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どうでもいい話(2023年10月分)


しーん・ビジネス【番外編】

─絶対開いてはならないもの─

あれは むか~しむかし、C店で独り店番をしていた時じゃった。

片側の通路に面した備え付け什器の前で、腰をかがめて並んだネクタイを直しておったんじゃ。

通路を足早に行く通行人と、自店への来客の違いは、足を停めるか停めないか。

「あの~…すみません」

「はい!いらっしゃいませ!」

道行くご婦人に声を掛けられ、私は背筋を伸ばして出迎えたんじゃ。

「あ、あの…客じゃないんですけど…」

道を聞かれるのも慣れたもの。

「いかがなさいましたか!?」

元気よく笑顔で対峙した私に向かい、ご婦人は片手を顔の横に立て、口元をお隠しあそばれた。

「?」

これは内緒話があるに違いない。

私はご婦人の顔元へと、片耳を追いやったのじゃ。

限界まで近付いた私の耳へ、ご婦人は小声で囁いた。

「── “社会の窓” が、全開です」

「!?!?!?」

何を言われたのか瞬時に解らず、私はご婦人のお姿を目にしたのじゃ。

右手を通路側に立てたご婦人の左手が、腰の下辺りで下側を指さしておった。

そろりと、自分の下半身を見て、凍り付いた。

!!!!!!

文字通り、私が履いていたスラックスの “社会の窓” が、こともあろうに全開じゃった(遠い目)

私が両手で股を隠すと、ご婦人は はにかんで立ち去ろうとなさった。

「──あ!…ありがとうございます!!!」

私はご婦人の背中に向かって、恐らく一番大きな声で礼を述べ、最敬礼で見送った。

いいい、いったい いつから!!?

考えるだけでも恐ろしい。

早番が上がる直前に、かわやへ用を足しに行ったので、恐らくそれから ずっと今まで…

私の “社会の窓” は あられもなく、三時間近くも、換気されておったんじゃよ。

おしまい。

(21)に続く──

シーン・ビジネス(21)

“ヒトが1度に覚えられる事柄は、3つまで”

“最も伝えたい事柄は、1番最後に伝えること”

“その際、声音は低く、落ち着き払い ゆっくり と述べると、効果的である”

これは、先日語り忘れた中間管理職セミナー内容の一部『人の記憶に残る最も有効な伝え方』である。

なんとな~く、思い出したので。

私も実際使ってみて、良かったんで今だに使ってるよ。

作業内容・引継内容・擦り合わせ等々、箇条書きで短く一言二言並べたら、そのうち必ず伝えたい事柄を、3つに絞る。

以外は出来れば、時間帯や日付を変えて、伝えること。

『結果を先に、経緯は後』

例えば、私は必ず「今日は “3つ”、お伝えしたい事が有ります」と宣言してから話し出すようにしている。

先にね、伝える個数を宣言しておくと相手の方から「最後の一個は何?」て、確認してくれるから、喋りが苦手で言い出せなくて終わる、なんて事も無くなるよ。

さて、話をC店に戻そうか。

─設営─

そういえば、組立家具とか新しい木材って、結構 木屑まみれだよな…

と 設営日前に思い出せたんで、M店勤務中に備品倉庫に、新しい雑巾を三枚 発注しておいた。

確か設営三日間は10時入りだったかな。
ヘルプの方々は早入り傾向があるので、8時半に私はC店に到着した。

チャキーン☆

カバンから颯爽と出した真新しい雑巾1枚を持ち、手洗い場に向かった。

何をするかですって?

決まってるじゃない、お掃除ですよ♪

商品が陳列される前に、作り付けの什器を全部 拭いてやるのさ。

ひとたび白い化粧板を拭い、雑巾を見やれば…

やはり!

思った通り、否、思った以上に汚れていた。

黄土色の木屑だけかと思いきや、灰色の普通のホコリも、結構 積もっているんだな。

新しいガラスも表面には工業油が残ってるかもだから、合わせて拭いた。

もしもね新社屋・新店設営等、機会があったら、まずは お掃除する事をオススメする。

「おはよ~」

「おはようございます!」

ほぼ掃除が完了し、最後にレジカウンターを拭いていた時だから、9時半くらいかな?
私服のN課長が到着した。

「…なにやってんの?」

新しい店舗でワイシャツの袖をまくり、濡れ拭き乾拭き、二枚の雑巾でを両手に持ってる私の姿は、とっても異様に映ったようだ。

「何って。見ての通り、お掃除っスよ」

私は持っていた雑巾の拭いた面をN課長に見せつけた。

「ホラホラ~、結構 汚れてんスよ~」

「うわー、本当だー!良く気が付いたね!」

えっへん!

「あ、床はモップ無いから拭いてないんで、荷物は棚上に置いた方が良いっスよ」

ダ○キンさん来たら、真っ先に床上 拭うんだ。

「ていうか○○さん、動き易い汚れても良い服装で構わないって、僕 言ってなかったっけ…?」

「聞きまたよ、これ古いヤツなんで。なんやかんやシャツが一番 動き易いんスよね~(照)」

「いや それ、凄いね。僕 未だに慣れないよ」

えっへん!

突然 動き易い服装と言われても、持ってないしね。他はパジャマ代わりの肌着とジャージしか。

「おはようございま~す」
「おはようございま~す」

続々と進展に到着するスタッフとヘルプの面々。

荷物はとりあえず、試着室裏の棚に置いてもらう事にした。

総勢6人くらいかな、揃ったところで段取りを確認する。

初日は、搬入 及び 検品。

搬入口にはトラック2台しか入れないので、時間指定で着荷予定。

時間内に配送業者さんの台車と、別にも各人 手で持ってサクッと店舗へ運び入れねばならない、カツカツスケジュール。

長あい高架下の通路を行ったり来たり。

「ふいいぃ~✨」

めっちゃ疲れたけど、ダンホール箱運ぶの楽しかった。

運び終えた頃には、ちょうどお昼時。
パッキンだらけになった店舗は置いておき、とりあえず皆で ご飯を食べに行った。

商品の入ったロゴ入りの箱を床に並べて、M店から持ってきたカッターの背で、バシバシ ガムテを押し切っていく。

「えっ!? ちょっと!? 大丈夫!?」

「?」

何が?

周りで待つN課長らが、どよめいていた。

どうも、私があんまり思い切りよくカッターをガムテに ぶち込んでいたので、商品傷つけないか心配してる模様。

「──あ! 安心してください、刃は出してませんよ(笑)!」

私が使うのは、カッターの刃を抑える金属の鞘部分。
紙も布もセロハンでも、ガムテープの下のダンボールの羽根の合わせ目に、ガッ! と押し入れてるだけだから、商品を刃で切ってしまう恐れは少ない。
前にも書いたっけか?

手分けして中の伝票と商品を目視確認。
伝票はパソコン類の設置が終わったら一気に取り込むので、一箇所に集めておく。
パソコンの接続はN課長がやってた。

パッキンの中身を種別に揃え、レディースとメンズに ざっくり分けて、什器の前へ。

本当に ざっくりだから、サイズを揃えて適当に棚に並べていく。

なぁんにも入っていないから、色合わせとかグラデにしたりとか自由に出来て、ぶっ込むだけとか、とにかく楽しい。

「ゴミ行ってきま~す!」

小さい店舗だから、かさばるダンボール箱が邪魔過ぎる。
率先してゴミ捨に行ったよ、2回くらい。

初日は箱から商品を出すくらいで終了かな。

「一応 商品入ったし、ネット掛けて帰ろうか。届いてる?」

「あ、多分この箱で…」

え、何コレ。

入っていたのは真新しい蚊帳みたいなネットなんやが、何と、5m6mクラスが、2枚も。
吊るすS字の棒も、1mのが20本有る。

恐る恐る天井を見れば、通路と店舗の間に1m間隔で打たれている、S字を引っ掛ける土台。

「──コレ、ひょっとして ひょっとしなくても、店舗グルっと一周、ネット掛ける感じスか…?」

「ガラスの壁の部分は、ネット無いよ」

そんなん、3mくらいじゃん。
20本て事は、20m有るじゃん…
え、毎日 朝晩、畳んで広げて やんなきゃならんの???

T店ですら、10mだ。

小さいくせに、小さいくせに~…

因みにT店20坪、C店5.5坪。

笑っちゃうでしょ。
中島で壁無しってのは、こういう事よ(遠い目)

二日目は、商品の袋出しとか皆はやってたんだと思う。

「○○さんは、レジカウンター係」

「えッ!!? 嫌だ、私も袋出ししたい!」

「ダメ、レジ周りは店長が整理する事になってるの」

マジで?

周りを見回すと、ヘルプで来ていた別店の店長らが、コクコクと頷いていた。

え~… 凄い、ヤダ。

だってこの店、忍者屋敷なんだもん。

何の指標も無く、一体全体、どのように備品を収納しろと???

せめて事前に言ってくれてたらなぁ、多少は作戦 考えといたんやが。

むむむぅ…

レジ下に僅かに鍵付き引き出し一つ、他はがらんとした棚板。
店舗開発の係長の話だと、カウンター内の奥行が狭いから、あえて引き出し作らなかったらしいし。

確かに、レジ打ちとサッカーと二人入ってしまっては、引き出しなんか開けないもんな。

小さいショウケース下には、ノートPCだけでなく、固定電話・複合機、バーコードスキャナーに、モデム類が詰まっている。

背面の観音開きの低いめの納戸2つのうち、片側は金庫が詰まっているし、片側は出勤スタッフの荷物を入れるだけで多分いっぱい…

ん? 何だ? この線。

納戸の底板には、25cm四方に切込みが入れられていた。

──もしや、床下収納!!?

パカッと。

開いたんだよ~(感涙)!

え、ひょっとして、各納戸の床下も!!?

多分、棚照明の配線用の空間なんだけど、2つに1つは床下に空間があった。

うわ~!収納力 結構 あるかも…!

なんて喜んだのも つかの間。

…上に物を置いてしまう事を考えると、うかつに使う物は入れられんな。
ていうか、冬眠から覚めたリスの如く、どこに何を入れたかすら忘れるパターンだ、コレ(遠い目)

半期保管の帳票入れとく くらいにしか、使えん。

備品、と一口に言っても、初期段階でも結構種類が有るのだよ。

配置に悩むのが、やっぱテープカッター台とか、ショップバッグにラッピング箱、リボン類…

あ、しかも当時はまだ紙袋の時代だったな。あの、かさばるヤツ。

普通の店舗なら、レジカウンターに最大2人体制だとして、サッカー側にショップバッグ類 置くんだけど。

サッカー側が、パソコン機器で埋まっちょる…

こればかりは配線類も限られてるから、すぐには どうしようも出来ないんで、ショップバッグ類はレジ下に設置、レジがサッカーに出して渡す式にした。
てか、それしか思い付かない。

他にもPOPセットに値下げシールセットに、アンビタッチ…

あ、アンビタッチの話したっけ?

