雪輪
お話の収集、飼育、展示をする場所。
お話を書いていて思ったこと、イベントのお知らせや雑記など、なんでもごった煮。
聞き慣れた、彼女の明るい笑い声が空気を震わせた。それを聞いて僕も笑顔を返す。手を差し出すと迷わずに取ってくれるのが嬉しくて、彼女の温かい手を握ったまま前後にブンブンと振る。そうすると、また彼女の笑い声が薄曇りの空に駆け上った。 二月だというのにその空はさほど寒くなく、僕も彼女も制服の上にはなにも着ていない。 駅から学校までの道。普通に歩いたら七分。別々のクラスの僕と彼女は朝と夕方、十分かけて並んで歩く。先に見える脇道から制服を着たグループが五月雨て続く。邪魔されないよ
先日、7/7に札幌で開催された第四回文学フリマ札幌に参加してきました。 珍しくその感想なんかを。 文庫小説の「タイムシグナル」は早いとこ印刷屋さんに頼んでたのでいいとして、絵本「海に行こう」はギリギリまでiPadで書いていました。 前日に札幌のキンコーズで印刷をお願いしたのですが、1枚だけ原稿のサイズを間違えてしまい絵が切れているのを店員さんが気づいてくれて止めてくれました。 印刷が半分ほど進んでいたのによく気づいてくれたよ…。 ありがとう、キンコーズのお姉さん! そ
ヨツメを知っているだろうか。光る四つの目を持つ異形のものだ。 私が若い頃は霧の漂う夜に出たものだが、最近はよく晴れた夜でも人里を闊歩する。黒い巨体が音もなく転がり目から溢れる白い光が辺りを照らす。 「こわい。見つかったらどうしよう」 「大丈夫。行く先を遮らなければなにもしてこないよ」 「ほんとうに?」 「本当だよ。たまに我を忘れて暴走するのもいるがね」 目の前に迫る眩い光が脳裏を過る。この子に大丈夫だと言い聞かせたつもりなのに心臓が早鐘を打ち始めた。 「まあ、だから近づ
「お腹痛い」 「変なものでも食った?」 「昨日の現場で」 「ゲテモノ?」 そう。ゲテモノかもしれない。仕事場に降り立つといつもと全く違う空気で戸惑った。キャッチーな音楽と、その中心で声援と幾筋ものライトに照らされて笑顔を振りまいているのはこの夢の主だ。 普段なら異形から逃げ惑う夢や、真っ暗な廃墟で途方に暮れているような夢ばかりなのでこの光景は異様だった。 「私の夢を。悪い夢を食べてください」 思いつめてそう言った少女の顔を思い出す。私には希望あふれる夢に見えるが、彼女に
こんにちは。 先日リアル脱出ゲームに参加してきました。 何年か前に、謎を解いて街中を探索するのは参加したことがあるのですが、脱出は初めてでした。 いいところまではいった気がするのですが脱出できず、解説を聞くともう全然思いつかない結末でただただ感心するばかりでしたよ(笑) ミステリーの最後のどんでん返しとかが好きなので、想像を越えてきたあの感じを短い時間で何度も体感できたのがとてもよかったです。 楽しかった! ストーリーを考えるいい刺激になりました!
あけましておめでとうございます。 気がつけばもう1月も半ばですね。早い!怖い! 昨年は初めて即売会にサークル参加して、面白いぞ、と思った年でした。 春からは仕事の関係であまりお話を書けなくて残念でしたが……。 今年は書きたいとき、書けるときに書くスタイルでいきたいと思います。 イベントどこかで出たいなぁとも思います。 あとは、Twitterやここでぽつぽつとでも、頻度高めに書いていきたいなぁと思います。 今年もよろしくお願いします!!
