見出し画像

どうでもいい話(2022年 12月分)


方向音痴・極

既にお気付きであろうが、私、極度の方向音痴だ。

つい先日、末恐ろしい迷い方をして思い出した事が有りましてですね…

「右手上げて」と言われれば「はい!」と、全力で左手上げちゃう、右も左も区別がつかない人間なんだから、当たり前っちゃあ当たり前なんだけども。

まずは先日。

地図があれば大抵の目的地へは到達出来る…はずなんだが。

慣れ知った場所ですら、改札出て曲がらねばいかんのは左なのに逆へ進んで
「あれっ!? 見た時無い景色が広がっている!」
てなって引き返すことも、ざらにある、私。

十数年ぶりに降り立った、足早に人の往来激しい、都会の駅。

懐かしい…
くもなかった。完全な おのぼりさん。

最初の目的地は地下鉄駅から最寄りで「ふああ✨」と、キョロキョロしながらも、すんなり辿り着いた。

タバコ吸いたい…

これね、大概の目的地着いたら、まずやること。
灰皿探し。

移動の電車内で予め検索していたんだが、思うように見つけられていなかった。
大抵の大型施設には“喫煙所”が在るもんだ。
なんだが…検索した活字の説明書きではイメージしきれんかった。

聞いた方が早いな。

目的までは目前。引き返して、目に入った飲食店の店員に話し掛けた。

「灰皿どっか在りますか?」

「ううん…館内には無いですよ」

「え!? 無くなっちゃった!?」

時節柄、こういう事も ままある。

えー…

タバコ吸わねばソワソワしちゃう、中毒者。
仕方ない。目的を果たしてから喫煙可の喫茶店に行こうと思った。

一時間強、後。
施設の継ぎ目に置かれていた、館内リーフレットを手に取った。

多階層マップ上には、タバコの図柄。
検索した喫煙所と合致した。
リーフレットの情報は新しくとも三ヶ月は古い。

まあ、直上だし見に行くだけ見に行くか。

エレベーターに乗り、自動の回転ドアにわくわくしながら屋外に出れば…

おい!在んじゃねぇか、灰皿!

てね。なりましたよ(遠い目)

分かんないんなら分かんない、てハッキリ言ってくれ。
たまに居るよね。

ようやく一服しながら、スマホのマップを見ながら、次の目的地までのルートを決める。

とはいえ、地図上では大きな駅を挟んで反対ほぼ一本道の、徒歩約10分。私の足でも30分は掛からない。

お散歩♪お散歩♪

見知らぬ土地を歩く、てのも楽しいもんだ。

お上りさんらしく上ばっか見上げ、直進開始。
そして速攻ぶち当たった、他車線交わるデッカイ交差点。
架かるは歩行者用の幅広な歩道橋。

──あれー!? 階段しか無い(汗)!

たまにね、こういう事も有るんだよ。

自転車用スロープすら無い階段オンリー。
隣の建物の二階から繋がっている様だったけど…

建物入って出たら方向が分からなくなる。
シルバーカーを畳んで持ち上げれば、階段登れなくはないんだけど、やりたくない。

右手に100m程先、歩行者用の信号が見えた。

あっこ渡れそうだな。

私は、回り道を選択した。
この選択が、運の尽きである。

横断歩道を渡り、引き返して元居た車線に戻るべきだった。

まあ、方向 同じだし。

持ち前の楽観視が発動した。

最初に決めたルートとは、一本隣の道を直進したのだよ。

賑やかしく栄えた場所に来たけれど…

ここは、どこ(泣)!?

気付けば向かう方向を見失ってた。
もうね、自分の現在地すら分からない。

地図を拡大して、建物名と照らし合わせるんだけど、何か微妙に名称が違う…

そもそも、駅はどこ!?

目的地への最もメインな目印である。

駅に、駅に着けば何か分かるはず!

なんだが…一向に辿り着かない。
ええ…説明が出来んな。
いっか、もう。

JR新宿駅、ナメてました0(:3 _ )~

西側からアプローチして、東側へ抜けたかった。
マップに立ちはだかるは地下鉄・他社線。

地図上には線路のラインがびっしり。
道路なの?線路なの?状態。

電気屋に喫茶店、マークとしては目立つ表示も在るんやけど…

チェーン店がいっぱい在る(泣)

道行く人に「駅はどっち?」て聞きゃあ早いのに、みんな歩くの速い速い。
びゅんびゅんね、追い越されんの、私。

しかも都内の通行人には、いつか助けを求めたのに、だあれも助けてくれなかった という、苦いトラウマが邪魔して、声すら掛けられん始末。

ほ…方向的には合ってる、はず…!

普段はね、太陽の位置で自分が向かう方向を定めるんだけど、もう日が暮れてしまっていてね(遠い目)

それでもどうにか新宿駅の西側には到達した。

東側へ抜けるには…

駅の看板は見えたのに、駅の入口が分からないんだ。

マップを拡大したら、細い道が線路をまたいで東西通っている。

──ん?この細さ…ひょっとして、コレか!?

丁度目前に枝分かれした小道が在った。
通行人もバンバン入っていくし、出ても来る。

駅に垂直に交わる、小道。

ごくり…行ってみるか。

意外と上り坂が急で、シルバーカーを押し押し えっちらおっちら登ってみれば…

おお!抜けたー✨!

なんとね、駅の反対側に出られたのだよ。

こっからは駅を左手に少し歩いて、右手に曲がれば直ぐ。

──の、はずだった。

車道が駅に沿って走り、歩行者横断歩道が無い。

え?どうやって向こう側行くの???

目先には遥か遠くに信号の光。振り返れば霞んで見える信号の光…

どっちも遠い(泣)!

ここまで随分歩いちゃったし、目的地を通り過ぎてる可能性が高い。

私は引き返して横断歩道を渡る選択をした。

まずね、自分の所在地が分かってから選ぶべきだよね(遠い目)

再び道沿いに南下を始めれば…

あれー!?行き止まり!!?

眼下には道路に商店が見えるんだが、下に降りる路が分からない。

ふっと目に入った隣の建物。

店仕舞いのお見送り時間で、警備員さんが入口に立っていた。

「すいませーん、どうやって下に降りるんですか!? あ、道路道路!」

凄い、阿呆。
こんな阿呆をね、懇切丁寧に「エレベーター、まだ動いてるから」て、閉めた間仕切りを開いて招き入れてくれたんですよ(感涙)ありがとうございます✨

そうして降りた階下の道路…

あー!マップの色が違ったのは、階層になってたからなのかー!

ここで気付いた、お馬鹿さん。

うう?うう~んむ…

降りたは良いんだけど、マップの表示とマーク店舗の名前が、やっぱし若干違う…

ぐるっと建物回って歩いてスロープ下ったら、数段の階段オンリーの小道。

これっくらいなら、登れるか。

シルバーカーの前輪を一段ずつ乗せ置き、乗せ置き。

オシャンティーな遊歩道を進んでみた。

oh…

結局ね、階段降りる羽目になりましたよ…

もうダメだー(号泣)!

自力で何とか出来る臨界点だった。

半泣きでマップと にらめっこ。
ここで初めて、マップアプリのルート案内機能を思い出したんだ。

いや、マジで阿呆。

ふいいぃん✨(泣)

永らく使っていなかった位置情報をONにすれば、点滅表示の丸印。
目的地を入力して、徒歩を選択すれば、地図上に進むべき道しるべ。

おおおお✨何て便利なんだー!!

…え、普通の事ですか?めっちゃ感動したんやけど。

ただね、右往左往で南下しちゃったりしてたら、まだまだ北上せねばならん。

くうぅ…タバコ吸いたい!

とっくにヤニ切れ、そわそわ募っちゃう。

──ていうか、おしっこしたい。

これはいつもの。
だって家を出てから一度もトイレ行ってないんだもん(泣)

点灯したスマホ片手に、誰から見ても おのぼりさん。

結局ね、目的地の看板が見えた時には、2時間弱 経過してましたよ…

2~30分で到着予定が、2時間弱だよ!? どんだけ さ迷ってんだ、私!
メニュー表 楽しむ余裕も無くて、注文したビールに五目焼きそばは、格別に美味かった✨

美味いよ!中○屋の五目焼きそば!
麺は焼き締められて外側パリッと中はしっとり。エビもホタテもぷりっぷり!

お口治ったらカレーも食いたい♪

新宿来たなら一度はおいで、中○屋!

地図アプリはお忘れなく。

用と空腹を優先して、アルコール入ったのも有り、タバコ吸いたくて堪らん。

今、食べるのも時間かかるし。

J○の喫煙所マップを開けば、駅前に灰皿表示。

──アレか。

改修工事でフェンスに覆われてたけど、即見つかった。即。

なんかね、路上の灰皿だけは見つけられんだよね。
不思議な事に。

─小学校高学年時代①─

これは『母親は、アレ』的な話でもあるんだが、流れ的にこっちだな。

何を隠そう私の方向音痴、母親からの遺伝である。

アレな母親も自分で方向音痴と認めてるんだから、他者から見れば相当なものと思われる。

小学生の時、母親が某有名テーマパークに連れていってくれた。
しぶき飛ぶ人気アトラクションは長蛇の列。
2時間半待ちだったかな。

列の最後尾近くに、ポップコーンの屋台が出ていた。
そっちもズラッと人並び。

「母ちゃんポップコーン買ってくるから、アンタ並んでて」

「分かった」

母親は私を列に残し 屋台へと歩いて行った。

私は一歩一歩進む列に従う。

進んで行くと、間口の狭い蛇行し整列された列群に差し掛かった。

──あれ?ここ入っちゃったら、母ちゃん私を探しに入って来れなくね?

そのくらい、人がいっぱい詰まっていたんだ。

振り向けば母親はまだポップコーンの列の途中。

ううん…

私は蛇行する直前で、一度列の最後尾に並び直した。
しばらく並んで、再び蛇行列の目前。
振り向けば、母親は屋台まで後 数組。

あ、これならちょっとくらい人かき分けて入ってこれるな。

そう判断して、私は列に続いて行った。

──なんだが。

母ちゃん、来ないんですけど。

間もなく列は建物内に侵入開始。
中は洞窟の様に薄暗い。

弱ったな。

フ○ストパスの無い時代。
建物の中は人で押し詰め。

「ここから先は、お連れ様と ご一緒にー!」

建物の入口付近で群衆に声を掛けるキャストと、切り株とキノコのオブジェが目に入った。

ううん、せっかく並んだのも勿体ないし…

私はキャストに申し出た。

「すみませ~ん、母親が迷子なんです」

キャストの お兄さんは ご親切に、母親が来るまで「ここで待っていて良いよ」と、私を切り株に座らせてくれた。

アトラクションまで必ず通過する場所だし、母親を待つだけだ。

ぼけ~っと、曇った空と進む人々を眺め、均一な間隔で響く悲鳴と水しぶきの音を聞いて過ごした。

──来ないんだけど。

時計を持っていなかったから正確な時間は分からんが、体感的に小一時間後位かな。

「あー!○○居た居たー!」

両手でポップコーンの容器を二つ抱えた母親が到着した。
半べそかいてた。

「アンタ、またウロチョロして!」

「ずっと、ここに座ってたけど」

「嘘だぁ!!」

いや、本当ですよ。

あの日に限っては、ウロチョロしてませんが。
言いつけ守って大人しく列に並んで、ここに座ってましたが。

「母ちゃんこそ、どこ行ってたの」

「いやもう、アンタ列に居ないし建物入っちゃったんだと思って…」

私は気づかなかったんだけど、建物内に往来するキャストや迷子探し用の道が存在した。
アトラクションまで続く道。

「母ちゃん、係の人に『子供が迷子なんです!』て言って、中二往復しちゃったよ!」

いや、迷子アンタだろ。

「走り回って減っちゃった(汗)!」

oh…

見せられた紙容器は、二つとも半分位まで減っていた。

ポップコーンを撒き散らし半泣きで小走る母親の姿が浮かぶ。

──恥ずかしい人だな。

て、思いましたよ。子供ながらに。

この話、私が成人後に母親が周りに語るんだけど…

「あの時はさぁ、この子迷子になっちゃって!」

て、必ず言うんだよ。必ず。

「アレは母ちゃんの方が迷子になったんだからね!」

反論すれば「えぇ~?そうだっけ?」て、とぼけんの。
大人しく言いつけ守って列に並んで、探しやすいように じっと座って待ってた、私。

見失い はぐれた焦りにかられ、右往左往 走り回った、母親。

この場合、迷子になったのは、どっちでしょうかね。

─小学校高学年時代②─

学校の校外学習で、博物館かどっか行った帰りの時。

集合整列した生徒に先生方から、ミッションが課せられた。

複数路線交わる大きな駅。

「○○駅まで徒歩で移動し、電車に乗り、集合駅まで到達する事」

○○駅までは大人の足でも10分程度、子供の足で多少迷っても30分は掛からない。

一時間後までに全員集合した後、学校最寄り集合駅で解散となる。

班に分かれ出発。

自信満々、私が指し示したのは、他の班らが向かった先とは完全に真逆。

「そうだ、そっちだ!」

そして勢いに釣られ、賛同しちゃった お馬鹿な男子達…

お分かりですね。

「馬鹿だなあ、みんな。逆方向行ってら」

なあんてね、他の班員を笑いながら出発した、私の班。

向かうべき道を背にして…

どうやって気づいたんだっけな。路上の地図でも見つけたんだっけな。

結構 歩いたけれど、一向に駅に辿り着かん。

流石に「変だ」と、来た道を引き返して、出発駅まで戻ってきた。

「やっぱ、あっちかなぁ?」

他の班が向かった方角へと 歩き始めた頃には、日が傾いていた。

「おー✨着いたー!」

電車に乗り、集合駅に到着した。
他の班は見えない。

「やりぃ!俺ら一番乗りじゃん!」

大はしゃぎする私達に向かい、血相変えた担任の先生が駆けてきた。

「お前ら!どこ寄り道してたんだ!? 皆ずいぶん待ってたけど、さっき解散にしたよ!」

何とね、一番ビリ。

はしゃいだ分、恥ずかしいよね。

─中学校時代─

サイクリングと言うか、自転車に乗り あてもなく さ迷う事にハマってた時期がある。

ママチャリで。

あの頃ぐらいかな「太陽が出てさえいれば、家に帰り着ける」て気付き、道に迷うことを逆に楽しんでたんだと思う。

基本 河川敷を走ってたから、一本道なんだけど(笑)

天気良し♪

この川の源水って、どこなんだろう?

海側から出発して、川を登り、日が暮れたら帰る。
マイ サイクリング鉄板ルート。

友達連中と一緒の日も有れば、独りの日も有る。

あの日は、独りだった。

自由気ままにペダルを漕いで、頭の中は冒険者の空想で いっぱい。

高い草が風に たなびき気持ち良い。

──あれ?