値札を商品に付けてる、樹脂製の輪っか。
アレね、輪っかにする前の ひも状にビヨンビヨンしてるのを、T店では輪ゴムで まとめてペン立てに立てててね。

「えのき」

て言われてた。
てか、正式名称 知らんかった。
「えのき」で通じちゃうから。

備品発注の書面に「アンビタッチ」というのがあって、何コレ?と思って発注してみたんだ。

そしたら、わっさー!て生い茂った「えのき」が届いて、初めて名前知ったんだよ。

ほい、脱線。

レジ収納に四苦八苦している間に、レジ設置業者やダ○キンさんとの契約やキャット設置業者だとか、次々 来訪が有るから、なかなか作業も進まない。

そういう時は、床に散らかし放題の商品袋を拾って歩って、空きダンボールとかと一緒にゴミ捨てばっかり行ってたな。

「店長なのに、そんな…」

てスタッフさをんに止められるんやが、中途半端に手持ち無沙汰だから、他に作業が有る方よりか、私が行けば まどろっこしくないじゃない。ねぇ。

何回、高架下を往復したかな。

「キャットが入るって、クレカとかやるんスか?」

館じゃないから、個人契約的なのかな?どういうシステムなんだろう?

その辺、聞いてなかった気がするんで、N課長に尋ねてみた。

「路面店が使ってるのと同じタイプのが入る。電子マネーも使えるよ」

MAJIKA。

いやね、使える支払い多いに越したこたないんやけど…

近隣に路面店無いから、仕組みを知らんのよね(遠い目)

設置業者さんからの講習を受け、使い方自体は対して差は無いから良かった。

んだが。

クレカの署名入り伝票は、定期的に簡易書留で送付せねばならんし、スタッフさんにも使い方をレクチャーせねばならんし、新人居るし…

いかん、やることがいっぱいだ!?

どうにかレジ周りだけ備品を収納して、2日目は終了。

3日目は、店内のレイアウト調整とディスプレイ。

なんかもう頭パンク仕掛けていたから、他店の店長方が店舗作り先陣切ってやってくれて助かったよ。

トルソーが、めっちゃいる…

昨日対して店内を見てなかったんやが、半身7体に全身2体。

多過ぎ。

T店ですら途中で2体減って6体3体だったよ(遠い目)

ガラスの壁にはグルっとシャツフックにディスプレイ下げて、ラインパネルにもディスプレイ下げて、もちろん両側通路に向いたアクリル什器にも2列ダーッとシャツフックが。

なんて、ディスプレイ甲斐のある…(遠い目)

アイロンは一台しか無いから、Mさんに重点的に掛けてもらった。

私は合流した新人主婦さんにディスプレイの仕方を教えていた時だった。

「お荷物でーす!」

「あ、ありがとうございます!」

何か大きなパッキンが2つ3つ届いた。

なんだろう?と思いつつ、開けてみれば、中には…

鞄が、ぎっしり。

「鞄だと!!?」

一体この小さき店舗の一体どこに、こんな かさばるもん 設置しろと!?

棚を開けたくともストックもギッシリ、何かを仕舞う事も出来ん。
しかもね、メンズ10個レディース20個もあんのよ(遠い目)

「置くとこ無いね(汗)」
「置くとこ無いね(汗)」

どの店長さんも首を傾け店内をウロウロ…

「あ!じゃあ、こうするのは どうかな」

本社からヘルプに来ていた方が、提案してくれた。

ラインパネルのシャツディスプレイを剥がして、代わりにレディースバッグを ぶら下げる、と言うのだ。

──女ネ申✨✨✨

以前は地方のレディース専門店に所属されていたらしく、知らないディスプレイ技を いくつも披露して下さった。

凄い勉強になる。

どうにかディスプレイも終わりが見えた頃、他の方々に作業は任せて、私はMさんと新人主婦さんと軽くレジ研修。

本社研修は終わってるのでレジはおさらい程度に、各店で違うキャットの使い方がメインだ。

端末を練習モードに切り替えて、自持ちのクレカで練習。
毎回思うが、ちょっと怖い。

今回の機種は特に、当時は浸透し始めだった差し込みと署名と出来て、種別操作を間違うとアラートが鳴る。

どうしても暗証番号使えない場合は、別操作が必要になる。

厄介だな。

何か怖いから、手書き伝票の書き方と使い方も、おさらいしとくか…

昔T店で通信障害が起きた時、一日くらいしか書いた時無かったんだけど、同じ複写伝票で助かった。

こうして、残りの時間は片付け等 行って、最後に社長がご来店。

店内方方 確認して回る社長の後ろをついて歩く。

通路に出て遠目から店舗を眺めた社長は、ガラス壁を見て腕を組み顎をさすった。

「…コレさ、暗くない?」

そう言われれば、暗いかも…

社長が指したのは、ガラス壁内の什器天板に ぶら下がるディスプレイ。
天板直下に垂直なので、通路の光は差し込んでおらず、什器照明が逆光になっていて、余計に暗く感じてしまう。

「スタンドとかで下段に置けないの?」

「おっしゃる通りですね!」

課長…

なんて調子の良い… なんて思いつつ、皆でバタバタ、什器からディスプレイを剥がしてスタンドを立てて、置き直した。

「ほら、こっちの方が少し明るいじゃん」

確かに。天板より離れたシャツが斜めに立てかけられた事により、通路照明が差し込んでいる。

んー… 掃除が面倒臭そう…

こうしてね、店舗開発の係長渾身のギミックは、二度と使われる時は来なかった。

鶴の一声って、本当に有るんだなぁ(しみじみ)

─壮行会─

要は、設営の打ち上げである。
社長を初めとした全員で、繁華街の居酒屋に呑みに行った。

Mさんも主婦さんも少しだけなら、と参加してくれて、結構 仲良くなれた気がする。

途中で本社勤務を終えたM氏や誰やら合流して、なかなかな大所帯である。

早上がりの面々とは分かれ、適度に酔いの回った頃だった。

「あそこさ、あの建設中のマンション、あそこ良いよね」

ん?

誰に振られたかも覚えとらんのやが、確かに、私に対して話し掛けられた。

「家買うのが夢なんでしょ?」

「あ~… 家は持ちたいっスねぇ」

「だったら あそこ、ちょうど良いじゃない」

ん~…

「いやいや、先立つもんがねぇス(汗)」

誰だか分からんが、私の十年計画を知っている者だ。
係長も「マンションなら2階が良い。飛び降りて逃げられるから」とか勧め出すし。

ん~…

「いやいや、まだ自分には早いっスよ!転勤あったらどうすんスか(汗)!」

「そしたら、貸せば良いんだよ」

あ、そんな手が。

なんて、めっちゃ本社の皆様から、あのマンション勧められたのは、覚えてる。

多分、刷り込まれちゃったんだろうなぁ…(遠い目)

「じゃあ、いつもの、やりますか!」

壮行会のシメに、全員財布を出し始めた。

お会計? …では無さそうな空気。

「何やるんスか?」

「ん、とねぇ『誰が一番、初日の売上に近い数字を当てれるか』近い人が総取り」

oh。

「やるよね?」

これ、やらないとか言えないよね。

「初日の予算はいくら?」

「○○万です」

「じゃあ、25」

え!? 低!!?

「じゃあ、18」

えっ!? どんどん下がる!!?

誰一人として、初日予算は達成出来ない、という読みだった。

「○○さんは?」

「あ~… う~…」

C店の入る商店街の通行量はかなり多い。
だが、どう考えても、全員ただの通行人だ。なんてったって、私が通路としてしか使ってなかったから、分かる。
予算も高過ぎて、全然到達する自信が無い。

だが。

店長として「予算に届かない」と、胸を張って良いものだろうか…

「予算!行きます!」

「おお~!言うねぇ!」

「じゃあこれ、当たった人に渡すから、預かっといて」

皆が皆、売れないって、分かってんじゃん…

てね、ちょっぴり悲しくなりました。

あの時は確か、一番 低額予想だった社長が、総取りしたっけな。

(22)に続く──

父親も、アレ⑩

父ちゃんは変な遊びを良く教えてくれた。

ある種 昭和な宴会芸だけども、ペロッと まとめておこうと思う。

最初に用意するのは、お札1枚。

1枚の お札を折りたたんで、2枚に見せるやつ。
知ってるかな。

半分に折ったお札を更に折り、四つ折りにする。
分かりやすく左のマスから①②③④の番号で説明する。

耳の片側①を斜めに折ったら、抱かれている反対側の半分③を上に出し①の斜め線に合わせて折る。

あとは折り目通りに戻せば、四つ折りにした1枚のお札が、2枚重なってるように見えるってワケ。

「す、スゲぇ✨」

初めて見せてもらったのは、幼稚園くらいの時だったかなぁ。

折り方も教わったけど、イマイチ理解出来なくて、大人になってから思い出して、ああでもない こうでもないって練習したっけ。

お会計の時なんかに この折ったお札を出して、

「お釣りは要らないよ✨」

「…って!1枚じゃないっスか!もぉー、悪ガキなんだから~(呆)」

て言われるのが、楽しいもんだから、結構やった。

時々 広げないで納めちゃう人もおるから、そういう時は自分から「待って待って!1枚だからね!?」て、種明かしするけど(笑)

あとはタバコ系の遊びだな~。
今では信じられんかもしれない、ていうか、捕まりそうだから子供に教えちゃいかんよ。
もちろん、私も見せてもらっただけで、教わった当時は吸ってないからね。

「ほれほれ○○、見ててみ」

居間でゴロゴロしながらタバコを吹かす父親が、煙を口に含んだ。

口をO字に開いて、ほっぺたを指でトン。

ぽっと出た煙が、ドーナツ型なんだよ!

「す、スゲぇ✨」

トントントン!と連続で叩くと、ぽっぽっぽっ、てドーナツ3連続。

よく分からんけど楽しくって「父ちゃん父ちゃん!ドーナツやって!」て、せがんだものだよ。

これも大人になってからタバコ吹かしてる時に思い出して、何とな~く真似して ほっぺたトンしたら、難なく出たわ、ドーナツが。

これは一度だけしか見てないんやが、公園で シャボン玉で遊んでいた時。

「○○、ちょっと貸してみ」

シャボン玉液のついた吹き口を父ちゃんに渡した。

父ちゃんは後ろを向いて、振り向くと、シャボン玉を大きく膨らませ始めた。

「!!?」

透明な筈のシャボン玉が、真っ白け。

ふよっと拭き口から離れた白いシャボン玉は登っては行かず、視線の辺りを ゆらゆらと浮いている。

「ど、どうなってんの!!?」

パアン、と弾けたシャボン玉からは、ふわっと煙が広がって霧散した。

父ちゃん、めっちゃ笑ってたぜ。

これもやっぱり大人になってから思い出して、何となくシャボン玉液を買って、一人で遊んでみた。

父ちゃんたら、こんな遊びばっかし教えてくんだぜ(笑)

⑪に続く──

シーン・ビジネス(22)

C店がオープンしてからは、怒涛のような日々だった。

初日、私はC店通し。
Mさんと共に早番をやり、中番に主婦さんとヘルプの方、レジ締めは私独りにしておいた。

N課長に「何で遅番二人にしないの?」て聞かれた。

「とりあえず、独りで流れをやってみない事には、誰かに教えられないからですよ」

「ふうん…(?)」

あんまり分かってもらえてない空気だったけど、好きにやらせてもらった。

だってさ、慣れないことだらけなのに教えたり指示したり頭こんがらがりながら、突然 見知らぬヘルプと一緒にレジ締めだとか、無理。

一度、独りで頭を整理しておきたい。

先に書いちゃったけど、まあ、初日の売上はそこまでじゃあなかった。

小さい店舗に課長含めスタッフが5人…
しかも、代わる代わる本社の誰かが店舗を見にやってくるから、店内満タン。スタッフが通路にまで溢れちゃってたよ。

レジは出来れば一人体制にしたいが、新人さんを独りには出来ない。
新人さんは重点的にレジに慣れてもらうためレジ係、必ず誰かをサッカーに付けた。

ううん、袋を…ピッピ後で良いから、先に袋を…

どの袋に どのくらい入るかとか、先に説明しておけば良かったな、なんて思いつつ、会計がはけた時に急いで教えた。

こういう普段感覚でやってる部分とか、始まってみないと気付かないもんなんだよ。

中番も上がり、N課長も上がり、閉店時間で高架下のシャッターが降りて、ようやく独りの時間が来た。

ふうぅ…

落ち着いて ひとつずつ、はなから時間を掛けるつもりで、ひとつずつ噛み砕きながらレジを締める。

ん~…

合ってんのか、コレ???

