アニコム・ホールディングス(8715)企業価値分析レポート (Updated: 2018/08/21)

こんにちは。(株)Aurea Lotus (https://www.aurealotus.com/)の柳下です。

企業価値分析レポート第1弾は、どの程度のレベルのレポートが提供されるのか、サンプルとして見て頂こう、ということで、アニコム・ホールディングス(8715)、無料公開です。

御存知の通りペット保険、私は一貫してバリュー投資を行ってきたファンドマネージャーですので、保険会社と言えばバフェットの投資を思い浮かべるはず、勿論のこと、GEICOですよね。アニコムと同じ損保です。

余談ですが、私が主催している個人投資家向けのプログラムを卒業した方々を中心に、『卒業生サロン』(例えば、こんな感じ⇒https://ameblo.jp/yukiyagi7/entry-12380840988.html?frm=theme)を月2回開催していますが、そこでも何度も御話している『バフェットの凄み』というのは、単なるバリュー株の選択能力が優れているという事では無いのです。逆にストックピックの能力というのは特別高い訳では無いとも言えます。

最も偉大なのは、
『バークシャーというCFを複利で最大化する為の最高な仕組みを創り上げた』こと、中長期で何倍何十倍何百倍何千倍・・・と複利で価値が増大し、これを社会の中で好循環を生み裾野を拡大させるような『最高な仕組み』、まさにこのビジネスモデルを構築した事なのですね。そして、そのポートフォリオの中核こそが、GEICOという損害保険の潤沢な保険金、つまり元本の集金システムな訳です。

損保は保険加入者が払い込んだ保険料の内、保険金の支払いに充当するための準備金などすぐに出てゆくと思われる費用を差し引いた余剰資金、これをフロートと言いますが、これを常に抱えています。

保険料は統計的に想定される支払い額よりも当然高く設定されます、安全余裕率を持たせる訳ですから、支払いを行ったとしてもフロートはどんどん積み上がっていきますね。
ですから、同じ金融でも、一般的なファンドの場合は、投資家から資金を募ることで元本を確保しても、いずれは運用の成果として投資家に払い出さなければなりませんので、ずっと増やし続けるのは難しい。

一方で、保険会社の事業として投資を行っていれば、お金を返すことなく運用を続けることができる訳です。

つまり損害保険の経営というのは典型的なストック型ビジネスなのです。ペット保険と言うのは、御存知の通り典型的な成長市場である、にも拘らず、非常に安定した収益源を確保出来るビジネスとも言えます。

特にアニコムの保険の平均継続率は88.2%と非常に高く、特に2年目以降の継続率は90%を超えているので、2年継続した人は3年目4年目も殆どもれなく更新する、それだけストック型の安定した収益をもたらしているという事になります。

改めて御説明すると、同社のビジネスはシンプルにペット保険の組成販売で、スタート当初は無認可共済として扱われていた同商品を、改正保険業法の施行による特定保険業届出義務化を機に、2007年12月に、より本格的に損害保険免許を取得し、明確に拡大成長の体制を整えましたが、それから僅か3年足らずの2010年に上場しました。
このスピーディな展開の中で、直近のシェアはやや落ちてますが、2018年3末現在で約50%のドメスティック・ニッチトップです。

保有契約数は2018年3月期末で699,000件。増加ペースは落ち着いてきましたが、それでも前年同期比で約10%増、一般企業でいう所の売上に当たる経常収益の伸びは一貫して契約数の伸びを上回っている、つまり件数より金額が伸びているという事です。

日本に於けるペット保険市場を概観すると、2017年度時点での国内ペット数は、犬が892万頭、猫が952万6000頭で、合計1844万6000頭の所、全体の保険契約総数が約150万頭ですから加入率は8%足らずです。

ちなみに、ペット先進国の英国では、ペット数は1520万頭と日本よりも少ないですが、保険加入率は約22%なので、同じ程度まで伸びるとすれば約2.7倍、10%までとしても1.3倍には拡大する見通しになり、さらには金額ベースで見た現在の市場規模は、日本が600億円に対し、英国は2500億円と約4.2倍、基本的にはまだ相当な伸びシロが期待されています。