いつもと同じ道だったけど、ふっと気付いた枝分かれ。

こんな道在ったんだ。

傾斜が下り舗装され、角度的には川に沿っている。

これなら方向的には川を登るコースだな。

気分は冒険者だもんで、ハンドル切って枝道を選択した。
道が途中で曲がるだとか、交差するだとかの頭無し。
通行人ともすれ違わず、しばらく進むと、下り坂の小さなトンネルに たどり着いた。

トンネル手前で一度ブレーキ。

新しいのか古いのか、使用感の無い無機質なコンクリート造り。

──ごくり。

日の当たらない薄暗い空洞。

中を覗けば、トンネル自体の奥行は短いか、出口から光が差し込んでいる。
入口側は下り坂、出口は上り坂。

使う人居ないのかな。

トンネル中心部は雨水が溜まり、十数m水溜まりが出来ていた。

ここ、水切り分けて進んだら、気持ち良くね?

調子こいた。

少し戻って、坂の上からノンブレーキで下る事にした。

だってさあ、シャーッ!と行ったら最高じゃん。シャーッ!と。

ひゃっはーッ♪

思った通り、水たまりは細いタイヤで左右に分かれ、波立ち しぶき上がる。

シャババババ…

水の抵抗を受け、スピードは どんどん落ちてくる。
出口までは まだまだ遠い。

私は加速しようとペダルを漕ぎ始めた。

──あ、あれ?思ったより深いな。

気付いたところで、後の祭り。

うえぇ…(泣)

びっじゃびじゃの自転車を引き起こし、出口を見る。

後、半分…どうしよう…

進むか戻るか葛藤した。

…もう濡れちゃったし。

私は、進む選択をした。

とはいえ、立てた自転車のペダルは水中だ。
再び自転車に乗ってみたが、水圧で思うように漕げない。

あ、自転車ダメだこりゃ。

結局ね、自転車降りて押して歩きましたよ。水かき分けて。

足元ばかりに気を取られ、急な上り坂を登り ようやく到達した、トンネルの出口。

やったー✨!

陸地に上がり太陽眩しく、顔を上げて、漠然とした。

目の前には背丈有る雑草軍。
茂った雑草に囲われて、道が無い。

中央に たたずむ看板。

『立ち入り禁止』

──ええええッ!!?

なんとね、行き止まりだったのだよ、トンネルの先が。

えええぇ…

戻るしかないよね(遠い目)

再び自転車を押しながら、引き返す深い水溜まり。

──何しに行ったんだろう、私。

もの凄~く冷静に自分の馬鹿さ加減を振り返りましたよ。
トンネル抜けるまで。

─バイカー時代─

魚屋で働いて取った中免に、買ったばかりのアメリカンバイク。

休みの度に乗り回し、ようやく運転慣れした半年目。
高校の卒業式の日。

私は卒業しちゃおらんのだが、学友達の卒業打ち上げに参加すべく、学校の前までバイクで乗り付けた。

早い話が、カッコつけたかったのだよ。

ガラス割に行ったんじゃないよか(汗)!?
祝いに行ったんだよ、祝いに!

バイク禁止の高校だったから、物珍しく集まる学友らの黄色い声にテンション上がる。

軽く路上往来でデモンストレーションしたりね、とにかく調子に乗ってた。

結構な大所帯で、私はバイク押し歩き、近くの食べ放題の焼肉屋へ。
肉食って、寿司食って、ケーキ食べて、アイス食べて、アイス食べて…

満腹✨

楽しかった。来て良かった。

「二次会カラオケ行くけど、○○ちゃん来る?」

カラオケか~…歌わないけど、手叩きに行こ♪

音痴なんでね、歌も。カラオケは苦手。
だけど、みんなが盛り上がってる楽しい空間は、好き。
皆は電車で数駅先のカラオケ店へ行く、と言う。

バイク置いていく訳にも行かないし…

私は独り、バイク移動を選択した。
線路沿いに走れば、道に迷う事無く大して時間も掛からんだろう。

私、知らなかったんだ。

線路は全部が道に沿ってるもんだ、と思ってた。

駅で皆と分かれ、エンジンふかす。
線路沿いの道を進んで数分後──

あれーっ(汗)!?

道は線路を外れ、民家を避けてカーブした。

まあ でも、建物挟んだが道は線路の進行方向。
このまま建物と建物の隙間から見える線路を たどれば、行き着くだろ。

なんてね、発動しちゃったんですよ、持ち前の楽観視が。

軽快にアクセル回し直進♪

左手にチラリチラリ確認すれば、どんどん離れていく線路…

うわっ!? この道、線路と斜めになってる!?

早めに気付いて、私は次の交差点を左折した。

…んだけど、差し掛かったのは線路と垂直に交わる小さな踏切。
他に逸れる道無し。

直進するしか無い…

“Uターン”だなんて、思い浮かびません。

行けども行けども右折出来る曲がる交差点無し。

どんどん線路から離れていく(泣)!

それでも直進続けた、お馬鹿な私。

あーっ✨

交わったのは、カラオケ屋の有る駅に続く、別路線の線路。

これ辿れば、同じ駅にたどり着ける!

なんてね、再び線路を辿る選択をしたんですよ(遠い目)

滅多に使わん路線。駅と駅の間隔短く、何駅も何駅も過ぎていき…

oh…

何とね、線路が途切れちゃったんだ。
終点駅まで過ぎちゃった。

見事に、逆方向に進んでいたのだよ、私。

もう、ダメだー!

そこで ようやく、路肩に停車して背負っていた鞄を下ろした。

引っ張り出したは、大判冊子の全国ロードマップ。
うん。持ってたんだよ、地図。阿呆だよね。

まずは所在地から分からんかったけど、終点駅から指で たどってみた。

あ、あれ??

真っ直ぐ進むと、再び最初に走っていた線路に ぶち当たった。

知らなかったけど二本目の他路線は、地域を回遊するように、大きくUの路に線路が曲がった造りだった。

真っ直ぐ行けば、元の線路に戻れるんだ✨

結局ね、みんなと合流したのは日が傾いた頃。
しかもね、親友らはカラオケ屋に入らず待っていてくれたという…ごめん。

実家に帰れば、母親が警察に通報しちゃってるし。

カッコ悪さ、極む。

以後、行く先ルートは出発前に地図見て作るようになりました。

─マイカー時代─

新車で買った、顔が お気に入りのコンパクトカー。
是が非でも、と装備したてはカーナビ。

ちゃんと付いてたんだよ、カーナビ。

仕事してると運転する機会も極端に減るもんで、それでもナビが有るから、たまに運転しても恐ろしい程 道に迷う事も無かった。

ナビ、素敵過ぎる✨

3.11、東日本大震災が発生。
首都圏の交通網が一切機能しなくなった時の話。

この日の全容は追追語るとして、まずは簡単に主題おば。

あの日、シフトの休みで家に居た。

端折って、店舗に近かった我が家は、避難所として解放していた。
上司とスタッフを家に招き、飯食い、私は不安にかられていた。
旦那(元)と全く連絡つかないんだ。

電話回線もパンクして、誰しも連絡しようが無かっただろう。

旦那は普段、近場に務めていたんだけど、あの日に限り本社に行ってた。

夕方から時たま連絡し、ようやく通話出来たのは、夜の9時を回っていた。

『家に向かって歩いてる』

覚えている方も多かろう。
あの、皆が皆 歩いて帰宅を選択した、あの状態。

『居酒屋で呑んでたんだけど、みんな歩き出したから着いてきちゃった』

阿呆かー!!!

て、思いましたよ。マジで。

だって席取れてたのに、移動するこた無いじゃん。
一晩明かせば良いじゃん、居酒屋で。

既に数時間歩いているけど、まだまだ3割程。
『寒いし、疲れちゃった』

「迎えに行くから、そこから動くな!」

客人に我が家の留守を頼んで、私は車を駐車場から降ろした。

ルート的には国道を真っ直ぐ、迷う事など無い知った道。

だけど念の為、ナビにルートを設定した。

通常時であれば、道路も空いてくる時間帯、上りだし数十分の道のり。
見積もりが甘かった。

帰宅困難者が大多数存在すると言うことは、迎えに向かう救出困難車も複数存在するという事で…

軽快に走り出し、国道に交わる四車線の大通りを走った。

──ん?ちょっと混んでるかな。

次の信号を右折、大概ちょっぴり混んでる交差点なので、大して不審にも思わなかった。

『この先、渋滞です』

情報が古い(笑)!

型式は20年前のナビなんでね、いつも こう。
ナビにツッコミながら、渋滞に捕まり続けた。

──1ミリも動かないんだけど。

信号は青になれど、進む車は1~2台。1台も進まない時すら有る。

何か、いつもと違う…

気付いた頃には、隣車線も背後も車で埋まり
身動き取れなくなっていた。

事故でも発生したかとナビの地図を進路に進めてみれば…

うわッ!?

道路が渋滞を示す真っ赤っか。
それも ずうっと先、ゴールを過ぎても、ずうっと ずうっと。

失敗したー(汗)!!!

横に逸れる道無し。
1キロは渋滞にハマらないと、迂回も出来ない。

ううん、仕方ない…

ハラハラと落ち着かない心持ちで、ようやく交差点を通過出来た頃には、一時間経過していた。

──500mも進んでない(泣)!

私はパカッと携帯開き一度、旦那に電話した。

「ごめん。凄い渋滞にハマって、まだ○○なんだけど…」

『結構、歩いちゃったよ!』

──はあっ!? 俺、動くなっつったよな!?

聞けば連絡ついた後からも歩き続け、既に家まで半分の所まで辿り着いていた。

「お前、これ以上動くな!迂回して空いた道探すから!」

このまま歩き続けられては、すれ違ってしまうかも しれない。

焦った。マジで。

とはいえ、更に右折出来る道までは500mは残っている。

くうぅ…

一時間後──
どうにか右折して渋滞からは抜けられた。
心配なので、電話してみた。

『今、○○駅辺り』

だから、歩いてんじゃねぇよ、阿呆ーッ(怒)!

既に家まで残り三割。

なんかもう、家まで自力で帰って来れるのでは…

思ったけど、歩き詰めで疲れてるだろうし、私も無駄足で終わりたくない妙な意地が出た。

「絶対!絶対!○○店からは動くなよ、テメェ!」

念には念を押し、私は携帯閉じてナビのゴールをショッピングモールに設定し直した。

しかし、直進して隣の上りルートも渋滞表示。

ううむ…

ゴールまでは10キロ強。地図を拡大表示して、抜けられそうな道を探した。

──おっ✨!?

間に細い小道がゴールまで続いていた。
住宅地を抜け、真っ直ぐに…

ルートを経由させれば、新たなルートとして設定された。

うっし!車も通れる道だ!

私は迂回ルートに従い、住宅地へ続く道へとハンドルを切った。

直後。

あれーっ(汗)!?

大きな旧家に乗り上げてしまった。ごめんなさい。
一本間違えたんだ。
バックして進行し直せば、魔の網目状住宅地…

お分かりですね。

ちゃんとね、地図のルート指示通り進んでるつもりなんだけどね(汗)

──また行き止まり(泣)!

てな感じで、ぐるぐるぐるぐる回り道…

ナビは道を間違えてもルート設定し直してくれるから、どうにかこうにか上りの小道まで到達した。
舗装甘く、両側に雑木林が広がる小道。

これ、対向車来たら どうしよう…

車と車がすれ違えない程に狭い真っ暗な小道。
それが結構な距離、続いている。

他に道も無いし行くしか無い。
ナビのルートも小道に沿っている事だし。

──んんん?

気持ちばかり舗装されていた道の地面が、むき出しに。

わだち深く ぬかるんだ土道…

え?この道、ひょっとして農道?
何か変な研究施設の入口とかじゃ無いよな???

中二脳が炸裂しちゃう程、一般車両が通って良い道には思えない。

そんな道をね、急いでいたもんだから そこそこスピード出して走っていた。

──ガッ!ガリリッ!

ぎゃあああああッ!!!

最近は あまり見ないんだけど、エアロ履かして 車高やや低めにして マフラーも替えてあった愛車。

マフラーずってる、絶対(泣)!!!

隆起した土、わだちの上を走りたいのに、ずるんっとタイヤが取られてしまう。

深いわだち はゴーカートのレールが如く、タイヤを掴んで離さない。

そんな時だった。
♪ポーン
ナビのお知らせ音だ。

『新しいルートが見つかりました。Uターンして下さい』

──はい!!?

ナビの地図をチラリ見れば、上に登っていたルート指示は失せ、真逆の方向、来た道を引き返す表示。

いや、無理無理(汗)!

だってね、両側の雑木林は枝に引っかかる程、車幅ギリ。
Uターンなど出来る状態では無い。

ええー?この先、行き止まりじゃないよな???

仕方ないので直進し続ければ、

♪ポーン『新しいルートが見つかりました』
♪ポーン『新しいルートが…』
♪ポーン『新しい…』
♪ポーン♪ポーン♪ポーン…

鳴り止まない。

ああもうッ!

私はナビのルート設定を解除した。
一度はルートとして設定されたんだ、出口は在る!…はず。

地図は夜間表示で真っ黒くろ。
周辺に道さえ表示されない始末。

ガッ!ガッ!

ひいいいん(号泣)!

でこぼこ道に跳ぜながら、道無き道を爆走した。

絶対、足回り大変な事になってる(泣)!

割れたエアロに、凹んだマフラーが目に浮かぶ。

走行すること、数十分──

あーっ✨✨✨

目前に見えたは、農道に交わる舗装された二車線の道路。

抜けられたー(歓喜)!!!

うん。何とかね、出口に辿り着いたのだよ。
何とかって言うか、一本道なんだが。

舗装された凹凸の無い滑らかな道路の、何と有難いことか。
すごいホッとする。すんごい。
目的のショッピングモールの裏手に着いて、車を停車、旦那に電話した。

これで逢えなかったらマジギレするわ。

思ったけど、流石に三度目は言うこと聞いて、ショッピングモールに居たみたい。

旦那待ってる間に、入口の自販機で あたたか~い缶コーヒーを二本買い、車の周囲を ぐるっと見回った。
状態は思った程、酷くはなさそうだった。

──リフトアップして車下から見上げたら、マフラーべっこべこ だろうけど。

「あ、お待たせ。はい、あったまんな」

「わ~、あったか~い♪」

旦那に缶コーヒーを一本渡し、再び乗車。

流石にね、もうあんな冒険したくない。
帰りはのんびり渋滞ハマろ。

下りはね、まだ上りの渋滞が全然 解消されてなくて、空いてたもんで、国道スパーッと走れたんだけど…

我が家に着いた頃には、深夜二時。
ぐったりですよ。誰かさんの所為でね。

大事の時にウロウロすんな、て話。

皆様はね、お近くの避難所で身の安全を確保したら、無理な大移動しないで下さいね。

魚群戦隊フィッシュマン④

部門長が毎日仕入れる、新鮮な活魚達。

美味そう…

発泡トレーに乗せられたラップ待ちの お魚を、次々とラベルマシンに通しつつ、毎朝 ついでに品定め。

今日の晩飯、コレにしよ♪

肉食で週一でしか魚メニューの無かった私だが、魚屋で働いてる最中は魚魚。
毎晩、魚。

私が“包丁持つ”と知ると、とある許可が下りた。

「まな板、使って良いよ」

え、良いの!?

