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お惣菜ディナーという贅沢

デパ地下のお惣菜を買って帰るのが憧れだった。

庶民で実家暮らしのわたしにとって、デパ地下のお惣菜はすごく遠い存在だった。大きなガーリックシュリンプ、とろりと輝く麻婆豆腐、生ハムをたっぷり使ったサラダ・・・・・どれも「非日常」の香りがしてキラキラしていた。小さい頃から家族に連れられデパートへ行く機会は度々あった。でもデパートで欲しくなるのはおもちゃや洋服、お菓子、ケーキなど甘くてかわいいモノばかり。今だに実家暮らしなのも影響しているのかもしれない。25歳になった今でも、デパートで「お惣菜を買おう!」と思えるほど大人にはなっていなかった。

そんな私に大きなチャンスが訪れた。親から「今日は会社の歓迎会なので、晩ご飯は自分で作ってください」とLINEがきた。どこかレストランへ寄っていこうか……と考えかけたけど、このチャンスはお惣菜を晩ご飯のおかずにできる大チャンスだと気付いた。よし、お惣菜を買って帰ろう!!私は20時前に退勤し、デパ地下に向かった。

実家は横浜にあり、乗り換えに武蔵小杉駅を利用している。台風時の冠水があったとはいえ、武蔵小杉はおしゃれなマダムが集うキラキラタウンだ。残念ながらデパートはなかったけど、武蔵小杉の舌の肥えたマダムたちを満足させる、おいしいお惣菜があるに違いない……!わたしは乗り換えのついでに、駅前のショッピングモールのお総菜屋を目指した。

デパ地下のお惣菜を想像していた私は、あまりの品ぞろえのなさに驚いた。しかもお惣菜屋もいくつか閉まっていて、店舗自体も少ない。それもそのはず、時刻は20:00近くでお惣菜はほとんど売り切っている状態だった。ショーウィンドーはガラガラの状態で、隣にパックに詰められたおかずが売っている。仕方がないので、お惣菜のパックを物色し始めた。

しばらくすると「今から全品30%OFFです!」の掛け声が響く。隣の中華料理屋のタイムセールだ!そうか、お惣菜は売り切るためのセールをやるのか!ケチな私は急激にテンションが上がり、隣の店に移動した。すると元居た店でも「1品150円です!」と看板を出し始めた。お、150円って2個買っても300円!元居た場所に戻り、成城石井もついでに見ていたところ、中華料理屋が「最終値引き!!40%OFFです!!」と声を張り上げていた。なに、40%OFF!!私は中華が大好きで、それ以上に割引が大好きだった。並べられたおかずの中から麻婆豆腐と海鮮春雨を選び、ワクワクしながら購入した。2品で600円だった。40%OFFのわりにそこまで安くなかったけど、まあいいとしよう。

家に帰るとちょっといいお皿にお惣菜を盛り合わせ、贅沢すぎるディナーをスタートした。少しぱさぱさしていたけど、ピリッと山椒のきいた麻婆豆腐に、するする食べられる春雨とぷりぷりの海老がおいしい。濃厚でさばさばして、売り物の味がする…これが武蔵小杉のマダムの味なのか……。初めてのお惣菜ディナーはとてもおいしく、あっという間に完食してしまった。お口直しにその辺にあったクッキーを頬張り、豪華な孤食は終了した。

今日の晩御飯で、ほんの少しお惣菜との距離が縮まった。でもまだ「デパ地下のお惣菜」の実食ができてはいない。今度親が家を空けた時には、ぜったいデパートでお惣菜を買ってこよう。親のすねをかじっているからこそ、このお惣菜の贅沢は楽しめる。もう少しで結婚して26歳になってしまうけど、実家に住み着いていよう。

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