2003年からは日本ではペットと子供の数が逆転して、子供の数は減り続けている一方、ペット保険はまだ加入率が低いとは言え毎年2桁成長を続けて来ており、今後も間違いなく伸びると予想される、となれば、これは『右肩上がりのピカピカの市場』なので、自然と競合他社が沢山群がってきています。と言う訳で、現在ペット保険はそれなりにありますね。競争があるゆえにリスクやコストがあり、成長株ゆえの価値毀損の側面も当然ある訳です。

実際に市場を見ておくと、まずここに書かれている通り、ペット保険には2種類あります。

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上述の通り、アニコムは2007年に損害保険免許を取得していますが、同じく損保になっているのは現在4社のみです。最低資本金や取扱商品などにも違いがありますが、一番は損害保険契約者保護機構に加入しており、万が一保険会社が破綻した場合に、契約者等を保護するセーフティーネットがあるという安心感を提供出来ますね。

【少額短期保険会社に分類されるペット保険会社】(2018年2月時点)
イオン少額短期保険株式会社
イーペット少額短期保険株式会社
SBIいきいき少額短期保険株式会社
株式会社FPC
日本アニマル倶楽部株式会社
日本ペットプラス少額短期保険株式会社(旧ガーデン少額短期保険株式会社)
ペッツファースト少額短期保険株式会社
ペッツベスト少額短期保険株式会社
ペット&ファミリー株式会社
ペットメディカルサポート株式会社
もっとぎゅっと少額短期保険株式会社*

【損害保険会社に分類されるペット保険会社】(2018年2月時点)
アイペット損害保険株式会社
アニコム損害保険株式会社
アクサ損害保険株式会社
au損害保険株式会社

独立系はアニコムのみで、第2位でもあるアイペットはドリームインキュベータの連結子会社で、2018年3月にマザーズに上場しています。

競争に関しては、少しまた後で検証したいと思いますが、まずはアニコムがニッチトップシェアになっている要因、つまり、これだけ競合がひしめきながら、勿論先程言ったような安心感もありますが、シェア50%の高い水準になっている優位性は何か、という視点でビジネスモデルを見ておきます。
何と言ってもその最大の要因は、窓口精算を初めにスタートした事ですね。

つまり、私達の公的保険と同じように動物病院の窓口で会計の時に保険証を提示して、保険適用・自己負担分だけの支払いで精算する事が出来る訳です。

現在は他に2社が後追いで増え、アイペット損保とペット&ファミリー少額短期保険、合わせて3社が窓口精算出来るペット保険ですが、それ以外は今も殆どが基本的に全額自己負担し、後から保険金の支払い請求を書面で行って振り込んで貰わなければならない、その負担と手間を無くす、という『不』の解消が非常に大きかった訳です。

そして、このシステムを初めて導入した先駆者として、契約している動物病院の数が圧倒的に多く、2018年3月末現在で全国6265件、2017年12月末時点で全国15631施設の内、加計問題で話題になった所謂産業動物、つまり犬猫などのペット対応ではない病院を覗くと6299施設ということですから、実質的には90%の動物病院が、患者情報から会計管理まで対応できるカルテ管理専用システム「アニコムレセプター」を一気呵成に導入している、こうして普及させる事に成功しデファクトスタンダードになったことが最大の強みになっていますし、これによって高いシェアを維持していると言えます。

現在このシステムは、さらに進化・強化して機能を向上させたクラウド型の『アニレセF』に移行、代理店のペットショップと繋ぐ〈保険募集WEB〉、契約者と繋ぐ(顧客WEB)と全てシームレスなデータシステム構築になっているので、導入率が高まる事でビジネスをさらに多様に展開する狙い、可能性もあります。これもまた後で検証します。

この窓口精算システムは、当然第一に顧客のWinが大きい、ですが、実はアニコム側にとっても非常にメリットが大きいですね。
契約者が郵送で還付請求を行う場合、一件ごとに申請書を読み込んで査定をしなければならない、その手間と、加えて振込手数料や郵送費の事務コスト、これを大幅に圧縮し、且つ生産性・効率性を格段に上げる事が出来ている訳です。