自信なんか無い無い。不安しかない。

夜間金庫は商店街を出た先の銀行。
金庫キーと入金袋を抱えて、シャッターを出る。

ええと、説明されたのだと、なんか上がバカッと開くとかで、レシートが出て…

やるのは当日初である。

無事出力されたレシートを持ち、商店街へ戻る。
いちいち保安室に連絡して従業員入口を解錠してもらわねばならんから、かなり面倒臭い。

あ~…

今日、独りにして、マジで良かった…

後はのんびり後片付け。
乱れた商品整理していると、心が落ちつく。

台形底辺の整理をしている時だった。

──そういえば、F営業が「通路からガラス壁を見ると、ディスプレイの隙間から商品山の背中が見えちゃってる」と言っていたな。

試しに通路に出てガラス壁を見てみた。

──なんてこと!!!

ディスプレイはガラスにくっつき垂直になったり斜めになったり乱れに乱れ、商品山の背中からは斜向かいで置いてる商品がベロッと山から飛び出している始末。

きちゃない、きちゃない(泣)!

コレはあかんわ。社長が変な提案したから、要らん作業が増えちゃってる。

Mさんにも伝えなきゃ…

商品整理のついでに、通路から見栄えもチェックしてね、と──

翌日はM店半ドン、C店半ドン。
M店のオープンやって引き継ぎや店内チェックして中番ヘルプとH君に託し、C店でメイン遅番ヘルプにレジ締めを教える。

翌々日はC店半ドン、M店半ドン。
メイン早番ヘルプT店長と駅前で待ち合わせして、きゃっきゃと楽しくお掃除したり、ダイヤル金庫に四苦八苦したり。
T店長と遅番ヘルプに託したら、M店ラスト。


【お知らせ】

お話の途中ですが、本日から3日間、どうでもいい話をお休みします。

代わりにトラに起こった顛末を(3)ニャンコの話で語るかと思います。
https://x.com/yukipochi_2022/status/1711289592291500538?s=20


思い出すだけで、凄ぇ疲れんだけど(遠い目)

通路を行き交う通行人は多くて多くて、胸丈以上の壁の無い店内は、マジで落ち着かない。

いつも殆ど静止はしてなかったけど、せかせか せかせか、ずっとアホみたいに何かやりながら店内回遊してたっけ。

Mさんは保育所のお迎え時間あるから残業はさせられないし出来ないし、いつも打刻すると走って駅に向かってた。

また、お子さんがお熱を出すと保育所では預かれないので、日中電話が掛かってくると急ぎ早退せねばならない。

ふぁ~…私がチビの頃よりか、う~んと、子供を大事にする時代になったんやなぁ。

私は子供好きだし、シングルマザーで子育て大変なのは何となく想像付くし「接客代わるよ、早く上がって上がって」とか「休憩交代行くから、気にしないで上がって上がって」て、言える立場で良かったと思う。

昼休憩前に独りになったら、課長と一駅隣のI店に連絡して、休憩交代に来てもらう。

朝のうちからお休みの連絡あらば、自分は休みだろうが何だろうが、出勤したり通しになったり。

別に当たり前の事だし当時は何の文句も浮かばなかったんやが、今思えば、少数精鋭の部隊では喜ばれないんじゃないかなぁ。
Mさんの気苦労を思うと、しのびない。

ある種、レアケースだったように思う。

─6時間の謎─

何回か前に『31の月は190hまで~』の話をしたと思うんやが、誤記ってた。

確かね、196hまで、だったんよ。

そういうもんだ、と思ってたから、暫くは疑問にも思わなかった。

んだが。

シフト組んでて、ふと気付いた。

196って、8で割り切れなくない?

と。

誤記に誤記が重なり、24×8=192h、だった訳で「この、差分の4時間は何なんですか?」て、聞いた時がある。

「分からない。あそび…かな??」

だ、そうだ。

─半期予算─

半期予算を達成すると、少額だが店舗に報奨金が出る。

オープン初月の月予算を含んだ、半期予算を受け取った。

高…………

末恐ろしく高額で、初日から日割予算 落としてるのもあり、全く届く気がしない。

初年度の半期予算を達成出来る新店なんぞ、ひと握りも無い。

ノルマが無い、のが自社の売りだが、ぶっちゃけ、ノルマとしか取れない。

まあ、仕方のない。売上取れねば従業員の給料、捻出出来んのやから。

指標としても達成出来ねば、モチベも上がらん。

「何でこんなに高いんスか?」

ザクッと聞いたよ。

「オープンした時の諸経費が上乗せされているから」

だ、そうだ。

家賃・光熱費・人件費等に加え、新店オープンにかかった工賃・材料費等を、半期で取り返す計算らしい。

確かに、神がかった売上で ひと月で取り返した新店も有ったりもした。

因みに、予算落としまくりの次年度の予算は、直前半期の売上に則り組まれるので、ガクッと下がる。

いやさ、半期で諸経費 取り返せてないのに、何故…

解せぬ。

一店舗に じっくり配属された時の無い私は、後ろ髪引かれつつ引き継ぐ次の店長を羨ましく思ったものだよ。

達成感、大事。
モチベ、大事。

坪単価も、半期報奨の対象なら良かったのに。
坪単価だったら絶対に、他店に負けないのに。

──おっと。
つい、自分棚上げ愚痴ばかりになってまったな、スマンスマン。

(23)に続く──

中学ひとコマ④

授業のカリキュラムに選択授業があった。
自分が選択した授業以外は覚えとらんが、ある年の授業は美術を選択した。

内容は “ドールハウス制作”。

ドールハウスって、何ぞや???

よく分かんないけど、何かお家っぽいものを作るのかな。

面白そうだから、選択した。

直前に家庭科で間取図と図面の模型制作があって、内容的には ちょっと被っちゃってた。

同じ感じなのかな?

ワクワクしながら受けた、選択授業一回目。

ロマンスグレーになりかけの、マッシュルームカットの美術の先生は、暗そうな見た目にそぐわず、RHマイナスなのをネタに「血をくれー」とか言うお茶目な人で、ちょっと好き。

「ドールハウスってのは、まあ、人形の家だ」

説明が、雑。
資料写真なんかも無い。

「家庭科で使ったキットも残ってるらしいから、材料に使いたい人は言って」

よく分からんが、家庭科の時は図面に5mm厚10cm高のカラーボード(発泡剤を紙で挟んだやつ)を立てた位の、屋根の無いものだった。

住みたい家~みたいな内容だったけど、その時は私は特に間取とか思い浮かばなくて、実家の3LDKの縮図を描いて制作した。

ううん、折角だから違う事したいよなぁ…

みんなが家庭科の残りの材料を貰っていく中、私は手を出さなかった。

ドールハウスが いかなものかは分からんが、“ハウス” と言うからには、屋根の付いた一軒家な気がする。

私は母親にねだって、一緒にホームセンターに材料を探しに行った。

── “木の板” から作りたい。

とは言え、厚みのある木材では大きくなってしまうし、ノコで切ったり釘を打つのは大掛かり過ぎて、他の者たちと差が有り過ぎる。

「薄めの木板でカッターで切れる板、無いかなぁ…」

なんて探していたら、在りました。

“バルサ材”

ご存知の方いらっしゃるかな、カッターで切れちゃう、軽量な木材である。

販売していたバルサ材も5mm厚程。

「コレコレ!」

カッターで切れちゃうなんて素晴らしい。
木工用ボンドで簡単に接着出来ちゃって、かなり お手軽である。

でもなぁ、若干 耐久性が低いんだよなぁ。

床板にも使うと内装工事中に床を抜いちゃうんじゃないか、おっちょこちょいな自分なら絶対やらかす。

床板と縁下は、ノコで切らねばならんがベニヤ板を使う事にした。

ほくほくとカゴに木材をぶっ込んで、三千円程。お会計で母親は「高ッ!」て言ってた。

「あんた中学の授業でこんな値段出したんだから、途中で投げ出したら承知しないんだからね」

なんて お小言、言われましたけども。

授業は週に一回50分とかだったかな?

学校だけでは時間が足らんので、自宅でも ちまちま作業を進めた。

私が考えた間取りは2階建ての5LDK、風呂トイレ別。

憧れの縁側も付けちゃおう♪

本当は瓦屋根にしたかったけど、流石に そこまでは どう作れば良いか分からん。

バルサ材を1cm幅に切り出し、3mm程の隙間を作って屋根に貼り、トタン風にしてみた。

アクリル絵の具の青で着色。

チューブから出したまんまで調色しなかったから、ド○えもんみたいな色の屋根。

屋根の傾きに切り出した土台に接着して、壁は白に塗った。

建設中の脆い家を持ち、一時間のために学校通うのは骨が折れる。

自宅で作る内装パーツと、学校で作る外装パーツと分業する事にした。

二階建てなので、一階部分に階段を付ける。

平凡な間取りしか浮かばんかったので、玄関から廊下を吹き抜けにして、玄関開けた所にL字に登る階段を付ける。

本当は螺旋階段にしたかったんやが、当時の私の知識には螺旋階段の家屋って無く。

普通の階段だけど…ちょっとくらい、オシャレに作りたい。

オシャレな階段、にするには、手すりにデザイン付けるくらいしか思い浮かばない。

正確な縮尺は分からんが、24分の1スケール程。

手すりに彫刻するなんて、中学生の私には技術が無い。

竹串を切っても円筒の支えにしか…

手すりにする素材を実家で漁っていた。

──あれ?コレ、オシャレじゃね?

見っけたのは、爪楊枝。

爪楊枝のおしりに掘られている筋、アレをまじまじと見詰めた。

見れば見るほど、オシャレである。

私は爪楊枝を半分程に切りそろえ、おしり側をバルサ材に突き刺した。

おー、意外と簡単に刺さるもんなな♪

段階を付けた廊下壁紙に切り出した階段床を乗せ、爪楊枝を等間隔に刺してみる。

茶色のアクリル絵の具で着色したら、なかなかにオシャレな階段が出来上がった。

二階吹き抜けの周りにも同じく爪楊枝を角材に切り出したバルサ材に刺し、茶色く着色して手すりの完成。

やっぱり日本人なら、畳だろ。

大部分が板床だからベニヤをそのままだが、ダイニングと二階の一室は畳にしたい。

畳… 畳なぁ…

こんなLEG○ブロック程の ちっさな畳、どうしろと。

い草から?いやいや、い草が手に入らん。
適当に雑草乾かすか?いやいや、畳なんて編めないし。
そもそもが、時間がもう無い。

仕方ないので、畳はコピー用紙にカラーサインペンで目を描いて、千代紙を細く切って両側に貼り、誤魔化した。

無理して畳床にしなくても良かったような気も、しなくもない。

窓には1mm厚の薄いアクリル板をガラスカッターで切り嵌め込んで、接着剤で固定。
接着剤の成分で部分的に白化しちゃったのは、心残りだ。

玄関扉と部屋扉は開閉できるようにしたくって、蝶番の代わりなるものを考え考え。

──あ、片側を紙で壁に貼っつけちゃえば良いのでは。

厚紙に5mmの遊びを付けコピー用紙で巻き、さらに折り紙を貼ってお化粧。

コピー用紙の遊び部分にボンドを薄く付けて壁に直張り。壁が白いから、コピー用紙を貼っても目立たない。

トイレは消しゴムをカッターで彫刻。
台所のキッチンカウンターと風呂場は厚紙で作って設置。

本当は家具類も作って置きたかったが、時間が足らなくなってしまった。

一階部分・二階部分・屋根部分を、お重箱みたいに重ね、接着しないで分離出来るようにした。

皆、家庭科の時と同じ屋根無し平屋を提出する中。

「コレコレ!こういうのを求めてたんだよ!」

美術の先生がめっちゃ喜んでくれた。
頑張って良かった。

──ところで。

直後に観た『フ○ク&ピ○ターパン』で、私は本場のドールハウスを知った。

た…縦割り、だと!!?

