見出し画像

現像

 一人でいるとき、誰かを思い出すのは
 熱と色と夏が来る期待感と切なさを
 不意に思い出してしまうのは

 その大切な友人が
 不思議と心を許せる五月の風の
 あの不器用さを以て遠くへ行ってしまったあと

 残された私はこと果てた春の短命に
 同情の傲慢さを向けないように
 必死にあったことだけを思い出す

 感情は作り出されてしまうから
 頬の色は塗り重ねられてしまうから
 君の言葉は記号となって何かを捉えたままでいる

 夏が来ると、知っていなかったあの頃の僕
 春の先に変わらぬ姿を思い描いていた僕
 心が変わる、言葉も変わる、体だけがある

 遠くに行ったあの頃の僕らを思い出す私が
 まだ知らないでいるこの先を繰り返すそのことが
 僕と誰かを私という点で結んでいる

 私は僕ではなくなった
 少年だった僕を思い出す私という一瞬が
 この季節の変化を鮮明に描き出している


 現像 2024.5.4
 雪屋双喜

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?