アニコムのペット保険自体は全国全ての動物病院での診療費を対象にしますので、対応病院でない場合は、アニコムでも従来の手続きで患者が保険金の請求をし後から支払いを行いますが、現在年間約280万件請求がある内の約85%が窓口精算システム経由になっています。
これにより、コストは従来の約10分の1に圧縮出来ているため、高い利益率に繋がっている訳ですね。不正請求や計算ミスの防止というさらなるプラス効果もあります。

この請求に関する患者のWin=不の解消という点では、非対応病院に関しても利便性を高めるべく、2017年5月からはLINEで請求手続きが出来るようにしたので、保険契約者は書類の記入や郵送の負担がなくなり素早く簡単に行えます。さらには「LINE」ユーザー全てが利用可能な「お問い合わせサービス」開始して加入の促進にも繋げています。

こうした患者のWin、アニコムのWinだけでなく、動物病院にとっても、作業効率の向上・事務コストの削減になることは言わずもがなで、病院側にもメリットのみでデメリットは何もない、ステークホルダー全てにWinWinの仕組みであるという事です。ですから導入率はさらに増えていく事が見込まれます。

保険の販売チャネルは様々で、当然ネット販売などもありますが、同社のメインは生体販売を行うペットショップで、全国に約5000店ある内の約1500店と代理店契約を結んでおり、そこが新規契約の8割を占めています。

余談ですが、正直これについては私としては個人的な主義に反する所ではあります。
そもそもブリーダーによる繁殖、純血種を保とうとするなどの自然に反する志向が遺伝的な疾患を生み出す最大の原因にもなっているので、そうした生体販売を是認するようなビジネスに結果的になってしまっているのは、ちょっとアニコムという会社の志にも反するんでは無かろうか、と疑問にも思ったりします。

ただビジネスとして考えれば、年齢が上がるに従って年間診療費は増加する、つまり通常の企業で言う所の原価率である損害率が上がりやすいということですから、出来るだけ0歳児の新規市場を多く取り込みたい、それを確実に達成させるにはペットショップのルートを重視する必要があるという事です。

一方で、販売チャネルとしては残りの一般代理店及び、WEBのオンラインとコールセンター経由による直販という2つの販路があり、合わせて2割ですが、過去の損害率データを比較調査してみた所、それほど差が無いという事が明確になったそうで、直近期はむしろこちらの一般チャネルを強化する戦略に切り替えています。

一般代理店は、金融機関、そしてカーディラーや生協など、いわゆる全国区の販売拠点を持つ所をターゲットにしており、2016年からはソフトバンクとも代理店契約を行っています。携帯ショップを通じての拡販を狙ったもので、それぞれのチャネル向けの安価な専用商品も売り出したり、認知度向上と幅広い顧客にリーチしていこうとしている訳です。

NB(New Born)と呼ぶ新生児を取り込む施策としては、初めの1ヶ月にかかった診療費を100%補償する商品を提供しています。保険料自体も人間同様年齢が上がるほど高くなりますから、若齢での勧誘は加入意欲も上がり易く、契約者側にもメリットがあります。

ただ大別すると5~60万頭くらいがNB、残りは家族市場、つまり既に飼われているペット達ですから、対象としては圧倒的に後者が大きい、且つ、人間で考えても分かりますが、余程高齢にならない限り、むしろ幼少期の方が何だかんだと病院にかかる頻度も高いし、身体も弱いですよね。しかも上述した通り、ブリーダーのせいで疾病率が高くなっている側面もあるので、ペットショップよりも一般チャネルを強化するというのは良い方向転換ではないかと思います。

現在の関係会社を有報で見ると、全て持ち株会社であるホールディングスの100%所有として5社、メインの損保事業を行うアニコム損保、動物病院の支援を行うアニコムパフェ、傘下の代理店となるアニコムフロンティア、VCのアニコムキャピタル、そして小動物先進医療の臨床と研究を行うアニコム先進医療研究所があります。

当然それぞれが高いシナジーがあるだろうことは分かりますが、特に今後重要なのは研究開発部門で、そこをM&Aなどで強化していく為に、ます2016年に富士フィルムと動物の先端医療分野で業務提携し、再生医療を中心とした先端医療技術・サービスを開発・提供する合弁会社トラスト・アニマル・セラピューティクスを設立しています。