こんばんは。 やっとプライベッターからの移行作業が終わりました。 なんというか、ものの10分の話です。 重い腰をどっこいせ、と持ち上げないとできないのがダメなところですね。 来年はもう少し創作をしたいなあと思っています。
飛行機の足跡をくぐり、私は傘を広げた。もうすぐ夕立がやってくるだろう。綿のTシャツは夏の暑さと湿気を吸ってへばっているが、この雨が降れば秋が来てしまうので暑さも少々名残惜しい。 隣を歩く君の瞳はカメラのレンズのように辺りの風景を読み取り、一心不乱にメモリに保存していた。 ちぎれた記憶の中では君も傘を差している。暖かそうなウールのセーターを着込んで雪を降らせる空を見上げる。羽根が落ちてきているみたいだと笑ったのを見て、感情が浪のように押し寄せた。 もう朧気にしか感じら
真っ黒の中を歩いていると、赤い炎が上った。中を覗くと目を釣り上げた私が映り、「ああ、怒っているんだな」と思ったら炎が消えて、辺りがうっすら明るくなった。 次に大きな緑の葉に寝転がる私が見えた。頬杖をついてつまらなさそうにしている。ため息をつくと葉が舞い上がり、空が深い青に染まった。 ぽつり、と雫が落ちてきた。見上げると空で私が青い涙を流している。それを見ていると悲しくて悲しくて一緒に泣いた。私が泣き止んでも空は泣き続けた。 雫を落としていた空の色が青から薄い水色に変わ
僕にはずっと、なにか足りないという思いがある。それがなにか分からないまま、氷塊だらけで冷たい大地をあてもなく一人さまよっている。 ある日氷原を歩いている人影を見つけ、必死に追って声をかけた。 「あのっ、初めまして」 「どうも。私はマル」 「マル、さん」 違う。僕が求めているものを彼は持っていないだろう。足りないものを特定していないのに瞬時に僕はそう感じた。 あれから歳月は流れ一人旅に慣れた頃、変わり映えのない氷原の彼方から人影が現れた。 「どうも。俺はテン」
「お日さまってなにでできてるんだろ」 穏やかに晴れた土曜日の午後、窓際で日向ぼっこをしているサクが言った。 「火の玉じゃない?」 分かりやすい回答じゃなかったかもしれない。一生懸命頭の中で考えているのが見て取れる。透き通った頬に睫毛の影が落ちる。 答えが出たのかパッと顔が輝いた。 「だからお日さまもようこちゃんもあったかいのね!」 「私、あったかい?」 「うん。ようこちゃんはお日さまで、お日さまは火の玉だからだ!」 前に私は名前をそう説明したんだった。火の玉
私は絵が下手だ。 ただ下手なだけではない。 昔、飼っていたネコのミーを描いたら、ミーの口は私が描いた通りに耳元まで避け、縦一列に並んだ四本の脚で歩きにくそうに擦り寄ってきた。それから私は絵を一切描かなくなった。 ある時友人が戯れに描いた私の似顔絵を見せてきた。私が気にしている糸のような目をそっくりそのまま写したその似顔絵は、腹立たしいほど私に似ていた。 私はそれが気に入らなかったので持っていたシャープペンシルで右側にある目にぐりぐりと大きな瞳を描き足した。 白目が
こんにちは。 現在、前に書いてTwitter(プライベッター)に上げていたお話をこちらの『雪輪リウム』に移行し始めています。 先日の文フリ大阪に持っていった小冊子もこれをまとめたものなので目新しさはないかと思うのですが……。 マガジンにまとめられるのでプライベッターより見やすいかな?
「今日お月さまいないね」 暗くなった空を見上げてサクが口をとがらせた。 「まだ出てないんじゃないの?」 そう答えてなにげなく壁に目をやると新しいページに替えたばかりのカレンダーの枠内に黒い丸が描かれていた。そっか、今日は朔の日だ。 「サク?」 「新月だよ」 「しんげつ?」 「お月様は出ているけど見えない日」 「お月さまいるのに見えないの?」 不思議そうに首をかしげるとおかっぱの先が揺れる。それに頷くと目の前の幼い女の子は、いるのに見えないのが自分に似ていると言
頬を伝ったしずくが生暖かいことで、私は泣いているのだと気がついた。どうしてだろう。そんなつもりはなかったんだけど、ゴーグルをしないでプールに顔をつけたときのように視界がぼんやりと滲んでいく。 あ、ゴーグル。もう何年もしまいこんでいたゴーグルを引っ張り出す。これで視界はクリアになるはずだ。そう思っていたのに少しするとまたしてもぼやける目の前。諦めてゴーグルを外して手を進める。 なにがいけなかったんだろうか。私はただ、ハンバーグを作るために玉ねぎをみじん切りにしようとしてい
いつからこうしているのだろうか。長い間そうしていたようにも思えるが、もしかしたらさほど時間が経っていないのかもしれない。手を伸ばしてもなお空いている距離をぼんやりと眺めた。 初めて彼女を見かけたのは、西の空に半分沈んだ太陽が茜色に染めた駅前通りだった。桜がすっかり散って濃い緑を繁らせた樹の下のベンチで佇んでいる彼女を見て美しいと思った。誰かを待っているのか姿勢良く座り真正面を見つめるその瞳は大きく印象的だった。 その日から何度かこの通り沿いで姿を見かけた。知り合いに話