私はリ○ちゃんハウス的な平置きイメージで階ごとの分離にしちゃったんやが、本場はシ○バニアファミリーのお家のように、横から壁を観音開きに遊ぶ仕様だった。

マジで心残りなんだわ、縦割りを思い浮かばなかった事が。

─おまけ─どケチんぼ

何回か書いとるし、お気付きの方は多いと思うんやが。

私はケチである。

こと、十代の頃は それが顕著であった。

私は安請け合いもする。

何か行き先を考えてから行動するのが、大の苦手である。

完成したドールハウスは、しばらく教室の荷物棚の上に放置してあった。

「そのお家、ちょうだい!」

仲良し男子のM口が、何か知らんが、あの家が欲しいと言う。

「いいよ!」

私は作る工程を楽しむ方やから、完成品にはあまり価値を見出さないところも有る。

何も考えずにM口に家をあげる約束をした。

卒業間近に家を持ち帰ろうとした時、忘れていた約束を思い出した。

家を抱え 教室を出て 校舎を出て、正門間近にM口を見つけて、私は家を差し出した。

「はい、コレ」

「わ~、ありが…」

満面の笑みで受け取ろうとする両手を避け、私は家を空に掲げた。

私は あまのじゃく である。

人の嫌がる事を好んでやっちゃう節も有る。

「やっぱ、あげない」

「ぇえッ!?」

私は約束を破って、家は実家に持ち帰った。

──まだ有る。

文化祭で個人で作ったスペースシャトルの画用紙ハリボテも、確かM口あたりが欲しがって、あげる約束して、展示が終わった後、渡す直前で気が変わって、実家に持ち帰った。

──まだまだ有る。

高校の文化祭で個人で縫ったウサギの被り物と手足も、上級生が欲しがったので催し物の遂行と引き換えに あげる約束をしたが、渡す直前で気が変わって、実家に持ち帰った。

母親には「アンタ!材料費掛かってんだから、気安く人にあげるんじゃないよ!」なんて お小言 言われまくったけど。

ぶっちゃけ、持ち帰ったところで不要の長物。

ドールハウスは玄関の靴箱の隅で長年ホコリを被っていたし、スペースシャトルも同じくホコリを被っていたし、ウサギなんてゴミ袋に入って長年 押入れの肥やしになって邪魔であった。

成人した頃だったかな、母親に言われた。

「あの家、邪魔だから捨てていい?」

「いいよ!」

特に遊びもせず、いずれも可燃ゴミになってしまった。

──こんな事なら、欲しがる人が居た あの時、あげちゃえば良かったな。

自分の馬鹿さに気付いてからは、一度 交わした約束は守り通すようになりましたよ。
のっぴきならない事情が無い限り。

ホント、馬鹿。

⑤に続く──

シーン・ビジネス(23)

「ごめ~ん、○○店で欠員が出ちゃってさ、スタッフも落ち着いてるし、ヘルプもう要らないよね?」

「ウチは良いっスよ、あっち回してあげて下さい」

オープンから半月程して、集めてもらったバラのヘルプは解消して、早遅一人で出来るメインヘルプだけ残してもらった。

ぶっちゃけ暇なのに、5坪に三人居ても困っちゃうし。
通しにも慣れたし、どっちかっつうと、私が独りになりたかった。

M店C店兼務に慣れ始めたひと月ほどして、ある事に気付いてしまった。

私、この中で一番、年下じゃあ…

一人一人と接している時は考えもしなかったんやが、非常勤の学生君を除き、常勤スタッフ全員が 数こ~一回り、年上。

──こんな若輩者にアレやらコレやら言われるのは、内心 嫌ではないだろうか。

思ったんで、普段 ハッキリ物言い合うH君を除き、主婦層の女性陣に聞いてみた。

特にMさんは私より勤続年長いし店長経験者だし、面白くないんじゃあ…

「○○さん、年下って感じ、しないのよね~(笑)」

三人共、口を揃えて笑ってた。

「何て言うの?老成?」

老成… よく言われる。

「キッチリしてるから、A型っぽい」

A型… よく言われる。

「本当は何型なの?」

「B型です」

「嘘おッ!!?」

B型って言うと、必ず驚かれる。
解せぬ…

よく分からんが皆「手加減しないでバンバン言ってくれ」ていう豪快な方々で、非常に助かりました。

─マニュアル─

C店の帳票類はちょいと厄介であるし、新人さんも困ってしまうだろう。

いつかT店で私が作成した遅番マニュアル、こんな時の為に、項目別で作成しておいて良かった。

POSレジは同じ、手順も同じ。

キャットや提出用の帳票類その他諸々、店毎に違うところだけ差し替えれば良い。

マニュアルは手順の詳細と、ペラのやる事チェック表。

覚えるまでは詳細を追ってもらって、覚えてからはチェック表を見て確認して貰えば良い。

店舗の複合機で帳票をスキャンして書き方見本も付け、巻末には私個人の携帯番号を載せておいた。

プリントした数枚を、百均の薄いクリアファイルに納めてレジ横に差し、遅番を教える際に閲覧してもらった。

この遅番マニュアル 結構 需要が有り、時折 夜 様子を見に行くとカウンター脇に出して見てるスタッフが多かったんで、その後も配属された店舗の殆どで作成した。

時たまヘルプで古巣に帰ると、以後変更のあった箇所が手書きで修正されて、クタクタになるまでつかわれてたりして、ちょっと こそばゆい。

マニュアルの元データ、店舗パソコンに残しておいたんだが…きっとみんな、パソコン苦手なんだろうな。

─足らないもの─

新店設営で基本備品は倉庫や本社から届くし、幾つか事前購入したりもしたけれど、実際 働き出すと「あ、アレ必要~」てのが、かなり有る。

一番にC店で欲しいと思ったのが…

作業台。

レジ横の50×50のショーケースだけじゃ、全然足らない。

特に試着等で広げた商品を畳んで、置いておくところ。

簡単に畳む作業自体は立ったまま出来るんでいいんだが、数点お求めの場合や、ラッピングを承った時。

ラッピングは時間が掛かるので お時間を頂き お客様には離れてもらう。
ご試着や購入で会計に来る方々は、何故だか被る。

お…置くところが、無い…

作成途中のギフトや受け取り待ちのラッピング済み分を、床に置く訳にもいかん。

ギリギリPC机が引き出せるから乗っけたりしてたけど、カウンターショウケースの中心に位置するから、かなり邪魔である。

ううん、お買い上げ品を店頭棚に置く訳にもいかんしなぁ…

造り付けのキャスター付きゴミ箱位置、この辺りならレジ裏だから然程邪魔にはならんのだが。

ゴミの上に置くのは、なんともはや。

この立方体のゴミ箱に、蓋が付いてれば良かったものを…

ダンボールで蓋でもするか?
いやいや、せっかく綺麗なゴミ箱なのに、結局ダンボールのお世話になるのは安っぽ過ぎる。

会計中のお客様からは見えちゃう位置。

うう~ん…ん?コレ、サイズ的に ちょうど良くない?

スペース調整で幅の狭い納戸が在った。
中には一枚中板が入っていて、狭くなるだけだし要らないんじゃないかな~と、思ってた。

いい方法が無いか思案する日々に、一筋の光明が差した。

私は中板を外すと、ゴミ箱の上に乗せてみた。

「おお…✨」

なんと、中板の幅はピタリとゴミ箱と同じじゃないか。

奥行は中板の方が5cm程 長かったが、乗せたままゴミ箱を収納してみると、奥がつっかえる事も無く、はみ出さずに収まった。

こ、これは いける…!!!

早速、休憩中に近所の百均に行って、蝶番と両面テープを買った。

いやさ ほら、造り付けだから再利用しないと思うけど、ネジ刺すのは怖いじゃん。

ゴミ箱の背面と5cm遊びをとった中板の裏面に蝶番を2箇所付け、パタッと蓋が閉まるオシャンティーなゴミ箱に仕上がった。

ゴミ箱上に臆せず物を置けるとか、めっちゃ便利✨

冬に差し掛かり、お客様のお召し物も重なってきた。

一応、試着室にハンガー掛けは在るけれど、一度に大量ご試着が入ったりすると、掛けておく場所が無い。

ううん…ココ、ココの空間にハンガーを掛けたい…

試着室の両サイドには、アクリル商品棚の横壁。

フックを取り付けるにも、強度が欲しいがネジは刺さらない。
強力吸盤タイプのフックも、なかなかな お値段である。

長いS字でも引っ掛けるか…いや でもなぁ、突然 安っぽくなっちゃうしなぁ…

うう~ん…ん?

脚立に上り、試着室の上から覗いてみた。
僅かにベニヤ板の区間が在る。

板って事は、ネジ釘が刺さるということ。

早速、百均にめぼしい部品を探しに行った。

あ!コレ良い!

見つけたのは、ドア枠に のれんを引っ掛ける為の金属パーツ。

気の部分に打ち込まねばならないが、上部なので多分、大丈夫。

試着室の両サイドにハンガーが掛けれるようになって、使い勝手が増した。

「あれ?こんな所に、ハンガー掛けられたっけ?」

ドキッ!