富士フィルムは画像診断など医療機器分野で高い技術を持っており、対するアニコムはアニレセから豊富なビッグデータが収集出来ていますね。

従来のペット保険では、やり取りは患者だけ、ネットワークもそれだけでしたが、アニレセで直接病院のカルテと繋がる事で症例や治療方法、その実績の詳細をデータとして活用する事が出来ます。動物病院の顧客ネットワークと診療情報、電子カルテシステムなどを組み合わせて活用出来る訳です。

さらには、今年2月に遺伝子ベンチャー企業のVEQTA、ここは愛媛大学発のベンチャーで犬猫の遺伝性疾患の減少を目指して遺伝子検査事業を行っており、関連特許も保有していますが、ペットの遺伝病は撲滅出来る可能性があると掲げている同社へ一部出資して、アニコム先進医療研究所で疾患関連遺伝子に関する研究を本格的にスタートし、遺伝子検査事業を事業化しています。

もう一つは今年5月、イーペットライフ社、動物病院やトリミングサロンなどの施設情報を発信するサイト、EPARKペットライフを運営している企業ですが、ここにも出資して協業を狙っています。

アニコムが目指している所は、0次医療では予防の取組み、1次医療の一般のかかりつけ動物病院、そして2次医療の先進医療、つまり全てを網羅して扱う、動物医療のインフラ企業となることですから、動物の健康全般に関わるビジネスの川上から川下まで、これにはステークホルダーとしての医療従事者の職業紹介、死亡後の葬儀や霊園紹介に至る領域まで広がり、子会社のアニコム先進医療研究所傘下で2次医療分野の病院『動物循環器病センター』を3年前に横浜の都筑区に設立、自ら運営にも乗り出しています。

こうした布石を全て打つことは、まさに顧客のロイヤリティを囲い込む為の仕組みの定義でいう所の『サーチコスト』の引き上げ、提供サービスの範囲を広げると共に複雑化し、顧客満足度を上げる、さらにはエコシステム=「アニコムを中心とした複数の企業がそれぞれのレイヤーで価値を提供し合う事による価値が増幅される生態系」、を作り出そうとしている、という事になります。

0次の予防の取組みに関しては、既に予防型保険を打ち出し、遺伝子検査事業と合わせた取り組みを実行していますが、アニレセの250万件の疾病データを分類し、各疾病に対し効果の高い予防の実施、更には先ほどの事業提携などによる高度再生医療を提供して、保険と言う事後対応型から事前対応型へ領域を広げていこうとしている訳です。

特に保険金請求データも2000万件以上蓄積していますから、その支払いに至った要因を細かく分析出来る、例えば、年間保険金の内、後天性疾患、先天性疾患の大分類、そこから後天性を外因性要因と内因性要因に仕分けし、外因性を食事要因、環境要因、偶発的要因、などとドンドン細目化・・・といった感じで類別して分析を進めると、予防医療を進化させる事が出来る訳ですね。

実は、これが何と関わってくるかというと、上述したブリーダー向けに医療サポートを開始しているのです。多産や健康にかかわる遺伝子の研究解明を開始して、交配や出産の環境改善を目指している訳ですね。

こうした取組み自体が結果的に原価である損害率の改善に必ず繋がっていきますので、顧客の囲い込みと同時に中長期の企業価値増大に寄与します。また自助努力が反映される保険の商品開発や健康割増引制度などにも広げています

最近では、上場企業の日本動物高度医療センター(6039)など、診療費数十万円~入院も合わせて100万円単位になるような所がありますが、高くても評判は非常に良いように、いくら治療費がかかろうが家族なのだから当然、という意識と共にペットに対する高度医療のニーズは非常に高まっている訳ですね。
金銭的に余裕がある層だけでなく、出来る限り手を尽くしたいというニーズに応えていく意味でも同社の存在意義があります。