午前中はハーフタイムのパートさん達で埋まっている、シンク付き まな板ブース。

午後はチラチラ空きが在るんだが、フルタイムのパートさん達は決まった場所を使っていたから、決まりが有ると思っていた。
なんか、自由らしい。

数棟建ての まな板ブースは勿論、リーダーが使っている窓口付きの まな板ですら、不在だったら使って良いんですって。

何で私にまな板 使用許可が下りたかって…

尾頭付きの活魚を丸っとそのまま販売していたからである。

アジ・イワシは勿論、カツオ・イナダの中サイズ。
トビウオなんかの四角いやつに、ホウボウ・カワハギ さばき方の分からん物もetc…

ご存知無い方 多いかと思うが、こういうのね、魚屋で「さばいて下さい」て お願いすると、やってくれるのだよ。

路店・スーパー関係無く、大概どこの魚屋でも。

三枚・二枚、フライ用…指示ご要望多くとも望むまま。
例えば「半身はサクに、半身は お造りに」なんて事も、他の買い物してる間に造ってくれちゃう訳。

そういうの、私は店内を品出しでウロウロする立場だったから、良く受けた。

作業場の手の空いてるパートさん方に依頼して、私は自分の作業に戻ってたんだけど。

「“お刺身用”で、お願いしまーす!」
コレ、一番 多かった依頼(笑)

まな板と包丁が自由に使えると分かったところで、私の魚さばきは本で学んだ我流。

さばき方にも決まりが有るのでは…

最初のうちは、なかなか包丁握れません。
だって商品なんだよ。間違ってたら怖いもの。

ある時、リーダーが魚の さばき方をレクチャーしてくれた。

アジ数匹を お手本に、三枚・二枚・フライ用、サクから刺身の切り分け方。ついでにタタキ。

おおお✨

凄く勉強になった。

さばいたアジは、小さなトレーに盛って、ラベルシール貼って店頭に並べた。

自分が さばいた お魚が商品になるだなんて、むずがゆい。

その日以降、晩飯がてら修行の日々。
切り身の魚は買わなくなった。
必ず尾頭付いたもの、ゼロから さばく。

日中目星を着けといて、仕事明けにスーパー買い出しでレジカゴに入れる。

日々のもんだから、そんなには珍しい魚は無かったけれど。

献立にアジ・イワシ・サバ・イカは多かったな。
給料日後はタイ、季節ものならサンマとか。

良く入荷した魚の中に、トビウオがあった。

これ、どうやって さばくんだろう…

観察すればする程、怪奇。

だって四角いんだよ。なんていうか…四角いんだ。身が。

そもそも調理の仕方が分からないが、買ってみた。

──どうしよっかな。

実家の台所で包丁握り、まな板のトビウオを じっと見る。
やっぱ、初めは刺身かな。

ぶっちゃけ、トビウオなんか食した時 無い若造だ。
味を知るにも、刺身で食ってみるべきだ。

頭を落とすに羽根状の胸びれを持ち上げてみれば…

ジ○ディ・オング!!!

あ、知ってる?ジ○ディ・オング。
袖のフリンジを艶めかしく広げる振り付けが特徴的な、歌手さん。
これは飛べるわ。

思いながら胸びれ直下で頭を落とす。
腹を割き はらわたを出して濯ぐ。

三枚に卸すに断面口を見れば…やっぱり四角い。なんか四角い。

背骨に沿って包丁を入れ、半身二枚と中骨に分け、あばら骨を削いだ。
皮を剥ぎ、思う。

アジより、さばき易いかも。
身に厚みが有るせいかな。

身は透き通って弾力有るし、羽根は広げれば面白いし、包丁練習するにはもってこいだ。

刺身用に削ぎ切りして、しっぽの方を つまみ食い。

──物凄い、淡白。

味はね、アジなんかには劣るけど、独特の歯ごたえが いい感じ。

こんな感じでね、珍しいお魚を買っては、さばく練習をして刺身で食った。
おっきいものだと、カツオにチャレンジしたな。

どでーん!と、一尾。

──まな板に乗り切らない。

実家の まな板は大きめだったが、それでも家庭用サイズ。
頭も尾っぽも はみ出しちゃう。

使う包丁も三徳包丁だし、まずね、背骨が断ち切れない。

すんごい大変だった。すんごい。

痛むから時間かけたくないのに、予想外に時間かかったな。

半身は皮付きのまま、さくにして菜箸ぶっ刺してガスコンロで炙って、たたきにした。

…何で、炙ったカツオは、たたきになるんだろう?

不思議。
アジのたたき は、包丁で叩くじゃん。
カツオのたたき は、叩いてないじゃん。

気になるよね。ならない?
カツオを丸っと一尾って かなりな量で、母と二人で食べ切るのに数日かかったな。

お客様から依頼を受ける時、長め時間お伝えしてたんだけど、
自分で直ぐ作業に入れるから「今やっちゃいますね~」て言えるようになった。

流石にカツオ系は商品だと怖すぎるので、ベテランおじさまに頼んでたけども。
一度だけ、面白い依頼が内線で回ってきた。

『ブリを一尾、さばいて欲しい』

──ぇぇえッ!?

『丸々 送られて来ちゃって困ってる』

それは、困るよね(汗)!

早速、部門長に相談した。

「うーん…やろか」

やるんだ。

お客様に持ってきて貰うよう お願いし、部門長と そわそわしつつ来店待ち。

お買い物カートに乗せられて、やってきた お客様と発泡箱。

──デカ!

カートから はみ出した長さ有る発泡箱。
依頼も お刺身用・サク・切り身 等、結構 盛り沢山。

「30分程 頂きますね」

ズシンと重さ有る発泡箱を受け取り両手で抱え、申し訳なさそうに笑いながら去っていく お客様を見送った。
作業場で待機していた部門長・リーダー・ベテランおじさま。

四人囲んで息飲んで、発泡箱の蓋を ご開帳。

はわわ✨

中に入っていたのは、めちゃめちゃ立派なブリ一尾。
皮は黄色く輝いて、さばく前から油かのってるのが分かった。

これは、一尾で見せたいよ~。

贈り主の心情も分からんでもない。
四人で「美味そう、美味そう」言いながら、作業分担。

私の役目は勿論、ラップ掛け。

「はいよ!」
「おいっス!」

次から次に発泡トレーに小分けされた、さばかれたブリをラップで手巻きして、発泡箱に分類しながら納め直した。

トレーが かさばって入り切らなかった分はレジ袋に入れたかな。
定刻通り作業完了。
戻っていらした お客様に、発泡箱を載せた お買い物カートを お渡しした。

「お代は…」

「頂きません!」

これ、私が伝えるの妙だと思ったけど、消えちゃった部門長の意向である。

頑として頂かなかった。頑として。

お客様の喜ぶ笑顔が、何よりものお代です✨

⑤に続く──

─おまけ─カツオのたたき

由来検索してきた。
カツオの“たたき”は、文字通り“叩き”なんですって。

叩いてないじゃん。

この認識、間違ってましたスンマセン(汗)

調理工程で、炙って厚めの お刺身に切ったカツオに

塩・調味料を“叩き込む”

のが本場だそう。

私の薬味乗せるだけ手抜きが露に(泣)

先駆者ならざる者②

数年前、公立校にもジェンダーレス化が始まったニュースを見た。

主に女子制服に関してだったけど、ブレザー制服の通常はスカート・リボンのところ、スラックス・ネクタイも選べる、というもの。

いいなぁ✨

この時だったかな、生まれるのが20年早かった~、と思ったのは。
小学校三年生の時、長かった髪を切り、ショートカットにしてもらった。

断髪してくれたのは、当時 美容師になりたかった姉2号。

前日には、それまで おさげにしていた髪を解いて、バッサバッサ振り乱しながら大はしゃぎした記憶が有る。

髪の毛と おさらば するぜ!

さぞや嬉しかったんだろうね。
以来 社会人になるまで、髪の毛は短いまま。

服装も、元々キュロット的な短パンしか履いてなかったんだが、ズボンしか履かなくなった。

だって私、自分を男の子だと思っていたから。

小学校五・六年生、担任のジャージにポロシャツしか着ない女性の先生には、怒鳴られながらも目をかけてもらった。

そもそもが体育の時間、体操服のブルマーが嫌で嫌で、何で男子は短パンなのに、と疑問だった。

五年生の時、立候補して体育大会で応援団に入った。

目的は勿論、団長だ。

団長一人は長いハチマキを巻いて、進学する隣の中学校の制服を着られる。

カッケェ✨

着たかっただけ、な不純な動機だよ。
運痴だけど 声だけはデカかったから、競技の代わりに応援団とか もってこい だとも思ってた。

応援団の団員が集う最初の会議で、団長が選抜される。
立候補or推薦式。
確か議長は、担任の先生だったかな。

「団長、やりたい人ー」

「はーい!」

勿論、全力で挙手した。

他は誰も手を上げてない。

やったー♪ 決まりだー!

て、思うじゃん。

次の他学級の顧問教師の言葉に耳を疑った。

「女の子はなぁ、ちょっとなぁ…」

──ええッ!? 誰でも良いって言ってたじゃん!

顧問教師 数人が固り、会議が始まった。
担任の先生は困った顔をしていたのを覚えている。

私は、その場に立ち尽くしたまま。

え…何、コレ…

着座する団員の中、起立して注目を浴びる私は、まるで裁判の被告人。

私、魔女裁判でも受けてるんですか?

かなり長いこと放置された。

なんでかって、その小学校には前例が無かったんだ。
女子が団長になる、て。

「女子だし五年生だし、六年生からも一人推薦」

何でよ???

黒板の前に、先生に推薦された六年生の男子と並んで立たされた。

「フレー!フレー!」ていう応援台詞と振り付けを、その場でやらされ、団員の多数決で決まるって事になった。

私は一生懸命、やりましたよ。
だって、立候補したのは私だし。
後から推薦のポッと出になんか、負けたくないじゃない。

結果──

惨敗。

だあれもね、私になんか手を上げない。
全部の票が、六年男子に集まってしまった。

担任教師が理由も聞いてくれた。

「五年生だから」各々の色んな意見が上がる中、ハッとさせられた。

「女子だから」
「声が高い」

ええーッ!!?

そんな生物学的なのね、どうしよう無いじゃん。
結局ね、副応援団長にはなったんだけどね。
ハチマキ長いくらいで、服装は他の団員と同じ。

ポンポン持ってブルマーで人前出るとか、もの凄~く、嫌で堪らなかった。

けど、頑張ったよ。
一生懸命 声出して、一生懸命 腕回したよ。

翌年は応援団には入らなかった。
二の舞う気しかしないじゃない。

その年の応援団長は…

1学年下の、女子。

──何で???

中学校の男子制服に身を包んでいてね。

私はダメで、その子は良い理由が分からないよね。
人望かな、ビジュアルかな(遠い目)
可愛い子だったな…

とにかく、羨ましい限りであった。

中学の男子制服 着たかったんだよ、私だってさぁ(泣)!

この辺りでは、まだ自分は主人公だと思っていた阿呆だから、それはそれは いきどおったさ。
ええ、はらわた煮えくり返ったさ。

誰にも言わんかったけど。

自分は“ただのモブ”と気付くのには、まだ数年要する。

小さい頃は誰しも“自分が主人公”だと思ってるものでしょ?そうでも無い?

③に続く──

─おまけ─ 体育祭

中学三年生の体育祭。

何で小学校では運動“会”だったのが“祭”に進化するのか、システムが未だに分からんのだが。

放送委員に属して、ヤグラの日陰で楽していた、私。

編集した競技のBGMのカセットテープをロストして「掛かってる曲違うんだけど!」なんて、ポカしたもんだが。
まあ、置いといて。

中学応援団は、団長は剣道着にタスキ掛け、副団長は男子制服に長ハチマキ。

良いなぁ、とは思ったけど、無理して応援団入ること無い。練習キツそうだし。

何より、中学でも やっぱり前例が無かったんだ。女子の団長。

だから、傍観 決め込んでた。

そして、選ばれたのは──

紅白両方、運動部の女子。
副団長もね。

剣道着、良いなぁ…

なんて思いも、戦う前から諦めていたから、思うだけ。
そもそもが無理だもんよ、自分には 中学の応援団なんて。

「○○ちゃん、はかま着せられる?」

着せられませんけど。

女子剣道部は無かった学校。女子では袴の履き方が分からん。

当時、私の母親は着付け師をやっていたから、おはちが私に回ってきたんだ。

ううん…確か、母ちゃんの着付け本に はかまの着せ方も在ったな…

卒業シーズンは はかま需要伸びるし、母親も春先は はかまの話ばかりしていた気がする…

出来るか分からんが、引き受けた。
安請け合いとは正に この事。

着付けの本 ひっくり返して、紐とタオルで簡易はかま作って枕に着せて猛練習。

合わせてタスキの掛け方も母親から教わった。

手早く、手早く…カッコ良く。

何で手早くかって、競技に出る間は体操服になる訳で、道着と はかま は脱がにゃあならん。

折角なんで腰紐も十字に縛れるようにしたりね。

当日、上手いこと着付け出来た女子の学友は、白い剣道着姿に長ハチマキでカッケェ事、カッケェ事。

副団長も誰かから借りた男子の制服着ててね。

「写真撮るー!」

持ってきた自前のカメラで一枚パシャリ。

ポーズした団長と副団長のカッケェ写真は、今もどっかに残ってるな。

良き想い出ですよ✨

縁下(えんのした)

誤解を生んでいたら悲しいので、補足も含めて。

何度も言っているが、私は決して、己の人生を悲観している訳では無い。

「“モブ”にはモブの人生が有る」

何かの漫画で読んだが、この通りだ。

主役になれる人間と言うのは ほんのひと握りで、例えるなら 徒競走で一等賞捕れる人。

実際はもっと少ないかもしれない。
学級に一人か、学年に一人か、学校に一人か。

リアルには主役以外の人間が大多数を占めている。

私もね、主役どころか そんな脇役でもない、モブ(背景の一部)の一人。

でもドラマや漫画と違って、リアルのモブは生きているんだ。

そういうの、忘れないで欲しい。

逆に言えば、それこそモブの人生は十人十色。

逆境に立ち向かい昇る事を夢見る人から、誰かの為に生きる人、今まさに挫折を噛み締めている人まで、様々。

そんな中、私は誰かの土台、縁の下の力持ち的 生き方をしたいと、念頭に持って動く。

いつだったかな、高校の頃だったかな?
気付いたんだ。
私、トップに立つとダメになる。

意味分かるかな…
誰かを引っ張るのには向いてない。
誰かの後押し、背中を押す方に長けてんだ。

完全に、主役外の精神。

“縁下の力持ち”

これが私の礎(いしずえ)、私が最も目指すもの。

踏みつけられても雑草のように立ち上がり、誰かの役に立つ人間でありたい。

すっかり言い忘れてたけど、この『どうでもいい話』は、他人にとっては どうでもいい内容の人生譚だけど、私の人生が誰かの役に立てれば、と思う所存である。

なんか、美化し過ぎな表現だな(汗)

簡単に言えば、フリー素材。

教材・創作は勿論 何にでも、許可取りは不要。
使って貰えれば、本望だ。

先駆者ならざる者③

根性論とは無縁で、嫌なことから逃げてばかりのヘタレだと、自覚していた小学校高学年。

担任教師に驚くべき言葉を貰った。

「○○は根性有るからなぁ」

え?私、根性有ったの??