目立つ場所だったから、速攻でN課長に見つかってしまった。

「あはは~、付けちゃいました(テヘペロ)」

「も~、○○さん、すぐ こういう事しちゃうんだから~」

呆れられはしたものの、お叱りは受けませんでしたよ(安堵)。

「他にも何か足りないもの、有る?」

「有ります有ります!ストックが欲しい!」

「え。いや、それは~…」

N課長から聞かれたもんで、自分ではどうにもならない事を言ってみた。

「この商店街って、貸出倉庫あったっけ?」

「無いっスね!」

ショッピングモールとかだと賃料掛かるが、バックヤードの倉庫を借りれたりするが、あいにくと商店街には無かった。

「近くにコンテナ倉庫とか無いかなぁ…」

N課長がガラケー検索するも、栄えた駅近過ぎて、そんな所 無し。

「そんなにストック少ない?」

「少ないっスよ!特にレディース増やしたから、あっちも こっちもギウギウで!棚作ったり出来ないんスか?」

メンズよりレディースの伸びが良かったもんだから、安直にレディース種類と在庫数を増やしてもらったんだが、置き場が無かったのよね(遠い目)

あっちこっちに無理矢理 突っ込んでるから探しにくいし、同じ商品なのに色んな所に散らばって仕舞われてたりするし。

「ぇえ~…作るって言っても、どこに…」

私はすかさず、通路片側アクリル什器のレディース側で両手を床に向け広げた。

「ココ!このハンギングの下!」

縦3区画に分かれたアクリル什器の上部はガラス棚だが、下部にハンガーを掛けられる。
ハンガー下に床まで40cm程の空間が在り、勿体ないと思ってた。

「あ~、何か置けそうだね」

「でしょでしょ~。通路直結だからダンボール箱ストックにするのも、見栄え悪いし」

「確かに…ちょっと持ち帰らせて」

こうして、ひと月ほどして、ちゃんと白い化粧板の貼られたピタリとハマる立派な納戸が3つ、やって来ました。

何か、ちゃんと新しく造ったらしい、あれ。
言ってみるもんだ。

ついでに、レディース側通路に在る柱の吊り下げネクタイディスプレイも、丸パイプを角パイプに付け替えて、レディースシャツをディスプレイ出来るように工事してくれた。

この頃は まだ、色んな面で優遇されていた気がする(遠い目)

だが、初期備品に封入漏れていた赤青ファイルだけは、どんなに言っても忘れられちゃうんで、撤退したTI店のを貰ってきちゃいましたよ。

─組合費─

「集金に来たよ~」

え、この人、誰だっけ…??

月間商店街組合費を集めに、組合長さんが来店した。

すっかり顔を忘れていたもんで、めっちゃ いぶかしんじゃった。
だって怪しいじゃん、いきなり「集金」だとか。

組合長さんの説明を聞いて、ようやく思い出した。

そう言えば、すっごい前に ご挨拶した時に、そんなこと言ってたっけ。

──あれ?組合費って、結局どうするか決まってなくない?

「ごめんなさい。本社に確認するので、ちょっと待ってもらえますか?」

「良いよ~。じゃあ、他のお店回ってきちゃうから~」

組合長さんが去り、早速 店舗携帯でN課長に連絡をした。

『あ!そう言えばそんな事言ってたっけ~!』

N課長も忘れていたようだ。

『本社には話しとくから、集金来ちゃったら代わりに払っといてもらえる?』

「了解です」

こうして、一回目の組合費は私のお財布から出て行き、領収書を頂戴した。

次にN課長が来た時、私はすっかり領収書の存在を忘れていた。

「集金来たよ~」

あ!前回の組合費、本社に請求するの忘れてた!

とりあえず先月N課長には許可取ったし、私は再び自分の財布から組合費を出した。

ううん、二ヶ月合わせて一万円の出費はデカい。

流石に次にN課長が来た時は、いの一番に領収書を財布から出した。

「コレ、組合費の領収書です。すんません、二ヶ月分なんスけど…」

「何ソレ!?そんなの聞いてないよ!!!」

おっとぉ…???

ひと月ちょっと前に確認した時は、確かに『払っといて』と言っていた筈なんやが、課長は「全く身に覚えがございません」状態だった。

「こういうの本社に申請しないと降りないから、ちゃんと連絡しないとダメじゃない!」

しましたよ、課長に。

「…遅くなっちゃって、ごめんなさい」

あんまり納得いかなかったけど、自分の記憶違いかもしれないと思っちゃって、ぐっと反論は呑み込んだ。

組合費は課長が本社に話を付けてから、ということになったので、とりあえず簡易書留の代金だけ領収書を提出した。

──なんかもう、面倒臭~い。

月五千円くらいなら、もう自腹切ってもいいか。
てなっちゃって、翌月からは特に連絡もしないで、自分のお財布から支払い続けた。

この話、ここで終わらない。
もう少し時間が経過したら、語ると思う。

─隣人─

メンズ側通路を挟んで真向かいに、紳士服のセレクトショップが入っていた。

「おつかれさん!今日も忙しそうだね!」

「あ、お疲れ様です~!」

商店街一番の古株店で、あまり盛況している風でもないんやが、長年の顧客と高単価 故、ウチより売上行ってたりする。

いっつも手隙にしているスタッフの おじさま は、いっつも店頭に仁王立ち。
ウチのお店を日がな一日、じぃ~ッと眺めていた。

…暇なのかな。

最初の頃こそ挨拶程度しかしなくって、あんまりメンズ側に長居したくなかった。

だって、ただの巡回で通り過ぎると、必ず話しかけられちゃうんだもん。

仕事以外の話題も無いし、かといって、愚痴や内情を話す訳にもいかないし。

…あんまり じぃ~ッと、お店見ないで もらえないかな…

お客様が落ち着かなくて、客離れ起こしそう。
何より、私が落ち着かない。

…なんて、言えないし。

とにかく、扱いに困ってた。

「落ち着かないっスね…」
「暇なんだろうね…」

遠巻きにMさんとそんな話ばっかしてた(遠い目)

「…まぁでも、あれだけ見てる人が居ると、万引きとかはしにくいかな」

「そうだね、反対側に居る時に来客有ると教えてくれるし」

メリットデメリット半々で、放置するしかない。

おじさま効果か分からんが、恐怖だった最初の棚卸は、差異ゼロでしたよ。良かった良かった。

─カニ─

商店街に属する全店舗の慰労会、組合費で開催される忘年会には、各店舗二人まで参加出来る。
以上は参加費が加算される。

参加可否の用紙に自分の名前を書いて、全く知らない大勢の中にポンと独りで行くのも、ただカニ食って呑んで終わりそう。

学生君は十代だから誘えないし、主婦層のスタッフ陣からは、時間的に無理だと言われてしまった。

うう~ん、折角のカニだし、誰かもう一人…

残すは、N課長しか居ない。

あんまり誘いたくないけど、他に選択肢もない。
誘わず独りでカニ食ったのがバレようもんなら、会う度にグチグチ言われる予感しかない。

「商店街の忘年会、二人まで参加費かからないんスけど、課長行きますか?」

『忘年会って…あ!アレか、カニか!行く行く行くよ!タダでしょ!?』

この人は、何で組合費の事は忘れてんのに、カニの部分は覚えてるんだろう(遠い目)

N課長とは酒の席では(勝手に)無礼講やし、カニ懐石も、美味でありました。

(24)に続く──

シーン・ビジネス(24)

とうとう、時が来た。

覚えてる方、というか読んでない方ばかりであろうが、我が身を襲う事件が発生した。

『痴漢とコート②』である。
※参照はコチラ https://note.com/yukipochi_2022/n/nbcea8f877e80

先駆者ならざる者あたりで入口に触ったりもしてるが、事件の前話と後話を、語ろうと思う。

─痴漢とコート②前話─

要は、タヌキに化かされた。
眉にツバ付けてなかった私が、全面的に悪い。

突然 何言い出すんだ??って思われたかもしれない。
キッカケは、こうだ。

「○○さん、スカート履きなよ~。男性客受けするよ?スカート履いたら可愛いよ~」

今ではハラスで訴えられそうな軽口も、当時は聞き流すしか無かった。

「履きませんよ」

「ええ~?レディース売れてるんだし、可愛い格好したら、もっと伸びるよ~」

大きなお世話だ。
こいとら何年もスカートなんぞ履いてねぇ。

「スカート持ってねぇス」

「え?デートの時とか、どうしてんの?」

「普通にジーパンて」

当時の私の衣料費は仕事着にしか消化されてない。
スーツだって着てるし、ネクタイだって絞めてるし、タイピンにカフスにラペルピンに、小物類にも拘ってんだ。

ぶっちゃけ私は、パートナーとは お家でジャージで まったり過ごす派の大の出不精なんで、お出かけ着なんて必要感じない。

「え~、絶対スカート似合うよ!S店の店長みたく短いヤツ、一枚買おうよ!」

「嫌っス。買ってくれるんなら、考えます」

「むうぅ…」

タヌキは買い与えもせず「スカート履け」とだけ言う。

毎回コレである。
会う度に必ず言われる。

正直、あしらうのも面倒臭い。

「知ってる?短いスカートから出てる腿丈の靴下までの距離、素肌の部分、“絶対領域” て言うんだって!」

「へえ~、そいつぁ知りませんしたね~」

何を吹き込まれようと、生返事である。

──そんなある日。

そろそろ寒くなってきたから、新しいコート欲しいな~…

なんて思いながら、私はとあるショッピングセンターの落ち着いたギャル系のショップを物色していた。

お、このコート、襟と袖にパイピング入っててオシャレだな。

黒いロングコートは細身の作り。
ホットパンツにブーツが合う。

ううん、ブーツは持ってるけど…ホットパンツなぁ、ホットパンツ…

精々、夏用のサブリナパンツしか持っとらん。

…この店なら、冬用のホットパンツも扱ってそうだな。

広い店内の一角に、昨年の残りだろうお値下げ品コーナーが設けられていた。

ハンガーに掛かったスカートズボンを漁っていたら、厚地ハイウエストのホットパンツを見つけた。

──格好良い✨

チャコールグレーのストライプ。
黒いロングコートに絶対、合う。
好みドンピシャなセットアップだ。

ううん、だがなぁ…

如何せん、コートのお値段がお高め。
いや、私服に金掛けない方やから、そう感じただけなんやけど。

ロングコートだとカブ乗るにも不向きだし、ううん…

悩んで悩んで、一度お店を後にした。

隣のプチプラショップでホッと息を着く。
ホラ、価格的にお高いお店だと落ち着かないじゃん。私だけ?

ぼんやり店内を回遊し、何とな~く、ツイードのミニスカートを手に取った。

──半額、だと!?

そうそう、話の途中で腰を折るが、この話タイトリング失敗したな~と、ずっと思ってた。

“コート一枚の露出狂に遭遇した” なんて生温い話じゃないからね。

路上で “痴漢” に押し倒された、私の おシャカになった “コート” の話である。

しかも二度目は車に連れ込まれてるからね。よく生きてたよ、私。
どうやって生還したのか、一部分だけが どうしても思い出せないんやが。

さて、話を戻そうか。

半額のツイードのフレアなミニスカート、多分コレも あの黒いコートに合う。

あれだけ何度も「スカート履いたら可愛いよ」「きっとスカートも似合うよ」なんてタヌキに言われ続けてれば、ちょっとばかし その気にならん事も無い…ていうか、その気になって然り。

ん~、カブには不向きなロングコートだけど、これからは電車通勤だけになると思うと…

もうね、コート買う気になっちゃったんだな。

あ!こっちのスカートもパイピング入ってて可愛い!しかも半額!

スカート2枚買っても1枚分。
買うしかないよね。

ホクホクでミニスカ2枚を購入して急ぎ先程のお店に戻り、ロングコートとホットパンツも購入した。

だが 季節柄、素足では きっと寒い。
ズボン慣れした私の足に、寒風は恐らく凍えるレベル。

80デニールのパンスト2枚も購入した。

転勤してきたN店長の歓迎会。
M店に新しく配属され、私はN店長に引き継ぎを行ったばかり。
次月からは私の兼務は解け、一時C店専属になる。

あの日はC店で遅番だった。

ひひひ、私がスカート履いてったら、みんな驚くだろうなぁ♪

精一杯の おめかしをして、私は早番のMさんに挨拶をした。

「おはようございま~す♪」

「おはよ…ッ!?!??…ッ○○さん、スカート!????」

ッシャ!