また、動物病院は、質もそうですが医療費にも相当なバラつきがあり、『アニレセF』は、患者情報から会計管理まで対応できるカルテ管理専用システム「アニコムレセプター」をさらに進化・強化させ、機能を向上させたクラウド型ですが、これによって症例毎の平均医療費が直ぐに分かるなど、各種疾患統計や病院の経営情報を分析・活用出来、また代理店のペットショップと繋ぐ〈保険募集WEB〉、契約者と繋ぐ(顧客WEB)が全てシームレスなデータシステム構築になっているため、顧客WEBを通じて適正医療費をオープンカルテで公開していくことで、過剰診療の抑制による公平公正な価格形成や治療水準の向上、業界の質と透明性公平性を高める、という事にも寄与できます。この導入率が高まる事でビジネスをさらに多様に展開する狙い、可能性もあります。

現在アニレセFに切り替えているのは、約6300の内、まだ2500位で、2019年3月期には3000以上を目指しています。将来的にはカルテの閲覧などオープン化による獣医師と患者の信頼向上にも役立てたいとしていますね。

以上のような仕組みの構築、参入障壁を強化していく施策を矢継ぎ早に打ち、特にサーチコストを引き上げていることが同社がペット保険のランキングで最も評価されている要因ですが、一方で、競合他社ではかなりお得な保険料の商品を出していて、全般に高めの保険料になっている同社でも、これを意識して、昨年10月に『どうぶつ健保ぷち』という商品の販売を開始、取り逃がしていた顧客のフォローもしています。

この商品は入院と手術の補償に特化して保険料をこれまでの約3分の1に押さえたもので、ガチンコで価格競争をして安さを強調する訳では無く、契約数拡大に寄与するモノと捉えています。主力という訳では無く、損害率としても既存保険と同程度に設計し、月額1020円と安価ながら、入院・手術費用の70%を保証し、手術1回当たり50万円までを年2回まで支払うものです。通院補償をなくすことでいざという時の高額出費に必要なサポートニーズに応えている訳です。

昨年8月には、いぬのきもち・ねこのきもちという、ペット飼育者には非常に有名な雑誌を出しているベネッセと協業でペット雑誌とコラボした商品も販売開始しました。

さて、保険会社の財務諸表というのは一般事業会社とは大きく異なっていますね。

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P/Lで事業会社で売上に当たる経常収益の内訳を見ると、保険引受収益、資産運用収益、その他経常収益の3つがあります。
基本事業の根幹である保険商品の売上は保険引受収益に当たりますから、通常であればこれだけが売上高にあたり、次の資産運用収益は、事業会社であれば財務活動によるものなので営業外に入る科目なのですが、保険会社は契約者から受け取った保険料を運用して利益をあげるのも本業の一部と言えますし、何より営業費及び一般管理費のコストは両方の活動にかかってくるものなので区別出来ないです。よって、ここでは、この2つを足し合わせた数字を売上の部分に置き、その他経常収益は受取利息等の本来の営業外損益に相当する為、営業利益の外へ出す、経常費用も同じく対になるように各項目を再構成して他社との比較が出来るようにしてあります。

ただ損害率、損害保険会社にとっての売上原価、これは、(支払保険金+損害調査費)÷保険料収入で求められますが、純粋に保険引受収入と費用で計算せねばなりませんので、別途経営比率に記載してあります。

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これもアニレセによって確実なチェックと査定の適正化が可能となることで低下させる事が出来、導入率が高まると利益率が高くなる、という好循環を生みます。その分今後の商品設計に於いても保険料を抑え、補償を充実させた商品を設計出来る事にもなります。

一方で、契約者の拡大と、ペット医療の技術が高度化するにつれてペットも年々高齢化が進んでいる状況を反映して契約者の年齢も上がっているという理由、この辺は保険が関わる事による健康寿命の延伸という同社のポリシーと表裏一体で痛し痒しでもありますが、2013年・2014年頃には損害率が上昇傾向で60%台まで上がっていました。
それがここに来て50%台に抑制して右肩下がりになっており、コスト構造の改善が功を奏している状況です。

もう一つ注意点としては、このPLに支払備金や責任準備金と言う科目があります。支払備金は保険業法で将来の保険金などの支払いに備えるために積み立てることが定められているもの、事業年度終了時点では、未払いとなっているものに関して、その支払いのために必要な金額を積み立てる準備金のことです。

