いつつも 何故に鞄を自転車の前カゴに入れていた…の方が気になってしまった。

犯人を捜索中の警官に加え応援が増えたか、2~3名 警官の方々も到着した。
話が出来る状態ではない女の子に代わり、お姉さん(?)が聴取に受け答えている。

現場検証が始まり、私邪魔かな~なんて通りの反対側で見守った。

──なんか、私 野次馬臭がする…

小一時間程、ただ突っ立ってるだけのレジ袋を両手に提げた私の姿は、完全に野次馬。
一通り聴取が終わった女の子は、お姉さん(?)に方を抱かれ自転車を引きながら、徒歩で去って行った。

──え、私 どうしよう。

警官の方々は尚も作業中。
声を掛けるか凄く悩んでいた。

「…あのう、あなたは?」

そのうち、ずうっと去らない私の存在を いぶかしんだ警官一人が声を掛けてくれた。

「私、通報した者です」

「あ!あなたでしたか!」

ええ、私です…

どうやら、忘れられていたようだ。

時間も時間であるし、状況はほぼ女の子が伝えていたし、私は氏名・年齢・住所・電話番号だけ伝えて、帰路に着いた。

私、何の為に居残ってたんだろう…生肉、無事かな…

「ただいまあ…」

いつもなら私より帰宅の遅い先輩が、既に帰ってきていた。
そして、お布団の上でコンビニ弁当を食っていた。

「私の分は?」

「無いよ!」

ですよね。

私は生きているか分からない生肉達を冷蔵庫に ぶっ込み、先輩を押しのけ しっとりとした お布団に横になった。

疲れたし、明日仕事だし、寝よ。

数日後。

帰宅すると、郵便受け めいっぱいの紙袋が入っていた。

何だろう?

中を覗けば、箱に入った お菓子と手紙。

文面は被害者の女の子の上司から。
綺麗な文字で、先日の感謝が書き連ねられていた。

──私、ただの野次馬でしたから(号泣)!!

感謝されるような事など一つもしてない。
ましてや、こんな お高そうな お菓子貰える身分じゃない。
私は精々 自転車が ひかれないように見ていただけ。そう、見ていた、だけ。

辞退しようにも、連絡先は書かれていなかった。

くうう、大人な女性の心遣いが憎い…

美味しい焼き菓子は、ちょっぴり塩気が効いていた。
⑤に続く──

あ、そうそう。
犯人は捕まって、女の子には 現金全額 戻ったらしいですよ♪

良かった、良かった。
それだけが、あの事件の救い。

私が ぼんやり自転車見てる間の、住宅地での 引ったくり犯と警官の大捕物の方が 見たいと思ったのは、内緒ですよ。

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