衝撃だったな~、この言葉。

音楽祭で皆がリコーダー吹く中、一部に楽器があてがわれた時かな。
曲目は…あ『ハレルヤ』か。

学年が前半後半パートに別れてて、主旋律のリコーダー他にアコーディオンやらパーカッションやら数名ごとの別旋律。

私は後半パートのバスアコーディオンの担当だった。
バスアコは ただ一人、皆とは楽譜が違う、ベース音。

それでね、先生に「何で?」て聞いたんだな。

根性、有ったんだ…

考えさせられた。
ひょっとしたら、私が時たま見せる頑固な一面を買われたのかもしれんな。

四年生か五年生の頃だったかな?

特に「何」とは告げられず、学年の女子だけ体育館に集められた。
その間、男子は教室で自習。

現在はどういう指導になってるかは知らんが、アレだ。
女子に訪れる初潮、生理の話だ。

私は中学入るまで始まらない遅めだったし、母親も そういった話はしないから、学校で初めて“生理”を知った。

あー…だからトイレにゴミ箱有るんだ。

ナプキンの使い方レクチャーが有り、一人一個ずつ お試し用ナプキンが配布された。

薄いピンク色の不織布の外装。

──なんか、お菓子みたい。

ふわふわ感触だったもんで、女子の自覚が無かった私は、剥き身で揉み心地を楽しみつつ 教室へ戻った。

「あ!お菓子貰ってら!女子ばっかズリぃの!」

漫画に有りそうな台詞。
ガチで言われたよ、仲良しお馬鹿男子に。

男子に指摘され、初めて急激に恥ずかしくなった。

「お菓子じゃないもん!」

拳振り上げて、男子連中 追っかけ回しましたよ(遠い目)

それで、気付いたんだ。

自分は“男子とは違う”生き物なんだ。

てね。

だが、女子の自覚が芽生えた訳では無い。

生理始まるのは遅いし、胸も膨らみ始めていたけれど、ブラジャーしなかった。

ちっパイだしね。

それでも、やや膨らんだ胸は男子の まな板とは違って、すごく恥ずかしかった。
特に、薄着の夏場。

だから 体型隠す様な ぼたーん、と 大きなサイズの洋服をチョイスするように なった。

キャップに Tシャツ ジーパン…
例えるなら、一昔前のヒップホップ系かな。

そんな服装ばかりだもんで、外では

“男の子” だと思われてた。

小学校六年生の時、進学する中学校の制服を作りに、母親とショッピングセンターに出かけた。

フロアの奥地に設置された、間口の広い制服コーナー。

中高各学校の制服を着た男女のトルソーが並び、左手が男子制服、右手が女子制服に分かれていた。

「○○校の制服を」

母親が売り子さんに申し出ると、首からメジャーを掛けた男性の方が小走りに出てきた。

「どうぞ、こちらに」

──あれ?

誘導されたのは、間口の左手。

こっち、男子制服コーナーでは。

そう。私、男の子と勘違いされていたんだ。

母親は気付いていない。

私は、黙り決め込んだ。
何故ならば、

このまま男子制服 作っちゃえば、スカート履かなくて良いんじゃん。

てね、悪魔が囁いたのだよ。

採寸でダボッとしたコートを脱いで Tシャツになっても、男性スタッフは気付かない。

周りを見渡せば、女子制服コーナーでは可愛い女の子が数人採寸されているが、男子制服コーナーには 他に客人無し。
肩幅・胸囲・袖丈を測って、2サイズくらい上着を引っ掛けたかな。

いやぁ、意外とバレんもんだね。
採寸で直接メジャー当てられてんだけどね。

このまま、このまま…

「次は、股下を測ります」

男性スタッフが膝を着いた、その時だった。

「──ぅえっ!? 股下!?」

頓狂な声を出したは、母親だ。
母親が バッと顔を上げ、キョロキョロと辺りを見回す様を、私と男性スタッフは ぽけっと 見てた。

「ここ、ひょっとして、男子制服!!?」

気取られたー!!!

「いやだ!この子、女の子なんです!」

気にしてる事、ハッキリ言われたー(泣)!!!

もうね、男性スタッフの慌てようといったらね…
そんなに 頭 下げないで…浅はかな思惑を抱いた、私が惨めに思えるから…(涙)

という経緯でね、私は女子制服を作る事になってしまったのだよ。

残念だ…非常に、残念だ…

──この話、ここで終わらない。

数十年後、本当に ここ数年の、ごく最近。

母親が突然、思い出したかのように、この時の話を始めた。
私は あの時、
「男子制服側と気付いていたけど、あえて言わなかった」
と、ハッキリ母親に告げた。

「何で言わないの」
て 言われたけれど、まあ、うやむや と うやむやに。
確かまだ、カミングアウトする前だったからと思う。

母親が続けて始めた、小学校の担任教師の話は、驚くべきものだった。
先生、中学校まで出向いて、掛け合ってくれてたんだって。

「学級に一人、絶対にスカート履かない子が居る。
どうしても女子制服じゃないと、ダメか」

てね。

それも「校則だから」と、突っぱねられても「そこを、なんとか」て、かなり粘って交渉してくれてたみたい。

母親が頼んだ事では無い。
私の母親は「わがままなんか黙らせて、スカート履かせりゃ良い」て、考えなので。

この話を保護者面談か何かで母親は先生から聞かされて、寝耳に水だったそうだ。

先生は至極 悔しそうに、

「決まりだから、中学校ではスカート履かないとダメなんですって…」

て、仰られた。

──先生ッ(感涙)✨

水面下でそんな事になってただなんて、露知らず。

ひょっとしたらだけど、男勝りな体育会系の担任教師は、私と同じ思いを、した時 有ったのかな。

私の時代にもね、理解有る大人は居たんですよ✨

I先生、悪さばっかしてて、ごめんなさい(礼)
私は今、こんなんなってまーす!えへへ♪

④に続く──

─おまけ─スカート可愛い

さほど重篤ではない、私のトランスジェンダー度。

そりゃあね、確かに中学入りたてはスカート毎日嫌だったけどね。

こんな私を変えてくれたのは、他の誰でもない、親友の一人だ。

学区が同じ地元だから幼稚園から同じ所に通ってたんだけど、仲良くなったのは中学からだ。
同じ高校に進学して、帰り道も同じだから、よく二人でブラブラ寄り道してた。

ちょいと偏差値低めで校則も緩くって、普通にガングロもギャル男も生息していた、一つ目の高校。

直面したのは──なんか、私たちダサいよね。ていう外れ感。

当時流行りのコギャルはね、ルーズソックスに短いスカート。
茶髪ガングロまで行かずとも、黒髪で短いスカートにルーズソックスは鉄板だった。

中には普通に膝下丈にハイソックスの子もおるんだが、私は「コギャル可愛い!」て思っちゃうミーハーだもんで。

お洒落な情報に強い親友と、初めて一緒に「ぎゃあぎゃあ」言いながら、ルーズソックスを買ったんだ。

「何コレ!? 長っげぇ!!」

そもそもがルーズソックス ご存知なのかな。
丈の長い厚手の靴下を くしゅっと足首周りで蛇腹にして、ガ○ダムみたいなフォルムで履く靴下なんやけど…

特殊形状の50cmから、マフラーより長い2m丈まで。

伸ばした状態で色んな長さが壁一面に、ぶら下がって販売されてた。

何が大変って、洗濯だ。

足回りだから地面に擦って汚れが太い繊維に、こびりつく。

世の主婦層は「何コレ…」と思って干されていた事だろう。

一足あたり千円超、学生の小遣いでは、洗い替え枚数買えなくて…

中に普通の靴下履いて、表面のルーズは数回使ったな。

因みに当時の小遣い、月五千円。

合わせて、ソックタッチと呼ばれる先端がボールの液状のり も必要でね。

重さで すぐ剥がれるから、一日に何度も塗り直さにゃならん。
普通に使うと月一個は消化する消耗品。

最終的に私は、強力タイプのスティックのり を使ってた。
それだと一日 剥がれない。

おっと、脱線した。スカートの話な。
流行りに乗っ取りルーズ履き、膝丈だったスカートを折り込んで もも丈にして、全身鏡で眺めてみた。

…可愛いかも。

あ、自分じゃなくて 服装がね(汗)

大きめサイズのカーディガンをカッターシャツの上に羽織れば、完成。
何だったかな、流行りのメーカー…
もどきメンズのやっすいのだったもんで。
このファッションに対する意欲で、アンチスカートな意識が改革されたのだよ。

折角この体で生まれたんだから、女子の格好もしてみようかな、て。

だって、得じゃない。

言い方悪いが、当時 女装子は変人扱いされてたけど、女子はパンツルックもスカートでも 両方可能なんだよ。

楽しむべきじゃん♪

母親は、アレ⑫

お米三袋 肥えちゃってた、昨年までの 私。

現役時代、ビジネススーツにネクタイを格好良く着こなしていた自分は何処へやら。

服なんて、裸でなけりゃ良いじゃん。

てな訳で、家では Tシャツ・スウェット、外では だぼーんと マキシ丈のカットソーワンピースの手抜きファッション。

いや、めっちゃ楽なんよ、マキシ丈ワンピース。
一枚で外 歩けちゃうんだよ。

ついでにトイレも楽なんだよ。まくる だけなんだよ。

頭は刈って坊主にした。

髪質的に寝癖 直らんし、寝転んでばかりで 後頭部で毛玉が出来る。
坊主はとにかく、シャンプーが楽。

生活面では“楽”を重視していた、私。

「マ○コスタイル」

あ、○位置悪いな(汗)

きちんと お化粧されて お洒落になさっているマツ○さんには大変失礼なんやけど、自分の服装を そう呼んでた。

坊主にワンピ。

それが、母親は気に食わなかった。

「アンタ、いい加減 ちぐはぐ な服装、止めなさい!」

よくね、言われてたんよ(遠い目)

確かにね、以前その格好でシルバーカー押して歩いてたら、背後からチャリンコで爆走してきた男子学生二人組が

「おじさん!? おばあちゃん!? おじさん!? おばあちゃん!? どっち!!?」

て 騒いでて、すれ違いざま振り向いて

「分かんね!!!」

て、言われた時が有ってね…
帽子被るようになったんやが。

“自分らしく生きる”と言う意味も込め
「マツ○スタイルなんだ!」
と言い張ってた。

いや、本当にマツ○さん、失礼な事してて ごめんなさい(汗)

前にも書いたが、母親とは趣味が合わない。

だけど、母親からして私は着せ替え人形なんだ。
どうしても、自分がチョイスした洋服を私に着せたいらしい。

「マネキンが着てた可愛いの、買ってきたよ!」

これ、来る度。
だから、月イチ。

それもね、コレにはコレを、てセットアップで買ってくるんだよ。

私、そんなに出かけません。

趣味も合わんが、それ以前の話。

まあコンビニは しょっちゅう行くけど、後は病院行く位で、出かけること無いんだよ。
そんなん、ワンピ一枚有ったら十分じゃない。

「洋服は要らない。着ること無い」

毎月言って、散々言った。

それでも買ってくる。
だから、言い方を変えた。

「お出かけ着は要らないけど、パジャマなら嬉しいな」

ぶっちゃけ、着古して くったくたになって来てたから、本当に必要な物を伝えた。

「パジャマ買ってきたよ!」

「ありがとーう♪」

てね、喜んでしまったのが、いけなかった(遠い目)

それからは毎月毎月、Tシャツ・スウェット、部屋着の嵐。

毎月だよ、毎月。

最初の三月は喜んだけど、そこまで。

だって、要らんじゃん。
そんなに、パジャマ要らんじゃん。

あー…どうしよ…
洋服入れの5段プラ引き出し、入り切らなくなってきた。

洗濯カゴ一つ溢れて、出しっぱなし。
洗濯カゴ二つ目溢れて、出しっぱなし…

そして、去年の秋口から言われ始めた。

「ハンガーラック買おう!」

──え?要らない。

だって出かけないんだよ?
要らないじゃん。
服がホコリ被るだけじゃん。

「それは要らん。絶対に買って来ないで」

要らないものは ちゃんと言っとかないと、勝手に買ってこられて お部屋改造されるから、断った。

使い易くなるなら まだしも、彼女は使い難くする天才だから。

ただでさえ 我が家の収納、ちゃんと自分なりに作って色味も揃えたのに、いじくり回され凄く嫌。
少しずつ私の中で譲歩して「ここだけは絶対に譲らん」て空間が どんどん侵食されてって、60cm平方まで狭まっているんだよ。

ここは私の家であって、貴女の家ではありません!
これ以上、要らんこと しないでくれ!

てね、何かされる度に憤ってきたから、マジで使わないハンガーラック置きたくない。

「洋服、溢れてるじゃない!ハンガーラック買おう!」

その洋服を、溢れさせたのは誰ですか?