責任準備金は契約者から保険料を受け取り、一定の保険期間内に損害が発生した時に保険金を支払う約束をする契約です。保険期間は多くは1年で毎年更新ですが、決算日で損益計算をすると期末時点では保険期間が未了の保険契約が無数に存在することになるので、その責任について認識をする、保険期間が未了の契約については、「次年度以降に発生するであろう」損害に対する保険金の支払や、契約途中で解約した場合の返戻金の支払義務などを果たすのに支障を来さないように設定する引当金の事を言います。
保険業法に基づき計算した結果、責任準備金が前期より少なくていいとなった場合に責任準備金戻入額として収益となります。

どちらも引当金同様、顧客のリスク、継続率、投資リターンやインフレなどを保険数理のガイドラインに従って現在価値ベースで算定します。要するに、この2つは所謂非現金支出という事で、フリーキャッシュフロー上は追加される金額になるという事ですね。

新規契約数の伸びは2017年度までの3年程平均8%前後の増加に落ち着いて来ていましたが、また、トップライン、経常収益の伸びはずっと二桁成長、2017年度はやや10%を割り込むレベルになりましたが、前期ではまた2桁に戻しています。

さて、保険会社の分析をする上で重要なポイントですが、当然ながら保険会社、金融機関には売掛債権や在庫、買掛金といったもの、いわゆる運転資本はありません。直接加入者から元本である保険料を受け取り、それを運用して補償に応じた加入者への分配である支払いに充当します。

事業会社の企業価値創出能力を測るROICは、全ての資金提供者(株主と債権者)から調達した資金の内、どれだけが事業活動に投下され、その投下資産に対し、どのくらい効率的に利益を生み出したのか、つまりいかに事業を上手く遂行出来たかを示してくれるので、企業価値評価を正しく表します。つまり事業面の意思決定と財務面の意思決定を分けて行う前提に立っており、あくまでも事業用資産によってどのようにキャッシュフローが生み出されるかを見た訳です。

ところが銀行や保険会社などの金融機関の場合は、受取利息や支払利息の収益も、本業の重要な構成要素なので事業と切り離す事は出来ませんし、本質的にスプレッドビジネスである保険会社にとって、レバレッジの選択である資金調達もどのように利益を稼ぐかと言う点で重要です。つまり事業が財務の意思決定そのものな訳です。

このような事業の違いから、金融機関の場合の価値創出能力には株主資本をベースとしたROE、最終的な評価にはDCFではなくエクイティキャッシュフロー法を使います。

契約は2年目以降の継続率が約90%ですから、ストックビジネスとして複利効果がドンドン上がり、利益率も二ケタに乗せて伸びていく見通しですが、やはり基本はトップラインの上昇角度を市場の成長以上に引き上げていく事が、今後の成長ストーリーには欠かせないと思われます。

安全性指標には全く問題は無いですね。ソルベンシー・マージン比率は、保険会社の経営の健全性を測る指標で、大災害や景気低迷などの通常の予測を超える事態が起こった場合の、保険金の支払能力、財務的なカバー能力を見る指標で保険リスク、予定利率リスク、資産運用リスク、経営管理リスク、巨大災害リスクなどを合計して算出されます。200%以上が安全と言われており、財務健全性の点では同社は全く問題無いです

「コンバインド・レシオ」のチェックポイントは100%ラインで、100%以下であれば、保険料の収入のほうが支出よりも多く、収益が上がっていることを示します。
逆にもし「コンバインド・レシオ」が100%を超えた場合は、収入よりも支出が多く、事業としては損失を抱えている状態であることを示します。

エクイティキャッシュフロー方式で、社債権者も含めて全費用を支払った後、株主に帰属する利益である当期利益から始め、非現金支出を戻し入れる、そして株主資本の増減を引きます。さらには資本勘定から非キャッシュ項目からなる包括損益を足し戻す、そして設備投資を引く、と言う手順でFCFを計算します。

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FCFについては、今回は保険会社と言う複雑な対象なので、保険料収入をメインのドライバーとして資産運用収益予測と別個に各年度の成長予測を立てて掛け合わせた成長率で数字を作りました。5年成長率をもとにした私の想定理論株価は約7000円、エントリーポイントは4100円以下、ということで、まだ十分割安感ありと判断しています。

以上。


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