得点価値の推移(タイトル詐欺)

本noteを読むにあたり, 是非以下のtweetをご一読し, 少しだけ考えてみていただけますと幸いです. 

1. はじめに

 セイバーメトリクスの選手評価の根幹として, 大きく2つの考え方がある. 
「得失点ベース」による選手評価と, 「勝率ベース」による選手評価である. 

 「得失点ベース」による評価は得点期待値・得点価値を基にして, 選手のプレーの一つひとつに対しチーム得失点に何点分の影響を与えたかを算出し, チームの得点を増やし, あるいはチームの失点を減らした選手を評価する手法である. 身近な指標ではwOBAUZR, それらの総合指標であるWARがこれを基にしている. 

 「勝率ベース」による評価は勝利期待値・勝利確率を基にして, 得失点ベース同様に一つひとつに対し計算し, チーム勝率確率の増減によって選手を評価する手法である. 身近な指標ではWPAやDELTA社が速報しているWE Scoreがある. 

 これらは一長一短あるため, 指標を使う側が「一体何を評価したいか」を考え使い分ければよいと思われる. 本noteでは得点期待値について考察する. 

2. 得点期待値とは

 Run Above Average based on the 24 Base/Out Statesという名前の通り, 
・塁上ランナーの組み合わせ(2^3=8)
・アウトカウント3段階({0, 1, 2}=3)
を組み合わせた計24パターンの状況で, そのイニングが終了するまでに何得点が期待できるか/何失点が危ぶまれるかという平均値である.
2016-18年の3年間におけるそれがこちら↓

この表だけでも面白い読み物である. 例えば, 盗塁・バントは無死一塁から実行された場合, 成功すれば無死二塁, 失敗すれば1死走者なしになる. その場合,
①成功:0.83→1.14=+0.31
②失敗:0.83→0.27=-0.56
ということになる. この状況における盗塁・バントという戦術は, 得失点の観点からとてもリスキーであるように見える. 収支を0.0にするためにも, 単純計算で成功率は64.4%を要求される. まあ, ゲッツーになる場合, スリーバント失敗の場合, …, 守備側エラーでチャンスが拡大する場合など, もっといろんな場合を加味して計算しないといけないんですけどね.
 注記しておくと, 得点期待値という数値はあくまで統計的に計算された平均値だということは忘れてはいけない. 無死満塁で打席に立ったのが丸佳浩だろうが小林誠司だろうが, 期待値は2.14をベースに評価される. まあ, この辺りは得失点ベースで野球を語る人であれば当然考慮しているはずの基本中の基本であるため, 今更揚げ足取りにもならないですよね☆

3. 得点期待値の活用

 ここでようやくタイトルである得点価値に入るが, 2章までで1100文字超. そろそろやめていいですかね。私は以前, ライターの故・勝谷誠彦氏が配信されていたメールマガジンを購読していたのですが毎朝2000字超の文章が送られてくるもので, だんだん負担になってきて解約したのを思い出しました. そうだ, 推移についての考察は次回にしよう(タイトル詐欺). 多分後日, この太字がURLリンクになっています. 
 さて得点期待値の活用だが, 2章で紹介したものが基本となる. 2018年3月30日の阪神巨人戦3回表の攻撃を例にすると, 

①糸井:無死走者なし0.48→1死走者なし0.27=-0.21
②ロサ:1死走者なし0.27→2死走者なし0.10=-0.17
③福留:2死走者なし0.10→2死一塁0.22=+0.12
④大山:2死一塁0.22→2死走者なし0.10+2得点=+1.88
⑤糸原:2死走者なし0.10→イニング終了=-0.10
というように各打者が評価される. これがRE24という評価指標になる. また, ①②⑤を凡打という打席結果としてひとくくりにすると, 凡打は平均してチーム得点に-0.16の影響を与えると言える. このように計算するのがプレーの得点価値(Runs Value)というもので, 2016-18年の3年間におけるそれがこちら↓

繰り返しになるが, あくまで統計的な平均値であることを留意したい. これを基に, 
(1) ある打者の価値=0.44×単打数+0.77×二塁打数+1.12×三塁打数+…
と計算していくのをBatting Runsといい, 多くの打撃指標の基礎となる考え方となっており, これに1アウトあたりの得点価値である約-0.30を引くと, 
(1)' ある打者の価値=0.74×単打数+1.07×二塁打数+1.42×三塁打数+…
さらにだいたいの補正値である1.15を掛けると, 
(1)'' ある打者の価値=0.85×単打数+1.23×二塁打数+1.63×三塁打数+…
調べたり, 実際に計算をしてみたことがある方なら(1)''でピンとくるかもしれない. wOBAの計算式である(精密ではない/対象としている年度が異なっているため係数は異なっているが). 
 加えて「多くの場合一二塁になるのを一三塁にした」という計算をすれば走者の走塁評価を, 「多くの場合安打である打球をアウトにした」という計算をすれば野手の守備評価をするなど, 様々に応用することができる. 

4. フライボール革命とは

 また, フライボール革命なる言葉が未だに独り歩きをし, 打ち上げることを無条件に美化する風潮があるが, それに対し以下のような意見もある. 

これについて得点価値の観点から考えてみる. 打球性質別に見ると, 
・ゴロ:-0.118
・ライナー:0.273
・フライ:0.048
ゴロは平均的にチーム得点を減らしてしまう傾向にあるため, 「転がせ」理論は少なくともプロの舞台では良い結果が出にくいことがわかる. フライを内野フライと外野フライに分類すると, 内野フライは三振並みに得点を減らす打球だと言える. 阪神以外に打ってはいけない. ではコンスタントに外野フライを打てればいいかと言えば, それでもライナーの約半分の数値となる. やはり得失点の観点から言えば, 統計的にライナー性の打球が最も生産的であると言える(狙って打てるかどうかは別).
 しかし, よく「弾丸ライナーのホームラン」など言われるが, ライナーに区分される低弾道でスタンドまで届くことはまずない. ホームランという野球における最高といえる結果を生み出すには打ち上げる方が効率が良い. 
 ではフライボール革命とは一体何なのかと言えば, 打球速度がコンスタントに150km/hを超えるプロ野球選手の一握り, あるいはアマチュア選手のそれら予備軍ら化け物たちにのみ有益な意識改革である. 何でも打ち上げればよい, 誰でも打ち上げればよい, というわけではないのは数値からも明らかである. 

Statcast: Barrel Zone | 09/22/2016MLB.com analyst Mike Petriello uses Statcast to explain and iwww.mlb.com

雑感

 得点期待値あるいは得点価値という考え方について軽くまとめましたが, いかがでしょうか. 最近様々なメディアで選手のパフォーマンスを得失点の数値で紹介されるようになってきましたが, そのベースとなるのは以上のような凄く単純な統計の平均値です. 次回はタイトルにあるここ3年間の得点価値の推移を見てあーだこーだ考察してみたいと思います. 

あとづけ

筆者
有希っこ(https://twitter.com/YUKI_tigers0626)
阪神ファン。地元が北海道の為、日ハムも気になる。

★使用しているレコードは、2016-18年度のNPB公式戦のものです。
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分析参考元(50音順)
1.02 - Essence of Baseball:http://1point02.jp/op/index.aspx
FanGraphs Sabermetrics Library:http://www.fangraphs.com/library/
NPB.jp:http://npb.jp/
プロ野球 - スポーツナビ:https://baseball.yahoo.co.jp/npb/