てな攻防が、始まりましてね(遠い目)

ぶっちゃけ、その頃 私 洋服買ってない。

半年位、毎月毎月、そのやり取り。
その間も毎月パジャマ増えていくんだよ。

パジャマも、もう要らん。

あっちこっちに洗濯物しまわれて、場所も動線悪くて堪らない。

私は不精者だから、部屋着はスウェット上下・Tシャツ セットでしまうんだ。

彼女は上は上・下は下・TシャツはTシャツで しまうから、あっちの部屋こっちの部屋、ワンセット揃えるのに家の隅から隅まで探し回って「あ゙あ゙もう!」てね、なるんよ。

いや、やってもらっといてワガママ言うなって話なんだけどね…
生活するのは私だからさ。

おっと、脱線しまくってるな。何の話しようと思ってたかな…

あ、そうだ。
スカートとズボンの話だ。

そんなね、お洒落から遠のいて ちぐはぐファッションで良かった、私。

母親には、許せないようだった。

「髪伸ばしなさい!」
「嫌!」

「じゃあズボン履きなさい!」
「絶対に、嫌!」

なんでズボンが嫌かってね、ズボンと言うのは私の中で男性の象徴的神聖な物なのだよ。

こんな、ダルダル中年の ぶっとい足で履きたくない。

分かるかな…下半身の 女性の骨盤ラインと、男性の骨盤ラインは違うんだ。
骨盤の形は 男性が正方形なら、女性は横向きの長方形。

矯正しようの無い骨格の違い。
細い時でも気になっていたのに、お肉が乗ると余計に際立つ。

肥えると男女差は如実。

そんな体型でサイズに合うピタッとしたジーパンでも履いてご覧。

──おばちゃん(泣)!

女性らしいフォルムが悲しすぎる。
せめて細けりゃ格好は着くのに。

ファッションに対する意欲は無くとも、理想は高いまま。

簡単に言えばね、格好良く着こなしたいのだよ、ズボンは。

だから体型カバーのワンピばかりで、ズボンは履きたくない。

去年の夏 十円ハゲが出来、ほったらかしていたら、秋口にはかなり広がってしまった。

「髪伸ばしてハゲ隠しなさい!」
「いーやー!」

十円~五百円玉レベルじゃ無いんだよ、人の拳大、瓶底レベルのハゲなんだよ。

そんなん髪で覆ったところで隠れはしない。
例えるなら、落ち武者だ。側面だけど。

頭皮が髪の隙間から見えちゃって、みっともないだけ。
そんなの、想像つくじゃない。
私は逆に言い訳するチャンスと思った。

「ハゲが目立たないように、髪を刈る」

外出る時には帽子被るし、他人からは見えない。
そう説き伏せて、母親を黙らせた。

流石にハゲが在るうちは「髪伸ばせ」とは、言わなくなったな。
ハゲ様様(笑)

こういう経緯で「マツ○スタイル」を、貫いていた訳だ。
現在は体型も標準体に落ち着いて、筋肉弱った足は かなり細く思える。

痩せた上に、湧き上がる恋心。

私の中で眠っていた洒落っ気が、目を醒ました。

こうなるとね、どんなに洋服持っていても、趣味の合わない服は着る気がしない。

結局、自分好みのプチプラ洋服買うようになってしまったんだよ。
そして、容赦無く溢れる収納…

お分かりですね。

最近とうとう、半年ほど静まっていた母親の「ハンガーラック買おう!」熱が、再発してしまったのよ(遠い目)

「要らん!」
「あっちもこっちも引っかかってるじゃない!邪魔でしょうがない!」

私は別に邪魔とは思ってないし…
仕舞いたくは有るが。
洒落っ気取り戻したとは言え、出掛ける頻度が増えたとは言えない。

月に1~2日、お出かけするかなぁ?くらい。

要らんでしょ?ハンガーラック。

正月は断捨離大掃除するしか無いか(遠い目)

面倒臭いな…ていうか、着てない服処分するの、勿体無い。
貧乏性が邪魔をするんだ(言い訳)

⑬に続く──

魚群戦隊フィッシュマン⑤

普通のスーパーでは まず見ない、水族館的な活魚たち。

「え?どうすんの、コレ??」的な お魚を、種類毎に まとめてみる。

─ホヤ─

地域によってはメジャーなんやが、チェーンの大型スーパーでは まず見ない。

“ホヤ” 知ってる?
別名、海のパイナップル。確か(未確認)
硬い革質の…何アレ?
妙なイガイガした太めのトゲ(?)が生えた、短い棍棒の様なフォルム。

中身は干したりサシミにしたり、酒の肴に もってこい。

なんだが。

未成年だった私は初めて見た生き物だった。

──え?何コレ?

ラップ待ちの台車に回ってきたのは、発泡トレーに乗せられた、活けホヤ。
魚肉ソーセージを太くした様な、味付け豆もやし みたいなフィルムの外装。

中には水と、赤茶色のホヤが封じ込められていてね。

見れば見るほど、怪奇珍妙。

え?どうやって食べるもの???

主婦2年目の私には よく分からんが、ベテラン主婦は さばけるもんなのかな。

そう思い、4つほどラップした。
他のお魚達に紛れ、売り場に並んだホヤ。

気になるよね。
もうね、気になって気になって仕方ない。

売り場に出て商品整理する度、ホヤを遠目に見つめる、私。

──誰も、手に取らない…

一角だけ、まるで何も置かれてないんじゃないか、というスルー具合。

普通の主婦には、見えないんだ、ホヤ。
賞味期限は数日有ったかな。
一日一トレー位ずつ、いつの間にか減っている、ホヤ。

──どんな方が買われてるんだろう…

レジ係の方を「何コレ!?」て驚かせてそうで、ニヤニヤしちゃう。

数日後。

「すみません、皮 剥いて下さい」

「はーい!」

oh…

お客様から受け取ったのは、ホヤのトレー。

半額シールが貼られていたかな。両手に抱えた、ホヤのトレー。

幾分か職場でも包丁持つようにはなっていたが、商品で腕を試す訳にも行かん。

流石に、ベテランパートさんに託しましたよ、流石に。

「客注あがり!」
「はいな!」

──ええッ!!?

皮を剥き 再ラップすべく、私の元に戻った、ホヤ。
二つ一緒に、一番小さな発泡トレーに入れ替わり。

赤茶色の皮からは想像出来ない、だいだい色して水分たっぷり。
パッと見、プルプルとした みかんゼリー。

こんな ちいちゃく なっちゃうの!?

ソフトボールより一回り大きい位だった外見からは想像出来ない、干し柿サイズ。

なんか、穴 空いてる…

ぺしょん と潰れた身の中央には、貫通した ちくわ状の穴。

何か、リアル…

生き物としての構造がね(遠い目)

ラップし直したホヤを、買い物回りから戻って来られた お客様に お渡しした。

「大好物なんですよ♪毎日買っちゃってる♪」

貴女でしたか、消化してたの。

お一人しかね、買われてない。

─ワタリガニ─

この辺からはメジャーかな。

「よろしく!」

早朝 珍しく声が掛かって、ラップ待ち台車に乗せられたのは、活ワタリガニ。

──生きてますけど!!!

発泡トレーの上で、うごうご元気に動いていた。

凄~く、新鮮(?)でね。

活き良すぎ、台車のアルミトレーの上を歩いちゃう。

ヤバヤバ!さっさとラップしないと大変な事に!

いやもう、焦ったよ。
これは声掛かるよ。

発泡トレーを ひっくり返しながら かっ歩するワタリガニを、ビビりながら掴んだ。

ハサミを広げ、威嚇してくるワタリガニ…

怖い(泣)!

細長いハサミはに挟まれようものなら、洗濯バサミより絶対、痛い。

持ち上げれば、パタパタと もがき 回転する後ろ足。

…こうなってんだ。

パドルの先の様に 水かき状に平たい後ろ足先には、フチを囲うように毛が生えている。

折角なんでね、じぃーっと眺めましたよ。

ラベルマシンのベルトコンベアに、ひっくり返された 空の発泡トレーを移し、ワタリガニを置く。
スイッチ押せば、ラベルマシンに呑まれ行くワタリガニ。

そのまま連続して三匹位 流したかな。

──oh…

ラップにラベルシール貼られ出てきたワタリガニの後ろ足が、発泡トレーからはみ出し、折り込まれてしまった。

カニの硬い脚が折れるって、どんだけ。

機械の力は 強力だと知った瞬間だった。

手巻きすべきだったな…

見栄え悪いが 時間無かったので、そのまま店頭に並べた。

もうね、気になっちゃうよね。

だって生きてるんだよ?
密閉されて酸素足りるかなー、とか、脚痛くないかなー、とかさ。

商品整理の度にワタリガニ君の様子を見に行った。

──泡吹いてる…

カニだな、て思った。

─ウマズラ─

のぼーん とした馬の様な顔立ちが特徴の、カワハギの仲間“ウマズラハギ”。

皮目はくすんだ どどめ色。
エラ前の顔は硬く大きく、体の半分は有る。

ぶっちゃけ、美味しそうには見えない様相。

──どこ食べるんだろ??

カワハギの仲間だし皮剥ぐんだろうが…
さばき方から分からない。

──どなたも手に取られない。

やっぱね 世の普通の主婦層に、ハギ系は難易度 高いんだと思う。

夕方。

リーダーが上がる直前、まな板に向かっていた。
別作業中だった私は、チラリまな板の上を見る。

乗っていたのは、ウマズラ。

尾頭付きが残っていると、調理し易い様 加工されてラップし直す。

あ、あーッ(汗)!
それ、教わりたかったー!

思ったけど、自分の作業を ほっぽる訳にもいかん。

数分後 泣く泣く、頭と中身が落とされ 皮を剥かれた二匹セットのウマズラを、ラップし直した。

──美味そうだな。

どどめ色だった外皮からは想像出来ない、虹色に照り返す ぷっくり した厚みの白身。
ただね、めっちゃ小ちゃくなってた。尾頭の時から約3分の1。

食べるところ少ない…

思ったけど、仕事上がりに買ってみた。

確か、大きな肝付だったかな。
身は煮て、肝は煮汁に煮溶かした。

身は淡白だけど、肝により濃厚。ほろっとほぐれ…

いや、めっちゃ美味いよ!
ウマズラ、めっちゃ美味い!

─車海老─

高級料亭で お馴染み、活車海老。

「よろしく!」

声と共にラップ待ち台車にセットされたアルミトレー。

10皿位だったかな。
互い違いに発泡トレーにぎうっと収められ、10匹セット。

経木に赤ペン描きの品目には“活”の文字。

そんなんね、考えれば分かったもんなんやがね(遠い目)
なあんも考えて無かった、お馬鹿な 私。

ラベルマシンに表示された価格がヤベェ高いな、とかは思いつつ、いつも通り小さなベルトコンベアに発泡トレーを置き、スイッチON。

次々と流し、ラップされ出てきたトレーを見て、ハッとした。

──あれーッ!?

10匹居たはずの車海老、3匹にまで減ってんだ。
どこに消えた とマシンの中を覗き込めば、張られたラップに向かってトレーが迫り上がる瞬間、ピンピン跳ぜる、車海老。

ぎゃあああぁッ!!!

大慌てでね、緊急停止しましたよ。

やっちまったあー(号泣)!

3皿目のラップ途中で止まった、ラベルマシン…

お分かりですね。

機械の中がエビだらけ。

ひいいん…(泣)

無事なエビもいたけれど、機械に巻き込まれ無惨な姿の子たちも多い。

ラベルマシンからは あらかた撤去して、そうっと台車を手巻きラップ機の前に移動させた。

うぅ…この半端になっちゃった皿、どうしよう…

10匹×7皿、余り8匹。

ええ、22匹の高級車海老が お亡くなりに(遠い目)

10匹に紛れて8匹てのも、微妙。
という訳で、3と5匹を小さいトレーに分けラップした。

定期的に分解清掃も有るんやが、その日は品出しが落ち着いてからは ずっとラベルマシンの清掃。

生もの が部品の間に入り込んじゃったんだもの。
腐っちゃったら困るじゃん。

地味にね、3匹5匹は即、売れてた。

─伊勢海老─

ちょうど今時期だったかな。

「よろしく!」

毎度の声と共に台車に挿されたは 活伊勢海老2匹。

ふおお✨

太い軸から伸びる触覚は長く しなる。

それがまた、めちゃめちゃ立派なヤツでね。
経木に書かれた お値段指示も べらぼうでね。

五千円位してたかな。

──同じ轍は踏まん。

車海老のトラウマが根強く活きていた頃合。

シュッとアルミトレーを抜き、手巻きラップ機 前の台紙に移した。

とりあえず、後で。

まだまだ数台のラップ待ち台車が残ってる。
こいつを片付けん事には、品出しパートさん達が困ってしまう。

伊勢海老は放置、私はラベルマシンのコクピットに戻った。
オープン前で作業パートさんも多く、次から次へとラップ待ちの お魚達が届いてくる。

せっせ、せっせ。

私はラベルマシンとの格闘に夢中になっていた──

お分かりですね。

ふうぅ…残り一台!
これが終わったら伊勢海老やるんだ!

ラストスパートに入った私。
伊勢海老のラップ巻きは お楽しみ。

そんな中、店頭チェックと品出しをしていた部門長が スイングドアを豪快に開け、作業場に戻ってきた。

「──おい!伊勢海老、逃げてるでッ(汗)!」

──ええ?

振り返り、手巻きラップ機を見れば、手前の台車は空車に。

固まり床を指さす部門長。

触覚揺らし、床をかっ歩する でっかい伊勢海老。

「ぎゃああああぁッ!?」

大慌で走り伊勢海老をキャッチした。
パタパタと、尻尾を振る伊勢海老君…

シャバの床には、満足したかい…?

ジャバジャバゆすいで、アルコールも降って拭ったよ。
しつこいくらい。
そのまま ラップしたよ。

流石にね、五千円クラスは捨てられない(遠い目)

⑥に続く──

水子の魂

これは、私の “禊(みそぎ)” である。

話すことが禊になるかは分からんが、新年早々する話でもないので、今のうちに済ませようと思う。

決して気持ちの良い話では無いので、苦手な方は 数日スルーして頂きたい。

当時私は20代前半、察しの鋭い方は お分かりだろう。

二人共、先輩の子だ。

─ 一子目 ─

汚部屋先輩宅に居候して、間もなく。
私が22歳の時だ。

まだ性交慣れしとらんから「避妊なんて中出ししなけりゃ良いんじゃん?」位の認識しか無かった、私と先輩。

毎日ヤリまくってたらねぇ、そりゃあ外出ししてたって、出来るさ。
出来ちゃうもんなのさ。

気を付け給えよ若人達よ。

異変に気付いたのは、生理予定が飛んだ時。

ううん?来ないな。

程度しか思っとらんかったが、流石に ひと月遅れた時には焦った。

え?ひょっとして、妊娠した…??

生理が飛んだ以外は 全く兆候といった症状も無く、半信半疑で仕事上がりに、妊娠検査薬を買いに薬局へ寄った。

なんか、色々有る…

婦人科系の薬品が並ぶ什器の一角で、私は静止していた。

検査薬には各メーカーが出す、一個入りのもの二個入りのもの。

えー(汗)違いが分からん!

パッケージの表書は大概似たような売り文句。
ひとつひとつ手に取り、裏書の説明を読む。

妊娠検査薬と似た、排卵検査薬なども同じ列に並んでいる。

排卵分かるとか、便利そう✨

普段は見る事の無い、婦人科系の薬品類。
知らないものが多すぎて、気になって気になって仕方ない。

だけど今、それどころじゃない。

ううん、説明読む分には同じかな…??