早速Mさんを驚かせて、内心ガッツポーズである。

「え~、可愛い!」

「ありがとうございま~す♪」

おべっか だろうと真に受けちゃうのが、私の悪いところ。

お向かいのメンズショップのおじさまも店長呼びに行っちゃったり、逆向かいのTシャツ屋さんの店長さんにもイメチェン可愛い言われりゃ、調子に乗る。

分かってる、分かってるよ…(ホロリ)

勤務中は とにかくストック出すにもパンツ見えないように屈むのが厄介過ぎる。

慣れか…慣れか?

S店長を筆頭にお洒落な女性陣は、本当に凄いと感心しましたよ(遠い目)

サクッとレジ締め、定刻で退勤した私は、呑み会の会場まで電車で数駅。

「遅くなりました~、おつかれさまで~す♪」

「おつか…ぇえッ!?!??…○○さん、スカート!!???」

ひひひw この場に居るN店長以外の全員が、驚愕しまくっとるぜwww

思惑通り皆が皆、一様に驚きを隠さない。

タヌキなんか「その格好で一日働いたの!?」だとか言うんだぜ。

「バッチリ働いてきましたよ」

スカート履け履け言うたのアンタじゃん、全く、失礼しちゃうわね。

「何呑む?」

「とりあえず生」

「そこは変わらないんだw」

中身までは変わらんわい。

そんなこんなで縁もたけなわ。
何杯呑んだか覚えとらんが、かなり容量一杯まで呑んで呑んだ。

すっごい楽しかった。

帰りの下り列車は終電で、皆、私が使う駅の一つ前で降りると言う。

駅と駅の間ぐらいなんだよなぁ、我が家…

「私もココで降りる」

「え?もう一駅ありますよ?」

「ヘーキヘーキ、家ちょうど中間だから」

ペロンッと皆と一緒に下車してしまったんだな。
駅前で皆と別れ、私は線路沿いを下り方面へ向かい、カッカと歩き出した。

そして──迷子になった。

ええん、ここはどこ(泣)!?

真っ直ぐ線路沿いに歩けば我が家に辿り着く、筈であった。
途中、道路は大きくL字にカーブ。
線路沿いに歩くだなんて、無理だった。

デジャヴ…

遠い昔も似たような事が有ったなだなんて思い出しながら、気の遠くなるほど該当の少ない賽の目の住宅地を酩酊したまま歩き続け、事件は発生した。

全容は以前記したので割愛する。

─痴漢とコート②後話─

犯人は前回とは別人である。

前回は目出し帽の黒ずくめだったが、今回はサングラスにマスクだ。

重装していた犯人が軽装になるのは考え難い。

前回は駅前で物色して選んで尾行してきたが、今回は人気の無い所に車で来て、犯行場所である工事現場の近くに潜んでいた。

駅前に居たという事は、恐らく車には乗らない人間だ。
逃げるための足を置き、長々と20分も尾行するとは考え難い。

体格に声も違う。

前回は厚みのある胸板だったが、今回は痩せのノッポだ。

私が降りた駅も一駅違う。

私を狙っての犯行では無い。
偶然、通り過ぎた女子が居たら、犯行に及ぶつもりだったんだ。

そう、あの日、私が血迷ってスカートなんぞ履いていなければ…いつものビジネススーツだったら、事件は起きなかったかもしれない。

…いや、私が犠牲になる事で、世の女子一人くらいは救えたんだと、思えば、まだ。

「Mさん、聞いて下さいよ~(泣)!」

翌日、私は遅番でC店に出勤、早速 早番のMさんに事件の顛末を喋り尽くした。

「ぇえ!?大丈夫なの!?」

「あ、なんか、大丈夫…なのか???
私、どうやって車から降りて自宅の玄関に入ったのか、記憶が無いんスよ…酒呑んで記憶失くしたの初めてなんスけど(涙)!」

「あ~…お酒かぁ…お酒じゃあなぁ…」

そんな感じで、若い頃は しょっちゅう酒で記憶を失くしたというMさんの身の上話を聞いて、私は落ち着きを取り戻して行った。

そして──

「Mさん、Mさ~ん(号泣)!」

「慌てて どうしたの!?」

私は休憩から帰りしな、パカッと携帯を開いてMさんに見せた。

「犯人からメールが来た~!!!」

「何で!!?」

いつの間にか交換されていたメアド、犯人からのメールには動画が添付されていた。

暗い車内の運転席、私は座席の下に入り込んでいて、不思議そうに頭を左右に倒している。

犯人が撮影したものだ。

なんとな~く「あれぇ、勃たないねぇ」なんて、いったような記憶が有るような無いような…キモ。

「キモぇ、キモぇよおおぉ…ッ(激震)!!!」

「うわ~、コレはキモいねぇ…よしよし」

Mさんに なだめてもらい、何とか平常心を取り戻し、私はキッチリ一日お店に立った。

そして数週間後──

「え、交通費、定期代より多くない?」

「バス代、請求して良いスか」

兼務中はメイン店舗の交通費が主軸で出て、サブ店舗は日割りで申請する仕様。

「え~、今までバス使ってたっけ?」

「使ってましたが、請求し忘れてたんです。ホラ、スイカでピッと乗っちゃうんで」

一時専任になる上で、交通費の申請し直しついでに、以前は請求してなかったバス代も ちゃっかり含んだ。

普段は踏み入らない地元の地理に明るくなくて、バスが通ってるの知らなかったし、有っても終バス早いと思ってたし。

何より、引っ越した当時は若くてまだ元気だったから、駅徒歩25分なんて平気だと、思ってたんだよ…(遠い目)

以外にも深夜1時代まで走ってくれてる良心的なバスでさ。

家の近所で二回も別の痴漢に引っ倒されてんだよ、流石に怖いし防犯に力入れるよね。

「原付は?M店は原付で行ってたじゃない」

「C店付近に原付が停められるとでも?」

「あ~…」

最寄り駅前すら月極駐輪場の申込は高倍率抽選だし、当日駐輪も めっちゃ混んでて停めるとこ探すのも苦労する。
ほら、私C店では遅番メインだから、出勤時間には埋まっちゃってんのよ。

従業員駐輪場がキチンと完備されているショッピングセンターと商店街は違うんだ。

大体にして原付通勤だと交通費出ないし。
ガソリン代も、キロ数 単価 計算がどうのって有耶無耶にされて、面倒臭…と思って申請しなかった私も悪いんだけど。

実際 徒歩20分越えはバス代請求の範囲内なんだから、渋られるのおかしいから。

自分の保身のために、真っ当な権利を行使して、何が悪い。

「まあ、バス代申請は受け付けるけど…どうしたの?いきなり。最近スカートも履いてなくない?」

台形の底辺でタヌキに尋ねられ、私は正面の保険屋さんにフッと目を送った。

「スカートは、もう履きません」

「似合ってたのに、何で…ひょっとして…何か遭った…?」

「…………」

こういう時だけ、何で鋭いんだ。

私はタヌキには黙りを決め込んだ。
だって下手なこと言って、腫れ物扱いされんの、嫌だし。

「あ~…何か、遭ったんだぁ…」

こういう時だけ、何で伝わっちゃうんだ。

こうして、私は無事、電車代に合わせてバス代も請求出来ましたよ。

──あのコート、もの凄い気に入って買ったのに…

1度しか袖を通さなかった黒いコートのツイード地には、工事現場の目の細かい黄色い砂が入りまくり。

叩いても叩いても砂が落ちるし、減らないし。

「…………」

ガサガサ!
ボスッ!
ぎゅっ!

ポイ。

見るのも着るのも気持ち悪いくて、可燃ごみの日に、あの日履いてたミニスカと一緒に、捨てた。

一緒に買ったホットパンツとパイピングのミニスカは、タンスの肥やしになった。

電車に乗るような冬用コート無く暫く寒い思いをした。
結局、店舗に入荷したダウンコートを購入した。暖かかった。

今でも思い出す あのコート、マジで気に入ってたんだよ。

今一度、犯人に告ぐ。

「コート、弁償しろ」

時効だとか甘い夢視んなよ。
テメェ見っけたら民事で訴えるかんな、覚えとけ。

(25)に続く──

母親は、アレ(24)

空きビンについての攻防、備忘用。

麻辣お○ずラー油にドハマりして、一年数ヶ月。

愛猫のトラも麻辣お○ずラー油が大好き過ぎて空きビンを放置しておくと、ラベルが剥がれるまで舐めちゃったり、舐め力で蓋が開いて中身がツルッツルになってた時が有ったりした。

コレ、ニンニクとかガッツリ入っているから、ニャンコに食べさしてはダメなのでは。

ていうか、辛くないのか…?

他の子は全く見向きもしなく、トラだけが何故だか味覚が飼い主に似てしまった。

油物の入っているビンなので、空になったらシンクで湯に浸けておきたいんだが、置いておくとトラが全部飲んでしまう。

洗った後に乾かそうと置いてあるビンも然り。

空きビンを放置出来ず困った私は、とりあえず冷蔵庫に仕舞う癖がついている。

冷蔵庫に仕舞っちゃうと、すぐ忘れる。

麻辣お○ずラー油は小さいビンで、私の消化量もヤバいんで、今日はとうとう冷蔵庫一段、洗い待ちのビンでいっぱいになってしまった。

流石に、洗うかぁ。

冷蔵庫で冷えた油分は温まるまで時間が掛かってしまう。

ビンの量も1ダースは超えている。

母親に何となく、常々思っていることを言ってみた。

私「業務用か大ビン出してくれたら、楽なんだけどなぁ…」

母「無いの?」

私「無いんだよ~、他の所が出してるパウチは有るんだけど…」

母「でも、それが気に入ってるんでしょ?」

私「そうなんだよ~」

母「じゃあ、毎週ビンの日に出すしか無いじゃない」

──んん?

母「冷蔵庫に溜めちゃうから面倒なんだよ、こまめに出せば良い」

私「いや、それは分かってんの。私は『小ビンじゃなくて、大ビンとかパウチとか大容量の規格で出して欲しい』て話をしてんの!」

毎度の お小言が始まりそうだったので、私は会話を巻き戻した。

暫くして。

私「そういえば、今まではトラ君 対策で冷蔵庫仕舞っちゃってたけど、もうする必要無いんだよなぁ」

母「トラ対策だったの?」

何度か言ってる筈だが、聞き流してしかいない母親が覚えてる訳無し。
私は再び冷蔵庫に入れる理由を説明した。

私「これからはイタズラする子も居ないし、カラになったら都度…」

母「良いこと思い付いた」

私の話を遮る形で母親が入って来た。

母「食べ終わったらシンクに置いておけば良いじゃない。もうトラ居ないんだし」

私「だ~か~ら~!人の話は最後まで聞いて!『都度洗ってシンクに伏せておこう』って、言おうとしたの!」

母「アンタの案の方が良いじゃない。やりなさい、それ」

くうぅ…

(25)に続く──

母親は、アレ(25)

Amaz○nさんの変な形のダンボール箱をゲットして、早一年。

15×20×120cmの直方体。
開くのは狭い長方形の部分。

ふおお、猫のトンネル作りたい✨

なんて思って「捨てないで!」と豪語して、大切に大切に放置されていた。

ただ ちょっとばかし、一番遊びそうなハチの胴は引っかかっちゃいそうなサイズ感だから、どう作ろうかな~なんて考えあぐねていた。

つい先日、倒れたダンボール箱にクロが頭を突っ込んだ。
返しになった耳部分にビビッて、体半分で出て来ちゃったけど。

そうかぁ、トンネルあったらクロも遊ぶかぁ♪

母「アンタ、あの箱いい加減、使わないなら捨てなさいよ」

私「待って待って、こないだクロが頭突っ込んだの目撃したから、耳の部分どうにかしたら遊びそうなんだ。もう作るから、捨てないで」

ようやくトンネル制作の意思が固まり、耳の部分を ああして こうして、頭の中で工程を整理していた。

そして、翌朝──

目覚めた私に、母親が告げる。

母「トンネル、作っといたよ」

私「──は?」

なんと、加工するのを楽しみにしていたダンボール箱は、母親の手により耳を外に折られ、あまつさえ ガムテで ぐるぐる巻きにされてしまっていた。

くうぅ…

分かってる、長期間 放置したまま何もしなかった自分が悪いんだって、分かってる。

分かってるけど…

自分で作りたかったんだよ!
って、全力で主張したい。

だが、単純に そう訴えても「放っておくアンタが悪い」と言われるのが目に視えている。

そこで 私は一呼吸置いて、いつもとは違う切り口で始めてみた。

私「──母ちゃん『放っておくアンタが悪い』って言われるの分かってるから、言わないでね」

母「何」

私「自分で、トンネル作りたかった!」

母「は?意味分かんない」

何だと!?

