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山ペンギン 番外編 3 まるがりたさんが地球に来たわけ。

「じゃあ、まるがりたさんはクローン体なんですね・・・。」
「私は自分が何者なのかわからないのだもの。こうやって考えている私も、過去の細胞から生まれてきただけで、そして以前の記憶をなくしているだけで、同じ存在の繰り返しなのかもしれないのだもの・・・」
涙声で語るまるがりたさんが痛々しい。

自分が自分だけではない感覚なのか、過去のまるがりたさん、おそらくはまるがりたさんでもなく、「Doc. Fem.」という名前ですらない、名称で呼ばれる存在。その銀河でどういう言葉なのかはわからないが。

「まるがりたさんは、まるがりたさんのことを知らない土地で自分自身に出会いたかったのだと思うのです。本来、こんな誰も知らない辺境の星に来ることなど許されません。まるがりたさんを失うのは、宇宙の損失なんですから。いくら幹細胞は保管されているとしても。ですが、余命少ない(と言っても我々の寿命の10倍くらいはあるが)まるがりたさんの願いをかなえるべく、もしかしたら帰れないことも考慮して、この地球に来ました。」

「まるがりた、お菓子選ぶの大好き。超越市場って言う場所もすき。」
超越市場ってなんだ・・・。
「スーパーマーケットのことか。」劉さんがつぶやく。

「私がいた銀河に比べたら少ないものかもしれないけど、食べる、大好きを選ぶのは楽しいから・・・」

「銀河レベルで食べ物選べるんですね・・・」

「イマドさんも凍結幹細胞のまま地球に来られたんじゃないですか?」

落ち込んだ顔でイマドはうなずく。
「でも。オレは地球人だ。地球で生まれて、地球で暮らしてきた・・。」

かつて思ったことが頭をよぎる。
「・・・卵は冷やすな。あたためろ。」

「オレは哺乳類なんだよ。トリに見えるかもしれないけど。」
「・・・ペンギンによく似たイタチだと思います。」

どちらにもかける言葉が見つからない。

「ちょっとお、うちら、レジずっと待ってるんですけどお」
「あーし、この後バイトなんですけど、そろそろ買い物させてくれないっすかあ?」

ずっとギャルが2人、レジを待っていたようだ。
あわてて劉さんがレジに入る。
「お待たせしました。」「お待ちしましたー。これよろしくう。」
前をはだけて胸をチラ見させた一人目はうまい棒を30本くらい持ってくる。
レジ打ちをした後、チョコレートの分を「ひよこちゃん食べるっすよー。悲しいときは甘いものっす。」有無を言わさず、袋から出したうまい棒をまるがりたさんの口に突っ込む。

彼女たちは聞いていたようだ。

「ポッキー棚にあるだけなんすか?」

劉さんがバックヤードからも3箱くらい持ってきて、肩を丸出しにして、上着を腕だけに絡ませるように着ている金髪の子に渡す。
「イマドくんはこれ食べるっす。」
おもむろに全部の箱を開けて、中のポッキーを折り、チョコレート部分をまとめてイマドの口に突っ込む。
のこりの言わば「プリッツ部分」になった手元をまとめて口に放り込み、
「チョコだけ食うって、超ぜいたくなんすよーー」

イマドが笑う。

「てめえはポッキーじゃなくて、ボッキーくわえてるんだからたまにはいいよなあ。」もう一人のギャルが笑う。

「下品なこと言うんじゃねえよ。爆サゲだよ。」

「よくわからないっすけど、楽しいことが幸せってことでいいんじゃないすか?うちらアホだからね。」
「あーしを一緒にするんじゃねえよ。アホはお前だけだからな。
ま、間違いないんは、おいしいもの食ってるのは、間違いなく目の前のひよこちゃんだから。」

思いのほか、彼女たちは話の内容を理解しているようだ。

「今を楽しめているのは、間違いなくここにいるまるがりたさんだからな。」劉さんがやっと少し笑った。
「しあわせなんて、こんなほんの少しのことなのかもしれませんね。」
トリたちもやっと少し笑った。


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