同じならば安いので良いんだが、初めての事なので、知っている薬品メーカーのものを手に取る。

一個入にするか二個入にするか…

片手にそれぞれ持ち、しばらく悩んだ。

自分で判断出来ない時は、結構すぐ近場の販売員に相談するんだけど、流石にねぇ…

恥ずかしい。

聞けませんよ、まだ二十代の若造やし。

価格的には二個入の方がお得なんだが、一個入を購入した。

二個は、要らんよな…???

妊娠検査薬は第二類だったかな。

oh…

「初めてですか~?」とか「使い方は~…」だとか結局ね、レジで薬剤師さんと会話する羽目になりましてね(遠い目)

独りで悩んでた時間、なんだったんだろう…

てね、思いましたよ。

これから初めて妊娠検査薬を買う諸君、覚えておき給え。

聞いた方が早い。

まだ先輩の帰宅していない先輩宅に帰り、早速 開封。
説明書を読み込んで、中のパウチから検査薬を取り出した。

細薄い体温計のようなフォルム。
中央には小窓が在り、先端から吐出した硬い不織布が小窓から見えるようになっている。

片手に握り、トイレへ移動。

出てきた お小水を先端にかけた。

ここからは あっという間。

おおお!

すうーっと染み込む お小水が窓から見える。
さぁーっと浮かび上がる、赤い線…

二本出た。

息を飲んだ。

──妊娠してる。

寒い便座に座ったまま、呆然と検査薬を見詰めた。

どうしよう…

もうね、色んな考えが途方もなく溢れて来てね。
キャパオーバー。
検査薬から目を離さないまま、しっとりとした お布団に戻り、説明書を もう一度 読んでみたり、間違いない事を確認した。

この時 私は ごく普通の、両親が居て子供が居て だんらん する“一般家庭”に憧れていたから、色々と未来の夢が溢れ 正直、嬉しかった。

とりあえず、先輩に何て報告すべきかな。

私は先輩宅にお世話になっている身で、若気から色々と行為に至る仲では有るけれど、お付き合いしている訳では無い。

──先輩に「妊娠した」て伝えたら、付き合って 行く末、結婚したり出来るのかな。

夢が広がり過ぎ 頭の中がキラキラで、ワクワクしてたのを覚えている。

先輩の帰宅が待ち遠しい。
遅れた晩飯の支度をしている最中、先輩が帰宅した。

「ただいま」
「おかえりなさい」

この時、私は妄想に囚われ忘れていたんだ。

お布団の上に 検査済みの妊娠検査薬、置きっぱだったのを。

「何コレ」

──あ、しまった!

気付いた時には先輩は検査薬を手に持っていた。

そして、言ったんだ。

「困るよ!勘弁してくれよ!」

あ、…………

これが、現実。

僅かに垣間視た甘い夢など、容赦無く、打ち砕かれた。

そうか。

そもそもが私と先輩の気持ちは すれ違っているんだ。
現実を受け入れる以外に、術は無い。

とりあえず、産婦人科に行こう。

そこで、聞いてみよう。

“中絶”について。

勤め先と最寄り駅との間に、産婦人科の看板が出ていたのを思い出した。

次のシフトの休みで、早速 愛車を走らせた。

夕方、産婦人科の受付で問診票を記入し、呼ばれ診察室に入った。

腰丈のカーテンで間仕切られた診察台。

「下だけ下着まで脱いで、乗って待ってて下さい」

え、どうやって…?

合皮製ピンクの枕が付いた100cm程の広いビート板の様な形状。
例えるなら、座椅子の上半分。

別パーツで一段高くなっている、ピンク色の二枚の板。

明らか、足乗せる用。

──ええー…

嫌だな。て、思った。

そういうもんなんだから、世の女性は皆 経験するもんなんだから、と自分に言い聞かせ診察台に乗り寝転び、板に足を乗せた。足を閉じた乙状。

お尻が寒いッ(泣)!

シュッとカーテンが腰下に掛かり、上半身と下半身が隔たれる。

「診ますね~」

ぎゃああッ!!?

医師とは対面しないまま、ガバッ!と 足が開かれた。

ひゃあんッ!!?

直径2cm程だろうか、冷たい棒が膣に挿された。

ひいいいぃん(泣)!

めっちゃ恥ずかしい。

「見えないなぁ…」

ぬるみを帯びた棒がね、膣の中を うごめいて、突き当たりを凄いグリグリされんの。

もの凄~く、嫌。

なかなか見付からず、かなり長いこと恥辱に耐えた。

「──ううん、まだ小さ過ぎるかもしれない」

あ、そういう事も有るんだ。

一度 診察台を降り服を着て、待合室に戻った。

もうね、ヘロヘロで頭が真っ白。
聞こうと思ってた事とか全部、飛んでた。

医師から話を聴くのは 普通の病院の診察室と同じ、机に丸椅子。
そこで、初めて医師と対面する。

「結構 探したけど見付からなかったから、少し大きくなるのを待ちましょう」
という訳で、翌週 再来院する事になった。

…「中絶したい」て、言い出せなかった…

次は言わなきゃなぁ、なんて思いつつ、ボケ~ッと夜道をライト付け、車を走らせ帰宅した。

──翌日。

朝、トイレに入った時だった。

…あれ?生理 来た。

出血していた。

なぁんだ、妊娠してなかったのか。

妊娠検査薬の注意事項にも「結果は100%ではないので、必ず医師の診察を」て書いてあったし、お医者も「見付からない」て言ってたし。

妊娠してない、そう 思い込んでしまったんだ。

その日 先輩は休日で、珍しく「○○の仕事終わったら迎えに行くから、ラーメン食いに行こう」と、誘ってくれた。

やったぁ♪

先輩からサシで外食に誘ってくれたのは初めての事で、私はホクホクと車の鍵を先輩に貸した。

今思えば、多少なり先輩にも罪悪感的な想いが、有ったのかな。

楽しみで楽しみだったけど、仕事中、キリッと下腹部が痛み出した。

くうぅ…生理痛か?

それまで私は生理痛とは無縁な優良児。
徐々に痛みは強くなり 立っているのもやっとの状態であったが、生理痛を知らないから、異変に思わなかった。

勤務時間を務めあげ、待ち合わせた先輩と合流した。

助手席に座った頃には猛烈な痛みで、ぶっちゃけ、さっさと帰って横になりたかった。

──でも、ラーメン食わせてくれるとか 嬉しいし。

腹痛は意地で耐え、とんこつ臭 漂う古いラーメン屋のテーブル席に着く。

…おしっこ したい。

メニュー表を見る前に、職務中 我慢していた事も有り、トイレに立った。

季節は師走、ちょうど今時期の寒い、古いタイプの和式便所。

男性も用を足し安い、タイル張りの床から30cm程の段差に乗る仕様。

──うえッ!!?

下着を下ろし、ハッとした。

ナプキンが、鮮血で びったびた だった。

な、何事!!?

吸収率の飽和状態で、ぼてんと重たい。
何より、いつもの生理は黒ずんだ赤なのに、目が醒める様な鮮血なんだ。

ここで初めて、異変に気付いた。

狼狽しつつも用を足す為、便座に しゃがみこんだ。

ん?んん?大も出るか?

気張りたい感じがしたので、軽く いきんだ。

んんー…ひぃんッ!!?

ボトンッ!

“何か”が、膣を通り 落下し音を立てた。

──な、“何か” 出たーッ!!!!?

“何か”が、出たんだよ。“何か”が。

そうっと、和式便座の中を見れば、大量の鮮血で真っ赤になっている 海と陸。
陸の中央には、直径5cm程の、真っ赤な ぶよっとした ピンポン玉。

多分、胎嚢と呼ばれるものと思う。

あんまり衝撃だったので、覗き込んだまま静止していた。
頭の中は真っ白。

カラカラ出したペーパーで股を拭い、下着を戻しズボン履き、高座から降りてピンポン玉を凝視した。

カタカタ鳴る歯を片手で押さえてた。

腹を触れば、居た感じは無かったはずなのに、居なくなったのだけは分かった。

──コレ、流して良いのかな…

配管詰まったりしないかな、う○こ流れるんだから詰まりはしないか…
そもそも、赤子的なもの だったら、トイレ流したら問題になったりするのでは…

キャパオーバー。

思考がパンクして 立ち尽くしたまま、時だけが流れる。
どれだけ、そうしていたか分からない。

10分は軽く、動けなかったと思う。

──出なきゃ。

あんまりトイレに こもっているのも、他のお客人に迷惑だ。

私は、グッと給タンクのレバーを押し下げた。

じゃああ、と 水流に押されるピンポン玉。
海に呑まれ、姿が消えていくのを、じいっと見守った。

「長かったね」

「うん、ちょっと…生理 酷くて」

席に戻れば注文を待っているままの先輩。

──言えない。

「トイレに流した」だなんて非人道的なこと、言えやしなかった。

私の初子はね、古いラーメン屋の和式トイレに、流したんですよ。

ちょっと休憩的な小話でも挟もうかと思ったが、語りきってしまうべきと思うので 今しばらく、重苦しい話に お付き合い願いたい。

引き続き、苦手な方はスルーして頂きたい。
来週には、別の話をしていると思うから。

─ 二子目 ─

一子目をラーメン屋のトイレに流し、ちょうど翌年。
私が23歳の時。
学ばないのが、若気の至り。

教訓からゴムを使うようにはなったものの、それまで未使用だったのも有り、先輩は付けたままイけなくなっていた。

私自身も薄くとも、生身から隔たれると温もりを感じられず、機械的に挿入される感覚は不快でしか無い。

だから、途中で先輩がゴム外すのを止めなかった。
「避妊なんて、ゴム使えば良いんじゃね?」という認識。

覚えておき給えよ若人達よ。

ゴムは使用方法を まもり 正しく使わなければ、避妊効果は無いんだよ。

その頃 私は、学費は まだまだ残っていたが 自動車ローンは完済し、幾ばくか貯蓄に回せる経済状態。

職場でもスタッフ中では 一番の古株。

接客は苦手だけれど、以外の仕事は多く、頼られる事も多く、働くのが楽しくなてきていた時の頃。

──ん…なんか、胃がもたれる。

やたらと酸っぱいものを口に入れたい日々が続いた。

胃の むかつきは収まらず、とうとう、晩飯食ってる途中で込み上げてしまった。

慌てトイレに駆け込み嘔吐した。
あらかた出して、便座に向かったまま、呆然とした。

ま、まさか…また!?

生理予定日は2~3週間過ぎていたが、忙しさにかまけて気にしていなかった。

うえぇ、気持ち悪い…

とにかく、気持ち悪い。
お腹は減る。
食うと吐く。

どうしようも出来ない。

参った。アレ、悪阻(つわり)、マジで参った。
とりあえず、翌日の仕事上がりに再び薬局へ行った。
買ったのは、二個入の妊娠検査薬と太田胃散。

結局ね、前回 流れた後に念の為、再度 検査薬買って線が1本なのを確認したからね(遠い目)

二個入買っとけ、使うから。

太田胃散は飲みたい。なんか飲みたい。
スッキリしたかったんだ、とにかく。

帰宅して 即、検査薬を持ってトイレに入った。

すぅーっと、浮かぶ赤線が二本。

またかよッ(泣)!!!

ああもう、マジでヤダ。
先輩に言うの、マジでヤダ…

先輩の反応は、地味にトラウマ化していた。
本当~に、言いたくない。

だけど、前回無かった悪阻に襲われ、言わずには居られなかった。
帰宅した先輩を正座して迎え、心した。

「──わたくし、妊娠しました」

目をギュッと つむって、奥歯を噛み締めた。
どんな言葉を言われようと、私は動じない。
そう、自分に言い聞かせた。

予想外だった。

先輩は、私をギュッと抱きしめて、言ったんだ。

「ごめん○○…産んでくれ」

──え?

「俺、社員になるから、産んでくれ」

その頃、先輩もバイトの身。
安定した職に就くから、子供を産んで欲しいって、言われたんだ。

えぇ~…どうしよ。

ぶっちゃけ、昨年 視た夢は崩壊していたから、先輩の子供を産むとかピンと来なかった。

だってねぇ…食パン生活、もう嫌だし。

信用ならない。
正直、言おう。
全然、嬉しくなかった。
もの凄~く、困った。

一度 捨てた夢など、二度と視られん。
私は、こういう人間なんだ。

それでも、ギリギリまだ先輩を好いていたから「なるようになるか」と、持ち前の楽観視が発動した。

その日からは悪阻との闘い。

とにかく、酸っぱいものが食べたい。
勤務中、誰か居ればトイレダッシュも可能だが、一人で お店番する時間が長い。

食べなきゃいいと言うもんでも無い。
食べなくても 吐くんだよ。
最終的に胃液と胆汁しか出ないんだよ。

マジでシンドいんだから。

何か、何か酸っぱいものを~(熱望)!

色々と試行錯誤の結果、合う食べ物に出逢えた。
『ハイレモン』と『よっちゃんいか』

駄菓子やん。

ノンノン侮るなかれ、ハイレモン&よっちゃんいか。

勤務中でもバックヤードでコソッと食すに ちょうど良いサイズ感。

しかもね、酸味が効いてて、若干 吐き気が治まるんだよ!素敵じゃないか!

あとはね『小梅ちゃん』糖分摂らねば動けない。

あの時期、私 太田胃散と駄菓子で生きてた。

太田胃散も個包装のは すぐ飲みきっちゃうから、デカい缶を持ち歩いててね(遠い目)

もうね、確信してた。

絶対、コレ“男の子”だ。

どのくらい大きくなったら性別、分かるんだろう?

私のきょうだいは全員 女だから、男の子だとか、楽しみで仕方ない。

公園でボール遊びしたりとか、お家で工作したりとか。
楽しいに決まってる。

憧れだよね、子供と大はしゃぎ するの。
乗り気では有ったんだ。

だけど、なかなか直ぐには産婦人科に行かなかった。

前回早過ぎたのか不明だが、長く胎内を探られて見付からないとか、また起きたら不快だし。
悲しいし。
“産む”て決たし“居る”と分かっているんだから、急ぐ事もあるまい。

働き続け数週間 様子を見た。
その間も、悪阻は酷いまま。

──ウエストきつくなったな。

下腹が主張し初め、次の休みで産婦人科に行く事にした。

その、前日の事。

年の瀬に先輩は忘年会だったかな。
酷く酔って帰ってきた。
赤ら顔の先輩は、帰りしな私を起こし、対面に正座した。

「心の中に“宝箱”が在るんだ。だから──」

酔っ払いが何を言い出したんだ、と思った。

「子供は諦めて欲しい」

あ…………

「はは、そうか。分かった。私もね、仕事が楽しくなってきたところだから」

先輩には叶えたい将来の夢が有り、私は根っからの仕事人間だ。
双方の気持ちが仕事に向いていたら、誰が子供の面倒を見るんだ。

瞬時に、未来が視えた。

自分の母親と同じようになる、自分の姿が。
母親が仕事机に向かう背中を眺めていた、自分の姿が。

浮かんでしまったんだよ。

先輩の“宝箱”の中身については、深く聞かないまま。
私は再び、中絶すると決めた。

翌日。

もう ご近所だとか、どうでもいいや。

私は通い易い、一番 近場の産婦人科に赴いた。

問診票は記入したが特記欄が無かったので、受付では“中絶”の意思は伝えなかった。

まだ妊娠だと医師が確定した訳でも無いし…

診察室に通されると、今度は椅子式だった。

歯医者の様な、リクライニングするピンクの椅子。
違うのは、座面に穴が空いている、て事くらい。

「下着を脱いで座って待ってて下さい」

看護師さんがはけ、私はカーテンと真逆を向いた椅子に座った。

「診ますね」

医師の声だけ聞こえ、ウィーンと椅子が回転した。

ほおお✨

自動で背もたれが倒れると同時、フットレストがカーテンの中で ゆっくりと開脚する。

何コレ!最新式!? めっちゃ良いやん✨!

