児童虐待予防における”やわらかな身振り”について。

上の写真は、団体のオリジナルキャラクター「大丈夫3兄弟」の特注パネルです。これは、「すべてがメディアだよねー」という発想から生まれたものです。

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「きずなメール」はその名の通り、人と人との「きずな」をつなぐ事業です。顔を合わせない時でもつながり続けるために「きずなメール」という原稿があり、システムがあり、事業があり、団体があります。

人と人がつながる間にあるのが「メディア」です。媒体、触媒、媒介物、いろんな言い方がありますが、いずれも「メディア」です。

自治体と子育て世代の市民の間に、きずなメールの「原稿」があります。「原稿」は自治体と市民をつなぐ「メディア」として機能します。

(きずなメールの基本原稿。約500本が基本セット)

自治体と市民の間には、「講読者アンケート」もあります。これも「メディア」です。きずなメールの「原稿」で自治体のことを信頼してもらえたら、「アンケート」には多くの市民の方が答えてくれます。これは「信頼に基づく双方向のコミュニケーション」であり、自治体にとっては「広聴」の機会になります。

(団体で保存しているアンケートデータ。2013年から実施しているのでDBとしては膨大です)

自治体の担当課の方と、母子手帳を取りに来た妊婦さんの間にも「メディア」があります。「おめでとうカード」です。

(おめでとうカード。気持ちをこめて、印刷にも費用をかけています。)

きずなメールの登録を増やすためにチラシやカードを配ること「登録周知」といいますが、僕らはこれを「妊婦さんと自治体が、最初に出会う場」と定義しました。児童虐待防止の観点からは、親と行政との最初のコンタクポイントです。だから「登録して下さい」ではなく、「来てくれてありがとう」「見つけてくれてありがとう」「妊娠おめでとう」の気持ちを形にできないか。「おめでとうカード」はこうして生まれました。

団体と自治体との間にも「メディア」があります。「お礼メッセージ」のプリントです。

きずなメールは3歳誕生日で終わりますが、最後のメッセージには「よかったら感想をお寄せください」と連絡先が掲載されていて、そこにしばしば感想やお礼のメッセージが届きます。これをA4一枚のプリントにして、自治体に送る業務報告書に同封しています。

なぜこんなことをするかというと、「お礼メッセージ」は自治体の担当課との協働の成果だからです。そのことをひと目でわかるようにしたいし、庁内で回覧して全体でこの喜びを共有してもらいたいので、1枚の紙にしています。団体と自治体との間を、「お礼メッセージ」という「メディア」がつないでくれるのです。

僕は仕事も「メディア」だと考えています。

人とつながるために、仕事や事業がある。社会が豊かになると、仕事はおそらく、「メディア」としてしての価値しか残らない。異なるコンテクストの人と人が、世代と世代が、「仕事」と通して出会い、つながるのです。

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つまりあらゆるものが「メディア」として、入れ子の構造になっています。こうした考え方は、よく考えれば当たり前なのに、日常の中では簡単に見失ってしまいます。でも繰り返し問いを立てて皆で考えていると、だんだんと身体化してきます。

冒頭の「大丈夫3兄弟」のキャラクターは、あるスタッフの「冷蔵庫もメディアじゃない?」という発想から生まれました。すれ違う親子も夫婦も、冷蔵庫は開ける。生きるために、食べるために。ならば冷蔵庫も「メディア」では? すれ違っても、冷蔵庫を介せば互いに「大丈夫だよ!」というメッセージは送れるのでは? そういえばうちの冷蔵庫、水道屋さんのマグネットだらけだよね?だったら冷蔵庫にマグネットで家族に「大丈夫!」って伝えたら?

そしてできたのがこれです。

「大丈夫3兄弟マグネット」。撮影のために机においていますが、冷蔵庫に貼り付けることをイメージして作りました。

僕はこの発想、着眼点、形にする力に、心から敬意を払いたい。こういうマインドこそ、社会を肯定しながら変化させる原動力だと思うのです。

発案したスタッフは、自治体が集まる情報交換会で、「冷蔵庫コミュニケーション研究会を発足させます!」と力強く宣言しました。もちろん僕も入れてもらいたいです!

「社会を良くする冷蔵庫」
「福祉的冷蔵庫」
「子育て支援冷蔵庫」
「ソーシャル・リフリジレイター」

冷蔵庫を「メディア」として捉えた時、さまざまな可能性が見えてきます。白物家電のコモディティ化に悩む企業の方、いかがでしょうか?

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児童虐待防止、虐待を減らすアクションは、おそらく圧倒的に正しい。でも正しいことを正しいという主張する“身振り”は、なぜか厳しくて固い。正しいことを言う人は、ときに怒っているようです。

…と書いている僕自身もそうで、「これは正しい」と主張する状況になった時点で、すでに力が入っています。緩くない。「正しさを主張する」という声の大きさが、行為自体が、固い、怒りをともなう身振りになっていく。

僕はこの「緩くない感じ」が、児童虐待はもとより、他者や自分を損なう力が始まるところに思えるのです。だからこそ自戒を込めて、こういう問を立てたい。

「児童虐待予防における、”やわらかい身振り”とは、なんだろーね?」

問いもできるだけやわらかくしてみましたー。

僕としては、その答えのひとつが「きずなメール」におけるもろもろの試みであり、その真ん中にあるのは、「やわらかなメディアによって、ゆるく人とつながる」ことではないかと思うのです。

自治体や公共は、「正しさ」の塊です。正しくあることを、社会から求められています。だからといって、人に対して固く接すると、皆大変ですよね。痛そうですよね。「正しいことこそ、やわらかく」が理想ではないでしょうか…。

こう考えると、今回の「冷蔵庫コミュニケーション研究会」や「大丈夫3兄弟マグネット」は、新しい「メディア」の有り様を示していると思うのです。

とりわけ「大丈夫3兄弟」は、世界をゆる~くしてくれそうな予感があります。ということで、まず僕自身が、できるだけやわらかく行きたいなーと思う今日この頃ですーーーー。

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http://kizunamail.hatenablog.com/entry/2019/08/22/085247 から転載)


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