フィルムカメラをつかわない理由

ぼくは、フィルムカメラが大好きです。幼稚園のころに写ルンですで遊び、小学生のころにはミノルタの一眼レフカメラを手にし、いまもコニカC35というレンジファインダーのカメラを持っています。男心をくすぐるメカと、ノスタルジックな色合い。そして何より、ネガや印画紙に実体となって写真が表れるので、唯一無二のものを手にしている気分になるのです。


けれども、フィルムカメラはつかいません。昨今のフィルムカメラブームにより、時代に逆行してフィルムで撮影する媒体も増えました。もはや絶滅危惧種と思われた写真用フィルムでさえ生産を再開したというニュースもあります。写真好きとしては嬉しい流れではあるのですが、それでもぼくはフィルムをつかわないことにしています。すくなくとも、仕事では。


その理由はおもに3つです。


・写真は手段であって、目的ではないから
・デジタルにしか撮れない写真があるから
・デジタルでも撮れる写真があるから


写真は手段であって、目的ではないから


まず、ぼくにとっての写真というのは、ある光景を伝えたり、あるいは抽象的な何かを具体化させたりするための手段のひとつです。小学生のころ、その手段は絵でした。お世辞にも上手とは言えませんが、よく架空の世界の絵を描いていました。高校生のころは音楽でした。毎日のように楽器に向かって、理想の世界を曲にしていました。いま写真を撮っているのは、これと同じことです。なにか伝えたいものがあり、それを写真という媒体を使って表現しているだけなのです。

では、これが商業写真だとどうでしょう。たとえばホテルの宣伝写真の撮影をするとします。この場合、写真を撮る最終目的は「ホテルの売り上げを上げること」です。もちろん多くの人が足を止めるような、印象的な写真を撮る必要はありますが、それが目的化してしまってはいけません。写真撮影はあくまで手段のひとつなのです。


企業にとって、広告費用は大きな出費です。ですから、できるだけ撮影にかけるお金と労力は少ないほうがいいはずです。こうした視点で見たとき、明らかにデジタルとフィルムではかかるコストに差が出ます。フィルムカメラの場合、1枚撮るのにおよそ50円~200円のコストがかかります(フィルムや現像方法によります)。少ない枚数ならいいのですが、たとえば100回シャッターを押すと1万円の経費になってしまいます。

むかしはフィルム代などの経費を請求できたそうですが、いまはそうはいきません。よって、お客様を説得するか、フォトグラファーが自腹を切るかの選択となります。また、経済的なコストだけではなく、時間もかかります。フィルムの場合は撮影後に暗室で現像作業をし、写真を選ぶためのベタ焼きをつくり、それをお客様に送り、印をつけたものを返してもらい・・・など。いっぽうのデジタルは、写真を撮った2秒後にはUSB接続したモニターに表示されて、その場にいる全員に共有でき、納品もできてしまいます。

さらに言うなれば、フィルムの現像ができるラボがほとんどありませんし、現像する人によっても色味が変わってしまうので、信頼できるラボがない限りフィルムの現像はまかせられません。自宅に暗室を作っても、廃液の処理に手間がかかってしまいます。


もちろん、このコスト以上にフィルムで撮る写真に価値があれば、デジタルにする必要性はありません。たとえばフィルムカメラの色味で消費者の行動が変わる、とか。あるいは、フィルムカメラで撮影したこと自体が広告になる、とか。そういったケースは稀でしょう。

デジタルにしか撮れない写真があるから


デジタルにする2つめの理由は、圧倒的な高感度性能の高さです。フィルムカメラで綺麗に撮影するためには、たくさんの光が必要です。そのため、暗いところで撮影するには照明機材が必要で、照明機材の設置にはコストと時間がかかります。いっぽうで、デジタルカメラの場合は、薄暗いところでも照明なしで綺麗に撮影することができます。いまつかっているSONYのα7Sというカメラは、肉眼では真っ暗でも綺麗に写すことができるので、とても気に入っています。これは自然な雰囲気で写し撮るのに役立ちます。たとえば暗い作業場で作家さんを撮るとき、フラッシュを焚くと、その光が届くところだけが明るくなってしまい、背景が真っ暗になってしまいます。


さらに、ミラーレス一眼のなかにはサイレントシャッター(無音シャッター)の機能を備えたものもあります。あのガッシャーンという写真好きには心地よくも、演奏会の途中には耳障りな音を、完全に無にすることができるのです。これを使えば、たとえば子どもの寝顔も、忍者のように気づかれずに撮ることができます。

デジタルでも撮れる写真があるから


最後の理由は、アプリや写真現像ソフトの進化により、手軽に写真の色味を変えることができるようになったからです。これについては詳しく述べる間でもなく、誰でも簡単にフィルムカメラで撮影したのとそっくりな色味の写真を、デジタルカメラでも撮影することが可能になりました。こうなってくると、色味を理由にフィルムを選択する理由は弱くなります。

もちろん、フィルムカメラならではの良さもあります。デジタルではシャッター音を無にできると書きましたが、大げさなシャッター音でリズムをつかんで撮影するという方もいらっしゃいます。データは脆く壊れやすいのに対して、フィルムは適切に保存すれば数十年の耐久性があります。カメラやレンズの構造がシンプルなため、何十年も使い続けることもできます。それぞれに一長一短あるため、どちらがいいと断言するつもりはありません。

カメラはどちらも好き。目的によって、それを選ぶだけ。

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大木賢

富山で写真を撮っています。

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コメント1件

私も小学生の頃から、写真を撮ることが大好きでミノルタX700を使ってました。今では、子供も写真にはまりフィルムばかりで写真を撮っています。ふと子供に聞いたことがあります...「どうしてフィルムで撮るの?」。しかし、明確な答えは返って来ませんでした。写真の趣はそれぞれなのでなんとも言えませんが、どうもフィルムで撮ることで満足しているのかも知れません。私も大木さんと同じ意見です。フィルムは使いません。手段が目的になる事は、私の撮る意味とは違いますもんね。
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