自分で診察台に乗り上げるのは「ちょっとなぁ」と思っていたから、当時最新式(?)の装置に えらく感動した。
産婦人科の診察室、全部こうなって欲しい。てね。

流石に現在は主流なのかな。

「はい、撮れました」

──もう!?

棒を突っ込まれる時間も僅かだった。
すぐ見つかったんだ、本当に すぐ。

着衣して待合室に戻り、呼ばれるのを待つ。

待合室には他の妊婦さんが数組。
ママ友さんらが談笑し、カップルさんは肩を抱き合う。

そんな中、私は独り。
「中絶したい」て、言わなきゃ。

呼ばれ医師と初対面。

丸椅子に座るしな、医師はバーっと喋り始めた。

「妊娠10週目、出産予定日は8月3日、性別分かるのは…」

ち、ちょっ待って、ちょっ待って!速い速い!
そんな一気に分かるもんなの!!?

あんまり展開が速かったもんで、別の感心しちゃったり対応しきれない。

「あ、あのう!!」
「ち、中絶!したいんですが!」

一瞬、医師は静止したが、電子カルテから私に向き直し、しかりとした語調で中絶について説明を始めた。

理由は深く聞かないでくれたのは、有り難い。
そういう、もんなのかな。

「12週過ぎると出産扱いになり、体に掛かる負担も増える。年内には中絶した方が良い」

年内!?

病院の正月休みも挟まり、年明けでは12週乗ってしまう。
出産になると掛かるコストも通常の中絶手術より約三倍。

「年内の手術なら、一日だけ空いてる」

病院も混雑する年末。
残念ながら提示された手術日はシフトが入っていた。

「あ、あー…その日は ちょっと…前日なら休みなんですが」

私はシフトを誰かに変わって貰ってから、再度 電話すると医師に了承を貰い、手術日は決めないまま帰宅した。

──困った事になった。

気乗りしない事は先延ばしにしてしまう性格がアダに。

大体にして、スタッフや店長から「シフト変わって」と言われる事は有ったが、自分から言い出した時は無い。

もの凄~く、お願いし辛い。

理由聞かれたら、どうしよう…

もの凄~く、答え辛い。

だが、悩んでいる暇も無い。
猶予は1週間切っていたかな。

誰かにシフト変わって貰って、店長に言って…

翌日。シフトが被っていた、女性スタッフ一人に相談した。

「この日なんだけど、予定入っちゃってる?」
「あ…うーんと…良いですよ♪」

女性スタッフは一瞬悩んだように思えたが、特に理由も聞かず快諾してくれた。

休憩から戻ってきた店長にシフト変更の旨を伝え、私は つきあたり に立った。

用を足すためでは無い。
電話する為だ。

バックヤードの従業員トイレの個室に籠り、パカッと携帯開いた。

「この日、休み替わって貰ったんで、手術予約をしたいんですが…」

応対した医療事務の方に申し出た。

『その日は、もう埋まってます。年内の手術は空いてません』

──ええーッ!!?

「昨日の話ですよ!? その日だけ『空いてる』て言われたんですよ!」

『既に埋まってます。予約は取れません!』

アレかな、病院検索した時のレビューに有った病院は良いのに受付の人の圧が強い、て この人かな…

どうでもいい情報が脳裏をよぎる。

だけど、シフト変わって貰っといて、こちらも後には引けない。

数分やり取りし、観念されたか『院長と代わります』と電話が回された。

応対したのは昨日の医師。
院長先生だったのか…
思いつつ、事情を説明した。

『あっ…それは申し訳ない事を…ううん…』

院長先生は頭を捻り、ゆっくりとお話になる。

『やっぱりダメだ。年明けではリスクが高過ぎて、当院では手術出来ない』

なんかもう 張り詰めたものが崩壊して、涙が流れていた。

『大丈夫、安心して
必ず、必ず在るから、手術してくれる病院!』

院長先生は激励 下すった。
今思えば、全く不確かな情報であるが、当時の私は どれだけ勇気付けられた事か。

──探そう。

代わってもらっといて、即「やっぱシフト元ので良い」なんて言い出そうものなら、理由を聞かれるだろう。

そのままにしとこ。
従業員トイレの個室で やんややんや大声で長く電話していた事も有り、恥ずかしい思いをしつつ店舗に戻った。

今日明日は遅番。就業済んでからでは、空いている病院など無い。

明日、出勤前に早起きして電話して…

近隣の産婦人科を検索しまくって、私は不安で不安で、眠れぬ夜を過ごした。

翌朝。
先輩が眠る真横で、私は布団に潜ったまま携帯を開いた。

とりあえず、近いところから順に…

え?何て言えば良いの???

いやマジで。こういう時って、どう言うのが正解なのかな。

結局「中絶手術出来る、お医者様を探してるんですが」としか、問い合わせ文句が浮かばなかった。

一軒、また、一軒…

断られ続けた。

何やってるんだろう、私…

検索してあった数軒は軒並みハズレ。
距離を伸ばして検索しながら掛け続ける。
繰り返し、繰り返し。

何で、こんなことに必死になってるんだろう、私…

産めば、良いだけなのに。

そう思ってしまったら、涙が にじんできた。

次の病院が近場では最後。
質問の仕方が、悪かったのかな。

『──はあッ!? うちではやってません!!』

ガチャン!…ツー…ツー…

呆然とした。
間違い電話しちゃったかと思った。

でも確かに、応答で病院名 言ってた…

気付いたら、ボロボロッと涙が零れた。

「──う、うえぇん!もう嫌だよ!」

声を上げて泣いたんだ。
流石に先輩も起きて、ギュッと抱きしめてくれたけど、言葉は掛けてくれなかった。

結局、病院は見付からないまま。
私は消沈して仕事に向かった。

黙々と仕事に打ち込んで、誰にも この話はしなかった。

しばらくして、ふっと思い出した。

──そう言えば、小学校の裏に古い産婦人科が在ったよな。

通院圏内であるが、当時のガラケー検索ではヒットしなかった。

ううん、閉院しちゃってるかな…

私は お店に置かれていたタウンページを開いた。

──あ、在った!

「ちょっと、早いんですけど休憩行ってきます!」

急ぎ頭の中で番号を復唱しながら、休憩室に向かう。

掛けてみると、繋がった。

「すみません、そちらに中絶出来る お医者様は、いらっしゃいますか!?」

『どうされました?』

「実は…」と、事情を話したところ、親身になって聞いて下さった。
しかも、私が指定した日付に手術可能、と 仰って貰えたんだ。

よ…よかったぁ~…

力が抜けた。
どれだけ安堵したか、分からない。

だが、当日初診、という訳には行かなかった。

中絶には色々と準備が要る。
どうしても、前日の夕方には来院しなければならないと言う。

「あ、あー!確認して、折り返します!」

一度 電話を切りシフト表を確認すると、遅番が続き休みの前日は中番。

ううん、中番かあぁ…

中番では上がりが20時。
私は店舗に電話を掛けた。

「すいません電話で…店長、この日、早・中 代わって貰えませんか」

『良いわよ~』

よ、よかったああぁ(泣)

店長は早専であるから不安だったけど、特に理由も聞かずに快諾してくれた。

──当日。

私は車で出勤した。
公共交通機関では閉院時間に間に合わないからだ。
早番で中番の店長に「お先に失礼します」て言うのは初めてで、変な感じだった。

実家付近の慣れ知った登下校道。
ヘッドライト照らし走り、産婦人科の駐車場に乗り入れた。

受付して、呼ばれ診察室に入る。

──う!

古い病院、設備も、古い。

机に向かった、おじいちゃん先生。水色の診察台。
あー…何て言うか…装置。
装置ですね(遠い目)

合皮の板間から、足を乗せる ステンレスの台が開脚状態で固定されていてね。

え、改造されるんですか?

て、イメージ。
分かるかな…分からんよな。

うん、すっご~く、嫌。アレ、嫌。

でも、流石ベテランおじいちゃん先生。
瞬時に見付けてくれた。
あ、間違えた。
この先生、触診だけで見つけたんだ。お腹触っただけ。スミマセン(礼)

台に乗ったのは、中絶の前準備で。
子宮口を開く器具を一晩 装着する。

もうギリギリのところまで大きくなっていたから、何種類かある誘導管のうち、一番太いのだった。

子宮口に刺さる器具。
すんごい、異物感。

全身麻酔の注意事項、持ち物の説明を受ける。

時間的には飯はもう食えない時間だったが、まあ、悪阻酷くて食えんから大して苦ではない。

ただね、古い病院だから見本も古くてね…「こういうの」て 先生が引き出しから出した剥き身の夜用ナプキンが、くったくたに毛羽立って黄ばんでいてね(遠い目)

「丁字帯、持って来てね」

え、ていじたい?何ソレ???

何故、誰しもが知るナプキンは見本が有って、丁字帯の見本は無かったのか…

よく分からんがメジャーな物っぽいし後で検索しよう、なんて思って聞き返さなかった。

お医者が発する不明な言葉は、即、聞きなさい。

『丁字帯』て検索すると、色んな種類が有って、ピンポイントではアレに繋がらないんよ。

現行は知らんが当日は、中絶には父親に当たる人物の同意が必要で、空の同意書を受け取った。

「明日は、車 運転しちゃダメだからね!」

あ、何かスンマセン…

閑静な住宅地でマフラーの爆音響かせたのが聞こえていたのかしら(遠い目)

帰宅するに車のシートに腰かけ、ペダル踏んだりハンドル回せば、胎内に刺さる異物感がパない。

前準備もね、公共交通機関 使う方が良いよ。

コンビニに立ち寄り、僅かに溜まった貯金を全て降ろした。

ああ、折角溜まったのにな。またゼロに戻っちゃった…

なんて、ご利用明細 握り、切なく思う。
先輩に同意書を記入して貰い、結局 丁字帯も何なのか分からんまま、翌朝。

バスに乗り、産婦人科へ。

「丁字帯、持って来ましたか?」

「あ、あー、あの。忘れちゃって(汗)」

分からなかった事は誤魔化して、別料金掛かるが、病院で出して貰う事になった。

ほおお、サニタリーショーツだったか!

麻酔が効きやすくなるらしい小さな注射を打たれ、手術着に着替える。

oh…

手術室に通されれば、マスクに手袋で待機している医師に、ベッドはステンレスの足を固定する装置の生えた改造台。

私、眠っている間に改造されるんですね。

マジで思ったよ。

ベッドに横たわり、酸素マスクを口に掛ける。

「10数える間に麻酔が効きますから、数を数えて下さい」

まさか、そんな。
全く眠くもないのに、信じられない。

「いーち…にーい…さ…」

Zzz…

ええッ!? 何が起きたの!?

いや、びっくりした!
3まで数えられて無いんだよ!

起きたらさ、控え室のベッドの上にワープしてんの!
びっくりでしょ!

ただね、悪阻は完全に治まって胃がスッキリ爽快で、お腹に何も居ない感じがするから、終わった、ていう事だけは分かるんだ。

「お目覚めですか。食べられそうなら、少し お腹に入れてくださいね」

看護師さんが運んで来てくれたのは、あったか~いお茶 に 俵型のおむすび二つ。
ゆかり と ふりかけ。

──うまっ。

看護師さんが はけて、速攻 食ったよ。
だって、めちゃめちゃ お腹空いてんだもん!

おむすび、美味い…

久方ぶりの まともな食事であり、涙ぐんじゃった程、もの凄く、美味かった。

しばらく休憩して、洋服に着替えて会計した。

ぼんやりと、バスに揺られてた。

居なくなってる…

最寄り駅で下車。
人の多さに辺りを見回せば、赤と緑と金糸に装飾された、駅ビルの入口。

──あ。今日、クリスマスだ。

そう。私、12月25日に、子供を下ろしたんだ。

販売員やってショッピングモールに居て、ラッピングもしてる筈なんだけどね。

目に入らない程 いっぱいいっぱい、だったんだよ。

──この話、ほんの ちょっぴり続きが有る。

駅のコンコースを通過して、山側のバスロータリーを先輩宅に向かって歩いていた。

「あれ!? ○○!?」

名前を呼ばれ顔を上げると、正面から親友の一人が歩いて来たんだ。

ご近所に越してきた事は知っていたが、街中で偶然会ったのは、この日が初めて。

「偶然!何、今日休み?」

「いや、夜勤明けだけど…どうしたの!? 顔、真っ白だよ!!」

「えっ…!?」

しまった。何も こんな日にバッタリでくわさんでも…

思いはしたが、ずうっと溜め込んでばかりだったから、つい、ポロッと こぼしちゃったんだ。

「あー…うん。今、子供 堕ろして来たんだよね」

「──ええッ!? そりゃ血が足りんだろ!肉だ、肉!いや、レバーだ!」

そう言って、親友は深く理由も聞かずに、私を近くのスーパーに連れて行ってくれた。

焼き鳥串とレバー串を買ってくれて、二人してフードコートの座席に座った。

冷たいままのレバー串は、温かく胃袋に染み渡った。

「美味ぇ」

翌日、普通に出勤して、ガッツリ年末年始 働いた。

この時の先輩の話は、結局しばらくして店長に愚痴った訳なんだが。

「そういう時は休みなさい!」

て、私を叱ってくれた。

クリスマスだと言うのに「デートと思って」と 休みを代わってくれたSちゃん、年の瀬に本当は休診日だった産婦人科さん、レバー食わせてた親友に、叱ってくれた店長…

私の周りは、あったか~い人達で、いっぱいだったんだよ。

みんな、ありがとう!大変、お世話になりました(礼)

私は今、あの子の魂と共に在る。
私はあの子と、生きているよ。

──さて、いいっぽい感じで終わらせはせぬ。
ここからは、余談である。

汚部屋の先輩、実は。

数年後に ひょんなキッカケで「付き合おう」もプロポーズも無く結婚しちゃって、結局 離婚した オネエ言葉を話す、元・旦那である。

中絶費用、一円も貰ってませんけど。
そればかりじゃあ、有りませんけど。

本っっ当に、学びませんね、私(遠い目)

この話は後日また改めて。

あの時の“宝箱”の中身ですか?