母「作りもしないで長々と放置してるアンタが悪…」

私「だから!『分かってるから言わないで』って、言ったよね!
母ちゃんは、工作大好きな人間の気持ちなんて分からないんだ(泣)!」

私の必死の訴えは母親には伝わらず。

母「…………」

私は知っている。
母親が こういう時に黙り決め込むのは罪悪感とかでは無く、「何 言ってんだコイツ…」という反感を抱いている時だと。

くううぅ…

私が悪いんだ。私が悪かったんだ。
自分で作りたかったのに、さっさと加工しちゃわなかった、私が全面的に悪いんだあぁ(号泣)!

お気に入りだった変な形の箱は、母親の手に掛かったことにより、今では資源ゴミにしか見えない。

…もう、ニャンコ用のトンネルおもちゃ、買っちゃおうかな。

連日で、すまん。

(26)に続く──

シーン・ビジネス(25)

チェーン展開の業種には多いんじゃないかな、と思う行事。

全国店長会、である。

私がバイトで務め始めた初期の頃は二桁しか無かった店舗数も、気付けば三桁の大台。

内容は会議と言うよりは、研修と打ち上げがメイン。

は…入り辛い…

基本的に既存の店長方は、エリアで まとまってたりするんやが、会議中の席順は店番順なので、隣が突然 最北だったり最南だったりする。

会議時間は泊まり掛けの、各々8時間勤務。
90分毎に小休憩も有り三食付き、拘束30時間くらい。

隣の席の方に話しかけてみようかな~…

なんて思うも、参加回数の多い店長程、反対隣の店長と仲良くなってたりするもんで、新参者は非常に居辛かったりしちゃう。

私は全国店長会に数回参加するまで、知らなんだ。

──え?店舗の配属期間って、年単位なの?

私は間で参加出来なかった期間も有るが、参加する度、別店舗。

兼務中はメイン店舗の所属で参加するから、同じ店舗に何度か勤務していても、全部別店舗で参加するっていうミラクルが発生した。

M店→C店→I店→P店→SS店→S店…何か抜けてるかもだけど、こんな感じか?

参加する度、両隣の店長さんと「はじめまして」
猛烈に居心地が悪い。

──尾てい骨が痛い(泣)

ずっと立ち仕事していると、とにかく じっと座ってられない。

特に会場である講堂の座席は木製だったりしちゃうんで、毎回「座布団持って来れば良かった…」てね、もうね、尾てい骨の痛みとの戦いであったよ(遠い目)

「では、十分間の休憩です」

定時でアナウンスが入る度、シュバッと椅子から離れて、喫煙所まで早歩き。

こんな事ばっかだから、お隣さんと仲良くなる時間なんて、無い無いw

灰皿ではN課長やら商品部部長やら店舗開発係長やらに捕まるし、どこに居ても気が休まらない。

部屋割りも2人部屋だから、逃げ場無し。

僅かでも人が切れれば、気も休まるんだけどね…

そんな地味にストレスフルな店長会であったが、楽しみも有った

それは勿論──宴会、である。

だって 食べ放題 飲み放題で、余興なんかもあったりして、凄ぇ楽しいんだよ!

宴会の為だけに、店長会 我慢してたな、マジで。

宴会はエリアで纏まってるから、いつもの呑み面子だったりして、気兼ねしなくて良い。

しかも、これだけ参加人数居ると、わざわざ自分が お酌に回らんでも、他の大勢が回ってるし。

──行かんでも、良いや。

私も私で課長や部長が何故だか近くに居る事 多くて、ついで お酌 を受けるので手一杯だし(笑)

余興の『エリア対抗☆早ディスプレイ大会』は想い出深い。

確か、半身メンズトルソーに、商品状態の畳まれたワイシャツとネクタイを着せて脱がして商品状態に畳み直す、競走だった。

エリア内の店長らで作業分担、私は どの作業も得意だったけれど、一番 畳が早くて綺麗だとの事で、最後の畳みの係に抜擢された。

N課長から「1位になったら賞金出るから、あんまし呑んじゃダメだよ」なんて忠告されていたんやが…

つい、めっちゃ呑んじゃった。

視界が霞み、頭もフワフワで「○○、大丈夫か!?」なんて言われながら畳み作業。

そこは何千何万と畳んだ私の真骨頂。

台紙に蝶キーパーにピン類に襟キーパー、手が勝手に動いたよ。

たぁのしぃ~い♪

審判チェック受けて終わった瞬間、周りの皆が大喜びしてたから、1位勝ち抜けたんだと思う。多分。

泥酔しながら仕事作業するとか、そっちの方が楽し過ぎて、結果は覚えてないんだな。

2~3時間の宴会終わらば、二次会三次会へとスライドする。

初めて店長会に参加した時は、オ○エンタル系では無かったから、皆、お財布代わりの社長や専務や部長班に別れ表に出る。

「専務!お供いたします!」

胡麻をする、て動き、始めて見た。

お酒呑めない店長らとは別れ、特に行先も無いんで、何とな~くN課長に追従していた。

調子良く専務を捕まえ、若いのを捕まえ、近隣の居酒屋はいっぱいだったので、スナックに連れていかれた。

「あ、自分達でやりますから」

アイスペールとウイスキーボトル、グラスセットを手元に置いてもらい、せっせと水割りを作った。

「何か歌ってよ」

──え。

突然出された隣席の専務の無茶振りに、凍り付いた。

わ、わ、わ…私に、歌え、だと!?

「いや、私 音痴なんで~」

「音痴だって、可愛いよ」

嬉しくない。

押されに押されグイグイとマイクを突きつけられても、何だかんだ断り続け…

「一人じゃ、嫌です!」

といったら「じゃあ、私と歌いましょ」って、M店長が助け舟を出してくれた。

んだが。

くッ…ピ○ク・レディー…

振り付けも運痴な私では、まともに出来ん。「UFO♪」て、言うのが精一杯。

もう、二度と、専務とは呑みたくない(遠い目)

三次会には課長のお財布でコンビニで酒類ツマミ類を購入して、誰かの部屋に数人で転がり込む。

ダラダラ~ッとカーペット床に座って、ダラダラ~ッと過ごす、あの時間は好きだ。

酒が切れれば追加買い出しに行くか、他の集まってる部屋を回って酒を探して、更に呑む。

翌日は早いけど、みんな結構のんびりしてるんだな。

そんな過ごし方だったので、朝はギリギリ。

「大浴場、行った~?凄い良かったよ!」

一度も、行けなかった。
どころか、シャワーすら浴びる気力無し。

私と同じ時間呑んでいた筈の男性陣は、いつの間に大浴場まで行けたんだろう…

体力値の差、かな。

翌日の研修は、眠気との戦いである。
尾てい骨が痛くなかったら、寝ちゃってたかもしれない。

講堂に集まるのは、累々たる屍。

解散するのは夕方になるし、解散後も お店に寄って資料を置いたりしたりして、家に着くのは夜だったな。

バタンキュー…

もうね、着替える気力も無し。

ゴロゴロ横になって、ケータイ開いてポチポチお礼メール打って、閉店時間までに自店から連絡無ければ、ようやく解放される。

つ、疲れたぁ…

特に何した、て訳でも無いんやが、気疲れ…なのか、椅子疲れなのか、魂 口から出てたと思う。

これで地方から出てきた店長さん方は、会場近隣の店舗見学に行って もう一泊して、T○Rで遊んでから帰るらしいから、体力オバケである。

(26)に続く──

蟲の縁⑥

虫、虫、虫…
切っても切れない、私と虫…

言ってる自分が凄ぇ嫌だ(震)

やっぱね、テンション上げるにはコレっしょ!
今日 虫の話をしようと思ったら、ワクワクが止まらなかったよ!

取っておきの鱗粉系 二選、行ってみよ~!

─蛾─

あれは、セカンドハイスクール卒業直後、務めていた遊技場での邂逅であった。

遊技場の遅番勤務でガッツガッツ稼いでいた時代、ひょっとしたら、手取りは一番だったかもしれない。

基本的にカウンターに入って景品交換にマイクパフォーマンスに精を出し、閉店後は月イチの棚卸に向け、毎日 景品残数を数え、翌分の景品補充。

ほぼ毎日 目玉商品も有るので、お客様の目を引くように抜かりなく。

棚卸や台入れ替えの無い平常時でも、業務終了は深夜2時。

ある時、出勤したらカウンター上に、謎の紙コップが置かれていた。

何だか嫌な予感がする。

「何スか?コレ…」

「今朝 捕まえた、カブトムシ!」

「!!?」

この辺、カブトムシ居んの!?

丘に林に豆腐屋さん、周囲に娯楽無く、宛無い地もピー集う遊技場。

そう、田舎だった。

──ていうか カブトムシを、カウンターに放置しないで欲しい。
持って帰るんなら、バックヤードに置いとけよ。

そんな紙コップに紙蓋乗せた程度の簡易な状態で、いつ倒れてカブトムシが逃げ出しやしないか、不安で たまらん。

その日は一日中 カサカサカサカサ、カブトムシが気になって気になって、仕方なかったよ(遠い目)

閉店後レジを締め、作業前に小休止。

遊技場内の自販機を使うには幹部に解錠してもらわねばならんので、外の自販機に飲み物を買いに行った時だった。

照明落とされた自然豊かの深夜は真っ暗。

「…うわっ!?」

煌々と灯る自販機には、虫、虫、虫、虫、虫祭り…多種多様な虫達が集合している。

う、うわぁ…どうしよ…

初夏だからか、いつもの倍…いや、3倍は虫が集っている。

ううう…コーヒー、缶コーヒーを買うだけやから…

辛うじて料金口には虫が見えない。
私はポケットから小銭を出して、ちゃちゃッと買って、走って逃げようと考えた。

チャリン、チャリン

購入ボタンが緑に点灯する。

…取り出し口に、虫が入ってたら、どうしよう。

取り出し口 付近は暗く、虫が居るのか居ないのか、良く見えない。
私は取り出し口ばかりに気を取られ、下ばかり注視していた。

いつもと同じコーヒーのボタン、軽く視界の住みに置き、へっぴり腰でボタンを押そうと伸ばした指が、ピタリと止まった。

何か、可愛いリボンのシールが貼ってある。

販促にキャンペーンでも催されて いるのだろうか、私は目を しばたたいてリボンを見上げた。

「──うあッ!!!??」

リボンだと思った緑がかった乳白色のソレは、15cm近い、大きな大きな “蛾” であった。

う、うわぁ…うわぁああ…

私が買おうと思ったコーヒー見本の直上に鎮座して動かない。

び、微妙にボタンに被ってて、押せない(号泣)!