知りませんよ。
中身なんか入って無かったんじゃないですか?

離婚直前に一応は、聞きましたよ。

「あの時の“心の中の宝箱”って、どんな夢なの?」

「──えっ???何ソレ???」

て、言われましたけど。
お陰で「離婚して下さい」って、スパッと言えましたけど。

肝に銘じるが良い、若人達よ。

誰かの人生に関わるような重大な決断を下す為の詭弁ぐらい、忘れんな。

ま、アレっすよ。

先輩と私は互いに振り回し合う存在でしかなかった、だけの話。

私が尽くしてばかりじゃあ無くて、先輩に尽くされていた時期も有りました、てな話。

二度と会いたくないがな。

中絶の副作用

よく出産すると生理が軽くなる的な話を聞くが、私は中絶した後、重い体質になってしまったパターンだ。

それまで出血量も少なめで3日で終わり生理痛知らずの、もの凄く軽い人間だったのに。

次の生理からはガッツリ7日間、しっかり出血。

頭痛 腹痛 食欲亢進、PMSも発生する始末。
自然では無い無理な状態で、色々とバランスが崩れたのかな。

他にもお医者に掛かる度、手術歴の「はい」に印付け「○年・中絶」て書かねばならん。

生理は年々酷くなる一方。閉経するまで続くんだよ。

手術歴は一生、付きまとうんだよ。

望まぬ妊娠をしない為にも、避妊の知識はきちんと持ってね。

魚群戦隊フィッシュマン⑥

年中無休をうたうスーパーが ほぼ無かった当時、昨今では見る時の少ない年末大盛況。

おせちの仕込みに 正月三が日は しっかり休業するもんで、年末3日間は かなりな混み具合。

お寿司に お刺身・西京焼き用、蒲鉾・お頭付き鯛の塩焼き、お魚需要は相当高い。

──何事!?

品出し台車を引きスイングドアを潜れば、人・人・人…お客様の嵐。

「台車、通りまーす!!!」

人海の波を かき分け かき分け、なかなか目当ての冷蔵コンテナに たどり着けないんだ。

ふうぅ~…さて、並べるか。

ようやく着いた冷蔵コンテナ。到着するのも嬉しい悲鳴。

台車の7段は埋まっている。

oh…

品出ししようと台車に手を伸ばせば、次々と勝手に消え行くブリの切り身達。

うん。品出し待てなくてね、お客様方が台車から直接、持ってってくれるんだよね。

こりゃあ、楽チン✨

ラップ巻き量の多さに息切れ起こしてたけど、品出ししなくて済むんだよ。

台車を定位置に持って行く、だけ。
ただね、往来に時間が掛かるから、作業場に戻るとラップ待ち台車が増えてんだ。

ひいい~、終わんない(泣)!

数の子・酢だこ・ボイルガニは人気だったな~。
もうね、スイングドアを潜っただけで お客様が集まってくる。

──もう、冷蔵コンテナまで進めない(遠い目)

最終的には諦めて、出入口の端に台車を押し出したら ラベルマシンのコクピットに戻る、を繰り返してましたね。

年越し蕎麦用にも お節にも使う有頭ブラックタイガーに赤エビ、甘エビなんかも高需要。

エビ・エビ・エビ、エビ祭り。

何か、さっきからずっとエビばっかラップしてる…

気付いたらエビしかラップしてなかったり。

それもそのはず。
年末は市場も休業だから、冷凍出来て正月感のする赤いエビ類は助かるんだ。

いや、ラップ要員一人に対して作業員が多いよ。
まな板ブース全機埋まってんだもん。

売り場のレイアウトも正月構成。

普段は魚屋では取り扱わない伊達巻・紅白なます なんかもラップする。

美味そう。

一番気になったのは、卵焼き。

一箱千円はくだらない高価格であるが、“魚屋が焼いた卵焼き”なんてキャッチフレーズが印字されていてね。

お寿司屋さんでしか見ないような、立派な立派な だし巻き卵。

滅多にやらなかったけど、小さな従業員用取り置き冷蔵庫に、思わず名前書いて入れちゃったよね。

しょっぱいやつだと良いな♪

卵焼きは江戸前塩味派。

いや、母親の焼く卵焼きが甘くって甘くってね(遠い目)
母親は静岡出身やから、仕方ないんやけど。

いっつもね「卵焼きがしょっぱいなんて!」てボヤかれる。
母親の好みは分かってるけど、実家の まな板守ってたのは私。
しれっと塩味にしてた。

酢だこが好きでねぇ。
バケツ売りしてたから、つい買っちゃったよね。

毎年ね、年末三日掛けてお節は自分で作ってたんだよ。
母姉がめっちゃ食うから、栗きんとんはバットで作ってね。
私あんま食べないんだけどね、栗きんとん。

黒豆は乾燥豆ひと袋炊いたら鍋いっぱいに膨れて困ってから出来合い。
三回目だったかな。
それまでは学生の冬休みで時間結構有ったんだけど、流石にフルタイムでガッツリ働いて お節準備もすんのは大変だったな~。

お家帰ってから晩飯用意に お節料理。
夜遅くまで台所に立ってたな、懐かしい。

おっと、話が逸れた。

そんなこんなで 魚屋の お正月商戦を戦い抜いた。

ふふふ、ついに来た…
“アレ”を使う時が、ついに!キター!!!

年内最後の時短営業日。
エプロンのポケットに、ロール紙をポイッと ぶっ込んだ。

覚えておいでかな。
アレだよ、アレ。

使い道が全く分からなかった、2000円引 の お値引シールだ。

何に使うって、決まっておろう。

お節である。

魚屋の一角に設置された、お節の折り詰めコーナー。

夕方6時には閉店して正月休業に入ってしまうから、その前に売ってしまわねばいかん。

残り僅かであったが、五千円クラスに2000円引きシールを貼ってみた。

おおお✨

見慣れた200円引きシールとは見栄えが違う。
サイズは同じ、なんだけどね。
ぶっちゃけ、半額シール貼っても良かったんだけど。

だって貼りたいじゃん。
折角だから使ってみたいじゃん。

それにね、値引きシールは時間差つけて、少しずらして重ね貼りした方が、お値引感が出るんだよ。

「あ!更に安くなってる!」

てね。
つい、買っちゃうのは、貧乏症な私だけかしら。
そんなこんなで年を越し、勤務時間を終え、霜の降り立つ屋外に出れば──

あったかああぁ~い♪

うん。
冷蔵庫と冷凍庫を行ったり来たりの職場だもんで、真冬の外気の方が暖かく感じてしまうのだよ。

しかもね、なんかね、精肉コーナーより鮮魚コーナーの方が寒いんだよね。
同じ生もの、なのにね。
野菜コーナーとか天国だよ。
あっこ めちゃ暖かいんだ。
ほぼ常温だから。

時々ヘルプ行くと、良いなぁ…て、思っちゃってた。

夕飯の買い出しで食品コーナー回ってる時、ふと気付いた。

あれ?台車が白い…

精肉コーナーの品出し10段台車、魚屋と同じ筈なのに、何だか煌々と白光りしてるんだ。

新しいやつに代わったのかな?

て、最初は思ってたんだけど。

勤務中、魚屋の台車を観察してみた。
魚屋の台車はね、支柱のプラスチックがキナリ色なんだ。

物によって、色味が違う…

かなり茶に近い台車に鼻を近づけてみた。

──臭!

臭かった。
かなり生臭かった。

コレ、元の色じゃない!

肉と比べて魚はどうしても、血液やら臓物やら ふんだんだから仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。

いやいやいや、衛生面でも よろしくないでしょ!

てな訳で、作業場の一角でホース片手に、一台試しに洗ってみた。

掃除用具も大して種類無いから、とりあえず手元にあった亀の子たわしと業務用洗剤で。

おおー、白くなったー♪

かなりな力でゴシゴシしたから、多少支柱に たわしの傷が入ってしまったんだけど。

──これ一台だけ白いの目立つ。

台車は まだまだ沢山有る。
台車の保管スペースに重ねて戻すと、色の違いは歴然。

気になるじゃん。
一度気になると、全部洗いたいじゃん。
B型だもんで。

その日から、時間が空けば せっせせっせと台車洗い。

寒いんで お湯出して 湯気もうもうと。

厚手のビニールエプロンにゴム長してても、じゃばじゃば洗ってたから作業着びっちゃびちゃだったな(遠い目)

水しぶきも発生して、あまり話した時無いベテランおじさまが、しょっちゅう こっちを見ててね。

迷惑がられてるかな…

なんて思いつつ、数週間たった頃。

「ね、ね、コレもお願い!」

ワクワクとおじさまが押してきたのは、まな板ブースに据え置かれてたハーフ台車。

──あ、洗って欲しくてソワソワされてたのか。

「良いですよ~♪」

真っ白になるまで洗ってあげたら、めちゃ喜んでくれた。

洗剤使うし、ビニールの手袋してた訳なんだが、あまり役に立ってなかったかもしれない。

手首側から洗剤液が侵入したり、たわしが刺さって穴が開いてしまったりするんよ。

気付いたら、手の甲が真っ赤に。

痛痒ーい(泣)!

手荒れ、凄かった。

手の甲だけが、因幡の白兎状態。
洗剤しみるしみる。
手袋の中で、湯と洗剤が手にパックされてたようなもの。

ハンドクリームしてみたり、薬用の尿素配合のを使ってみたりしたもんだけど、一向によくはならんかったな。

厚手のゴム手袋が欲しい…

なんて 欲を抱きながら、仕事の合間に台車を洗い続けた。

季節は梅の花咲く、お受験シーズン。
もれなく私も新しく高校行くことに決めていたから、4月には学校が始まる。

週5フルタイムのバイトは、続けられないよな…

私にも、卒業シーズンの到来である。

折角だから、学校始まる前に少し休暇を とりたいんだが。
「辞める」て、いつ言い出せば良いんだろう?

これまで短期のバイトしかした時無い。
母親はいつも転職前、ひと月くらい猶予を持って「辞める」て、言い出してるのを思い出した。

そういう もんなんだろうな。

仕事面では母親に絶対の信頼を寄せていた時期。
私自身は社会常識なんか持ち合わせて いなかったので、真似するのは母親の背中。

余裕を持ち、ひと月半前に部門長を捉えた。

「部門長、話があるんですが」

生鮮食品部門の事務所の一角、小さい会議室で部門長と対峙した。

「高校行くので、辞める事にしました」

部門長は少し頭を捻られた。

「学生枠で、学校終わりの時間とか土日に働かんか?」

ううん…学校遠いし、土日フルタイムは体力面が心配。

辞めると決めたし。

折角の申し出であったが、続ける自信が無く、お断りをした。

せめて学校始まるギリギリまで続けないか、と言われたけれど、休みたかったので お断りをした。

「戦力やったのになぁ…」

え!? 私、戦力だったの!?

台車を洗っている記憶しか無く、全く自分が役に立つ人間だとは思いもしてなかった。

それ、先に言ってくれてたら、辞める時期も考えたのに。

てね、少し思いましたよ。

だが、この日で「辞める」と言い出した以上、私も後には引けん。

そんなね、後ろ髪引かれる状態で、惜しまれながら魚屋を、ラベルマシンのコクピットを、卒業したんですよ。

楽しかったなぁ、お魚屋で戦う日々✨

─おまけ─

語り忘れてたエピソード思い出したので。

食品を扱う上で、必ず毎月提出しする、検便。

現行は知らんが、当時はプラスチック製の短い試験管のような容器に培養ゼリーが入っていてね。

蓋に小さな耳かき状の おさじ が付いていて、おさじの先が培養ゼリーに刺さるように作られていた。
提出には一週間位 猶予があったかな。

──出ない。

割と快便体質だったんだけど、何か検便の時に限って出ないんだよね。

困ったなあ…

て 思う度、思い出したのが過去に誰かから聞いた、アホな話。

やっぱり その話の主役の方も、検便の時に便秘だったらしい。

提出日にも出なくって、困り果て「同じだろう」と、なんとね、飼い猫のフンを匙ですくって提出したんだって。

衛生面では人間とは異なる、猫。

通常の便では検出されない菌が色んな種類、大量に検出されちゃって、大騒ぎだったんだそう。

いや~、知らないって恐ろしい。

確かにね、猫トイレに転がってるフンに目が行くの分かる。

バイト始めて一週間くらいだったかな。
部門長から直々にミッションが下された。

「手洗いテスト、受けて」

え?何ソレ?

数年毎の保健所の監査の時期だったらしい。
保健所の監査員が訪問して、スーパーの食品コーナーの衛生面を徹底的にチェックする。

私に任されたテストは、監査員の前で実際に
手を洗い、きちんと洗えてるか手から菌が検出されないか調べる、というもの。

「何か出よったら営業出来んくなるんやで。しっかり手 洗ってな」

──え。責任、重大過ぎません???

ペーペーの新人に任せるような役目では無い気がしたんだが、責任重大過ぎて皆、引き受けないんだろうな(遠い目)
監査まで一日猶予があったかな。

めちゃめちゃ手洗いの練習したよ。
従業員用トイレに貼ってあった手洗いのやり方見て、手順やら範囲やら爪ブラシの使い方。

家に帰ってからも練習。

その日は一日中、手洗いの事ばかり考えていたな。

当日。
出勤すると、作業場には既にバインダー片手の監査員。
入口付近に造られた、手洗い場。

「では、洗ってみてください」

ひいいいぃ(泣)

監査員が手洗い手順をガン見して、時折バインダーにボールペンを走らせるんだ。
無言で。

ボールペンが動く度、何か間違ってるんじゃないかと、気が気でない。

「採取しますね」

監査員が取り出したのは、綿棒。
手のひら・手の甲・指の股、爪の間まで。
それぞれ綿棒換えて、ビニールのジップバックに一本ずつ収めていくんだ。

なんか、鑑識されてる気分…

ちょっとね、サスペンスドラマなんかの現場検証シーンが、浮かんでしまったよね。

「結果が出るまで数日掛かります」

これは、受けたがらんよ、皆。

出勤して営業してなかったら、どうしよう。
冷や冷やな数日を過ごした訳だ。

結果。目立つ菌は検出されず、基準値以下。
私は胸を下ろし、きちんとした手洗いスキルを手に入れた。

大変な思いをしたけれど、手の洗い方手順を覚えられたのは良かったかな。

今の ご時世、役立つスキルが身についた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?