ていうか、こんな お洒落リボンみたいな蛾、居るんだぁ…
うわぁ、触覚がモ○ラだし…
マジで蛾だ、うわぁ…

他の虫達のように動いてくれれば いいものを、全く動かないんで、暫し観察してしまったよ(遠い目)

料金入れてしまった手前、立ち去れず。

いや、あの蛾の触覚って、バ○ラだったかな。

モ○ラもバ○ラも好きなんだけどな~、凄ぇリアルなフィギュアを ばぁば に買ってもらって、母親に気持ち悪いって言われながらも何年も飾ってたし…

怪獣だからな、虫じゃないか。

おっと脱線。

──これは、自販機のジーッガコンッていう振動で、蛾が飛んでしまうのでは。

とりあえず喉乾いてたんで、返却レバーを下げる、という方法は思い浮かびもしなかった。

私は出来うる限り身を低く低空姿勢を取り、蛾 以外の虫はスルーして、そうっとボタンに手を伸ばした。

ポチッ

コーヒーは、諦めた。
私が押したのは、蛾から斜め下の対角に位置する一番遠い、何の飲み物かも視認出来ないボタン。

ブイイン、と自販機が振動する。
飲み物が落下するまでが、体感では人生で一番長い。

早く早く、出来る限り静か~に、落ちてこいッ(号泣)!

──ガチャコンッ!

ぎぃやああああぁッ!!?

私の願いは虚しく、自販機が揺れるくらい重たい音を立て、飲み物が落下した。

「ッッッッ…!!!」

完全に静止した私は、飛び立った蛾が私に向かってくるんじゃねぇかって、逃げ惑う自分の姿を思い描いた。

「…………」

だが 私の妄想は杞憂に終わり、蛾は一ミリも身動きしない。

…死んでんのかな。

あんまり動かないもんだから、お亡くなりになってるんだと思った。

確証が無い以上、飛ばれたり落ちてきたりしたら怖いので、そうっと、そぅ~っと、取り出し口から缶の飲み物を取り出して、走って逃げた。

──終業後、帰宅しようと駐車場の愛車に向かう途中、再び あの自販機の前を通った。

ビクッ!?

アイツ、動いてた。
場所変わってた。

ブラック缶コーヒーの上に居た筈なのに、1番下段の、私が買った飲み物のボタンの上に…

あれ以来、南国にでも居そうな薄く緑がかった乳白色の お洒落リボンみたいな蛾に出会うことも無く、十数年が経過。

アイツ、何だったんだろう…

時折ふと思い出しはせど、検索はしなかった。

だってさ!下手に虫の検索しちゃうと、膨大な画像が表示されちゃうんだよ!実物の!

キモぇじゃあん…

そして、数年前のこと。

雨の日も風の日もカンカン照りの太陽の日だって、小一時間シルバーカー押し押し歯医者に通っていた、私。

広い公園の細い歩道を、枯葉を踏みしめ歩っていて、背筋が凍った。

あれ…まさか…

ガードレールの足元に、白いリボンが落ちていた。

ゆうっくり、ゆうっくり、近付いてみれば、忘れもしない、お洒落リボンな蛾であった。

この地域にも居んの(泣)!!?

ひいぃ…と細い歩道幅を限界まで遠くに舵を切る。

──なんか、ボロボロだな…

鳥にでも襲われたのか、リボンには亀裂が入り裾はボソボソ。

こんだけボロボロなら、死んでるか。

少しばかり安心して、私は歯医者で治療を受け、帰路に着いた。

日暮れにハイビームのヘッドライトを点けた自転車が、細い歩道の対向から走って来た。

ガードレール側に舵を切り自転車を やり過ごそうとした、その時だった。

…ふよふよよッ

ぎゃあああああッッッ!!?

死んだと思っていたヤツが、舞ったんだ。

嫌ッ!!嫌ッ嫌ッッ!!!

こともあろうに私の直前で右往左往と羽ばたくリボン。

す、進めないー(泣)!!

羽が傷んでいる所為か、トリッキーな動きに翻弄されて、一歩下がれば向かってくるし、横に避ければ向かってくるし。

ふよふよ、ふよ~

ようやっと歩道から車道を抜け民家の屋根の上まで飛び上がる蛾を見送るまで、同じ場所で堂々巡りしましたよ(遠い目)

─蝶─

あれは二十代前半かな、親友らと私の愛車で半島にドライブに行くのが、休日の楽しみだった。

特に行先も決めず走り出しちゃう適当人間達だから、特に半島に思い入れが有るとかじゃないんやけど。

「このまま海沿いにグルッと進んでみようか」

「いいね、そうしよ!」

くだんねぇ事ダベりながら、宛も無く走るだけでも楽しいのである。

とはいえ折角の遠出だし、寄れる観光地が目に入ったら、フラッと立ち寄ったりもする。

赤信号でナビの地図を道なりに進め、ルート確認。

「── “南○パラダイス” って、何だろう??」

もの凄~く、気になるネーミングである。

「このまま進めば行けそうだけど、どうする?」

「行こうぜ行こうぜ!」

お腹も空いたし、観光施設なら ご飯食べるところ在るかもだし。

辿り着いた観光地の駐車場に愛車を停め、南国チックな樹木にお出迎えされ、立て看板の館内マップを確認する。

看板には お花畑や温室等が表記され、順路を巡って最後に辿り着いたのが──

蝶館。

どストレートなネーミングだ。

ビニールハウスのような外観、中に見える緑の草木…

どう考えても、標本が飾られている博物館では、無い。

ぜ、ぜぜぜ、絶対、嫌な予感しかしない(泣)!

「…どうする?入る?」

「いや~、コレちょっと、勇気要るよね…」

ビニールハウスの入口は二重仕様。

どう考えても、放し飼われてる風にしか、思えない。

「…世界中の珍しい蝶が居るらしいよ」

「あ~、あの、青とか赤とか黄色とかのヤツかな…」

四人固まり、二の足踏みまくり。

「まあでも、折角ここまで来たんだし…」

私たちは、中を覗いてみる決断をした。

覗くだけなら、なんとか、多分…

ビニールの幕を分け、私はみんなの最後尾に着いた。

ビニールハウスの中は小さな南国の植物園になっていて、人が通る道には柵がしてあり、出口までは一本道。

そして肝心の蝶だが──

もの凄え、居た。
思った以上に、めっちゃ居た。

「ッッッッ!!!」

あまりの蝶の多さに、私は言葉が出なかった。

引き返そう!

たった一言が、口から出せない。

そんなんしてる間に、一人が悠然と遊歩道を進み始めた。

え、ちょ、行くの!!?

一人に続くようにして、二人も歩み始めた。

え!? ぇえ!?

スタスタスタスタッ

先陣を切るTちゃんの歩調、めっちゃ速い。

こんなに蝶が飛び交う空間を闊歩するだなんて、猛者。

「──ちょッ」

こんな恐ろしい空間に置いていかないでくれ!

続く二人の背中を追い、私も頑張って歩み始めた、その時だった。

ふよふよふよ~

!!!!

何と、友人と私の間を抜けるかのように、蝶が すり抜けていく。

「ちょ、ちょっと、待ッ…」

遠目に見えるは、ゴールの のれんを潜るTちゃんの背中。

Tちゃん、めっちゃ速い(泣)!

一歩進めば、蝶が ふよよ~。

「み、みんな、待ッッ…!」

一歩 歩めど、その度、ふよふよ蝶に道を阻まれ進めない。

二人の背中に手を伸ばし、私が遅れている事を伝えねば(泣)!

ふよふよ~

「──ひッ」

蝶は狙ったかのように、私と友人の間を すり抜けやがる。
伸ばした腕は引っ込めるしかない。

「ま、待ッ…待ッ…!!!」

ヒトはね、極限の恐怖を感じると、声が出せなくなるんだよ(遠い目)

そして──誰も居なくなった。

み、みんな~!置いてかないで~(号泣)!!!

私の周囲を飛び交う赤とか青とか黄色とか多分、綺麗な羽なんだと思うけど、怖すぎて怖すぎて縮み上がってしまったよ。

引き返そう!

背後を振り返れば目に映る、入口のビニール幕。

──遠ッ!!?

バッと正面を見れば、同じくらい先の出口のビニール幕。

私は、蝶館の中腹で、友人らに置いていかれてしまった。

うあああぁん(号泣)!!!

どうする、引き返して入口から皆が待つであろう出口に回り込むか?
いや、ビニールハウスのサイドが抜けられるとは限らない。
下手こくと皆と はぐれ、迷子になってまう。

で、出口から出るしか…!!!

私は泣け無しの勇気を振り絞り、一歩進んだ。

ふよふよふよ~

「ひぃッ!」

ふよよ~

「ひいぃッ!」

何でさヤツらって、わざわざ人の前を往来すんのかね(遠い目)

「お、○ちゃん出て来た」

「満喫してたね~」

──違う。

私は覚束無い足取りで、フラフラと出口先に置かれていたキノコか何かのオブジェに座った。

真っ白に燃え尽きた、矢○丈が如く。

「みんな、歩くの速いよ…」

息を整え、私は腕を胸の前で波打たせ訴えた。

「一歩進む度に蝶が、こう、前を、こう、通り過ぎるから、怖くて全然進めなかった…」

「あー…」

「Tちゃん、良く あんな虫だらけの中を、スタスタ歩けるよね…」

「だって、蝶 うじゃうじゃ居るんだもん、怖いじゃん。さっさと抜けたいじゃん」

あ、それで。

この後しばらく魂が飛び出したまんまで、どうやって帰ったのか、覚えてないんだな。
私が運転してんだと思うんだけど。

蝶館、超怖ぇ。

真の恐怖を体験したい虫嫌いな方は、一度は覗いてみるべきだよ。
下手な お化け屋敷なんかより、全然 怖ぇから。
現存してるか、分からんけど。

─おまけ─ポ○モン

暇ー…

第6世代の図鑑を完成させた、寝ずっぱり時代の私。

ゴロゴロしながら出来る事と言えば、ひたすらゲームをするくらい。

最近のポ○モンはネットで交換出来るから、良いよな~。

因みに私、ポ○モンでは “虫取り少年” である。
リアルな虫は大嫌いな、虫ポケ使い。

だって虫ポケ、カッコイイじゃん。

中でもお気にりが、コフキムシ。

初めてXYで遭遇ゲットしたのも、色違いのコフキムシ。

だってコフキムシ、カワイイじゃん。

しかもビビヨンに進化すると、地域で羽の柄が違うんだよ!

つい、ね。集めちゃうよね。

交換に出されてるビビヨンは、伝説や劇場配布のレアポケとの交換ばかり。

だからね、コフキムシの状態で交換に出されてるヤツをゲットして、ひたすらレベル上げてビビヨンにするんだ。

あと2種類くらいで、ビビヨン図鑑完成する所まで行った。

ビビヨンの羽な、当時で17種類くらいあったよ、確か。

しばらくプレイしてないけど、データ生きてるかな(ソワソワ)

⑦に続く──

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